世界を越えたい   作:厨二王子

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零時迷子

 約束の土曜日、俺はサーレやキアラと一緒に封絶や存在の炎を出す前にサーレの出した人形と格闘戦をしていた。

 

「準備運動はこんなとこか」

 

「いきなり、ハードじゃないですか……」

 

 俺は河川敷の草の上で寝ながら話しているサーレに文句を言う。ちなみにキアラはのんびりお菓子を食べていた。

 

「この人形で大体の力量が計れるから、便利なもんだ」

 

「この人形は宝具ですか?」

 

「まぁな」

 

 サーレは鬼功の繰り手というように、糸の自在法を使い、他人自在法すら操れる。確かに人形を使うときもあると聞いたことがあったが。

 

「みたところ、存在の力を認識してるみたいだし、封絶張ってみるか。イメージは世界を切り離す感じだ」

 

「よし」

 

 俺は集中して存在の力を強く認識する。サーレに言われた通り、世界を切り離すイメージで。

 

「……」

 

 俺の体中に存在の力が満ちていくのを感じる。その瞬間、俺は一言呟いた。

 

「封絶……」

 

  俺の手に銀色の炎が出現し、音もなく世界が止まった。

 

 

 

 

 

 俺は自身が張った封絶を見回すと、視線を俺の手から出ている銀色の炎に移した。

 

 どうやら、サブラクはしっかりとヨハンに大命詩編を打ち込んだようだ。

 アルビオン、なにか感じるか?

 

『ああ。今の瞬間から私もこの零時迷子の理解が深くなったのだが、なにかで守られてるようだ』

 

 戒禁はしっかり掛けられてるようだ。

 俺は零時迷子が原作と同じ状態で喜ぶ反面、サーレやキアラはなにやら考え込んでいるようだ。

 

「銀色……か」

 

「私は白かと思ったんですけど……」

 

「俺もだよ。銀といえば、思い浮かぶのはあの″銀″だな」

 

 サーレもあの銀については知っているようだ。

 キアラは心当たりがないのか首を傾げている。

 

「銀とは突然現れる奴なんだが、その正体はまだ分かってないんだ。確か教授も研究していたし、弔詞の詠み手が追っているって聞いたことがある。もしかしたら、悠二の中にある零時迷子が関係してのかもしれない」

 

 まさか、情報が少ない状態でそこまでありつけるなんて……さすがだな。

 

「まぁ、考えて分からないものはしょうがない。アウトローでなにかいい情報を手に入れられることを願うしかないな」

 

「次はどうします?」

 

「じゃあ、簡単な自在式を教えるから、やってみろ」

 

 この後、俺の封絶について突っ込まれることはなく、簡単な自在式についてやそれのしくみなど教わる。

 こうして、今日のサーレたちとの特訓は夕方まで続いた。

 

 

 

 

 

「そして、眠れば精神世界で特訓。充実してるぜ」

 

「無理をするなよ、相棒」

 

「分かってるよ。だから、週二回はしっかり寝るって」

 

「ならいいのだが……」

 

 俺は胸を張っていう。封絶も張れるようになったし、自在法などのしくみも理解出来たのだ。それにより、精神世界の特訓の幅も大きくなった。

 

「今回の相手は歴代一の剣術使いだ」

 

「ほう」

 

 俺の目の前に一人の白い鎧を纏った剣士が現れる。右手には一本の剣が握られていた。その剣の放つオーラから名剣と分かる。

 

「スピードも歴代一だぞ」

 

「問題ない。むしろ、今覚え途中の自在法を完成させるのに十分な相手だ」

 

 俺も禁手の状態になって構える。相手も剣を構えるがその瞬間、俺の目の前から姿を消した。

 

「どこに……がぁ」

 

 いつの間に現れた相手が俺の腹に剣劇を浴びせてくる。俺は上手く衝撃を吸収できず、ぶっ飛んだ。

 

「強いな……」

 

「当たり前だ。奴の剣術はあの無限にも認められたほどだしな」

 

「無限……ね」

 

 オーフィスのことか……。奴が動くのは夢幻に影響を与えられる奴くらいだろう。なら、その強さは納得である。これはあの自在法を使えるようにならないと、追い付けないな。

 俺はある自在法を発動させるために、意識を集中する。すると、俺の回りに銀色で小型の逆三角形の形状をしたものが何個が出現する。しかし、少しでも集中を切らすと、それは消えた。

 

「ちっ、今は数秒が限界か」

 

「なかなかに万能そうだな」

 

 俺が試そうとしている自在法は原作でも悠二が使用したグランマティカ。これを原作までに俺が使用できるようになれば、速い機動力、絶対的な防御を手に入れることが出来る。

 これは坂井悠二の自在法であり、実はもう一つ俺自身である前世の神田光一の自在法の入手にも動いているが、こちらは戦闘用ではない。しかし、役に立つことは間違いないと思われる。

 

 とにかく……。

 

「もう一度行くぞ!」

 

「……」

 

 相手は喋らないが無言で剣を構えてくる。俺もグランマティカを発動しようとした。しかしこの瞬間、この空間に別の誰かが入ってきた。俺とアルビオンは侵入者の方に向く。そして、俺は一言告げる。

 

「まさか、干渉してくるとは思わなかったな」

 

「いやぁ、話すことが出来るなら話してみたいじゃないか」

 

 俺とアルビオンの目線の先には一人の男。零時迷子は確かに俺の同じ体内にあるから来ることも少しは考えたが、まさか来れるとは……。

 その男は零時迷子を作ったミステス、そう名前は……。

 

「ヨーハン」

 

「しかしすごいね、別世界の干渉とは。僕の想像を越えるものが世界にはまだまだある」

 

 コイツの様子が初対面にしてはなにか違和感がある……まさか。

 

「見たのか……?」

 

「少しね」

 

 最悪だ。この知識だけはこの世界の人物には誰一人として知られたくはなかったのに。

 

「安心して、誰にも言うつもりはないよ。僕自身、フィレスには会いたいけど、出番が来るまで出ていく気はないしね」

 

「……」

 

 信用出来ない。コイツはやろうと思えば俺の体を乗っ取ることも可能なのだ。俺はそれでも警戒をやめることはなかった。

 

「寂しいなぁ、まっ仕方ないか。それよりも、あの結末、僕としては許容ラインぎりぎりというところかな」

 

「両界の嗣子では満足出来ないと?」

 

「いや、あれはあれで良かったと思ってる」

 

 ヨーハンは笑顔で俺に告げる。ダメだ、コイツの目的が分からない。アルビオンが俺の頭に直接声を届けてくる。

 

『どうすのだ、相棒?』

 

『まだ、様子見で頼む』

 

 俺はアルビオンに指示を出す。目的が分からん以上、動けない。

 

「だから、そんなに警戒しなくてもいいのに。僕の願いは君の安全だよ」

 

「それはつまり……」

 

「君に協力しよう。けどやっぱり、多くの女性を愛するのは邪道だと思うんだ」

 

「……黙れ、男のロマンだ」

 

 やはり、なんかコイツとは合わない。俺は少しイライラしながら話を続けた。

 

「具体的には?」

 

「今君が進めている自在法作成の協力さ」

 

「……分かった」

 

 俺は渋々奴の提案に乗った。

 

『いいのか、相棒?』

 

『仕方ない、俺の目的のためだ』

 

 こうして、精神世界に新たな人物が現れた。そして、時間は着々と原作の始まりに進んで行く。


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