世界を越えたい   作:厨二王子

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付け入る隙

 俺はスティグマで体力を削られながらも、状況を冷静に分析する。キアラとシャナはまだ愛染兄弟と戦闘中のようでこちらに来る気配はまだない。そして組んでいるマージョリーは俺と同じくスティグマで体力を削られている。早期決戦は必須だろう。

 

 ……どうする。

 

「考えている暇があるのか?」

 

「ちっ」

 

 シュドナイが神鉄如意を持って、俺に接近する。俺はうまくそれを避けながら、サブラクに視線を移す。その時、妙な違和感を感じ取った。

 

 なにか変だ。

 

 俺はサブラクについては実際に目にしたのは今回がもちろん初めてだが、原作についての知識はある。奴は本体を表に出すことはめったになく、どこかに隠れさせている。原作で御崎市に襲撃しに来たときはこの町の地下に潜んでいたが、今回もそうなのだろうか。

 

「もらった」

 

「させねぇよ」

 

『Divide』

 

 俺はシュドナイが放つ存在の炎を半減して、今度はこちらから接近する。なんとか、奴の身体に触れようと手を伸ばすが、神鉄如意に阻まれる。さらに……

 

「……」

 

「くそが……」

 

 少しサブラクから意識をずらせば、奴から無数の自在法が俺を襲う。しかし、向こうが二人に対してこちらも二人。

 

「マージョリー!」

 

「分かってるわよ!」

 

 俺が道を開けると、マージョリーの紫の炎がシュドナイに直撃。しかし……

 

「甘いな。この程度ではかすり傷すらつかん」

 

「ははは、化け物すぎるだろ」

 

「ちっ、しつこいわね」

 

『がはは、こりゃーまずいな』

 

「たく、笑いどころじゃないわよ。ばかまるこ」

 

 炎の中からシュドナイが無傷で現れる。やはり、あいつは俺が弱体化させて殴らないと無理だな……うん。

 しかし、現実逃避している場合ではない。俺はさらに頭の回転を加速させる。すると、俺はまたサブラクに視線を移した。そして奴の位置を見て気づく。

 

 ……前に出ていないのか?

 

 そう、奴は前線に出てきてない。というか、奴の本体はこの町の地下にあるのか?

 

 まさか……。

 

 俺はあることに気付き、マージョリーに小さい声で伝える。彼女は分かったように頷いた。

 

「いくわよ。マルコシアス!」

 

『おうよ』

 

「六ペンスの歌を歌おうよ」

 

『ポッケにゃ麦が一杯だ』

 

「二十四羽の黒ツグミ、っは!」

 

『パイんなって焼かれちまう、っと!』

 

 無数の紫の炎がある男へと向かう。

 

 そう……サブラクだ。

 

 サブラクは戦闘から始まってから、一度も前に出てきてない。確か原作でも奴は後ろで自在法を放ってるだけではなく、接近戦もしていたはず。ということは何かしら前に出てこれない理由があるはずだ。

 そこで俺はある推測を立てた。恐らく、あのサブラクは本体ではなく分体なのは間違いない。そして問題は本体の場所。原作で奴が襲撃してきた時は本体はこの町の地下だったが、今回はきっと本体が町から離れいるのではないだろうか。其れ故に分体が弱体化している、さらに一方的に攻撃を受ければ直ぐに消えてしまう。俺はそう予測した。そして……

 

 ビンゴ!

 

 マージョリーの攻撃にシュドナイが立ちふさがる。この行動から俺の読みは当たっていた。

 

「やらせねぇ」

 

「ぐっ」

 

 そしてここで隙が出来た。俺はシュドナイにタックルをして、炎の対角線からずらす。そこから俺はさらに奴を殴りつけた。

 

「しまっ……!」

 

「やっと、触れられたぞ!」

 

『Divide、Divide、Divide、Divide、Divide、Divide、Divide、Divide、Divide……』

 

 ここで俺はここぞとばかりの連続の高速半減。

 シュドナイの存在の力を半減していく。そしてその分、スティグマで削られていた俺の存在の力も上がって戻ってゆく。

 さらに……。

 

「サブラクめ……」

 

「どうやら、やられたみたいだな」

 

 サブラクの分体が消えたことで俺たちのスティグマの効果が消える。本体と離れている影響もあるのかもしれない。

 しかし、マージョリーは今の一撃が限界だったらしく、もう動けそうにない。

 

「さぁ、一対一だぜ」

 

「ふん、問題などない!」

 

『Divide、Divide、Divide……』

 

 俺の半減が続いているのにも関わらず、シュドナイは衰えた様子を見せない。さすがに歴戦を生き抜いてきた猛者は違う。俺はそんな大きな威圧感に冷や汗を出すも、力強く踏み込んでシュドナイに再び接近した。

 

「おらおらおら!」

 

「はっ!」

 

 俺はシュドナイの槍を見きわめ、ひたすら殴る殴る殴る。しかし、奴もそれを避けながら槍を俺に向かって、振るう。どちらも一歩も引かない攻防。正直、半減がなければ一瞬で勝負はついていただろう。途中、槍がかすり鎧の宝玉にひびが入り、破片もとぶ。俺は直ぐに鎧を修復。

 さらに問題はリーチの差だ。奴の神鉄如意と俺の拳のリーチ、どちらが長いのかは一目瞭然。

 

「貰ったぞ!」

 

「がはっ……」

 

 シュドナイの槍が俺の腹部に当たる。そして俺は遠くにぶっ飛ばされた。

 

「いてぇ……」

 

『ボーッとしている場合ではないぞ』

 

「マジか」

 

 シュドナイが放った無数の槍が俺に向かう。俺は直ぐさま離れるとそれを避けながらシュドナイに接近していった。

 だが……

 

「遅いぞ!」

 

「やばっ!」

 

 シュドナイは俺の後ろに現れる。俺は翼から存在の力を噴出させて、軌道を変える。そして強引に向き合い、奴の槍を防いだ。そこから俺は奴から一度、距離を離すために下がる。

 

「危ねぇ……」

 

「余り時間も掛けられん。この一撃、手向けとして頂くがいい!」

 

「……ッ!」

 

 俺は奴を見ると、先程と比べてとてつもなく巨大な槍が奴の手元にあった。まさか……

 

「アルビオン!」

 

『分かってる!』

 

 とてもじゃないが、今からあれを完全に避けきることは難しい。ならと俺はアルビオンにも言い、今ある存在の力をグランマティカに集中させる。

 

「グランマティカ、五門展開!」

 

 俺の周囲に展開させたグランマティカに存在の力をありったけ込めて、五つを重ねるように展開する。そして高速でやってくる神鉄如意。

 それを受け止める。

 

「うぉーーー!」

 

 俺は吠える。そして神鉄如意はゆっくりとグランマティカを破っていく。しかし、こらえる。

 俺が力を抜けば一瞬で槍は俺のもとにたどり着くだろう。

 

「止まれぇーーー!」

 

 神鉄如意棒は四枚のグランマティカを破り、最後の一枚に到達。そしてひびが入る。やがて、

 槍の進行はその一枚で止まった。そして槍は持ち主の元へ戻っていく。

 

「まさか、あの一撃を防ごうとは……」

 

「はぁはぁ……」

 

 息が乱れる。力が抜けて思わず座り込みたい衝動にかられるが、俺は最後の力で踏ん張っていた。

 すると、離れたところから二人のフレイムヘイズの気配が近付いてくる。キアラとシャナだ。

 どうやら、向こうは片付いたようだ。

 

「ちっ、どうやら潮時のようだな」

 

「逃げるのか?」

 

「ふん、一時撤退だ。次こそは貴様の零時迷子、貰い受ける」

 

 シュドナイはその言葉を最後に、姿をヘビに変えて俺の前から姿を消した。なにはともあれ、無事に生き残ることが出来た。

 

「良かっ……た」

 

『相棒!』

 

 と同時に俺の意識は闇の中に沈んでいった。


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