袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第八四話 曹操の決断

 袁紹軍、出陣す。

 

 この一報は大陸全土を瞬く間に駆け巡った。既にその名を天下に轟かせていた袁紹の動向は各諸侯の注目の的であったのだ。

 袁紹は劉協から逆賊討伐の任を受けたと言うことで出陣を宣言。その配下には「顔良」、「文醜」の二枚看板、名将「張郃」、晋陽の英雄「趙雲」といった名だたる武将。そして袁紹陣営の名参謀「沮授」、「田豊」、旗揚げ時からの盟友「逢紀」、「郭図」といった名文官達。まさに袁紹陣営の主要な幕僚が名を連ねていた。

 さらに驚かれたのは袁紹軍の補助として董卓軍の神速「張遼」、そして天下最強の名を持つ「呂布」といった猛将が含まれていることであった。

 おそらく当代の英雄のほとんどを集結させたような構えに誰もが敵の敗北を悟った。

 この大陸においてほんの一部を除いて……。

 

「華琳様、袁紹が動きました」

 

 荀彧の言葉に曹操は不敵な笑みを浮かべた。

 

「ついに来たわね、麗羽。あなたが勝つか、私が勝つかで今後200年の歴史が決まるわ」

 

「どう為されますか?」

 

「……幕僚を集めてちょうだい。緊急会議を行うわ」

 

「御意」

 

 既に曹操の答えは決まっている。だが、ここで家臣団を一枚岩にするためには意見を聞く必要があるのだ。

 夜間にも関わらず集めることに時間は掛らなかった。それだけいつ何が起きても良いように備えていたと言うことだろう。

 武官で言えば曹操の親戚でもある夏候姉妹、文官で言えば曹操陣営の知恵袋「郭嘉」、古くからの忠臣である「戯士才」など曹操の重鎮達ばかりであった。

 

「これより皆に一つ質問をする。忌憚の無い意見を言ってほしい」

 

 曹操は一拍おいてから話し出した。

 

「皆も知っての通り袁紹が動き出したわ。総数は十五万はくだらないでしょうね。果たして我が軍は戦うべきか、それとも和平を結ぶべきか」

 

 皆が凍り付いたかのように黙っている。戦えば敗北は必至、和平を結ぶにしても自軍に有利な条件を相手が呑むとは思えない。誰が見ても絶望の二文字しか浮かばなかった。

 何せこの周囲には袁紹の息が掛った領主も少なくはない。彼らを黙らせるために全軍を袁紹と対峙させるわけにはいかない。そうなると動員できるのは精々五万ほどであろう。戦力差は三倍。さらに率いている将は誰もが名を知る名将ばかりであり、兵士達は幾たびもの戦乱を乗り越えてきた精鋭。兎が虎に挑みかかるようなものだ。

 

「我が君、私は和平を結ぶべきと考えます」

 

 一歩出て答えたのは戯士才であった。袁紹陣営に一時は捕らわれていたが決して寝返ることは無かった忠臣だ。その忠臣が和平という意見を出したのは臣下にとってよほど意外であったのだろう。皆が目を見開いた。

 

「なぜ?」

 

 曹操が感情の感じさせない声で聞く。彼女の感情を声色から感じ取ることができない。

 

「まず第一に袁紹の方が領土が広大な上肥沃であります。冀州、并州、幽州の三州を収めております。これに対し我が軍は荒れ果てた青州を持つのみ。第二に豊富な兵力。これは袁紹自身のものもありますが、董卓配下の将兵も含まれており、兵力は強大です。第三に人材。袁紹には逢紀を始め、許攸、郭図、田豊、沮授といった優秀な文官が揃っております。これらはいずれも天下に名高い知識人。これらに率いられた文醜、顔良を始めとする兵を巧みに操る武官もきら星のごとくおります。しかも天下最強と名高い呂布までも出陣してきているとか。これでは我が軍には勝ち目がありません。第四に袁紹の元には漢室がおります。これでは我が軍には義がございません。どこに勝機がありましょうか。一刻も早く降伏を行うべきです」

 

「……」

 

 曹操は黙ったままだ。彼女は下を向きその表情から感情を読み取ることはできない。

 

「我が君、私は袁紹と戦うべきと考えております」

 

 一人が前に進み出ながら言った。郭嘉だ。

 

「言ってみなさい」

 

「はい。戯殿は勝機が無いなどと仰りましたが、戦う前から降伏などと言う臣下がどこにおりましょう。さらに言えば先ほど申されました理由はどれも適当ではありません。まず領地と兵力に関してでありますが、袁紹はこれらを完全に使いこなせることはありません。第三の人材に関して言えば袁紹の配下は誰もが名門であるが故にまとまることがありません。必ず意見が割れます。これに加え派閥争いが激しく、一枚岩で戦うことは無理でしょう。第四の漢室についてでありますが、もはや漢室などの名は地に落ちました。巷では『天の御遣い』などと噂が立つほどです。お気になさることはありません」

 

 郭嘉の言葉に皆が一斉に顔を見合わせた。あまりにも思い切ったことを言うことから意外に感じたのだろう。

 

「しかも我が軍の後方に控えているのは天の御遣いを手元に置いた袁術です。決して袁紹に引けを取るような者ではございません」

 

「袁術ですと! あのような蜂蜜馬鹿が袁紹の敵になるわけ無いでしょう。一瞬でひねり潰されます」

 

「奴自身が驚異なのでは無く袁術配下の紀霊、張勲といった有能な者が何名おります。これらを含めれば決して引けを取りません」

 

「ふんっ! どうだか……」

 

「今言い争いをしている場合では無いわ」

 

 曹操が冷たく言い放つ。

 

「両名の意見よく分かった。他は何かある?」

 

 曹操の言葉に応える者は誰もいない。

 

「ならば私の意見を言いましょう。この曹孟徳は……」


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