「探眈求究の姿が見えないが……」
「彼なら仕掛けを施しに行ってもらってるよ。私たちも彼が帰ってきたら向こうにいく予定さ」
「……今回の作戦、サブラクはどうする?」
「サブラクは今回は別の任務に行ってもらっているところさ。この間の傷もまだ完全に癒えてないみたいだしね」
「……」
シュドナイはベルペオルの話を聞いて考える。
となると今回は自分とベルペオル、ヘカテー、探眈求究の四人で戦うということだろう。
しかし、相手はフレイムヘイズが三人、さらに目標である零時迷子もやり手ときている。
シュドナイはひそかに敵との戦力の差を感じていた。特に彼に関しては会うたびに強くなっているように感じる。
まったく、面白い!
すると自然と自身の口がにやけているのが分かった。これほど気持ちが昂る戦いはいつ以来だろうか。そして俺はミステスとの共通点から天目一個を思い出していた。
「将軍?」
「なんでもない。それより策はあるのだろうな」
「もちろんさ。あくまで今回の目的はフレイムヘイズたちの撃破ではないからね。ノルマさえ達成出来ればこっちのものさ。教授もなにやら面白いものを作っているそうだしね」
「そのようだな。それより、ヘカテーは?」
「いつもの祭壇にいるよ」
「そうか……」
シュドナイはベルペオルに背を向けて歩きだす。
「さて、私もいろいろ準備するとしようか」
ベルペオルはシュドナイがヘカテーの元に行くのを確認すると彼女も準備に取りか掛かった。
「はっ!」
「こっちは任せてください!」
「くそっ」
俺は上空に突然出現した自在式から放たれる鳥の形をした複数の攻撃をグランマティカを展開して防いでいく。同じくキアラも光を出現させて防いでいた。
「きりがないな」
「でも、シャナやマージョリーさんじゃこの攻撃を全部防ぐ方法はないので私たちが防ぐしかないんですから、がまんですよ」
「分かってる。一応、策は教えたしな」
「はい」
少し前、この襲撃の直後まで遡る。俺たちはシャナやマージョリーと皆でこの状況とこれからの対応について話し合った。佐藤と田中は原作通りに町の中心の例の宝具があるところへ向かった。そして、前からたくさん人がいるなかでの非常時の対応は決めていたのでその話し合いはスムーズに進んだ。
さらに、この今上空に展開されている自在式についてもサーレと共に行動していたキアラやマージョリーが教授によるものだと気付いたので、そこから俺は原作通りのアドバイスを彼女たちにする。教授がこちらにくる際に自在式は一度、解除されるのではないかと。
そして、俺とキアラが自在式の迎撃、シャナとマージョリーが教授本体に直接殴りこみとなった。
後は……
「なにやら、騒がしいことになってますね。あの自在法は歪みを生むものではなさそうですが」
『うむ。探眈求究は無駄が多いやつだがらのう』
「げっ」
後ろから聞き覚えのある声がすると思いふり向くと、そこにはあの儀装の借り手……カムシンが教授の飛行船を眺めるように立っていた。俺は思わず変な声をあげてしまう。
彼が来るとなると、大きいのを一発お見舞いするわけで。あれは当たりどころが悪いと被害がやばいんだよなぁ。
「こちらに来る時に自在法が解除される……というところですか。さて……」
「ちょっと待ってくれ!」
俺は慌ててカムシンがなにかしようとするのを制止する。最悪の可能性を考えあえて彼を呼ばなかったのだが、逆にそれが悪手になりつつある。すると、教授の飛行船がこの祭りの会場に近付いてくる。そしてついに自在式が解除され、飛行船と近くのロボットが合体する。
「あれって……」
「……」
あの合体にはなんの意味が……ってそうじゃない。俺は再びカムシンの方を見ると、既に大砲を放つ準備は完了しているように見えた。
俺は慌ててシャナたちに連絡を入れる。
遠目で一番カムシンの自在法を知ってるマージョリーが一目散に飛行船から離れていった。シャナもマージョリーに続き離れていく。
「……行ったみたいですね」
「やるなら被害の少ない海の方に打ってくれよ……」
「もちろんです」
カムシンはこちらに向けて返事をすると、自在法を発動させて自身の体に岩を纏い巨人になる。これは二つの自在法、カデシュの心室とカデシュの血印を組み合わせた自在法で壊し屋ともいわれる代名詞だ。
そしてカムシンはロケットパンチのようなアテンの拳を飛行船めがけて放つ。原作ではこれで撃墜させていたが……。
「なっ!」
「……しぶといですね。なら、これで」
カムシンの一撃は突如、飛行船の前に出現した自在式らしきものに阻まれ、威力、そして速度が落ちて粉砕される。あの威力の攻撃を防がれたという事実にカムシンやキアラ、俺は驚いた。
しかし俺に関しては恐らく二人とは違うことで驚いているだろう。そう、俺はあの自在式らしきもの……いや、力を見て呆然となっていた。
そんな俺を他所にカムシンはもう一撃、アテンの拳を放つ。
「やった!」
「どうやら、連続であれは無理なようですね」
『そのようだの』
探眈求究の飛行船は直ぐにやってきた二撃目は反応できなかったらしく、見事に直撃して川に墜落していった。
そして、シャナたちも俺たちの元へ集まってくる。皆が喜びの声を上げたり、教授の考えが分からず首を傾げるものいた。事態は一時、収まる。
しかし……
『相棒』
ああ、分かってる。
俺は心の中でアルビオンの声に頷く。
あのカムシンが放ったアテンの拳。あれを防せいだ飛行船の力は俺にとっても馴染みある力。
そう……
あれは紛れもなく、白龍皇の力だった。
『とても再現できるとは……』
だが、現に敵は少しであったが使ってきたのは事実だ。方法は予想できないが……。
そこで俺はふとシュドナイとの戦いを思い出す。確かあの時、鎧の宝玉にひびが入り、割れてかけらがとんでいったような。まさか、あれを拾って教授に渡したのか……。
……油断した。
しかしあの男の科学力は本当に侮れない。
俺はこの先の戦い大きな不安を抱かざるを得なかった。
そしてあの騒動から次の日、町にある空き地で御崎市の調律は行われた。
「では、ここに立ってください」
「ああ」
カムシンの言葉に従い啓作は彼に近付いていく。そして調律が始まった。少し、暑いかな。
原作とは違い吉田さんではないので少し不安だが、最終的に俺が修復する予定なので結果的に俺の中ではまぁいいかとなった。
調律が終わると、カムシン曰くまぁまぁの出来だそうだ。
「悠二」
「お客様のようだな」
キアラが俺に声を掛けてくる。
この調律をやっている途中、この町にフレイムヘイズの気配を察知した。
そして、シャナはその気配に覚えがあるのか、その方向に走り出す。そのシャナの反応から誰が来たのかは察しがつくだろう。
さてさて、どうなるのやら。
俺は立て続けにやってくる面倒ごとに溜め息を吐いた。