世界を越えたい   作:厨二王子

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今回は力が入っているため、長くなりました。序盤には主人公の闇が見えます。では、どうぞ!


母の日

 

 ーーー裏切られる。

 

 夢を見た……それは前世での出来事。

 

 母が俺を置いて突然消えた、父も同様に。

 

 友達も俺を利用し、挙げ句の果てに捨てた。

 

 最後まで俺の面倒を見てくれたじいさんも、俺を置いて死んでいった。

 

 そして、最後に最愛の恋人までもが……

 

 ーーー俺を裏切った。

 

 

 

 

 

「……」

 

 俺はゆっくりと、瞼をあけて目を覚ます。どうやら、夢を見ていたようだ。

 

『相棒、顔色が悪いが大丈夫か?』

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

『最近の相棒は無茶しすぎだ。着実に強くなっている。そこまで焦らずとも……』

 

「ああ……そうだな」

 

 俺が憑依してから一年が経ち、中学二年生になった。サーレとの特訓は、彼が各アウトローに出回っている関係で少なくなり、精神世界での特訓が中心となっていた。戦闘向きでない俺自身の自在法は完成したのだが、グランマティカを完成させることは未だ出来ていなかった。

 ヨーハンに理由を聞いたが、その自在法に必要な″なにか″が足りないらしい。原作を見た俺でも全然心当たりがないため困ったものだ。

 そして何より前と変わったことと言えば……

 

「もう、起きてください。朝ですよ」

 

「ああ……もう、起きてるよ」

 

「千草さんがご飯だから降りてきて……って、顔色悪いですけど大丈夫ですか?」

 

「いや、大丈夫。直ぐに降りる」

 

「そうですか……。じゃあ、先に降りてますね」

 

 キアラは心配そうな顔で俺に一言告げると、下の階の降りていった。そう、キアラがこの家に住むことになったのだ。理由は簡単、サーレが暫く不在なることが多くなると聞いた母さんが

 それならとキアラに二階の一室を貸すことにしだそうだ……うちの母は優しすぎる。

 

 

『ホントに大丈夫か、相棒?』

 

「しつこいぞ。ちょっと、胸糞悪い夢を見ただけだ」

 

『……』

 

 ここまでアルビオンが心配しているのはあの夢の内容が俺の過去だと知っているからだろう。

 俺は自身を落ち着かせ、下の階に降りていく。

 今の母親に心配を掛けないためにも。

 

 

 

 

 

「おはよう、母さん」

 

「あら、おはよう悠ちゃん。ご飯出来てるわよ。もう、キアラちゃんなんて早く食べたくてそわそわしてたんだから」

 

「わっ私は大丈夫ですよ、千草さん」

 

「それはすまなかった。じゃあ、早く食べようか」

 

 こうして、毎朝の朝食が始まる。会話の少ない俺はともかく、母とキアラはよく話す。まるで、本当の親子のように……。

 

「悠ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」

 

 やめろ、俺をそんな目で見るな。

 

「大丈夫だよ、母さん」

 

 今日も俺と母さんの距離は縮まない。

 

 

 

 

 

 そんな出来事があった日の午後、キアラが俺に話し掛けて来た。

 

「明日って何の日か知っている?」

 

 突然何だろうか。俺は知らないので首を傾げながらキアラに聞き返す。

 

「分からないな。なにかあったか?」

 

「答えは母の日ですよ」

 

 母の日……か。

 

 俺は心の中でそっと呟く。キアラはそんな俺の心情を知らずに話しを続けた。

 

「だから日頃の感謝の印に三人で買い物に行きませんか?」

 

「……」

 

 俺は考える。しかし、これはキアラなりの優しすぎるな何だろう。仕方ない、乗ってやるか。

 

「いいぞ」

 

「では明日、三人でショッピングモールへ」

 

 こうして、俺は母とキアラの二人とショッピングモールへ買い物に行くことになるはずだった……。

 

 

 

 

 

「悠ちゃんと二人で出掛けるなんて、いつ以来かしら」

 

「ホント、いつ以来だろうな……」

 

 なんとなく分かってたよ。キアラはなんか急用が出来たと言ってどこかに行きやがった。なので、少し気まずい空気が流れている。

 

「あっ、あの洋服……行きましょう、悠ちゃん」

 

「わっ、引っ張るなって」

 

 だけど、悪くない……そんな気持ちがほんのわずかだが、俺の心の中に存在していた。

 

 

 

 

 

 ショッピングモールを歩き回って二時間、母さんはトイレに行っているので、俺はベンチに座っていた。

 

「ふぅ、歩き疲れたぜ」

 

『その割りには楽しそうだったな』

 

「そうか?」

 

 俺はアルビオンの言葉に首を傾げる。

 

「そういえば、この坂井悠二の父さんには会ってないな。会えるとしたら原作の時かな」

 

『千草の話ではいいやつのようだが』

 

「それはそうだろ。母さんが惚れた男だからな……」

 

『相棒……』

 

 だからこそ重い。この騙しているというのし掛かる罪悪感が。たとえ、最終的には存在がなくなり、母さんたちが忘れるとしても。

 俺がそろそろ立とうとすると、ある気配を感じとる。

 

『この気配……』

 

「ちっ、なんでここに来るまで気づけなかったんだ」

 

 俺は直ぐに封絶を張った。

 

 

 

 

 

 

 俺は禁手になり、今全速力である場所に走っていた。

 

「糞、よりにもよって……」

 

『嘆いても仕方ないだろう』

 

「分かってる!」

 

 そう、徒が出現した場所がここから少し離れた母さんの近くだったからだ。御崎市の周りには自在法の網が張ってあるのだが、どんな手を使ったかは分からないが……。最悪の可能性を考えてしまうが、俺は足を止めることだけはしない。

 たいぶ走ると目的の場所が見えてきた。母さんと徒の距離はまだ離れていて無事だった。俺は安心しながら、即座に戦える状態にする。

 

『キアラもここに向かって来ている。時期に合流できるだろう』

 

「そうだな。それに、見たところそこまで実力が離れてるようには思えない」

 

 俺は目の前の徒を見て、そんな軽い判断を下した。そして、なにかに夢中になっていた徒がこちらに振り向く。

 

「おやおや、封絶が張られたのでフレイムヘイズかと思いましたが、まさかミステスとは。しかも、封絶内で動けるとはレア物ですかな?」

 

 そいつは見るからに異形。徒は人間からかけ離れた形のものも多いが、こいつはそれに当たる部類だろう。長いロバのような顔を持ち、手は空中に二本浮いている。ちなみに足はない。しかし、なにか違和感を感じる。

 俺は奴に目的を聞いてみた。

 

「何が目的だ?」

 

「いえ、少し人を喰らって回復させようと思いましてね」

 

「じゃあ、討滅決定だな」

 

「それは残念」

 

 俺は奴の目の前まで加速して、思いっきり腹を殴る。しかし、徒は俺の拳を冷静に見極めあえて後ろに飛ぶことでダメージを軽減させた。

 

「……やるな」

 

「それはこちらの台詞ですよ。ホントにミステスですか?」

 

 俺と徒はお互いの動きを伺う。そんな中、奴はふと笑った。

 

「何がおかしい?」

 

「いえ、本当にお強いんだなと思いまして。なので、弱点を突かせて貰おうかと」

 

「弱点?」

 

 俺に弱点などないと言おうとした矢先、突如二人目の……いや、目の前にいる奴とまったく同じ気配をした徒が現れた。あの違和感はこれだったのか。

 

 それも……

 

「しまった!」

 

「なにやら、あちらの方を気にしていたようでしたので」

 

「お前!!」

 

 

 俺はあいつを思いっきり、殴りたい衝撃に駆られるが、ぐっと抑える。

 既に徒は母さんの近くに接近しており、俺の今のスピードでは守れそうにない。しかも、あの徒は広範囲で存在の力を喰おうとしている。

 

「キアラは間に合わないのか!?」

 

『恐らく、この徒のなにかに足止されているようだ』

 

「ちくしょう……」

 

 俺は余りの悔しさに唇を噛み締める。何も出来ない。母さんが死ぬ……いや、正確には存在が消える。俺がしっかりと役目を終えれば、彼女も最終的には存在の力は蘇るのに……。

 

 ……何故、こんなにも悲しい。

 

 ふと、頭を過ったのは坂井悠二としての義務。何故、俺はこれを成し遂げようとしていたのか。そんなのは言うまでもない。ハイスクールD×Dの世界に行き、ハーレムを築くためだ。

 そのためにも坂井悠二としての役割が……。

 

『ふふ、おいしかった悠ちゃん?』

 

『悠二、起きたんですね』

 

『おい、ホントに頑張るな。お前は』

 

 そうか、俺は……。

 

 俺は気付く……憑依してからの一年間の日々、関わった人たち。それによって変化した俺の思いを。裏切られるんじゃないかという思いがなくなった訳ではない。でも……

 

「違う。今の俺は坂井悠二の義務ということだけで戦ってるんじゃない。いつの間にか大切になってたんだ」

 

 この時間

 

 この関係

 

 なにより……この人たちが。

 

「俺は守りたかったんだ!!」

 

 この瞬間、グランマティカを使うために掛けていた最後のピースが埋まる。俺は本能的に叫んだ。

 

「グランマティカ!!」

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 徒は驚く。自身が喰おうとしてたところに多数の銀色の逆三角形のブロックが出現したからだ。徒の攻撃をそれ一つ残らず防がれる。

 

 さらに……

 

「どこを見ている?」

 

「貴様は……」

 

 今の俺のスピードはまだ敵を半減してないのにも関わらず……速い。

 さらに目の前の徒は紅世の王ですらないのだ。もはや、目で追うことすら出来ないだろう。

 そこからはラッシュ、ラッシュ。ひたすら殴り続ける。これが出来るのはグランマティカの瞬間移動が出来てこその攻撃。

 久々にキレたので加減が出来ない。徒の分身は形残らず消えた。

 

「……」

 

「ひっ……」

 

 本体は足が躓きながらも、必死に俺から逃げるために離れようとしている。体が透明になろうしてるのもあり、これも奴の自在法かなにかなんだろう。

 俺は無言でゆっくりと近づいて行った。

 

「来るな来るな来るな来るな……」

 

 奴はずっと同じ台詞を呟く。しかし、俺の耳には届かない。聞こえる訳がない。

 俺はサーレに教えて貰った簡単な強化の自在法を使い、作業のようにこの徒の頭を潰す。もちろん、潰された徒は討滅された。

 

「……終わったな」

 

『相棒……』

 

 俺はこの後にキアラと合流し、今回の件について報告し、母さんと三人で家まで帰った。

 

 

 

 

 

「どうたの二人共?」

 

「いや、ちょっとね……」

 

 俺はキアラと向かい合い少し笑う。

 俺とキアラは徒との戦闘が合った夜二人で母さんを呼び出していた。

 

「渡したい物が有って……」

 

「母さん、これ」

 

 俺とキアラは二人それぞれ別のリボンの付いた箱を渡す。そう、母の日のプレゼントだ。

 

「嘘……」

 

「千草さんにはお世話になってるし……」

 

「ちょっとした気持ちだけどな。けど……」

 

 俺とキアラは息を合わせて母さんに告げた。

 

『いつもありがとう!!』

 

 まだ裏切られるかもしれないという恐怖や不安はある……けど。確かにこの日、俺はしっかりと母さんに感謝の言葉を伝えることが出来た。




後原作まで一話繋げようと思ってます。でも、次の話はまだ少し考え中。奴を出すか……。

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