山小人(ドワーフ)の姫君   作:Menschsein

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幕間 (良い子は見てはだめよん♪)

 第5階層、真実の部屋(Pain is not to tell)で、ニューロニストが踊る。ニューロニストが妖艶に腰を振る度に、濁った白色の皮膚がぶにょぶにょと揺れている。太ももの辺りまである六本の触手は、まるでその触手の一本一本に意志があるかのようだ。

 

「それでは、賛美歌の練習を始めるわ。私はナザリック地下大墳墓特別情報収集官のニューロニストよん」と、ニューロニストは壁に磔《はりつけ》になっている全裸の四人に向かって宣言をする。その四人は、頭、首、両腕、腹、両太もも、両足をヒヒイロカネ製の拘束具がはめられていて、動きが封じられている。

 

「イジャニーヤで拷問の訓練も受けた。死んでも口を割ったりはしない」と一番左に磔にされている女性が口を開く。

 

「くんかくんか、ここくさい」とその隣の女も、ニューロニストを挑発するかのように言う。

 

「あら、やる気があって、おねえさん嬉しいわ。じゃあ、やる気を削がないようにさっそく始めるよん」とニューロニストは甘ったるい声で言う。

 

 ニューロニストの触手が、先端部分に五ミリほどの大きさの棘の生えた部分がある細い棒を取り出して、一番左の人物の尿道にそれを押し込んでいく。

 

「んぅぅぅう……」

 

「あら、お腹から声を出せるようになるのがあなたの今後の課題よん。次は……」

 

「むぅぅうぅ」

 

「あなたも同じねん。あなた達双子のようだから課題も同じね。次は…… あらん? 素敵な筋肉。皮膚を剥いで筋をゆっくりと観賞したくなるわねん。でも、まずはこれからよん」

 

「ぐごぉあぁ……」

 

「あら素敵な太い声。でもやっぱり声量が足りていないわ。それがあなたの課題ねん♪ そして最後はあなたよ。だけどその前にあなたに残念なお知らせがあるのよん。せっかくこの部屋に生娘《きむすめ》の状態で来たから、たっぷりと可愛がってあげようと思っていたのだけど…… そうなっちゃうと、この鎧が装備できなくなっちゃうのん」とニューロニストは、触手の一本で拷問室の床に転がっていた無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)を持ち上げる。

 

「アインズ様にお伺いを立てたら、アダマンタイト級冒険者チームとして今後ともアインズ様のために働いてもらうってことらしいし、あなたはリーダーでその装備も大事なトレードマークだから、むやみに変更しない方がよいということらしいのん。あなたは残念よねん?」と触手が掴んでいた鎧を再び床に放り投げ、そして別の触手では細い棒を尿道に押し込んでいく。

 

「いぃ! 痛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃぃいいいいい!」

 

「あらん? 良い声! あなたは筋が良いわねん。それに、あなた綺麗な緑色の瞳ねぇん。チュー」と、痛みのために目から溢れ出す涙をニューロニストが吸う。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。叔父さんたすけてぇぇぇぇぇぇぇ」と泣き叫ぶ声が拷問室に響く。

 貴族の家に生まれ育ち、蝶よ花よと育てられてきた。冒険者となってからも、優秀な前衛がいたし自らが傷つくことは希であったし、自分自身がクレリックであることから、負った傷は回復させることが直ぐに出来た。暗殺者として拷問に耐えるような訓練も受けていない。戦闘で傷を負う経験も少ない。四人の中で、痛みに対してもっと敏感で、そして脆いのが彼女であった。

 

「さて、次は、あなた達の合唱をサポートしてくれる者たちを紹介するわ。拷問の悪魔(トーチャー)よん」

 その存在に最初に気付いたのは双子だった。イジャニーヤの本部にも置いてある見覚えのある拷問器具の間から、黒い前掛けに、黒い革のマスクをすっぽりと被った、腰のベルトには無数の作業道具を着けた者たちが唐突に現れる。乳白色の皮膚で、明らかに人間ではなく、ニューロニストが紹介をしたとおり、悪魔なのであろう。

 イジャニーヤにも拷問に特化した人物がおり、その者も地下の皮膚は青白く不健康で、がりがりに痩せた人間でありながら異形に近い者であった。しかし、この現れた悪魔は、イジャニーヤにいた拷問担当者が真っ当に見えるほど、邪悪だった。

 拷問の悪魔(トーチャー)達は、磔になった四人の左右に立つ。拷問の悪魔(トーチャー)達は、右手ではベルトから下げたる作業道具から、()()()磨かれていない刃物を無言で取り出す。拷問の悪魔(トーチャー)達の左手は、四人の左右の小指を掴んでいる。八人の拷問の悪魔(トーチャー)の一糸乱れぬ動きであった。

 

「さっそく、合唱の練習よ。素敵な四重奏《カルテット》を聞かせてねん」とニューロニストは六本の触手をゆっくりと持ち上げる。その仕草は、オーケストラの熟練の指揮者が、演奏前に指揮棒《タクト》を持ち上げる光景に似ている。

 

 ニューロニストの触手の一本が振り下ろされる。

 

「いっ……」

 

 ポトッと、一番左に磔にされている女の右手の小指の爪が床に落ちる。

 

 一本ずつ触手が振り下ろされる。

 

「うっっ……」

 

「ぐぅぅぅ……ん」

 

「ああぁあぁぁぁあああっっっっっっっっっっ痛い。痛いぃいいっぃいいっぃい。止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 そして、ニューロニストの残りの二本の触手が同時に振り落とされる。それと同時に、四人の右手の薬指の爪が地面に落ちた

 

 

「いっいいいいいい……」

「うっっっっっっっっっっっっっっ……」

「うぉぉぉっ」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

「声が揃ってないわね。アインズ様に捧げるには相応しくないわ。でも、最初にしては良いじゃない。あなた達全員女なのだから痛みには強いはずだし、根気よく練習していきましょう。安心して、まだまだ上達の余地があるわ。拷問の悪魔(トーチャー)達、回復魔法をお願い。練習を続けるわよん」とニューロニストが満足そうに言った。

 

 

 

 一般メイドのシクススは、急ぎながらも決して早足にならない、というメイド的技術を駆使しつつ従業員食堂へと向かう。

 朝のこの時間に食堂に行く理由などただ一つ。彼女が目的の場所に到着すると、既にほとんどの仲間たちが集まり、食事を始めていた。

 白を基調とした無味乾燥な食堂に、女性たちの騒がしくも明るい話し声が、波紋のように幾重にも重なり広がっている。

 シクススは、親しい友人の姿を探すが、そこに見慣れない人物がいることに気付く。シクススは、アレは誰だろう? と疑問に感じつつも仲間たちに軽く手を振って、朝の挨拶としながら彼女はいつものテーブルに向かう。

 そこにはいつものメンバー、フォアイルとリュミエールが座っている。

 

「おはよう。ねぇ、あそこでペンギンを抱っこして座っているおじさんは誰?」とシクススはリュミエールに尋ねる。フォアイルに尋ねても、嘘を吐きたがる彼女は正しい回答を自分に教えてくれないだろうとシクススは思ったからだ。

 

「この前アインズ様の従属国となったドワーフ王国の大臣らしいわよ。レエブンっていう名前らしいわ」とリュミエールは答える。

 

「いらない鳥の世話係に雇われたらしいの」とフォアイルはぎこちなく答える。

 

「へぇー。でも、なんかあの人、頭悪そうだね」とシクススはレエブンに対しての率直な感想を述べる。

 

 そして、三人はエクレアとレエブンの座っているテーブルに目を向ける。

 

「どうしたんでちゅか? リーたん? ちゅぅちゅ。 ねぇリーたん? ん? どうしたのかな? パパンに言いたいことあるのかなぁ?」

 

「このナザリック地下大墳墓を()()()()()()()()()にしっかりと働かなくては」

 

「そうだね〜、パパンもそのために、ドワーフ王国でがんばって働くんでちゅよ〜。ぱーぺきな状態で、りょうちをリーたんに譲りましゅからねぇ〜。よーし。じゃぁ、おしょくじにしようか! 今日のお食事はにゃんなのかなぁ? リーたん、パパンに教えてくれるんですか?」

 

「今日の食事も、私の好物の鰯《いわし》です」

 

「そっか。リーたんのだいしゅきな料理をいっしょに食べれて、パパン。うれしいなぁ!」

 

 そう言ってレエブンは、だらしのない顔で、ペンギンを抱えて食事をとりに行く。

 

 食事をとりに行くレエブンの姿を眺めていた一般メイドの三人は、首を傾げる。

「いらない鳥と下等生物のことよりもさぁ、今日は、シクススがアインズ様当番の日でしょ? 普段よりびっと決まっているね」

 ニヤニヤとフォアイルが問いかけてくる。釣られてシクススもニヤリと笑う。

 

「しっかりと栄養とって全力で働かないとね」とシクススも笑顔で答える。

 

 ・

 

 普段、アインズの側近くで侍《はべ》っている一般メイドに対して、アインズが話しかけることは滅多にない。だが、この日は違ったのであった……。思い付いたかのようなアインズの発言によって、シクススの仕事は大きく変更を余儀なくされるのであった……。


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