リハビリシリーズーデレマス短編集ー   作:黒やん

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美優さんボイス実装! 美優さんボイス実装!
SSR美優さんのスキルマにすると間隔短いから耳が幸せになれるよ!←

……彩楓さんや、ちょいと本気出しすぎじゃね? ボイスの色気が尋常じゃないんですが。






Secret kiss《北条加蓮》

「かーれーんー!?」

 

「あははっ、ごめんごめーん」

 

数日ぶりに家に帰ると、玄関のドアを開ける前にそんな声が聞こえてきた。この何年か、よく聞いている声だ。

構わずドアを開けるとほとんど同じタイミングで妹とその友達がドタドタと騒がしくリビングから走ってきていた。相変わらず騒がしいが、元気な証拠だ。妹に意識を向けていたためか俺に気付かなかった女の子がぶつかったのをきっかけに、妹ーー奈緒がようやく俺に気付いたようだった。

 

「わぷっ!?」

 

「あ、兄貴おかえりー」

 

「あれ? って龍生さん!?」

 

「おー、ただいま……」

 

流石に一回りも年下の女の子にぶつかられてよろけるほど貧弱ではないため、自然とその子を抱き止めるような形になる。まぁ、知らない仲ではないため、そのままさっと体を離して頭を二、三回軽く叩いてから重い足でどうにかリビングにたどり着き、水を入れて飲む。渇いた喉が潤っていくのがどうにも心地いい。一息吐いたところで奈緒に向き直り、その姿を見てから一言もらす。

 

「お前が可愛い系の服着るとか珍しいな。明日は雨か?」

 

「へ? って違うからな!? これは加蓮が無理やり……」

 

「はいはい、知ってる知ってる。奈緒が密かに可愛い系の服とかグッズとか買い漁っては夜中に広げてニヤニヤしてることくらいは」

 

「だから加蓮のせいだって!? つーかなんで知ってんだよ!?」

 

「……マジかお前」

 

「え? ……だ、騙したなぁー!?」

 

とりあえずの兄妹のコミュニケーションを終えた後、顔を真っ赤にして吠えているマスコット(奈緒)を適当にあしらい、さっさと二階の自分の部屋に向かう。その途中で何故かさっきのままぼぅっとして固まっている北条に声をかけておく。

 

「体調に変わりないか?」

 

「え? ……あ! はい!」

 

「そうか。まぁゆっくりしていけ。何もない家だが、アレ(奈緒)をいじってれば暇潰しにはなる」

 

「兄貴はあたしを何だと思ってるんだよ!?」

 

「ペット」

 

「即答!? しかも酷いし!」

 

「じゃあ俺はもう寝るぞー」

 

怒る妹と小さく手を振る北条を放置し、俺は自分の部屋に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「全く、あのバカ兄貴は……!」

 

「あはは、でも相変わらず仲良しじゃん。私達くらいの歳だと珍しいんじゃない?」

 

「はぁっ!? 普通だよ普通! 別に仲良くなんてないし!」

 

ぷりぷり怒っている奈緒をなだめながら、再びリビングに戻っていく。急いでココアを作って奈緒に渡せば、なんだかんだで機嫌が直るのはいつものことだ。神谷家にはもう数えきれないくらいには足を運んでいるため、どこに何があるかは奈緒と同じくらいには把握してると思う。

怒ったままココアをちびりちびり飲んで、顔を緩ませているのにまだ怒っている素振りを作ろうとする奈緒を可愛いなー、と眺めながら、私もソファに座って紅茶をすする。点けっぱなしのテレビには奈緒で遊び始めるまで一緒に見ていたアニメが映っている。私が病院にいた頃に見ていたアニメで、懐かしいなーと思いながら見ていたのだが、お花を摘みに出たついでに見つけた『なおのへや』と書いてある吊り札に私の好奇心が負けてしまったのだ。……うん、私は悪くない。可愛い服をわざわざ隠して持ってる奈緒が悪い。

 

「でも加蓮は兄貴大好きだもんなー」

 

「えふっ、ゴホッゴホッ」

 

「加蓮!? だ、大丈夫か!?」

 

奈緒の不意打ち気味の言葉に思わず噎せてしまった。口から吹き出すとかいう乙女の尊厳に関わる事態は意地で避けたが、苦しいものは苦しい。咳き込んでいると、奈緒は自分でこうさせたのにも関わらず慌てて背中を擦ってくる。

 

「だ、大丈夫。ちょっと噎せただけ」

 

「ならいいけど……思わず兄貴呼びそうになったよ」

 

「もう、龍生さんも疲れてるだろうし、こんなことで呼んじゃダメでしょ」

 

「でもさぁ……」

 

まだ心配そうな目を向けてくる奈緒を見て、思わず苦笑いをしてしまう。相変わらず過保護だなぁ。原因は奈緒なんだけど。

でも、奈緒の言うことは間違ってもいない。私が奈緒の家に入り浸っている理由は、もちろん奈緒と遊ぶためもあるんだけど、龍生さんに会えるんじゃないかなぁ、という期待もあるからだ。

私は龍生さんが好きだ。それは間違いない。けど、それがどういう『好き』なのかは私にもわかっていない。尊敬なのか、感謝なのか。親愛なのか、兄のような存在に対しての感情なのか。それとも恋愛なのか。

……少なくとも、龍生さんは妹の友達としか見てないんだけどね。多分。

 

「でも噎せたってことは図星だったんだろー?」

 

「奈緒、今日の晩ごはん買いにいこっか。奈緒はクローゼットの奥の収納ボックスに紙袋に包んで保管してたフリフリワンピで行こうね?」

 

「あの短時間でどこまで漁ってるんだお前!? つーか着ないぞ! 絶対着ないからな!」

 

思い出したようにニヤニヤしてきた奈緒を返り討ちにする。奈緒が私に勝とうなんてまだまだ早いよ。私も凛には最近勝てないんだけどさ……。

でも、きっと龍生さんがいなかったらこんな風に奈緒と仲良くなることもなかった。ううん、それどころかアイドルになることもマックに行くことも出来ずに、ただベッドからぼーっと外を見ているだけだったかも。

そう考えると、今の私があるのってほとんど龍生さんのおかげだったんだなぁ、って思う。ついでに、奈緒の心配性の原因でもあるんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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私がまだ病院のベッドの上にいた頃、もう自分の人生は終わったんだと思っていた。

私の担当医もコロコロと変わり、始めこそあれこれと気にするような風に接してくるけれど、段々とそれすらなくなって担当医が変わる。そんなサイクルを何度繰り返しただろう、わからなくなるくらい繰り返した辺りで、私は私というものを諦めてしまっていた。

唯一看護師長のおばさんだけはずっと粘り強く接してくれていたけど、それすら鬱陶しいと思ってしまうくらいに心も荒んでしまっていた。龍生さんが来たのはそんな時だった。

 

「今日から君の担当になる、神谷だ」

 

第一印象は無愛想な人、といった感じ。白衣に両手を突っ込んだまま病室に入ってきたのに、私の側に来て目線を合わせるみたいにしゃがんできた。他の医者はいつも見下ろす感じで立っていたから少し怖かったけど、龍生さんはそんなことはなかった。無愛想なのに怖くないとか、よくわからない感じがしたけど。

 

「ふーん……先生も大変だね。私みたいなのの担当に回されるなんて」

 

「それが医者だ。患者にその病気を治療できる医者を当てるのは当然のことだろう」

 

「へー。おじさんの先生もすぐ担当じゃなくなったのに、先生みたいなわっかいお医者さんが何とか出来るの?」

 

今でこそ後悔してるけど、そのときはそんな鼻で笑いながら話しているみたいな言い方をしていた。だってそのときはこんなにバッチリ治るなんて想像してなかったんだもん。夜にちょっと病室から出てたら「北条さんは二十歳までもつかどうか」なんて聞こえてきたこともあったし。

 

「何とか出来ないなら、今俺はここにいない」

 

「じゃあ何とかしてよ」

 

「……君は本当に病気を治したいのか? それとも諦めているのか? 諦めているのなら手術は受けない方がいい」

 

「はぁ?」

 

ふざけてると思った。何とかして、って言ったのに返ってきた言葉は手術は受けるな、だったしね。自信がないなら大口叩かないでよ、って思った記憶があるよ。

後で聞いた話だけど、このとき龍生さんはいつでも手術出来る状態だったらしい。というより私を助けるためだけにこの病院に来ていたとか。なんでも看護師長さんが龍生さんの恩人だったんだって。看護師長本人が教えてくれたけど、「貸しは作って取っておくものなのよ」って言葉は未だによくわからない。何であの人五十代後半なのにお茶目が似合うんだろう。

 

「生きる気持ちが固まったら言え。そのときに治してやる。……治ったら何がしたいか、なんて考えるといいかもな」

 

それだけ言って、龍生さんはさっさと病室を出ていった。私は内心、ものすごくイライラしてたからあいつにだけは助けてって言うもんか! って拗ねてたんだよね。今から考えたら図星を突かれて拗ねてたのかも。そのとき私、色々諦めてたし。

 

それから毎日、龍生さんは私のところに来た。それこそ帰れって言ってたのに無視して居座ってその内勝手に帰っていった。それが何回か続いた時に、今度は奈緒が私の病室に来た。

 

「あ、兄貴。頼まれた忘れ物持ってきたぞ」

 

「ん、早かったな。てっきり後二、三時間はかかると思ってた」

 

「何でだよ!?」

 

「ほら、奈緒と言えば迷子だろ?」

 

「何年前の話してんだ! 私もう高一だからな!?」

 

顔を合わせるとすぐに漫才みたいなやりとりを始めた二人に呆気に取られたけど、すぐにまたムカムカしていた。人が大変なときによく楽しそうに出来るよね、って感じだったかな。

 

「漫才するんだったら出ていってくんない? 私そういうのキライなんだよね」

 

「誰の何が漫才だ!」

 

「それだよ。うるさい。ここ病院だよ」

 

「あ、ごめん……」

 

病院と言っただけでびっくりするくらいにしゅんとなった奈緒を見て、何も言えなくなった。ため息をこれ見よがしに吐いてみるけど、その時には龍生さんはもういなかった。

 

「ごめんな、うちの兄貴きっついだろ?」

 

だと言うのに、奈緒は近くの丸椅子を寄せてきて、私の隣に居座った。厄介者がどっか行ったと思ったらまた厄介者が来た気分だったね。それから自己紹介だけして、奈緒がほとんど一方的にしゃべってたなぁ。

 

「加蓮は入院長いのか?」

 

「知らない。学校はあんまり行ってないけど」

 

「長いのかー、大変だなぁ」

 

「……なにそれ、嫌味?」

 

「違うぞ!? 本当にそう思ったからそう言ったんだよ」

 

何と言うか、奈緒みたいな純粋なタイプは今まで相手にしたことがなかったから扱いに困ったよ。だって怒るフリしただけで本気で焦って謝ってくるんだよ? もうどうしたらいいかわかんなくて。

 

「でも加蓮良かったな。兄貴がいて」

 

「……何が? 私あの人嫌いなんだけど」

 

「あ、やっぱ知らないのか。兄貴は海外長くてさ、医師免許が24にならないと日本じゃ取れないってんでまず海外で取って経験積むって家を飛び出したんだ。んで、何か有名になって日本に戻ってきたみたいだ。……加蓮の病気の手術成功率百パーセントって経歴持ってな」

 

その言葉に私は目を丸くした。以前に手術の話はあったけど、成功率が二十パーセントあるかないかって言われたのを覚えていたから。

それに更に話を聞けば龍生さんは日本に帰ってすぐにこの病院に来たらしい。看護師長が頼んだって理由だけで。

でも、成功率百パーセント。成功すれば、治る。それがどうしても私には信じられなかった。夢でも見ているんじゃないかって、目が覚めたら全部幻になるんじゃないかって。

 

「なぁ、加蓮は治ったら何したいんだ?」

 

「え?」

 

「やっぱ旅行とかか? 実は私も旅行行ったことほとんどないんだよなぁ。あ、でも旅行よりは遊園地とか行って騒いだ方が楽しいのかな」

 

勝手にうんうん悩み始める奈緒を他所に、私の思考は頭のなかでぐるぐる回っていた。

治ったら何をしようなんて、もう考えなくなっていた。だって諦めてたから。だからそれがいざ叶うってなると、どうしても考えが纏まらなくなったんだ。

まずは学校に行く。体育だって今まではみんながわいわいやってるのを見てただけだったけど、治ればできる。友達作って、帰りに寄り道して、みんなであちこち遊びに行って、それで、それで……。

 

「わ、ちょ、加蓮!? 何で泣いてるんだ!?」

 

「……え?」

 

目のところを触ってみると、しっとりと濡れていた。それを自覚したら、もう止まらなかった。

 

「加蓮!?」

 

「……だよ」

 

「へ?」

 

「嫌だよ……生きたいよ……! もうベッドの上に一人なんてやだ……! ずっとこのままなんて、やだよぉ……!」

 

多分それは、私がそれまで隠してた本音で、ワガママ。

そして私は次の日、龍生さんに手術をお願いした。

 

 

 

「……後遺症もなし。術後経過も良好。すぐに退院できるな」

 

それからしばらくして。手術は無事成功し、私はもうすぐ退院できるといった状態になっていた。

そうなると不思議なもので、今までいたこの場所が名残惜しくて仕方なくなった。まぁ、きっとそのときには龍生さんになついてたからって言うのもあるんだけど。

 

「あーあ、もうすぐ退院かぁ」

 

「あんだけ不貞腐れてたやつが今更何を言っているんだ」

 

「あ、それ言う? 言っちゃう? だったら先生も手術しないとか言ってたよね!」

 

「勝手に人の発言ねじ曲げんな」

 

龍生さんがカルテで軽く私の頭を叩いてくる。そんなやり取りが出来るくらいには私達は仲良くなっていた。

 

「いったぁ……頭を怪我しましたー、もうちょっと入院しますー」

 

「そうか。なら痛み止めを処方してやろう。副作用で髪の毛全部抜けるけど」

 

「きゃー!? それダメ絶対ダメ! 女の子に向かって何しようとしてんの!?」

 

「仮病使おうとする方が悪い」

 

涼しい顔でとんでもないことをしようとする龍生さんに、私は手元にあったタオルで応戦する。そんなやり取りがそのときは奈緒と話すのと同じくらいには楽しかった。

その日は、龍生さんが病院にいる最後の日だった。龍生さん自身の本当の所属は別の病院だったみたいで、ここに来ていたのは出張扱いだったんだって。

それで最後まで元気な姿を見せて安心させたかったから、こんな風にふざけてた。

 

ま、結局その後奈緒繋がりで龍生さんの家に入り浸ったりするんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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とにかく、私にとって龍生さんはパパ以外の唯一の近しい異性だったんだよねー。龍生さん見た後だと、学校の男子は子どもにしか見えないし。そんな人が気になったのは仕方ない。

 

「……何急にニヤニヤしてんだ加蓮? 気持ち悪いぞ」

 

「え? 嘘」

 

何か考えが表情に出てたみたい。奈緒に言われるとは一生の不覚だ。これが凛なら間違いなく弄り倒されてる。気を付けよう。

 

「まぁいいや。これやるよ」

 

そう言って奈緒は唐突に一枚の紙を私に差し出してくる。遊園地のペアチケットだ。

 

「何これ。今度一緒に行くってこと?」

 

「それでも良かったんだけど、それ茄子さんと仕事したとき福引きで当たってから結構経ってて、期限ギリギリなんだよなぁ。持ってたことすっかり忘れてたし……」

 

「茄子さん……流石って言うか何て言うか……」

 

ホント、下手な神様よりあの人拝んだ方が御利益あるんじゃないかな。

 

「私はこれから仕事詰まっちゃってるし、加蓮にあげようと思って。確か明日から三日はオフだったろ?」

 

奈緒の言う通り、私はこれから三日間の休みをもらっている。というより今までが忙しすぎたんだけど……。Casketsの後、Masque:Radeで二ヶ月くらい休みなしだったしね。

それはともかくとして、奈緒がダメなら誰を誘おうか。凛は……無理だよね、多分。最近彼氏にべったりだし。奏とか周子は休みだった気がするけど……。

 

「せっかくだし、兄貴と行ってきたら? 明日明後日は休みらしいし、緊急の呼び出しもあんまりないみたいだしな」

 

「うぇっ!?」

 

思わず変な声が出てしまう。それに奈緒がニヤニヤしてるけど、今はそれはいい。

龍生さんと遊びに行くこと自体は今までにも何回かあった。けど、それは奈緒も一緒で文字通り遊びに行った、というものだ。けど今回は奈緒はいない。龍生さんと二人きりということはそれすなわちデートということであるからして……

 

「~~~~!?」

 

「かれーん!? 顔真っ赤通り越して茹で蛸みたいだぞ!? お前本当は体調悪いだろ!?」

 

「い、いや、そんなことはございませんでありますえ……」

 

「何か色々混ざりすぎてる!?」

 

いけないいけない。想像してみたら思いの外ダメージが強かった。

 

「大丈夫だよ奈緒。落ち着いた」

 

「お、おう。大丈夫ならいいんだけどさ」

 

「それより、龍生さんが休みって本当?」

 

「兄貴が言ってたから間違いないよ」

 

「ちょっと予定聞いてくる!」

 

そうして私はそそくさとリビングを後にし、寝る直前の龍生さんに直談判して翌日のデートを勝ち取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あんだけ露骨なら自分でも気付いていいくらいなんだけどなぁ。まぁ、加蓮の母さんに頼まれてたチケットは渡したしいっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日、龍生さんとのデートの日。ちょっといつもより早起きして、色々気合を入れて待ち合わせ場所に来たのはいいんだけど……。

 

「ねぇ彼女、もしかしてヒマー?」

「ヒマならオレたちと遊ぼうぜー」

 

「はぁ……」

 

少し早く来すぎたみたい。前に奏と同じようなことになったけど、もしかしてこれがナンパのやり方で固まっちゃってるのかな。古すぎると思うけどさ。

服はちょっと文香さんを真似して大人っぽい感じにしたから、もしかすると実年齢より歳上に見られてるのかもしれない。帽子と伊達眼鏡を使ってるし、特にナンパの人たちも騒いでないからアイドルってことはバレてない……はず。

でも面倒くさいなぁ。前みたいに立ち去ってあしらうことも出来ない。何て言っても待ち合わせ場所がここなんだし。

私の迷惑そうな顔に気付いてないのか、ナンパ男たちは勝手にグイグイ話を進めようとする。そういう空気とか雰囲気が読めないところがモテない原因だと思うんだけどな。

 

「……お前ら、俺の連れに何か用か?」

 

しばらく適当にあしらっていると、数分後にそんな声が後ろからかかってくる。ナンパ男たちはその声の主を見てすごすごと逃げていった。まぁ仕方ないよね。龍生さん、かなりガッシリしてる方だし。

 

「悪いな、遅れてないとは思ったんだが」

 

「大丈夫ですよー。私が早く来すぎただけですから」

 

「また何か奈緒やら母さんやらに怒られそうだな……」

 

私を待たせていたことを気にしているのか、龍生さんがこめかみに手を当てる。なんでも、私に何かあったら大体奈緒かおばさんにお説教をくらうんだとか。龍生さんもそれなりだけど、神谷家の人たちは少し私に甘すぎないだろうか。いや、しっかり甘えてる私も私なんだけど。

 

「あはは、まぁそれは置いといて行きましょうか」

 

「ん? 奈緒は? 出るとき居なかったから先に出たもんだと思ってたんだが」

 

どうやら龍生さんはいつも通り奈緒と私と三人だと思っていたらしい。確かにそれを言い忘れてたなぁ、と思い出したけど、今回は引けない。二人きりで出掛けられる機会なんて滅多にないのだ。

 

「今日は奈緒はいませんよ?」

 

「……え?」

 

「私と二人ですね!」

 

「えー……」

 

私の言葉に何とも言えない表情を浮かべる龍生さん。流石にその反応は見逃せない。

 

「むぅ。私と二人って嫌ですか?」

 

「俺はいいんだけどな……お前が嫌なんじゃないか?」

 

「嫌なら初めから誘ってないですよ? ほらほら、早く行きましょう!」

 

何か龍生さんは自分のことを年寄りみたいに考えてるふしがある。でも龍生さんはなんやかんや見た目が若いのだ。多分現役大学生、しかも新入生って言っても普通に通用しそうな感じがある。反対にかなり鍛えてるから身体とかは凄くガッシリしてるんだけどね。

ちょっと渋った龍生さんの手を引っぱる。少し恥ずかしかったけど、これはこれで悪くないかも。龍生さんも観念したのか普通に歩き始めていた。さりげなく少し前に出て人避けしてくれてるところが大人な感じがする。

 

「しかし北条も物好きだな。こんなおっさんと出掛けて何が面白いのか」

 

「世間一般のおじさんたちに怒られますよ? 龍生さん、見た目はすっごい若いじゃないですか」

 

「そやかて北条」

 

「やったねおじさん! ネタ返しだよ!」

 

「ネタにネタ返しとは成長したな北条……」

 

「奈緒に鍛えられてますからねー」

 

奈緒の影響が確かに強いけど、龍生さん用に覚えたっていうのもある。奈緒の趣味って結構ファンタジーだしね。

 

「それより、その北条っていうのそろそろ変えません?」

 

前から加蓮って呼んでほしいと伝えてはいるのだが、龍生さんに至っては一向に変わらない。確かに一回慣れた呼び方を変えるのは難しいのかもしれないけど、付き合い自体は長いのに苗字呼びは少し寂しい。

 

「医者やってるとどうにもなぁ。人を名前呼びする機会なんて奈緒くらいだし。北条も元患者な訳だしな」

 

「ちょっとずつ変えていきましょうよ! ほーら、プリーズコールミー加蓮!」

 

「えらくテンション高いなお前……。まぁいいや。加蓮」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「な、なんでもないです! 今日一日はそれでいきましょう!」

 

「えー……」

 

「三回以上北条って言ったら罰ゲームですからね!」

 

「理不尽ってこういうことなんだろうな……」

 

龍生さんが少し前を歩いてくれていて助かった。多分今私の顔、真っ赤だから。私赤面症じゃないはずなんだけどなぁ。龍生さんの前だと高確率でこうなっちゃう。

私は顔を見られないように龍生さんの背中を押しながら、遊園地へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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遊び始めると時間が経つのが早い。いつものことだけど、私は毎回そう思う。

少し前に着いたばかりだと思ってたのに、もう夕方だ。もう少し遊んでいたいのだが、疲れが出たのか龍生さんが眠そうだった。昨日家に帰ってきたのは二週間ぶりのことだったらしい。疲れてるのに悪いことしちゃったかな……。

 

「悪いな北条、もう少し体力あったと思ってたんだが」

 

「いえ、こっちこそすみません。私がワガママ言っちゃって……」

 

帰りに立ち寄った公園のベンチに座りながら、龍生さんに渡された紅茶を飲む。少し空気が重い。お互いに謝り合っちゃってるからそりゃそうなんだけど。

 

「そ、れ、よ、り。はい、北条三回目でーす!」

 

「げっ……そういやそんなんあったな……」

 

空気を軽くしようと思い出した約束を持ち出す。正直なところ、回数なんて数えてないけどまぁ多分三回越えてるだろうし。

龍生さんはまた微妙な顔をしているけど、暗い感じはなくなった。作戦成功、かな。

 

「というわけで罰ゲーム!」

 

「頼むから軽いのにしてくれよ?」

 

「ふふふー、どうしよっかなー」

 

実際どうしようか。あのときは照れ隠しに勢いで言っちゃっただけだしね。全く考えてない。

またデート……は龍生さんの予定と私の予定が滅多に合わないからなぁ。会うたびに確認して約束取り付けるしかないし、あんまり無理強いするのもなんだしなぁ。罰ゲームで告白なんて論外だし。

 

んー……、あ、そうだ。

私は自分の膝をポンポンと叩く。龍生さんは始め首を傾げていたけど、意味を理解したのか少し顔が赤くなっていた。

 

「いやいやいやいや」

 

「いいじゃないですか。現役JKの膝ですよ?」

 

「犯罪臭しかしないだろそれ!」

 

「大丈夫大丈夫ー。だって私から言ってますしー」

 

というか多分誰よりも私が恥ずかしいから、覚悟が決まってる内に早くしてほしい。私の顔が赤くなってないか不安なんだから。

それに今の時間はみんなご飯を食べに行っているか、夜のパレードの場所取りに必死なので、公園の人通りが少ない。現に今も見渡す限り人はいないし、こんなチャンスはもうないだろう。神谷家には私がいるときは間違いなく奈緒がいるし。

 

渋る龍生さんの頭を抱えて引き寄せると、観念したのかおそるおそる頭を膝に乗せてくれた。奈緒と同じくサラサラした髪が素肌に触れて少しこそばゆい。でも、何故かとてもいい気分。

 

「……昔とは真逆だな」

 

「そうですね。昔は絶対龍生さんの方が体力ありましたし」

 

手術のときだって、問題は結局私の体力だったみたいだ。難しい、というのもあったみたいだけど、患者の体力が低いから手術に耐えられるかどうかが一番の問題だったんだって。だから龍生さんが言ってた「生きたいって気持ちがないなら手術は受けない方が良い」っていうのは間違いでもなんでもなかったんだ。それでも龍生さんは普通の半分くらいの時間で手術を済ませちゃったみたいなんだけどね。

しかも退院まで奈緒を話し相手兼お目付け役にくっつけてくれたし。まさかの退院後までくっついてきてるけど。今じゃ親友だもんね。

 

「いや、そうじゃない。……よく笑うようになったな」

 

不意打ちってこういうことを言うんだろうか。ちょっと一瞬言葉が出なかった。

 

「昔はまたすれた子どもだなぁと思ったもんだが……今のお前は、うん、なんだ。綺麗になったな」

 

……この人は。何回私を赤面させれば気がすむんだろう。私ってこういうキャラじゃないはずなんだけどなぁ。

いつか考えたことだけど、私は惚れるより惚れさせるんだろうなぁって何となく思ってた。だって私が男の人を追いかける姿なんて想像できなかったしね? いや、演技でやってみたことはあるけどさ。……ううん、でも相手役の想像は自然と龍生さんだったなぁ。まさか、演技のつもりが演技じゃなかったなんて考えもしなかったよ。

 

「ねぇ、龍生さん……龍生さん?」

 

気付けば、龍生さんから穏やかな寝息が立っていた。まぁ、普通に歩いてるだけでもちょっと眠そうだったし、仕方ないかな。いつもは家にいる間はほとんど寝っぱなしみたいだし。

……ちょっと唐突にシリアスになりそうだったし、助かったのかな? ……うん、多分そう。急がば回れってよく言うもんね。

 

…………でも、良く寝てる。今なら何しても起きない……よね?

そう考えた私は、まじまじと龍生さんの顔を見つめた。まつ毛は長いし、パーツも整ってる。眉毛は神谷家の遺伝なのか太めだけど、イケメンと言って差し支えないと思う。

 

見つめている内に、段々と距離が近くなる。胸が龍生さんの胸板に圧迫されて、心臓がドキドキ鳴ってるのがはっきりとわかる。そして……。

 

「……ふふっ」

 

奏じゃないけど、うん。悪くないかも。むしろイイ?

今はまだ、なんにも言えない私だけど。それでも、いつかきっと、貴方にこの思いは伝えたい。

それがどうなるかはわからないけど……でも

 

夢見るのは自由……だよね? 龍生さん。




・神谷龍生
奈緒の兄。25歳。アメリカで22歳で免許を取り、NGOで技術を磨く。24歳で日本で免許取得。もはや医療関連のギフテッド。
モデルは医龍の朝田龍太郎。尚、現実では24歳以下が免許を取得することは例えアメリカだろうが有り得ません。しかも免許取得から更に研修が入るのでまず執刀医とかありえない。この物語はフィクションです←
眉毛は奈緒に負けず劣らず。恐らく加蓮が奈緒を弄るのはこの人の影響があると思われる。名前は作者のリア友の加蓮Pより拝借しました(本人了承済み)。

・北条加蓮
16歳。クール。今回のヒロインというかもはや主人公。男がヒロインとかいう最近のトレンドにのっかってみた←
ここでは手術が必要な病弱だったという設定。病名? 知らぬ。15の時に手術を受け、全快。昔とか言ってるけど一年前なのだよ。
ほぼ10歳差とかいう年の差恋愛にチャレンジする模様。実るかどうかは作者の気分次第(ゲス顔
リアル龍生が次の限定ふみふみとか引きやがったら小説龍生をゲス男にする覚悟である←
選考理由? SSR美優さんの衣装ってあれLove∞Distinyのやつだよね!←

・神谷奈緒
17歳。クール? ザ・弄られ役を地で爆走するツンデレラガール。作者の中では幸子や菜々さんと同列なために扱いがアレなことに……。

・加蓮母
相変わらずのサポート力。今回は奈緒を懐柔した模様。ちなみに袖の下はアニメの限定グッズ。

・過保護
龍生「奈緒、とりあえず北条が体調悪そうだったら気遣ってやれ」
奈緒「わかった!」
これがいつまでも残っている模様。というより加蓮は東京で奈緒は千葉。出会った経緯って何かあったっけか……?

・そんなことはございませんでありますえ
桃華ちゃま+大和+お紗枝はん

・ナンパ
デレステコミュ参照。この小説内だと既に奏に彼氏がいるためあの三倍はあしらいかたが酷い。

・ちょくちょく存在感を出す茄子様
神様だからね、仕方ないね!

・ちょくちょく存在感を出す凛ちゃん
順調にヨソミヲ許さない女として成長なされているご様子。あとマーキング。

・膝枕
おいこら龍生そこ代われ……はっ! チガウンダふみふみ浮気じゃないんだ!←

・そして……
ナニをしてたんでしょうかねぇ!(怒

・美優さんボイス実装
なんかエロい。『ふふっ……楽しい……』『熱く……もっと熱く……』がスキル間隔短い上に発動率が高いので下手すりゃ一曲丸々美優さんのスキルしか聞こえないなんてことも稀に起こりうる。
曲のリズムが頭に入ってこねぇ……!(煩悩

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