「あんたは……ミステス?」
『気を付けろ。こいつ只もんじゃねぇ』
「すまないが、ここから先は行かせられない。ラミーとの約束でね」
「なに、あいつの仲間な訳?なら、ただ倒すまでよ!」
マージョリーの周りに複数の火の玉が出現する。すると、それらが俺の方に向けて射出された。俺はそれを避けながら彼女に接近していく。
『見たところ、遠距離タイプのようだが』
「なんとかしてあいつに触れて、長期決戦にしたい。グランマティカで接近する」
グランマティカを発動すれば、マージョリーに銀との関係を少しさらすことになるので、うまく奴に見せないようにする必要がある。
俺が隠しながらグランマティカで接近しようとすると、マージョリーは何かを感じて自在法を発動する。
「サリー、お日様のまわりを回れ!あっはっは!!」
『サリー、お月様のまわりを回れ!ヒャッヒャッヒャ!!』
しまった、即興詞か!
さすがの俺もマージョリーの即興詞を全部おぼえている訳がない。
マージョリーは俺を中心に、円になるように分身を展開していく。俺は舌打ちをすると、分身一体一体を見極めようとする。
しかし……
「ちっ」
その途中、俺に処理できないほどの炎があたる。俺はそれを舌打ちしながら強引に半減していった。
『Divide、Divide、Divide……』
複数の炎は徐々に小さくなり、俺はそれを払った。そして俺は一体一体、分身を殴りつけて消滅させていく。しかし、ここに来て攻撃の決定打がないのが仇になった。防御面は白龍皇の光翼やグランマティカなどあるが、攻撃面にはそういったものがない。なので、そういう意味でも攻撃の幅を広げるために剣である吸血鬼がほしいと思っていた。
銀の炎もこいつの前では迂闊に使うことが出来ない。
「そういえば、あんたのところには二人のフレイムが向かったと思うが」
「はっ、そっちは分身で足止めしてるのよ。ということで時間がないの。決めに行くわよ、マルコシアス!」
『はいよ』
マズイ、大技くるか!?
俺はマージョリーの技を警戒して、空に逃げようとするが間に合わない。
「キツネの嫁入り天気雨、っは!」
『この三秒でお陀仏よ、っと!』
それぞれの分身たちが爆発する。俺は見事に爆発に飲まれた。
「やったみたいね……」
『待て、まだ終わってねぇ!』
マルコシアスの焦った声が戦場に響く。すると、爆発の煙が晴れていき、そこには先程の白い鎧纏った男が、彼を中心に銀色の盾を複数浮かせていた。
「あんた、その色……」
「……」
さすがにこんなに真っ正面だと気付かれるわな。俺はこの後をどう乗り越えるか考えると、彼女に言葉を告げた。
「俺の炎の色だけど?」
「あんたが……あんたが……」
『落ち着け、マージョリー!』
冷静さが掛けてきたな。しかし、銀が俺だと勘違いされるのもマズイ。俺は手に炎を出現させマージョリーがそこに至らないようにうまく誘導しようとする。
「俺もこの銀色の炎が何故出現したのか分からない。俺はただ偶然に炎の色が銀色だっただけだろうと推測している。ラミーも同じような事を言っていたな」
すいません、嘘です。
さすがに真実をここで言うわけにはいかないので、そこは隠させてもらった。まぁ、今のでもマージョリーの冷静さをなくすのには十分過ぎたかもしれない。
『聞いただろ。あいつは銀じゃねぇ、だから落ち着け!!』
「大丈夫、大丈夫よ。どちらにせよ、ボコボコにして知ってることを全部吐かせてやる!」
「そう簡単にはいかないぜ!」
俺はグランマティカを発動し、一気に加速する。マージョリーは俺を迎撃するべく、再び複数の炎を出現させた。俺はそれを一つずつ掻い潜っていく。
「ちっ、ホントに速いわね!」
「ほらよ!」
俺はマージョリーの真っ正面に立つと、彼女の腹に拳を勢いよくぶつけた。俺の攻撃をくらった彼女は後ろにぶっ飛び、ビルにぶつかる。
「がはっ!」
「まだまだ!」
俺がマージョリーに触れたことにより、彼女の存在の力を減らす半減が始まる。彼女は自身の力の変化に驚く。
「どうなってるのよ!」
『糞、力が減っていきやがる』
「おらおら!!」
マージョリーが力を減らしていくのに対し、俺は彼女の力を半減しそれを吸収していく。その結果、徐々に俺とマージョリーの力の差は広がっていった。それは速さもしかり。
「くらいなさい!」
「遅い」
『Half Dimension!!』
マージョリーが再び複数の炎を出現させるが前よりも弱まっているように見える。俺はそれを全て半減させて彼女に高速で接近した。
「くらえ!」
「がっ」
俺はマージョリーの顎にアッパーを直撃させる。彼女はその攻撃を受けて仰向けになり倒れた。
そしてこちらに向かってくる二人のフレイムヘイズの気配を感じる。
潮時のようだな……。
俺が彼女の存在の力を半減しきったお陰で、マルコシアスの顕現できる存在の力も残されてないだろう。というか、もしやられたらやばいからな。よく見ると、まだ意識は失っていないようだ。
「本当にあんたは銀とは関係ないのね?」
「……」
意識を失い掛けているマージョリーが俺に向かい声を掛けてくる。言ってやりたいのは山々だが、今のマージョリーにその事実を伝える訳にはいかない。
「すまないが、本当に俺は何も知らないんだ。ただラミーから伝言を預かっている」
「ラミーから?」
「銀は追うな、というか追っても無駄になるそうだ。あれは来るべき時に目の前に現れるものらしい」
「そんな……あれは私の全てよ。諦め切れるわけないじゃない」
「好きにしろ。ただ今は休め。そんなんじゃ、探し物を見つけるどころの騒ぎではないだろ」
「はっ、大きなお世話……よ」
こうして、マージョリーの意識は闇の中に溶けていった。
次の日、マージョリーが啓作たちと町にいるところを確認した。銀についてまた町の外へ行ってしまうかもと思ったが、なんとか残ってくれたようだ。
「弔詞の詠み手がまだこの町にいるみたいだけど……」
「確か、クラスの二人組と一緒にいましたね」
「なにもしないんなら別にいいだろう」
俺はキアラの持っていたポテトチップスを奪い口に運びながら言った。
「あっ、私のお菓子……」
「で、結局あそこにいた徒は?」
「ラミーか。無事に町の外へ行ったよ。彼自身が無害だからな」
「屍拾いね」
シャナは俺の言葉に納得した。
「じゃあ、特訓するか。シャナは早く飛べるように」
「うるさい!」
シャナの声と共に、今日もまた特訓を始めた。