袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第七〇話 裏の企み

「劉太守殿、今ご自分が何をおっしゃっているのか、お分かりか?」

 

 ゆっくりと田中は尋ねる。

 

「もちろんです! でも私は自分のやったことを人に押しつけられるほど落ちてはいません!」

 

 劉備は毅然たる態度で言い放つ。

 

「桃香様、何をおっしゃっているのですか? 私がすべて仕組んだだけで桃香様は何も……」

 

「いいえ! 私は関与していたの! これが証拠よ!」

 

 そう言って彼女は書簡を取り出し、田中に渡す。

 そこには天の御遣いの情報を秘匿にするよう各村に伝えていたことを示す書簡であった。名前の部分には確かに劉備の名が書かれている。

 

「これは本物ですか?」

 

「「はい(いいえ)」」

 

 諸葛亮と劉備の言葉が重なる。

 

「諸葛殿、あなたにはお聞きしていない!」

 

 いつになく厳しい田中の言葉に審配ですら、少したじろぐ。

 諸葛亮はその剣幕に黙ってしまった。

 

「劉備殿、あなたがこれらの事件に関わっていたことを認めますか?」

 

「はい」

 

 その言葉にそこにいた誰もが凍りつくしかなかった。天の御遣いをかばっていたともなれば皇帝をないがしろにしたと世間からは白い目で見られ、不敬罪、もしくは反逆罪で死罪は免れないであろう。

 

「実はこの判決は……」

 

「報告!」

 

 そのやりとりを遮るかのように一人の女性が大慌てで入ってきた。

 劉備の義姉妹の関羽だ。

 

「何! 今来客がいらしているのが見えないの!」

 

「桃香様、大変です!」

 

 そう言って彼女が劉備に軽く耳打ちする。

 

「おそらくは曹操の手による者でしょうな。もしくは袁術か」

 

 田中は独り言を言う。

 しかし、その言葉にいち早く反応したのは関羽だ。

 

「貴殿、何か知っているのか?」

 

 田中をにらみつけつつ、関羽は油断無く構えようとする。

 

「やめなさい! 彼にはもうすべてがバレました。終わりなのでしゅ」

 

 諸葛亮が関羽を制止にかかる。

 

「まさか、ご主人様のことが……!」

 

「ええ。そしておそらく彼は今の情報に関しても何かしら持っているでしょう」

 

「何!」

 

 関羽は驚きのあまり手に持っていた青龍偃月刀を落とした。

 あまりにも急すぎる展開に理解が追いついていないのであろう。

 

「劉太守殿、彼はおそらくは曹操もしくは袁術達の手に捕まり、袁術の元へと送られている頃のはずですよ」

 

「何で!」

 

「彼女たちもおそらくは調査していたのでしょう。我々と同じように。そして居場所と突き止め連れていった」

 

「なぜ、ご主人様が連れて行かれたの?」

 

 訳が分からないといった具合に劉備はうろたえる。

 

「簡単ですよ。先ほど言ったではありませんか。周りの人間次第では反乱の錦の御旗にされると……」

 

「なるほど」

 

 諸葛亮は一人合点のいったような表情に変わる。

 

「どういうことなの、朱里ちゃん」

 

「私も聞きたい、軍師殿」

 

 劉備と関羽は理解できていないようだ。

 

「今、袁術達は袁州牧と対立しています。しかし、漢の皇室を保護している袁州牧と表だって対立をすれば逆賊の誹りを受ける可能性は否定できない。そこで必要になるのが自分たちの正当性です。漢の皇室と同等の立ち位置を持つ者、それは天のみです」

 

「そうか、ご主人様はあいつらが自分たちの正当性を主張するために連れて行かれたんだ」

 

「ご名答」

 

 田中は諸葛亮に言うもその表情は決して祝している表情ではない。

 

「だから我々は必死に調査をしていたのですよ。こういった事態になればようやく落ち着いてきた天下は再び乱世の時代に逆戻りしてしまう。それだけは避けたかった。しかしあなた方は目先の命にこだわり、本当の大局を理解してはいなかった!」

 

 田中は強い語調で言う。

 

「どう成されるおつもりです! あなた方だけであの袁術、曹操達と戦って勝利を収めることが出来ますか? 我が君ですら手を焼いている者達をですよ!」

 

 どう考えても敵いはしない。劉備は片田舎の役人。持っている兵力は良くて一万と言ったところであろう。それにし対し、袁術は袁紹と肩を並べる大勢力。勝負は目に見えている。

 

「おそらくは今から我々が彼らを追っても無駄でしょう。こうなれば天下は二部され再び大きな大乱が起きます。貴殿等はその矢を放ってしまったのですよ」

 

 田中は部屋中が凍り付いている中でただ一人しゃべり続けている。

 

「貴殿等には二つの道があります。一つは袁術の所へ無駄な突撃を行い、無駄に命を散らすこと。これは間違いなく死しかない」

 

 もう一つの道はと続けた。

 

「私に命を預けるか」

 

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫なのですか?」

 

 審配は田中に不安そうに聞いてくる。

 何せ彼は一時的にせよ劉備達をかばうことになるのだ。下手をすれば田中まで首が飛ぶ。

 

「彼女たちは見た目からは想像できぬかもしれないが、天下の英雄ばかりだ。間違いなく利用できる。彼女らをここで斬るのはあまりに惜しい」

 

「しかし説得が出来るでしょうか……」

 

「問題は無い。既に許攸から我が君に事の子細は伝えてあり、どうにかするよう元皓や沮授らにも助けを求めている。問題は郭図、逢起だが、彼女らはあまり仲が良いわけではない。おそらくは上手くやれる」

 

「既に手を回し済みとはお見事」

 

 審配はそう言って後方の劉備達を見た。彼女らは車に乗っており、外見からは見えないが両手を縛られ、ほぼ罪人と同じ状況になっている。

 

「旦那様の申すように彼女らが使えることを祈りますよ」


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