「私は新しく袁太守様の配下となった田中豊と申します。以後、お見知りおきを」
田中は無難な挨拶で自己紹介をした。
ここは袁紹のいる町 南皮の袁紹の館の中にある客間である。
客間と言っても一般的な大きさではなく、数十人は余裕で入りそうなほど大きい上、調度品も素人目に見ても価値があると分かる物ばかりである。
その客間で田中は、袁紹の他、何人もの袁紹の配下の人物達と会っていた。
この集まりは田中の紹介を含めた会議であった。
「田中殿は、私の母上様がおっしゃっていた方で今回お会いできたので、こうして配下になっていただいたのですわ」
袁紹が登用までの経緯を説明した。
そこにいた人達は、話にうなずいてはいたが、疑いの目が田中に向けられているのは事実であった。
いきなり、どこぞの馬の骨ともしれない奴が自分たちの主の副官に付くのである。
いくら、主が説明をしても、裏があるのではないかと疑うのが当たり前であろう。
疑いの目が田中に向けられるのはやむを得ないことであった。
「一つよろしいでしょうか?」
一人の少女が、臣下の礼を取りつつ、前に一歩出た。
髪は金髪、青い目につり目の美しい少女だ。
「構いませんわよ」
袁紹が、発言を許可する。
「ありがとうございます。私の名は許攸、字を子遠と言います。よろしくお願いします。田中殿は何処のご出身ですか?」
(許攸か)
心の中で田中は呟いた。
許攸は荊州南陽郡の人である。
性格は、お金に強欲な面があったそうだ。
冀州の王芬と手を組み、霊帝を廃して、別の人物を立てようとするも失敗し、逃亡中に袁紹に仕える。
しかし、その性格と過去の行動から進言が袁紹に受け入れられることはほとんど無かったと言われる。しかし、優秀な人物で、田豊などと並び称されることもあった。
官渡の戦いにおいて、曹操軍への攻撃の仕方を進言するも受け入れられず、他の様々な理由が重なり最終的に曹操に寝返った。
このことにより、袁紹軍は兵糧の拠点がバレて、攻撃を受ける。このことで、形勢が逆転し、袁紹は破れる。
許攸は、この功績を驕った上、曹操にも馴れ馴れしくたために最後は処刑される。
許攸は田中の目を見ながら、聞いた。
許攸としては出身地からある程度、身元を割り出そうとしていた。
しかし、これに関しては田中は、答えようがない。
まさか、未来から来ましたとは言えるはずもなく、嘘を言っても許攸は歴史にも登場する武将だ。
下手な嘘が通じるはずもない。
田中は、言葉に詰まる。
最初から疑いの目を持っていた上に自身のことを聞かれると言いよどむということは何かしら怪しい部分があるに違いない。
許攸以外の者の疑いの目まで、強くなった。
部屋の中に緊張が漂う。
「お待ちください!田中殿も来られて初の挨拶で緊張もしておられることでしょう。ここはあまり、質問をするのは控えましょう。その内、徐々に話を聞けば良いのです」
また別の人物がその空気を絶ちきった。
その人物は、黒髪でワインレッド色の目の落ち着いた雰囲気を漂わせる少女だ。
「そ、そうですわね。質問はまたの機会にしましょう!」
袁紹がそう言って、会議を始めた。
「どなたですか、あの黒髪の方は?」
話が終わり、一通り家臣が解散したあと、袁紹に田中は聞いた。
助け船を出してくれた人に対してお礼を言わなくてはならない。そう考えて名前を聞いた。
「彼女は顔良ですわ。我が軍の将軍の一人です」
顔良
文醜と共に袁紹軍の二枚看板として活躍する。
しかし、官渡の戦いにおいて、袁紹軍から率いる部隊が孤立したところを当時、曹操軍の客将を勤めていた関羽に討たれる。
沮授からは偏狭で単独運用をするなと言われ、元同僚の荀イクからは勇のみで、一戦で生け捕りができると言われた可哀想な人である。
(しかし、思っていた雰囲気と違うな)
想像からかけ離れた雰囲気の顔良を不思議に思いつつ、先程のお礼に行こうと田中は、顔良の執務室に足を運んだ。
すいません。顔良の目の色を間違えていたので、訂正しました。