「無事か?」
「……はい」
俺は目の前で尻餅をついている少女に安否を確認する。正確には少女ではないんだが……。
しかし、本当に危なかった。いや、マジで。
こうして敵?の攻撃を半減してふせいだが、俺の頭の中は絶賛混乱中だった。
目の前にいる少女はフレイムヘイズで、二代目の″極光の射手″キアラ・トスカナだ。 戦い方は神器であるゾリャーを両端にした極光の弓を作り出し、そこから極光の矢を放つ戦闘スタイルで遠距型。確か、″ 鬼功の繰り手″であるサーレとコンビを組んでいたと記憶してるが、 周囲に他のフレイムヘイズの気配はない。
……まさか、死んでないよな。
俺の中で最悪な可能性が浮かび上がる。原作では大戦の時に活躍していたが、とても重要なキャラだ。こんなイレギュラーで死んだとなったら目も当てられない。
しかも……
アルビオン、間違いないか?
『ああ。この徒からは赤いのと同じ気配がする』
間違いなく俺の憑依の影響ですね、ありがとうございました。
たく、どうなってんだ。これみたいのが他にいるなら、キアラ以外にも原作キャラたちが襲われている可能性がある。となると、さっそく原作とは違う流れがががが、ばばば……。
『落ち着け相棒。恐らく、あの神のミスが大きく関係してるのだろう。こいつ以外いなければいいのだが』
まったくだ。
俺はアルビオンの言葉に同意する。しかし敵の実力を計るにも、奴はたいしたことのない徒らしい。ただどっかで見たことのあるような。俺は記憶を辿るが思い出せない。
まぁ、徒についてはいい。問題はあの赤龍帝の能力だな。存在の力が徐々に膨れ上がってる。最悪、風船みたいに爆発するかもしれない。そうなればここ周辺は……
『相棒。奴の能力は倍加だけのようだ。それにあれには神器があるわけではなく、神器に宿っている邪悪な思念のみのようだな』
赤龍帝の籠手はないのか……。
俺はとりあえず作戦を考えながら、後ろにいるキアラに状況を聞いてみる。
「その気配、フレイムヘイズのようだが自在法はまだ使えるか?」
「え、えっと後数回くらいなら。そういうあなたは……」
「俺のことは後で話す。とりあえず、目の前の徒だ」
『何か策があるの?』
すると、キアラのパートナーであるゾリャーが声を掛けてきた。俺は咄嗟に考えついた作戦を説明する。
「俺の神……いや、宝具の能力で奴を弱体化できる。でも、俺にはあいつを倒す決定力はないだから、止めは任せていいか?」
『だそうよ。どうする、キアラ?』
「彼を信じましょう」
どうやら、俺のことを信じてくれるようだ。そうと決まれば、さっそく作戦実行だな。
「あいつを一撃で倒せる自在法を発動されるのに必要な時間は?」
「……五分あれば討滅できます」
「五分か……。じゃあ俺は作戦通り、五分の間にあいつを弱体化させる。ついでに隙も作っておくから頼んだぜ」
「はい。あなたも気を付けて……」
俺はそんな言葉をかけられるとは思っていなかったので一瞬驚く。
気を付けて……ねか……。
俺はその言葉に笑顔で一言返す。
「おう!」
そして、俺は白龍皇の光翼を広げ、徒の元に駆け出した。
「やっぱり、空中戦になっちまったか……」
『相棒、ぼやいてる暇はないぞ』
目の前に大量の紫の炎と燐子が俺に向かってくる。俺はそれを冷静に見極めながら徒に接近していった。
「アルビオン、こいつに対しての半減インターバルはどのくらいだ」
『二秒だな。半減出来る回数は十五回まで可能だ。ついでに禁手は十分持つ』
「なに?」
俺はシュドナイと戦った時に比べ、強化されていることに驚いた。アルビオンは話を続ける。
『言っただろう。前の戦いで得たものは大きいと。あのシュドナイという徒の存在の力はそれほどまでに大きかったのだ。お掛けで短期間でここまで強化、及び調整することが出来た。調整させ終われば、この制限も完全になくなるだろう』
「なるほど……」
『だがそれでもまだまだなんだぞ。禁手になった者たちの中でも下の下だ。これからもしっかりと特訓していくことだな』
ですよね、知ってた……。
俺はアルビオンに現実を叩きつけられながらも敵の攻撃をさばいていく。しかし、どうも燐子の数が多いせいか、なかなか近付くことが出来ない。
「時間もないから速く触れないといけないんだが……数が多いな」
『どうする、相棒?』
「考えがある」
俺はアルビオンにそう答えると、徒に向かって全力で向かっていく。しかし、ただ突っ込むだけではない。シュドナイの時と同じだ。
『Half Dimension』
白龍皇の光翼からただの半減とは違う音声が発すると同時に周囲の空間が歪む。この影響で燐子や奴等から出た紫の炎は半分になる。さらに徒との距離も半分になった。俺はこれを機に白龍皇の光翼の出力を上げて加速する。
「貰った!」
俺の拳が徒の胸に触れる瞬間……。
『Boost』
「■■■■■■!!」
「なっ」
徒が突然大きな音を放出する。その余りの大きな音にまわりにいた燐子まで消失した。徒は確信する、自身の勝利を。
しかし……
『Divide』
「危なかったな」
『後少し鎧の頭部を強化するのが遅れていればどうなっていたことか……』
「一応半減したし、周囲の影響もなさそうだな」
そう、俺の姿は既に徒の後ろにあった。
徒は慌てて後ろに振り向くが、俺はそのタイミングで奴の腹にボディーブローをかます。
「■■■■■」
徒は悲痛な叫びを上げた。さらに、俺が奴の体に触れたことで。
『Divide、Divide、Divide……』
俺は二秒のインターバルで奴の存在の力を十五回半減していく。そして、約束の五分が経過した。
俺はキアラの方を見ると、彼女の手には弓らしきものが握られていて、そこには沢山の光が収束している。俺は直ぐにその場から離れた。離れた俺に疑問を抱く徒だが、俺に集中していたせいかキアラの方には気付いていない。
そして、キアラの弓から離れた光は見事に徒を貫いたのであった。