「いやー、相変わらずやってるねぇ」
「来たのか?」
「暇なんだよ、あそこは。だから君のお陰で暇つぶしが出来て感謝しているよ」
いつも通り精神世界で特訓をしていると、またふらりとヨーハンが現れた。
まったく、気楽なやつだ。こっちはもうすぐシュドナイと戦うことになるから、必死に特訓しているというのに。
「しかし、面倒なものを掛けてくれたね」
「いつ裏切られるか分からないからな」
「信用ないなぁ~。これがあるから大丈夫でしょ」
ヨーハンは自身に絡み付いた銀色の鎖を見て言う。
この鎖は俺が身につけたグランマティカとは違う自在法によるものだ。名は契約の鎖。
俺が契約内容を相手に提示し、それを相手が了承したら発動する自在法だ。どうやら、前世の俺のイメージが反映されているらしい。
「だが、お前と結んだのは原作での出番までだろ」
「細かいことはいいじゃないか」
「こいつ……」
俺は目の前で笑っているヨーハンを睨む。しかし、こいつの言う通りでまだ動くことは出来ないだろう。俺はここであることを思い出した。
「最近、やたらと力が強くなってるような気がするんだが……」
「あはは、それはここ最近で君は多くの徒と戦って来たからね」
……何?
俺はヨーハンの言っていることが分からず首を傾げる。すると、アルビオンが丁寧に解説してくれた。
「白龍皇の光翼は敵の力を半減し、その力を吸収する。そしてその吸収した力は一時的なものだった。だが……」
「ここで出てくるのが、零時迷子さ」
ヨーハンがどや顔で俺に向かって告げてくる。
……うぜぇ。
「何故ここで零時迷子が出てくる?」
「零時迷子は存在の力を貯める機能があるのさ。さらに君が白龍皇の光翼で徒やフレイムヘイズの存在の力を吸収すれば、それは零時迷子にいく。つまり、悠二は存在の力を半減すればするほどより強くなるわけさ」
なるほど、それがここ最近の急成長の原因か。
つーか、チートですね、はい。
「そうと分かればまた特訓だな」
「がんばってね」
「お前も手伝え」
「ええ~」
こうして、いつもの精神世界での特訓は行われた。
「だいぶ飛べるようになったな」
「さすがですね」
「でも、まだ制御が甘い気がするわ」
『うむ、特訓は必要不可欠だな』
アラストールの言葉にシャナは頷く。
シャナは原作より遅めだが、しっかりと赤い炎の翼を出して飛べるようになった。これなら愛染兄弟と戦っても大丈夫だな。キアラやマージョリーもいることだし。後は向こうが零時迷子に気付いているかどうかだろう。
「次はやっぱり戦闘訓練ですかね。私は光を、シャナは炎をうまく使えるようにするみたいな」
「まぁ、俺は自在法を極めるか」
「今日はもう夕方だし、千草が待ってるわ。家に帰りましょう」
「ああ」
俺たちは家に向かって歩き出す。すると途中でメロンパンの屋台を発見した。
「メロンパン!」
一目さんにシャナは屋台まで走り出す。俺とキアラはその光景を微笑ましく見ていた。
そして俺たちも屋台に近づく。
「むぅ~」
「金ないのか?」
「ないわよ!」
「ないのかよ……。仕方ないな、俺が買ってやるよ。キアラも食べるか?」
「えっ、いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて」
俺は溜め息を吐きながら懐から財布を出す。そしてお金を屋台のおばさんに渡した。
「仲が良いんだねぇ。どちらかは彼女さんかい?」
「かっ、彼女!?」
「なっなな、なに言ってるのよ!」
二人はおばさんの言葉を聞くと何故かめっちゃ動揺していた。いや、どう考えても冗談だろ。
『ハーレムの道は遠そうだな』
なにか言ったか、アルビオン?
『いや、なにも』
なにかアルビオンが言った気がするが、どうやら気のせいだったようだ。
「ふふふ、可愛いね」
「からかわないでくださいよ」
「あら、ごめんね。はいこれ、メロンパン三人分」
「どうも……」
俺はメロンパンをおばさんから受け取ると、キアラとシャナに渡す。
「ありがとうございます」
「あっ、ありがとう」
二人は笑顔でメロンパンを受けとる。シャナは我慢出来なかったのか直ぐにメロンパンにかぶりついた。
「おいひい」
「食い過ぎないようにな。この後、夕飯なんだから」
「分かってるわよ」
シャナが俺の言葉を返すと再びメロンパンをかじり出す。相変わらず、ぶれない奴だなぁ。
そんな中、静かにキアラは笑っていた。
「良いですね、こいうの」
「ああ、そうだな」
キアラの笑顔を見て、俺は地味に視線を反らしながら言う。かわいいな、こんちくしょう。
「またなにか買ってくれますか?特にお菓子を」
「バカ、お菓子ばっかり食いやがって。太るぞ」
「大きなお世話です。というか、それは女子に禁句ですよ」
キアラに怒られた。
……解せぬ。
こんな感じで俺たちはメロンパンを食べながら家に帰って行った。
「次の町に着けばあなたとの契約は終わりね。将軍」
「悪いな。途中で契約を変更するのは俺の流儀に反するんだが。こちらにも大命というものがある」
「そう……」
将軍と呼んだ少女は近くにいた自分の兄の頭を撫でる。すると、彼女は将軍の後ろにいる男に気付き、彼に問いかけた。
「そちらの方は?」
「ああ」
将軍は一瞬、彼女が聞いた彼に視線を向けると答える。
「あの町には厄介な者たちがいるからな。その助っ人だ」
そして後ろの男……殺し屋の赤い瞳が光る。
「精々、俺たちが暴れている間に刀を奪えばいい。それが今の俺に出来る唯一の謝礼だ」
「ええ、感謝しますわ」
少女は静かに笑った。
四人はそれぞれの目的を果すために御崎市へ向かう。