世界を越えたい   作:厨二王子

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屍拾い

「はぁっ!」

 

「横ががら空きだぞ」

 

「うるさい!」

 

 朝の学校登校前、俺とシャナは家の庭で特訓をしていた。今回、俺は素手ではなく、竹刀を持っている。これは近いうちに吸血鬼を手に入れようと思っているので、その時のために鍛えることにした。ちなみにアルビオンについては既に説明済みだ。アラストールはアルビオンのことを不思議な存在と言っていた。宝具になにかの魂が宿ることは珍しいことらしい。

 

「なんか、うまく振れないな」

 

『まだ危ないところもあるが、なかなかに筋がいいな』

 

「はっはっは、そうだろ」

 

「ごちゃごちゃ、うるさい!」

 

 俺が調子に乗っていると、シャナに竹刀で頭を叩かれた。普通に痛い……。

 

「私に一本も決められない癖に調子に乗らない」

 

「それは昨日の話な」

 

 彼女とこうした竹刀の打ち合いを始めて何日か経つが、さすがシャナというだけあってなかなか一本を決めさせてもらえない。

 俺は叩かれた頭をさすっていると、リビングからキアラが顔を出した。

 

「二人供、ご飯できましたよ」

 

「今日の特訓はここまでね」

 

「おう。しかし、ここまで実力者が揃うと、特訓もはかどるな」

 

「これにフレイムヘイズが後二人もいるんでしょ?恵まれてるわよ、あなた」

 

『そうだな。フレイムヘイズは一人で行動することが多いからな』

 

 うん、確かに。

 

 俺は心の中でどれだけすごい面子が集まったことを確認すると、リビングの自分の席に座った。

 

「では……」

 

『いただきます!』

 

 皆が揃って同じ掛け声を掛けると、朝食を食べ始めた。

 

「おいしい、シャナちゃん?」

 

「……うん、おいしい」

 

 シャナは母さんの問いに笑顔で答える。シャナについてだが、相変わらず母さんの心の広さでこの家に住むことになった。

 

 うん……知ってた。

 

 名前はシャナということでキアラと同じ方法で高校にも乱入することになった。問題は名字だったが、これはトウチの人から借りて、加藤にしたそうだ。

 

 ……果たして、加藤さんとは一体。

 

 平井さんは俺たちがフリアグネを速く倒した影響でトウチになっていなかったからな。

 まぁ、そんなこんなでシャナも我が家の一員となった。

 そして特訓に関しては平日は朝に三人でローテーションして、休日は三人一緒にという感じだ。母さんは朝食の手伝いをしなくていいなんて言うが、フレイムヘイズ二人はもちろん、俺も居候のようなもんだからな。やや強引に母さんの手伝いをすることになった。特訓の内容はキアラと自在式、シャナと剣術みたいな感じだ。

 

「ご馳走さま」

 

「ご馳走さまでした」

 

「とてもおいしかった……」

 

「うふふ、ありがとう」

 

 シャナの言葉に母さんが笑顔で返す。

 そして俺たちは食事を終えると、そのまま学校に向かった。

 

 

 

 

 

 学校の登校途中、俺は昨夜に感じた二つの気配について、二人に話を切り出した。

 

「昨日の二つの気配って……」

 

「十中八九、徒とフレイムヘイズね」

 

「間違いないと思います」

 

 やっぱり、そうか……。

 

 この時期に徒とフレイムヘイズといったらラミーとマージョリーで間違いないだろう。マージョリーはともかく、ラミーには頼みたいことがあったので先に会いに行くとしますか。

 

「フレイムヘイズの位置は特定出来るけど、徒の場所は分からないわね」

 

「フレイムヘイズはその徒を追ってこの町に来たのは間違いないですね。余り被害を広めるのなら……」

 

「こちらも介入ってことね」

 

 シャナの言葉に俺とキアラは頷く。しかし、マージョリーの戦い方や彼女の性格から穏便には済まさないと思うので動くことになるだろうなぁ。

 そんな話をしている内に学校に着く。俺たちは教室に向かい、自分の席に着いた。

 

 

 

 

 

 

 放課後になると、俺は一足早く行動を開始した。キアラたちには徒を探してくると伝えてある。彼女らはマージョリーの動向を見張るそうだ。

 

『大丈夫なのか?』

 

「あの二人なら大丈夫だろう。それに別行動はしたいと思ってたから丁度いい」

 

『そうか……』

 

 でもやっぱり、直ぐに戦闘になるだろうな……。

 

 俺はそんなことを思いつつも、ラミーのいるであろう場所へと向かう。御崎市の駅の近くにある美術館……アトリウム・アーチへ。

 

 

 

 

 

 俺は重い美術館の扉を開ける。扉の先はとても静かな空間だった。中はステンドグラスが光り、他にも色々な展示物がある。そして、その先には只ならぬ雰囲気を持つ老人が佇んでいた。

 

「ほう、珍しい客人が来たものだな」

 

「なに、通りすがりのミステスさ。そちらこそ、もうトーチはいいのかい?」

 

「そのいいよう、私のことについて知っているようだね」

 

「まぁね、屍拾い……ラミー」

 

ラミーは真の名前ではないが、今はこれでいいだろう。

 

 俺は無事にラミーと接触できたことに安堵すると話を続けた。

 

「取引きをしないか?」

 

「ほう。聞くだけ聞こう」

 

 ……よし。

 

 俺はまずラミーにとってのメリットを話すことにした。

 

「とりあえずこちらが用意するのは取引材料は二つ。一つはラミーがこの町から離れるまでのあの厄介なフレイムヘイズの足止め」

 

「ほう、それは助かるな。私一人であのフレイムヘイズから逃げきるのは難しいからね。では後一つは?」

 

「あなたの目的に必要な大量の存在の力。それを遠くない未来に用意出来る」

 

「どこで私の目的を知ったかは知らないが、それは本当かね?」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、ラミーの目が鋭くなる。大量の存在の力、俺にも必要であるそれは大戦の終わりに出てくるはずだ。

 

「まぁ、未来の話なんで口約束になってしまいますが……」

 

「いや、その目。どうやら、嘘ではないようだ。信じてみようじゃないか」

 

 なんと、信じてくれるらしい。まさか、こんな簡単に信じてくれるとは思わなかったけど次にこちらの要求について話をする。

 

「一つ目はこの指輪の宝具」

 

「ほう、懐かしい。それが君の手元にあるとは……」

 

「ここに刻まれている転生の自在式。その発現条件を設定してほしい」

 

「ほう、なんていう条件に?」

 

「坂井悠二としての役目が終わった時……と」

 

「なにか意味が深そうな言い回しだね。その役目というのがなにか分からないが、よかろうそのように設定しよう」

 

 ラミーが俺のアジュールに触れる。すると、それは光だし、やがてそれは収まった。どうやら、設定できたようだ。

 

「私には分からないが、その君の中で決められている役目が終わると発動するようにしておいた」

 

 理由は原作通り進めるために今転生出来ない。なにより、坂井悠二の役目を果した後の方が気分がいいからな。そういった理由でラミーに頼んでみた。そして次の要求。

 

「二つ目は俺が持っている宝具……零時迷子と俺に鍵をかける感じで、離れないようにする自在式を付けてほしい」

 

「ほう、珍しい宝具を持っていると思っていたが零時迷子だったか。それは何故だい?」

 

「やはり、この宝具は俺の心臓のようなものなので。後、出来れば分かりづらいところに付けてほしい」

 

「なるほど、失礼」

 

 ラミーが今度は俺の胸に触れる。零時迷子に自在式を付けているようだ。

 この要求はヨーハンがなにかしてこないとも言い切れないし、仮装舞踏会の連中などが一時的にも零時迷子を取り出せないようにする保険だ。

 そして少し時間が経つと、ラミーは手を離した。

 

「終わったよ。戒禁を掻い潜るのは大変だったがなんとか上手くいった。これを解除するのは私以外できないようになっている。それに他にも珍しいものを持っているようだね」

 

「まぁな」

 

 ラミーが微笑みながら答えてくれる。神器に気付いたか、はたまた宝具だと思ったか。それはラミーにしか分からない。次に俺は申し訳ないような顔をして言った。

 

「それとこちらが用意出来るカードが二つしかなくて悪いんだが、遠くない未来にまた頼みごとをしても構わないか?」

 

「存在の力のためだ、こんな老いぼれに出来ることならまた聞いてあげよう」

 

「ありがとう」

 

 俺はラミーにお礼を言った。すると、シャナやキアラではないフレイムヘイズがこちらに近付いてくるのを感じる。

 

 ……シャナとキアラでも止められなかったか。

 

「そういえば君の名前を聞いていなかったね」

 

「坂井悠二」

 

「坂井悠二か。では悠二、因果の交差路でまた会おう」

 

「ああ、因果の交差路で……な」

 

 ラミーはその一言を言い残すと姿を消した。恐らく、この町の外へ向かったのだろう。

 俺は直ぐ近くまで来たフレイムヘイズに警戒して戦闘モードに入る。そして、天井が割れた。

 

「ちっ、ラミーの奴いないじゃない」

 

『どうやら、逃げられたみてぇだな』

 

 俺はやってきた狂暴そうな熊を見て、溜め息をはく。そして……

 

「禁手」

 

 《Vanishing Dragon Balance Breaker!!》

 

 俺は白い鎧を纏い、弔詞の詠み手のマージョリー・ドーを見据えた。


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