袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第五二話 賊

「袁刺史様、沮南皮太守様からの書簡でございます」

 

 逢紀は袁紹の元へ書簡を一つ持ってきた。

 沮授を南皮の地に派遣してから早一ヶ月ほど。

 190年の5月から6月へと月が変わろうとしていた頃。早速その報告書をしたためて送ってきたのだ。

 

「ありがとう」

 

 そう言いながら袁紹は中を読み始めた。

 内容は最初は統治状況に関することである。どうも以前の太守であった郭嘉達がかなり優秀な人材達を育成していたらしい。そのおかげで大分統治もやりやすいとの内容であり、もし必要とあればその育成方法も伝えるとのことであった。

 

「これは是非、お聞きしたいですわ」

 

 袁紹はそんな独り言を言いながらも読み続ける。

 続いての内容はかなり深刻であった。南皮の町の近くで黄巾の残党が確認されたらしい。それも少なくはなくかなり大規模なものであった。これの討伐をお願いしたいとの内容である。

 

「なんと言うことですの! 元図さん、元図さん!」

 

「はい。お呼びでしょうか?」

 

 袁紹の呼ぶ声に間髪入れず逢紀が入ってくる。

 

「元図さん、大変ですわ! 賊が私の大事な領地であります南皮の近くにいるとのことですわ。このような事では大事な民が攻撃されてしまいます。急ぎ討伐軍を編成してくださいな!」

 

「御意」

 

 そう言ってすぐに逢紀は袁紹の部屋を出て、すぐに将軍達がいる訓練所に向かう。

 

「顔将軍、文将軍!」

 

 逢紀は二人の将軍を呼び出した。

 

「元図殿! どうした?」

 

 近くにいた文醜がすぐに反応した。

 

「南皮近郊で賊が発生した模様です。規模はかなりのモノ。これより偵察を送り込んで詳しい情報を仕入れますが、将軍達に出撃の準備をさせてください。とりあえず、出撃は顔将軍、文将軍、趙将軍で出撃準備をお願いします」

 

「御意! 兵力が分かり次第ご連絡ください。連れて行く兵士の数をそれで決定します」

 

「今からその旨を田中殿にお伝えするつもりです」

 

「お願いします」

 

 そして逢紀はその足で田中の執務室に向かった。

 

「失礼!」

 

 入ると田中は地図とにらめっこをしている。

 

「田中殿、緊急……」

 

「南皮郊外で十万の賊が一斉蜂起したそうです。狙いは北平の公孫瓉の領地を狙っているとか」

 

「既にご存知だったのですね」

 

「つい先ほど緊急の一報が私の方に来たところです」

 

「それで他に情報は?」

 

「今は分かりません。続報を待っているところです。既に残っていた間諜部隊は全員そちらに向かわせました」

 

「分かりました。これより軍議を始めます。すぐに来てください」

 

「構いませんが、副官の賈詡と陳宮も連れて行って構いませんか? 彼女らは間違いなく戦力になるはずです」

 

「良いでしょう。今は一人でも人手が欲しい」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って田中は二人を呼びに、逢紀は関係各所に連絡をしに走っていた。

 

 

 

 その一刻後、緊急会議が開かれ、投入する兵力などの協議を始めた。

 

「ただいま、賊は北平を目指し、南皮郊外の章武から北上中であります」

 

 章武とは南皮の北北東方面の海岸沿いにある地の名前だ。

 

「何故、手近な南皮を狙わずに北平を狙う?」

 

 郭図が聞いた。

 

「おそらくはこれの後ろには何らかの勢力がいるものと思われます」

 

 答えたのは賈詡だ。

 

「間諜によればこれらが身につけていた鎧や武器は賊にしてはしっかりしていたとの情報です。さらにそれらは比較的統一されたものであったとのことでしたから、この筋はかなり有力かと」

 

 田中もその意見に援護を行う。

 

「しかし断定するには早すぎる。確実な証拠を手に入れなければ敵がどこかも分からん。まあ、予想は付くがな……」

 

 郭図は剣呑な表情をしながら言った。

 

「犯人捜しは後です。今は目の前の敵に集中しましょう」

 

 逢紀は議論の的を絞り直す。

 

「しかし、十万という兵力は大兵力です。これらが北平の町を攻撃すれば、北平の町は手薄に。その間に北方民族がくれば、北平の町は易々と陥落すると思われます」

 

 陳宮はそう発言した。

 

「確かに。そこでこちらから送り込む兵力は軽騎兵のみの編制にして現場にいち早く急行できるようにする」

 

 逢紀はそう言って武官達の方を見た。

 

「軽騎兵と現地の兵力二万の編成だけでこの賊を討伐できると思いますか?」

 

 その質問に顔良達はしばらく考え込んで発言する。

 

「ここの軽騎兵は二万。これらの主力は元董仲潁殿の配下であった兵力です。この兵力は極めて強力で、南皮の町にいる二万の兵力も我が軍の精鋭徒は言えど、十万の兵力相手には不安が残りますね」

 

「この中に策のあるものはいないか?」

 

 逢紀は尋ねた。

 すると陳宮が一人前に一歩出る。

 

「おそれながら、音々に一計がございます」

 

「陳公台殿、申してみよ」

 

「はい。敵は大兵力ですからどこかにそれを持ちこたえさせるだけの兵糧が蓄えてあるはずです。それを焼き払えば敵の士気は地に落ち、戦わずして敵を殲滅できましょう」

 

「それはよろしいですわね!」

 

 それまで黙って話を聞いていた袁紹が初めて口を開いた。

 

「戦わずして勝つ! これほど華麗な勝ち方は他にないでしょう! 元図さん!」

 

「ここに!」

 

「総力を挙げて賊の兵糧拠点を調べ上げてちょうだい!」

 

「御意!」

 

「呂将軍、顔将軍!」

 

「ここに!」

 

「……ここに」

 

「顔将軍を総指揮、呂将軍を副将軍におき、両名は直ちに軽騎兵二万を率いて、出撃の準備を待ちなさい。場所が分かり次第、お知らせいたしますわ」

 

「御意!」

 

「……御意」

 

「陳公台殿!」

 

「ここに!」

 

「今作戦においてはかなり慎重な行動や知恵が必要になってきますわ。参軍に任命しますので、顔将軍の補佐に回ってください!」

 

「御意!」

 

「補給に関しては南皮の町の方が近いですから、可能であれば沮授。出来ないようでしたら公則さんにお願いしますわ!」

 

「御意」

 

「他に何かありますか、元図さん」

 

「刺史様のご英断に文句などございません」

 

「それでは皆様、賊など華麗に打ち破り、我が袁紹の名を天下に知らしめましょう!」




すいません。先ほどは別の作品に投稿する予定だったモノを投稿してしまいました。

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