それから一ヶ月ほどが経ったある日。
「何、全軍に明後日の予定は空けておくようにだって?」
文醜は部下から来た伝達事項に怪訝な表情をしながら聞き直す。
「は、そのように我が君が仰せであります」
「妙だな。近いうちに何かがあると言うことは聞いたことがないが……」
文醜は不思議に思いながらもその旨を軍団の全員に伝えた。
今日は文醜の部隊と董卓配下の一人である張遼の軍団と軍事演習をしていた。
現在は文醜の軍団が張遼の騎馬隊に総攻撃を食らっている瞬間であった。
「くっそ。さすがは霞。突破力は強力だな」
既に文醜の前軍の内の第一防衛陣が突破されており、まもなく第二防衛陣が突破される頃合いであった。
「だが、こちらも簡単にやられるような部隊ではない」
そう言いながら彼女は後方に控えた弩弓隊に攻撃を命じる。
だが、それを見越していた張遼隊はすぐに馬から下りて盾を構えてほとんどを弾いてしまう。
「流石だな~。うちの強さをはっきりと分かって対策してやがる」
張遼の騎馬隊は西涼で馬の扱いに長けた軍と何度も抗戦した経験があり、その練度はかなり高い。文醜が苦戦するのもやむを得ない状況であった。
「だが、こちらも負けるわけにはいかねぇ!」
そう言うと文醜は各部隊に命じた。
「これより陣形を変更する! 旗と太鼓を鳴らせ!」
彼女が合図すると今まで単調であったリズムが急激に変化し、早いテンポへと切り替わる。
全体的に突破をかけられている部隊を大きくへこませるように軍が移動していき張遼軍を中心に据えて大きくV字を描くような陣形になる。
張遼隊は包囲されることを恐れ、兵を一気に引かせようとする。
その直後、一気にV時の両端に控えていた兵士たちが走り出し、張遼隊の行く道をふさいだ。
「しまった!」
ここに来て張遼は計られていたことに気づく。
「矢を射かけろ!」
文醜は次から次へと矢を射かけ、張遼隊は壊滅したという判定を受け、演習は終了した。
「くっそ~、今回はええところまで行ったと思ってたんやけどな~!」
張遼は訛りの入った言葉で文醜に愚痴った。
彼女らは何かと演習で当たることが多く、こうして酒を酌み交わす中にまでなっていた。
「霞は十分強くなっているよ~。今回もかなり危ないところだったんだぜ!」
「とは言えど勝てなかったやろ~」
「今回はその場で兵士たちが動いてくれたから良かったけど。あのまま突撃を強くかけられていたらかなり危険だったんだよ」
「くっそ~! かえって悔しくなるわ~」
酒を飲んでは悔しい悔しいと嘆いている張遼に文醜は尋ねた。
「そういえば、話は少し変わるんだが、霞のところに連絡来たか?」
「何の?」
「なんか、我が君主催の茶会をやるらしいんだけど、知らない?」
「ああ。なんかうちの月も招待されていたみたいやな」
「来ないか?」
「何でも武芸大会もあるらしいし、うちも参加しようとは思っているがな」
「やっぱりそこにときめいたか」
今回の茶会は袁紹主催と言うこともあり、田中たちの考えていた茶会とはだいぶ違う展開になりつつあった。武芸大会や知識比べ大会など、どちらかと言えば茶会と言うよりは一種のお祭りに近い。
「まあ、かなり大演習も行う予定という噂も立っているから、楽しみやな」
「へえ」
「何でも軍師同士の力量を試すために本当の戦のように軍師と将軍が一緒になって戦うみたいやな」
その言葉に文醜は少し顔をしかめた。
「どうした?」
「あたいらの軍団の指揮官ってどちらかと言えば腕っ節の強い人物が多いから果たして知識しか無い人間の指示に従うのかと思ってな」
「ほう。うちには詠がいるからな。そんじゅそこらの奴じゃ厳しいぞ」
「ああ、賈殿か」
確かに賈詡であればそう簡単に勝つことは難しいであろう。
「まあ、首を洗って待っておけ! 来月はうちが勝たせてもらうからな」
そういってカカと笑った。それと対照的に文醜は渋い顔のままであった。
「……って事があったんだよ~。どうしたら良いんだ、田中!」
朝からいきなり部屋に来てみたら文醜が来ていたために少し驚きながらも話を聞いていた田中。思わず頭を抱えた。本来田中の描いた物とは違いすぎる内容に突っ込めば良いのか、それとも喜べば良いのか悩んだ。
だが、袁紹に任せると言ったのは田中だし、やむを得ないかと少し諦め気味に考えた。
「うちの知識人は確かに多くはありますが正直軍の統率が得意な人物がいるかと言われれば、迷いますね……」
確かに将軍や知識人で見れば優秀な物は多い。しかし、いざ軍を指揮する人物としてみてみるとこれと言って優秀な人物が余り見当たらない。
「ふ~む、戦の経験が多く軍師に向いている人物ですか……」
「どうにかなんねえのか!」
文醜はよほど悔しかったようで半泣きで田中の裾をつかむ。
「知識で言うならば元皓や沮授が向いているが、あいつらはあくまで大局を見るのに優れているだけだからな……」
そう言って再度考え込む。田豊も沮授も優秀な部分が多いのだが、一部の知識が足りていない。そういった場合は如何すれば良いのか……。
「そうか……。そうすれば良いんだ」
田中は一つ策がひらめいた。
来月、学校の実習の関係で投稿できいなくなる可能性があります。そうなるとまるまる一ヶ月間投稿ができません。極力投稿できるように努力はいたしますが、ご理解よろしくお願いいたします。
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