袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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 これが年内最後の投稿となります。皆様、良いお年を!


第三九話 汜水関救出隊

 袁紹の大きな決断により直ちに救出隊の編制が発表された。

 

 汜水関方面救出隊

 

 大将 文醜

 軍師 田中 沮授

 副将 審配

 

 騎兵一万 歩兵二万

 この他 田中配下の間者 二〇名ほど

 

 

 洛陽方面救出隊

 

 大将 顔良

 軍師 廬植 田豊

 副将 許攸

 

 騎兵 五千 弓兵 一万

 

 両方面護衛隊

 

 大将 逢紀

 軍師 郭図 荀諶

 副将 辛評

 

 歩兵 三万(内 盾隊一万 槍兵一万 弓兵一万)

 

 

 以上がその全容である。

 

 洛陽方面救出隊は、その隠密性と機動力の必要性から精鋭の騎兵のみで固められた。なお、ここにいる弓兵の理由は後ほど説明する。また、道案内を担うために軍師の一人に廬植を登用した形となっている。

 また、ここに書かれている間者は董卓たちを救援隊とより近い位置に来させるために案内と偵察の任を帯びている。

 

 汜水関方面救出隊に関しては、反董卓連合という巨大な勢力を突破する必要があるために兵力も大きく、軍師としては汜水関に一度赴いたことがある 田中を登用した。

 なお、汜水関には既に間者を送り込み、救出隊が到着し合図があり次第、汜水関を破棄。敵の包囲網を突破する作戦を伝えてある。

 

 最後に両方面護衛隊は汜水関の横を流れる黄河の対岸にある河内の地までこの部隊を護衛する役目を担い、帰還するまでその地の防衛と場合によっては追いすがってくる敵の撃滅の任も行う。

 

 

 これほどの大兵力が動員できたのも韓馥と交戦せずに冀州の地を手に入れられた結果であり、郭図達の功績は大きかった。また、今回の指揮官に目立つのが比較的冀州から入ってきた幕僚が目立つことである。

 これは戦慣れをさせるために今回の戦闘で抜擢を行った。寝返る可能性もあるが総大将が顔良と文醜であり、その可能性を低くするために軍師などに元々の南皮からの幕僚を含めるようにしてある。

 

 とにもかくにも、こうして董卓軍や皇帝を救うための大規模な作戦「神々しく、美しく、堂々とした行軍作戦」(袁紹命名)は決行されるのであった。

 

 

 

「ここから先は敵地となっています。くれぐれも油断なされぬよう」

 

 河内の地にたどり着き、部隊が三つに分かれるとき、逢紀が言った。

 厳密には河内の地も敵地ではあるのだが、既に周辺の敵は洛陽方面の戦闘による混乱で、いなくなっており完全に無警戒であった。

 港にこそ少数の敵兵がいたものの多勢に無勢。為す術もなく降伏をした。

 

「分かっています。でもやり遂げなければ多くの人が死にます。何としても成功させます!」

 

 顔良はそう言って武器の金光鉄槌を握りしめた。

 

「袁刺史殿は仰いませんでしたけど今、救出を待っている人の中に親戚の人もいるんですよね。何としても成功させなきゃ!」

 

「斗詩~、そんなに硬くなんなよ!」

 

「きゃあ!」

 

 硬い表情を浮かべていた顔良の脇を文醜がくすぐる。

 

「ほれほれ~!」

 

「あっはっはっはっはっは! ちょっ、文ちゃん、やめて!」

 

「なあ、斗詩、そんなに硬くなっていてはいざというときに動けなくなるぜ。ましてや、斗詩は大将なんだから、動揺していては兵の士気に影響が出る。気負いすぎずにやるくらいが斗詩は一番良い」

 

 優しげな表情で語る文醜の言葉は顔良の胸に深く刻み込まれた。

 

「文ちゃん、ありがとう!」

 

 顔良は文醜に感謝し、対岸へ渡るための船に乗り込んだ。

 

「さて、アタイも行くか!」

 

 そう言って文醜は別の船に乗り込む。

 

 

 

 ここから先の大まかな作戦は以下の通りである。

 

 まず文醜率いる汜水関方面救出隊はこの船団で対岸に移動。

 上陸後、直ちに兵を率いて汜水関に到達する。救出が完了次第、董卓軍と協力をしつつ冀州へ帰還する。

 

 顔良率いる洛陽方面救出隊は弓兵を乗せた多くの船団はそのまま黄河を上り、洛陽付近で弓の攻撃を行い敵の目を引きつける。

 そして騎馬兵を乗せた船団はそこから離れた地点で上陸を行い、一気に洛陽郊外へ移動。救出を行い、冀州へと帰投する算段だ。

 

 汜水関方面軍は突破する董卓軍の中に呂布がいるため、それほど大きな失敗はないであろうと考えられた。

 しかし、問題は洛陽方面だ。

 これは少数の兵力で敵の重包囲網を突破しなくてはならない上、護衛するのは足の速くない文官達。下手をすると全滅の恐れすらある。

 しかし、これを成功させれば袁紹は、最大の勢力となる事は間違いなかった。

 

 果たして吉と出るか凶と出るか、それは誰にも分からなかった。

 

 

 

 文醜率いる汜水関方面の部隊は無事、上陸に成功し攻撃の合図を待っていた。

 敵兵の偵察を終え、今は夕刻に近く、日が沈みかけている時間帯。

 

「敵の様子はどうだ?」

 

「はい。敵兵は一〇万ほど。旗を見ますに敵将は孫策、馬騰、曹操、劉備が主な武将と思われます」

 

「曹操? 以前打ち破ったのではなかったのか?」

 

「おそらくは逃げ返って英雄にでも仕立て上げられたのでしょう。袁紹と必死で戦い、ほとんどの兵力を失いながらも退かなかった猛将、とでもね」

 

 文醜と審配は敵情を見ながらそんなやりとりをした。

 

「敵兵の様子は?」

 

「完全にだらけています。おそらくは長い間、戦闘がなかったのでしょう。歩哨すらろくに見張りをしていませんでしたよ」

 

「よし! ならば、お前ら付いてこい! たるんだ敵兵に目にもの見せてやろうぜ!」

 

「「「おおお!!!」」」

 

「火矢を放て!」

 

 そう言って火矢を一つ放ち、文醜は大音声で叫んだ。

 

「抜刀! 突撃せよ!」

 

 そして文醜を先頭とした部隊はそのまま反董卓連合の中に突っ込んでいく。

 

 敵兵は何事かと目を白黒させ反応できない。

 その間に文醜隊は敵陣へ到達。その勢いを殺さず敵陣へと突っ込んだ。

 

「うりゃあああ!」

 

 文醜の武器である斬山刀は並み居る敵を一気に吹き飛ばしながら、汜水関へと近づいていく。

 

「袁紹軍だ! 袁紹軍の襲撃だ!」

 

 敵兵が口々にそう言い、押っ取り刀で文醜隊に襲いかかる。

 しかし、その程度で止められるほど生半可な訓練はしていない。

 

「良いか! 敵を討つことよりも自分の身を守ることを考えろ!」

 

 文醜は味方の兵にそう伝え、汜水関の様子を見守った。

 すると門がぱっと開き中から、大量の兵士が反董卓連合目掛けて突撃してくる。

 その先頭にいるのは当然、呂布だ。襲いかかる敵兵を一閃する度に何人も切り伏せつつ包囲網を削り取っていく。

 

「良し! 全軍、呂布軍との合流を目指せ!」

 

 文醜がそう言い、馬を向けたとき目の前に一人の人物が立ちはだかった。側頭部に一本にまとめた美しい髪をたなびかせ、手には青龍偃月刀を持っている。その人物は文醜に向かって言った。

 

「待たれよ! 貴殿、相当な腕とみた! 私と勝負……」

 

「御免! アタイ、今忙しいからまたな!」

 

「えっ!」

 

 文醜はその人物を見なかったことにしてそのまま横を通り過ぎていく。

 

「待たんか! おい、そこの貴様!」

 

「待てと言われて待つ奴はオランよ!」

 

「貴様!」

 

 そう言ってその人物は必死に追いつこうとするが如何せん馬の能力が違いすぎた。

 文醜の乗る馬は、公孫瓉軍から奪った馬の特に良いものであり、そこら辺の武将が使うような馬とはまるで違う。

 哀れ、その武将は文醜に追いつけず、どんどん離されていく。

 

「おのれ~! 今度会ったときは覚えておけ~!」

 

 捨て台詞のような言葉を尻目に文醜はどんどん呂布と近づいていく。

 そしてついに両軍は包囲網の中で手を繋ぐことに成功した。

 

「呂奉先将軍ですね」

 

「うん。救助感謝する」

 

「張将軍と華将軍はどちらに?」

 

「後ろにいる」

 

 そう言って呂布は後ろを指さす。

 そこには呂布に負けず劣らずの勢いで接近してくる二人の将の姿があった。

 

「分かりました。では、これよりこの包囲網を離脱します! 遅れないよう付いてきてください」

 

「分かった」

 

 二人は文醜が来た道を反転していく。

 

「呂布殿、お分かりだとは思いますが、くれぐれも敵将の一騎打ちには乗らないようにしてください」

 

「分かっている」

 

 二人とも一騎当千の猛将だ。次から次へと敵を打ち倒していき、間もなく包囲網を突破しようとしていた。

 しかし、そこで大きな敵が立ちはだかる。

 

「呂布! 私と勝負しろ!」

 

「ここを通りたければ、鈴々を倒してから通るのだ!」

 

「見つけたぞ! 先ほどの敵将! 今度こそ私が相手だ!」

 

 曹操配下の夏候惇、先ほどの将、それからチビ。

 

「チビと言うな! 鈴々は張飛なのだ!」

 

「ついでに私も名乗っておこう。私は関羽だ」

 

 これは失礼。もとい、関羽、張飛の三者が敵として立ちはだかる。

 

「これはまずい……」

 

 流石の文醜もやばいと直感した。

 しかし、呂布は何事もなかったかのように無表情を保ったままだ。

 

「流石にここは通れまい!」

 

 夏候惇が勝ち誇ったかのように言った。

 この時、ようやく追いついた田中軍師軍団はこの状況を打破するためにある言葉を呂布に囁く。

 

「奉先殿、ここを我が軍が通ることに成功させてくれたら、鄴に到着次第、上手い饅頭をたらふく食わせてあげましょう」

 

「分かった」

 

 この一言で呂布は一瞬で三人の元へ到達。一閃なぎ払う。しかし、さすがは歴戦の猛将達、いなすことに成功する。

 

「全軍、呂将軍の横を通り抜け、河を目指してくださ~い!」

 

 沮授がのんびりとした声で指示を出す。

 

「あ、待て! お前ら!」

 

 夏候惇が止めようとするが、呂布がその隙を与えるはずがない。

 

「恋に背中を見せようとは良い度胸」

 

「ぐっ!」

 

 間一髪の所で刃を躱すが、その勢いで落馬してしまう。

 

「夏候将軍!」

 

 助けに行こうとした関羽だが、その行く手をやはり呂布が遮る。

 

「逃がさない」

 

「ふんっ!」

 

 呂布は三人の猛将相手に互角以上の戦いをしている。その間にもどんどん兵は抜けていき、ついに最後の兵が抜けきったところで呂布は三人に背を向けさっさと逃げ出した。

 

「「「待て!」」」

 

 三者とも追いかけようとするがすぐに差をつけられる。呂布の乗る馬は赤兎馬と言い「馬中の赤兎馬」と言われるほど有名な名馬だ。

 そのような馬には追いつけはしない。

 

「また、会おう。その時には今度こそ決着をつける」

 

 呂布は三人に聞こえるかどうかは分からないが、そう呟き川岸に向かって走った。

 

 こうして汜水関方面の救助は予定通り完了した。

 

 しかし、洛陽方面は汜水関方面ほど上手くはいっていなかった。

 


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