「あっ、目を覚ましたみたいですね」
「キアラか。俺はいつまで寝てたんだ?」
「一日くらい寝っぱなしだったんですよ。それより身体の方は大丈夫ですか?」
俺は目を覚ますと、キアラの顔が飛び込んできた。どうやら、付きっきりで看病してくれたようだ。俺はまだ少し痛む身体を起こした。
「ああ、大丈夫だ。それより、キアラたちこそあの徒を倒したのか?」
「はい。というか、皆が悠二のことを心配してたんですよ」
「そうか……」
キアラはその後、下の階に降りていった。皆に伝えに言ったのだろう。
『無事に目が覚めたみたいだな』
「存在の力を使い過ぎたか」
『疲労もあったのだろう』
俺は昨日の戦いを思い出す。あれは想像以上に厳しい戦いだった。一度はグランマティカも使えるようになったし、少しは有利にたてるだろうなんて甘い考えを持ったこともあったが、とんでもない。それどころか、グランマティカを使えなかったら速攻で殺されていただろう。
『厳しい戦いだったな……』
「ちっ、やはり武器がほしい」
武器といえばブルートザオガーだろう。キアラたちは原作通りにあれを回収したのだろうか。そして回収していたらそれを譲ってくれるかどうか。
しかし……
「とりあえず、飯を食いたいな」
俺はギュルギュル鳴る腹の虫を聞くと、下の階に降りていった。
「やっと起きてきたわね、悠二」
「……お邪魔してるわ」
『はっはっは、思ったより元気そうじゃねぇか!』
『うむ、傷はなさそうだな』
下の階に降りると、そこには最近の顔ぶれが揃っていた。なんと、マージョリーもいる。
「心配かけたな」
「ぶっ、無事ならいいのよ」
さて、シャナのいつものツンデレを聞けたところで……。すると、キッチンから母さんが姿を現した。
「もう……心配したんだから」
「あはは、ごめんよ。母さん」
母さんが涙を流しながら、心配してくる。
……これからは出来るだけ、気を失わないようにするか。
俺は少し罪悪感を感じながらも、朝食を食べることにした。
食事が終わり時間が経つと、母さんは買い物に行き姿を消す。そして俺は一昨日の戦いのことについて切り出すことにした。
「とりあえず、一難は去ったか……」
「愛染兄妹はシャナの刀が目的みたいでしたが、さっそく仮装舞踏会は零時迷子を目的として動き出しましたね」
『うむ。それもいきなり将軍や壊刃を投入してくるとは……』
「何のために零時迷子が必要なのか未だに分かりませんが……。ともかく、もうすぐサーレさんたちが帰ってくるとしても、戦力の強化が必要です」
「そうだ、悠二。これなんだけど」
「それは……」
シャナは思い出したように一本の剣を俺に差し出す。それは愛染兄妹の兄であるソラトが持っていた宝具……ブルートザウガーだった。
「剣の特訓してるのにあんただけ、得物を持ってなかったし、丁度よかったと思って。というか他に必要な人いなしね」
「いいのか?」
「もちろんよ。でも、これから剣の特訓も増やさないと」
「了解、使いこなして見せる」
ついに念願のブルートザオガーが俺の手元にやって来た。これでほど嬉しいことはないだろう。ブルートザオガーは交戦者がこの剣に直接もしくは間接的に触れている時にさらに“存在の力”を込めれば、その相手に傷を付けることができるというチート剣。一刻も速くこの剣を使いこなせるようにしなければ。
後はあの力の制御だな……。
俺は次の決戦に備えて、今夜にあの大きな力を制御する決意を固めた。
「へぇ、あんたが失敗するなんてそれほどまでなのかい、あの町にいるフレイムヘイズは?」
「……サブラクはどうしている?」
「思ったより、ダメージが大きかったみたいでね、暫く前線には出れないみたいだよ」
「そうか……」
将軍……シュドナイは窓の外を眺めながら、答える。そんな男に話し掛けたのは仮装舞踏会の参謀であり、逆理の栽者の真名を持つベルペオル。
すると、ベルペオルは彼が握っている青い石のような物に気付く。
「それは?」
「ちょっとした拾いものだ。それより探耽求究はどこにいる?」
「彼ならいつもの研究室だよ。あの男に用があるなんて珍しい。あんたのことだから真っ先にヘカテーに会いに行くと思っていたよ」
「ふん、時に優先しなくてはいけないことがある」
「そうかい」
シュドナイは研究室に向かって歩き出す。しかし、彼は扉の前で一度だけ立ち止まる。
「いい忘れていた。フレイムヘイズもだが、零時迷子の所有者もまた厄介だぞ」
「なんだって?」
「また後で話す」
シュドナイはベルペオルにその一言を告げて、例の研究室に向かった。
「何でまたお前がいるんだよ」
「いいじゃないか。安全なところで見てるから」
「そういう心配をしてるんじゃねぇよ」
皆が寝静まった深夜、俺はいつも通りに精神世界に潜っていた。しかし、今回は特訓のためではなく、別の目的のためだが。
『この扉を開けばスタートだ。覚悟はいいか、相棒?』
「無論だ」
俺は扉を開き、目の前の部屋に足を踏み入れる。部屋の中には黒い煙のようなものが充満していた。やがて、それらが一つになるように集まってゆく。
「これは……」
『歴代所有者の怨念だ。来るぞ相棒!』
黒い煙が集まるとその形は龍のように成していく。すると、そこには禁手とは違うまさに龍に近い姿である『覇龍』がそこにいた。
……さて
「■■■■■」
奴は黒い咆哮をあげる。俺は一歩も引かず、ブルートザオガーを出して、白い鎧を纏った。
「禁手」
《Vanishing Dragon Balance Breaker!!》
「さぁ、大人しくなってもらうぞ」
「■■■■■!!」
俺はこんなところで立ち止まってはいられない。何故なら『覇』だけではなく『神』を制御しなくてはないらないのだから。
こうして俺と覇龍の戦いが始まった。