篠ノ之束の憂鬱な日常   作:通りすがりの仮面ライダー

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2/日常

 

 

 

 

「おーい、飯食おうぜ篠ノ之」

「......後で食べる」

「そう言ってお前、ほっといたら普通に飯抜きで済ますだろ。ぶっ倒れるぞ?」

「別に。六条には、関係ないだろ」

「いーや、あるね。だって今日の餌やり当番俺だし!」

「はぁ!? 私は家畜か何かか!?」

「一日おきに交代、明日は織斑の番だな」

「何勝手に決めてんのさ、ちーちゃん!?」

 

 中学に上がっても、私の学校生活における態度は変わらない。

......ただ、少しだけ世界が広がったのだと。そう思った。

 

 

 

 

▲2/日常

 

 

 

 

 中二の夏。エアコンをガンガンにかけた部屋にピンポン、と音が鳴り響く。

 頼んでいた部品でも来たのだろうか、と扉を開ける

が───アパートの一室の前にいたのは、見慣れた例の馬鹿の姿だった。

 

「たーばーねちゃん、あっそびーましょ」

「名前で呼ぶな気持ち悪いうるさい帰れ」

「ドクペとコーラとファンタどれがいい?」

「..................」

 

 相変わらず人の話を聞かない。私は溜め息を吐き、半ば強制的に握らされたドクペを見下ろした。すでにアイツはするりと猫のように侵入を果たしている。追い出そうにも無駄だろう。

 

「......なんでいつもドクペなのさ」

「博士系キャラと言えばドクペだろ?」

「私は別に高笑いもしないしタイムリープもする気ないんだけど」

 

 そう返すと、六条は「お、見たんだ」と言って笑う。薦められてみたものの、途中が中々重い内容のアニメだった。タイムマシン系列のものはしばらく研究する気が失せるほどに。

 

「もしかしたら出来るかもよ」

「......多分、あれなら作れそう。後五年くらいあれば、だけど」

「わーお。冗談に聞こえないから怖いわ」

 

 若干顔を引きつらせている六条には悪いが、出来るか出来ないかで言えば恐らく"出来る"。しかしそれは前提条件に十分な設備が整っている、というものがあってからこそだ。それに一応可能になるというだけで、成功率100%なわけではないだろう。出来たとしても下手すれば同じくゲル状になるかもしれない。それでも一応過去にはいけるのだから、まあタイムマシンと言えばタイムマシンなのだろうが。

 

「うわー......篠ノ之がなんか悪いこと考えてる顔してやがんぜ」

「別に考えてない。あとそこ、勝手にパソコンつつくな」

 

 しかし勝手知ったるなんとやら、だ。アイツが弄っているのはすでに使っていないノーパソであり、つつかれても全く問題のないもの。本当に(タチ)が悪い。

 

「つーかこれ、出回ってる奴の中で最高スペックのやつだろ? 何で使ってないんだ?」

「別に。自分で作ったやつのほうが性能良いのはわかったから、もうそれいらないし」

「マジっすか。一台欲しいわ」

 

 戦慄したのか、五台ほど(・・・・)並んだ我が家のパソコン達を見上げて口笛を吹く。......頼まれたら作ってやらないこともないんだけど。

 

「つっても、俺にゃPCなんざネトゲするための道具くらいでしかないからなぁ。いわゆる宝の持ち腐れになりそーだわ」

「だろうね」

 

 そう言って深く頷く。六条は私ほど才能があるわけではない。中学生にしては突出して学力は高いものの、異常だと言えるレベルじゃないのだ。......何故か精神年齢は高そうだけど。ついでに言えば、他人の思考や心情を読むのが恐ろしく上手い。これはかつての私が経験した通りだ。

 

 身体能力は人類の頂点レベルのちーちゃんと、天才の私と、妖怪(サトリ)のコイツ。私が言えたことじゃないけど、些か人外が多くないだろうか。

 まぁ、それはともかく。

 

「で、何の用?」

「涼みに来ただけですけど?」

 

 無言でその寝転がっている背中を踏んづける。「ぐぇ」と潰れた蛙のような声が漏れるが、そのまま体重をかけていく。40キロもないから、そう大した重しにはならないだろうけど。

 

「で、何の用?」

「謎の既視感............さてはタイムループか!」

「邪魔しにきただけかよオマエは」

 

 呆れた。本当に暇人だったとは。

 

「うむ。そう言えば篠ノ之、少し苦言を呈したいんただけど」

「......なに? 重いとか言ったら殺すよ?」

「うん、いや、それもあるけどそうじゃなくてだな」

 

 うつ伏せになったまま、六条は厳かな声で告げた。

 

「スカートでこの角度はちょっと色々問題あるぞ」

「───────っ!? 死ね!」

 

 足に込める力を増して抉るようにぐりぐりと動かす。同時に「痛ぇ!?」という声が上がり、反射的に持ち上がりかけた頭部を蹴り飛ばす。

 そのまま跳躍して距離を取ると、私はスカートを抑えながら床に這いつくばって呻く馬鹿を睨んだ。死ね、箪笥の角に小指ぶつけて死ね。

 

「ぐふ......俺が何をしたと......」

「うっさい死ね変態」

 

 変態死すべし慈悲はない。というか、思春期の女子相手にその対応はどうなのさ。ここは知らないふりして見ないのが普通だろうに。

 

「俺は本当のことしか言えない純粋な少年なんだ!」

「授業中、ちーちゃんに嘘の答え教えて大恥かかせたのは何処のどいつさ」

「............過去は振り返らない主義でな!」

「やかましいわ!」

 

 その後ちーちゃんに折檻されてグロッキーになっていたというのに、反省した様子が全く見られないのはどういう事なのだろうか。後で言っておこう。

 

「......ちーちゃんに言いつけてやる。覗かれたって」

「おいこらちょっと待てそれは誤解だ。つーか洒落にならんぞおい。織斑に竹刀で滅多うちにされるとかそれなんて地獄......!」

 

 うん。私も最近のちーちゃんの戦闘力の上昇率は少し怖いと思う。中二で高三の門下生をしばき倒すとか異常だ。

 

 だが、それとこれとはまた話が別。変態にかける情けなどないのだ。

 

「あ、もう送ったから。あと十分くらいでくるんじゃない?」

「総員撤退ッ!」

 

 慌てて起き上がると、六条が逃走準備に入る。しかしその瞬間、リビングにチャイムの音が鳴り響く。

 

「嘘だろ、まだ三十秒も経ってないぞ」

「多分丁度近くにいたんじゃないかな」

「織斑の一族は化け物か......!」

 

 

 その後、六条が修羅の如き顔をしたちーちゃんに折檻されたことは言うまでもない。ざまーみろ。

 

 

 

 







主人公はサトリ。適切にカバーすることもできるけど、逆説的に言えば悪意を以てトラウマを抉り出すことも出来る。

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