袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第六四話 異民族との戦闘(上)

「斥候部隊が戻ってきました!」

 

 前軍の指揮を執る麹義は早速斥候を出し、敵情を探っていた。

 彼にとっては今回の戦闘が袁紹の配下になってからの初戦であり、功を上げようと勇んでいた。彼は羌族(漢の西側にいる異民族)の戦い方を知っており、故郷では何度か異民族と戦ったこともある。これほどの大軍の指揮を執るのは初だが、北方民族が相手とは言えど負ける気はさらさらなかった。

 

「敵の数はおおよそ五万ほど! 騎馬を中心とした部隊でこちらに迫っております!」

 

「敵が騎馬で来るのであれば我が軍はわざわざ城外に出て戦うことはない!」

 

 麹義達が籠もっているのは晋陽の城だ。

 三国時代の中国の城というのは、日本の一般的な城とは違い、町自体の周囲を城壁で囲んだ作りになっている。このため、城と言っても規模は生半可なものではない。

 

「なんて数だ……」

 

 その数の多さに兵士の誰かが呟いた。

 驚くのも無理はない。敵は文字通り地を埋め尽くすほどの数であり、その数の多さには思わず麹義も息をのむ。

 

「まだだ、まだ撃つなよ」

 

 麹義は弩兵に向って言う。袁紹軍全体の大将は文醜であるが、彼女は異民族との戦闘になれてはいない。そのため、町の守将は異民族との戦闘に精通している麹義が選ばれたのだ。

 

「奴らは騎馬を操るのに長けている。生半可な距離で撃ったところで、無駄になるだけだ」

 

 部下には恐怖の感情をおくびにも出さず、落ち着いた口調で言う。

 部下の兵士達もそんな麹義の様子を見て落ち着きを取り戻していた。

 

「馬というのは元来臆病な生き物だ。決して奴らは無敵なわけではない。それ相応の準備を固めていれば決して負けることはない」

 

 そう麹義は自分に言い聞かせるように言う。

 その直後、不意に城外からかけ声が聞こえてきた。

 

「敵が突撃してきます!」

 

 異民族が一斉に町めがけてかけてくる。その様子は一匹の竜がこの町を押しつぶさんとしているかのようだ。

 

「弩兵、撃ち方用意!」

 

 まずは射程の長く、威力も高い弩兵に攻撃準備を命じる。

 ここ、晋陽の町には異民族の襲来に備え、かなり堅牢な守りを敷いているが、敵はそれを簡単に乗り越えてしまいそうなほどの勢いのある突撃だ。

 

「もう少しだ、もう少し」

 

 撃つにはまだ早い。敵は一気に距離を詰め、まもなく堀まで距離が50メートルという距離にまで迫った瞬間。

 

「今だ! 撃ち方始め!」

 

 その指示出すと、横に控えていた兵士が大きな旗を振る。

 それに合わせるように各城壁に構えていた弩、連弩が一斉にうなりを上げ、敵兵に向け矢を発射し始めた。

 

 シャアと雨の降るような音が周囲に響き、敵軍めがけて矢が迫る。敵は盾あるいは剣、槍でその矢を弾こうと試みるが如何せん数が多すぎる。

 先鋒をかけていた兵士のうち半数以上が矢を受け、朱に染まりながら倒れていく。

 

「装填急げ!」

 

 弩というのは元来威力や命中率、射程が高い分装填に時間が掛かる。

 だが麹義はこれを見越して、別の兵士に命じた。

 

「弓兵、撃ち方用意!」

 

 弓は当たりづらいため、手練れが使う必要があり、弩よりは扱う兵士の数が少ない。そのため、一旦弩で敵兵の数を減らしてから撃つようにしたのだ。

 

 敵兵の生き残った先鋒がまもなく堀にとりつこうとした瞬間、大音声で叫んだ。

 

「弓兵、撃て!」

 

 先ほどと同じように矢は敵兵めがけて飛んでいく。

 しかし、こちらの射程圏内に入ったということは敵兵にとっても射程圏内に入ったと言うことだ。

 敵も騎馬に乗りながら袁紹軍の兵士を狙い、打ち倒していく。しかし、野ざらしになっている兵士と防壁に囲まれた兵士。どちらの方が被害が大きいかは言うまでもないであろう。

 敵兵の多くは堀に落ちていき、息があった者も息がない者も関係なく堀のそこにある杭に串刺しにされていく。

 

 敵兵の数は減らしたとは言えど、敵の数は膨大だ。数にものを言わせ、次から次へと押し寄せてきて、堀に橋のようなものを掛け乗り越え、城壁にとりついていく。

 

「投石隊に連絡! 投擲準備!」

 

 近くの旗を持つ兵士に別の指示を出した。旗はまた別の振られ方をして城壁内で待機していた投石隊に別の支持が飛ぶ。

 弓兵は近くの敵兵を、弩兵は遠くの兵士を。また別の兵士達は石を投げたり、煮え立った油を上から流したりして、敵の雲梯などの攻城兵器からの攻撃を凌いでいく。

 また、まだ腕が未熟な兵士は接近してきた敵兵を転射と呼ばれる弓を撃つための穴から敵の前線に来ている指揮官を狙い撃ちしていく。

 その直後、旗を持っていた兵士が叫んだ。

 

「投石隊より連絡! 攻撃準備完了とのことです!」

 

「よし! 守備兵に伝えろ! 盾の準備!」

 

「了解!」

 

 旗は激しく振られ、麹義の指示が城壁にいる兵士に伝わる。

 

「投擲開始!」

 

 投石部隊に指示が出た。

 投石部隊が指示を受け準備したのは石ではない。人の腕に収まる程度の瓶だ。それに横にいる兵士が火を付けると普通ではあり得ないほどの勢いで火が付く。

 これは火を付けて敵を攻撃するように作られた瓶で、袁紹軍は張燕が降伏しなかったときの攻城兵器として持ち込んでいたのだ。

 この瓶は中に油が充填されており、口は封をしてあるのだが、打ち出した勢いで飛散しないとも限らない。そのため、守兵には盾で上を守らせ、味方に被害が出るのを最小限にとどめようとしたのだ。

 

「撃て!」

 

 瓶は次から次へとコン、コンっと軽い音を立てながら打ち出されて敵の後方へ向け飛んでいく。その数はすさまじい数であった。

 無論、この間にも盾の下から弩兵や弓兵は敵を狙って矢を放つ。

 瓶は城壁を飛び超え、堀の向こう側に着弾、周りに燃えた油を飛散しながら周囲の敵兵を火だるまにしていく。しかし、敵のほとんどはそこにいなかったためにそれほど大きな被害は出ない。

 だが、この兵器の本当の目的は敵に被害を出すことではない。

 

 敵の主力は騎馬兵だ。彼らは堀の向こう側からこちらの守兵を狙い、少なくない被害を出していた。

 だが、それらの騎馬が火に驚き暴れ出したのだ。

 それに対処できず、落馬し、別の馬に蹴飛ばされ命を落とす兵士が数多く出たのだ。さらに炎は後方の味方との連携を遮断させ、敵の孤立化を成功させる。

 

「今だ! 狼煙を上げろ!」

 

 麹義は別の兵士に叫んだ。

 その兵士は狼煙を打ち上げ、合図を出す。

 

 

 

 

「麹将軍、確かに承った」

 

 狼煙を見て不敵な笑みを浮かべて、うすら笑う趙雲がいた。




 以前、感想への返信で騎馬戦は無いと思われますと答えたのですが、有るかもしれません。
 申し訳ありません。

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