袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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 投稿が遅れて申し訳ありません!


第四三話 鄴への帰還

「最近はどう、凜花?」

 

 救出作戦が終了し、顔良達が鄴に戻って来ているとき、荀彧は荀諶と久しぶりの面会をしていた。

 

「ま~、ぼちぼちかな。 桂花姉さんは?」

 

「見ての通り、各地を転々としながらどうにか食いつないでいるわ」

 

 飄々と荀彧は言う。

 

「姉さん、いい加減どこかに仕官しなよ」

 

 呆れたように言う荀諶に荀彧は聞く。

 

「あなたの主君はどんな感じなの?」

 

 それに対し、荀諶はしばらく考え込んだ後に答えた。

 

「袁刺史様は不思議な人だね。そんなに能力は高くは無いけれど、冴えたときの頭の切れ方は凄いね。それに何かしら引き寄せられる魅力がある人」

 

「引き寄せられる?」

 

「ええ。何かは分からないけどね」

 

 そう言って出ていた茶をすすった。

 

「それでどんな人材がいるの?」

 

「昔からいるのは逢元図、郭公則なんて所。最近で言えば郭奉孝、田元皓なんて所かな。あ、そうそう! 田中って男も加わったね!」

 

「男ですって!」

 

 男という単語を聞いた瞬間に荀彧が勢いよく立ち上がった。荀彧は大の男嫌いであった。昔から優秀であった荀彧は地元の男の子からいじめを受けており、それ以来、男が嫌いになったという経緯がある。

 

「桂花姉さん、いい加減男嫌い直しなよ。そうしないと将来失敗するよ」

 

「ふんっ! 男なんぞ消えてしまえば良いのよ!」

 

「桂花姉さん……」

 

 荀諶はあきれ顔でため息をつく。

 

「まあ、いいや。で、桂花姉さん、うちに来る話はどうするの?」

 

 荀諶は小声で呪詛を唱え続ける荀彧の気分を転換させるために話を変える。

 

「まだ、考えているところ」

 

「誰か別にいい人がいるの?」

 

「曹孟徳」

 

「ああ。彼女ね……」

 

「曹孟徳は今までに見たことがない人物。彼女の行く先を見てみたい!」

 

 荀彧は昔から優秀な人物には目がない。少しでも能力があると聞けば、その人物の元に赴き、交流を深めてきた。それゆえ、昔から優秀と名高い曹操に興味を持つのは当然と言えた。

 

「桂花姉さん、曹操の所へ行った方が良いわ」

 

「え、何で?」

 

 意外すぎる妹からの提案に衝撃を受ける。

 

「袁刺史様は優秀だけど、桂花姉さんが求めるような能力は持っている人物ではない。おそらくはここに来ても身の狭い思いしかしないわ。それにこの陣営は派閥争いが多いから、下手をすると命を落とすことになる」

 

「そんな危険ならあなたも逃げたらどうなの?」

 

「私はそうするわけにはいかないわ。何せ袁刺史様には多くの恩がある」

 

「それでもあなたの命の方が大事でしょ!」

 

「これは私の忠誠心だけではないわ。荀家のためでもあるの」

 

「何故?」

 

「おそらくこの先天下を取るのは、袁刺史様か曹操のどちらかだわ。曹操の能力は間違いなく誰かの元にいて甘んじるものではないし、あれだけの能力があれば天下は十分狙えるわ」

 

「……分かった」

 

 荀彧は荀諶の言わんとしていることを理解した。つまりは天下を取る可能性のある人物に荀家の人間がいれば、どちらかが負けても荀家は存続するということだ。

 

「袁刺史に会ってくるわ」

 

「今、作戦の推移を見守るために前線に出ているわ」

 

「なら、それまで待っているわ。帰ってきたら教えてちょうだい」

 

 そう言って二人は別れた。

 

 

 

 

 

 190年4月上旬。春の花も散り始め、だいぶ気温が暑くなり始めた頃。

 

「袁刺史殿、まもなく鄴の町に到着いたします」

 

 袁紹達が鄴の町に到着した。袁紹一行は皇帝を護衛しつつ、鄴の町に着いたのは救出作戦が終了してから4日後のことであった。

 

「元図、私は大丈夫ですわよ! オ~ホッホッホッホッホ!」

 

「麗羽……」

 

 逢紀が袁紹の様子を見て、心配そうに声を上げる。

 袁紹が泣き叫んだあの救出作戦終了時の翌日から袁紹はこの様子であった。その様子は無理をしていることは明白であるが、袁紹に掛ける言葉がなかった。

 

「行きますわよ、逢元図!」

 

 元気に言うが、袁紹の足下はおぼつかない。

 逢紀は何も言えないまま、袁紹と共に鄴の町に入っていった。

 

 鄴の町では皇帝の顔を一度は見ようと数多くの民衆が詰めかけていた。袁紹は皇帝の乗る馬車の横に馬を並べ、共に進む。

 

 事が起きたのは城壁から鄴の宮殿までの距離が半分になった頃のことだ。

 

「袁紹、覚悟!」

 

 詰めかけた民衆の中から一人の男が袁紹に向けて駆けだした。兵士達が民衆のことを止めていたのだが、一瞬だけ底にほころびが出来、その男の侵入を許してしまう。その男の手には鈍い光を放つものが握られている。

 兵士達が止めようとするが、民衆が多すぎるせいで袁紹の元までたどり着くことが出来ない。

 

「麗羽!」

 

 近くにいた逢紀が袁紹の前に出て、守ろうとする。

 

「覚悟!」

 

 その男があと一歩の所まで迫ったとき、一人の女性が民衆の中から駆けだしてきた。

 

「ふんっ!」

 

 その女性が持っていた武器の槍を一閃、その男は悲鳴を上げることすら許されず、崩れ落ちた。

 

「大丈夫ですかな?」

 

 その女性は袁紹達の方を振り返って聞く。女性は水色の髪をして裾に鳥の羽のような柄をあしらった着物を着ている。

 

「……ありがとうございます」

 

 袁紹はやっとの事で声を出し、お礼を言う。

 

「いえいえ。私は賊を倒したまでのこと。お気になさらず。それよりも……」

 

 そう言ってその女性は袁紹の前で片膝を突き、言った。

 

「良いメンマの店を紹介してくださらぬか?」

 

 この女性との出会いが後の袁紹の人生において大きな転換点になる事を彼女はまだ知らなかった。




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