袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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すいません。言い訳はもう言いません。ですが、一言だけ。免許は大変だ。
※この前の回にも記しましたが、陳羣と荀攸を誤って表記しておりました。本当に申し訳ありません。今後、この様なことがないよう気を付けます。ご指摘いただいた方、本当に申し訳ありませんでした。


第八一話 攻めるや否や

「袁紹は動かないわね……」

 

 曹操は呟きながら、机を叩く。袁紹軍の諜報機関は相当な規模のはずだ。曹操陣営の動きなど手に取るように分かるだろう。戦力がまだ整いきっていない今が絶好の攻め時のはずなのに攻撃を仕掛けてこないことに疑問を抱かざるを得ない。

 

「桂花!」

 

「ここに」

 

「袁紹は何を考えていると思う?」

 

「おそらくはこちらの現状を把握しつつも動けない事情があるのでしょう」

 

「その理由は?」

 

「袁紹陣営の強みはその圧倒的な組織の巨大さと人材の強さにあります。ですが、その優秀な人材はお互いに権益などの敵対関係にある。つまり巨大さ故の連携のしづらさがあります。おそらくは袁紹陣営の中で攻めるか否かで揉めているのでしょう」

 

 荀彧の言葉になるほどと曹操は相づちをうつ。

 袁紹の性格が優柔不断な性格であることは曹操は重々承知しており、部下の意見が割れた際にどちらに付くのか迷っている袁紹の姿が目に浮かんだのだ。

 

「ならば私は今何をすべきだと思う?」

 

「やはり国内の安定化を図りつつ軍備を増強。一刻も早く袁紹との対決に備えるべきかと」

 

 しかし、このとき彼女らはある人物を考慮に入れることを忘れていた。袁紹陣営の陰の実力者とも言われた田中の存在であった。

 

 

 

「我が君。現在、曹操は国力を増しつつある時期であります。おそらくこれから先、放っておけば大きな脅威となります。一刻も早く奴を討伐すべきと考えます」

 

 郭図が切り出したのはここ最近袁紹陣営で何度も議論されている内容であった。

 

「その件に関しては私は反対です」

 

 立ち上がったのは田豊だ。

 

「現在我が君は冀州、幽州、并州を併合したばかり。足下が固まらずして軍事行動に入れば足下を確実にすくわれます。ここは軍事行動を控えて内政に集中すべきです。さすれば数年後には曹操とは圧倒的な差が付きます」

 

「それには私も賛成です~」

 

 沮授も賛同する。

 田中は議事の流れを見ながら慎重に考えていた。

 

(確かにこの状況を逃せば、次に戦うときには曹操はかなり強力になっている。あえて地盤の固まっていないうちに攻撃するのも手だ。だが、足下が固まっていないのも事実。特に董卓陣営を抱き込んでいるために下手な動きはかえって首を絞めることになる)

 

 交戦派は郭図、逢起といった古参の人間達が中心となっており、厭戦派は沮授や田豊と言った冀州併合時から来た者達が中心となっている。

 袁紹はずっとしかめっ面をしながら双方の意見を聞いていた。

 

「田中殿、田中殿! どちらに致しますか?」

 

 横に控えていた審配が小声で尋ねてくる。

 

「いや、迷っている。どちらの意見にも一長一短がある。今各地の情報を考えながら、判断している」

 

 田中は苦しい表情で言う。特に恐ろしいのは袁術が大きな動きを見せないことだ。袁術は袁紹と肩を並べられるだけの大きな勢力にまで膨れあがっている。普通に考えて何かしら仕掛けてきそうなところだが……。

 

「少し休憩しましょうか」

 

 袁紹が初めて口を開いた。この言葉に皆が席を立ち思い思いに行動し始める。隣の者と話す者。外の空気を吸いに行く者。

 そんな中、田中は袁紹が消えた執務室へと足を進めた。

 

 

 

「我が君。田中でございます。お時間よろしいですか?」

 

 田中の言葉に返答するかのように部屋の扉が開く。

 

「田中殿。私はどうするべきなのです?」

 

 開口一番に袁紹が言った。

 

「私も考え中であります。ただ、一つだけ田中個人としてお伝えしておきたいことがあります」

 

 田中はそう切り出して話し始めた。

 

「曹操が新たに手にした兵団。青州兵と言われるようになる兵士たちですが、奴らは後に曹操の覇権拡大に大きな原動力となる者達であると記憶しております。ただこの世界で本当にそうなるかは分かりませぬ。また現在、東郡にいる劉備ですが、あの者達は袁術と曹操に挟まれた地です。そう遅くないうちに袁術はつぶしにかかるでしょう。そうなれば黄河の南の橋頭堡を失うことになります」

 

「確かにそうですわね……」

 

「ただ我が軍も決して一枚岩とはいかないのも事実。董卓陣営を漢室とともに抱え込んだことでかえって足を引っ張っております。そこで一つ策がございます」

 

「一体どんなものですの?」

 

 袁紹は田中から策を聞き、大きく頷いた。

 

「確かにそれならば戦を長引かせず、董卓陣営に心配することもありませんわ!」

 

「はい。ただしこれは大きな賭でございます。失敗すれば我が軍は袁術や曹操に構っている暇ではなくなりますから、慎重に行動なさいますよう。特に我が軍には董卓陣営の間者が多く紛れ込んでおります」

 

「分かりましたわ」

 

 袁紹はそう言って田中に部屋を先に出るよう促した。

 田中は元の自分の席へ戻り一人策を考え続ける。

 

(これがうまくいけば外部の問題は取り除ける。後は内部だな)

 

 陳羣の姿を目の片隅におきながら田中は考えた。陳羣も何となく視線を感じたのか田中の方を向くと立って歩いてきた。

 

「田中殿、どうも」

 

「陳先生。わざわざご丁寧に」

 

「この前お話しした件についてですが、どうにかなりそうです」

 

「そうですか!」

 

 田中は目を見開き言った。

 

「ええ。現在我が君にもお話ししているところですので、近いうちに発表になるかと」

 

「それは良かった。これで曹操との対決に入れます」

 

「これより会議を始めます!」

 

 袁紹の言葉に陳羣は振り返り、一言だけ告げ戻っていった。

 

「田中殿、何としても我が君を、元皓を勝たせてやってください」


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