北平と済北の町を勘違いしていたので、訂正をしておきました。申し訳ありません。
今、連合軍は河水から撤退を終え、済北の町に駐屯していた。
「凪水……」
公孫瓉は行方不明の従妹の真名を呼んだ。当然、それに答える声はない。
公孫瓉の従妹の公孫越は先の戦闘で本隊を撤退させるために殿を勤め、その目標を見事に完遂して見せた。
しかし、その後、袁紹軍の大軍に飲み込まれ生死が不明である。果たして逃げ延びたのか、それとも捕虜となり捕まったのか。または敵に斬り殺されたのか。
未だその状況は探らせているものの足取りは全く掴めていなかった。
どうか生きていてくれ。
その思いだけが公孫瓉の頭の中をぐるぐると回り続ける。
自分がその時、近くにいてやれたらと何度も後悔した。
凪水に手套を喰らい気絶している間に戦闘は全て終わっていた。気付いたときには既に船の上で全軍が岸を離れ撤退を開始していた。
近くの兵士を問い詰めると、凪水は配下のたった数千の兵士のみで袁紹軍を必死に食い止めていたようだが、船上から確認できたのは袁紹軍に盾隊を突破され蹂躙される寸前にこちらの安全を確認するかのように振り向いたのが最後であったという。
「ゴメン」
どこにいるのか分からない自分の従妹に向け言った。
その直後、部屋の外からばたばたと誰かが走ってくる足音がした。それも一人ではなく、数人の足音であった。
それは公孫瓉の部屋の前で止まり、ドアの外から声を掛けた。
「公孫太守様、申し上げたいことがございます!」
それは普段から公孫瓉の右腕として活躍してくれている副官の声であった。
「何だ? 入れ」
「失礼致します」
そう言って副官と数人の兵士が入ってきた。
誰もが公孫瓉軍の中核をなす存在である。
「どうした? 今日は会議などはなかったはずだが……」
「公孫太守、町での噂をお聞きになりましたか?」
「噂?なんの事だ?」
公孫攅はなんの事だかさっぱりと言った態度だ。
「お聞きになっていないのですか?実は町では……」
副官から話を聞いた後に公孫瓉の胸にこみ上げてきたのは怒りのみであった。
「何だと! ということは原因はあいつなのか!」
公孫瓉の決断は早かった。
公孫瓉軍の全軍に緊急収集を掛け兵備を整えた後、済北の町の官庁街に向かった。
「どうなされました? 敵が攻めてきましたか!」
公孫瓉の尋常でない雰囲気に衛兵が声を掛けてくる。
それに対して公孫瓉は言葉少なに答えた。
「君たちの主と話がしたい」
「分かりました。すぐにお通しいたします!」
完全に敵襲による連絡だと勘違いした衛兵は公孫瓉をそのまま通してしまう。
そのまま公孫瓉は太守用の執務室までたどり着いた。
そして声も掛けずに中へずかずかと入り込んでいく。
中では鮑信が執務の途中であり、突然入ってきた公孫瓉に驚きつつもその格好を見て兵士と同じ事を尋ねる。
「敵襲ですか?」
それに対して、公孫瓉は静かに答えた。
「ええ」
「敵はどこです?」
「目の前に」
「何ですと! ではすぐに兵士に出陣の準備を……」
「そうではありません。私の目の前に敵がいるといっているのです」
その言葉に何を言っているのか分からない鮑信は一瞬、唖然とした顔をする。
「は……」
「敵は目の前におります」
その敵が自分のことを指しているのだと気付いた瞬間、鮑信は一気に冷や汗が吹き出してきた。動揺を隠せず、震え声で公孫瓉に重ねて聞く。
「ど、どういうことです?」
「我々をはめましたね。袁紹と密かに手を組んで……」
「何を仰られる! そのようなわけないでしょう!」
「では町の噂はどういうことなのです!」
「町の噂とは?」
さっぱり分からないとでも言いたげな鮑信に公孫瓉は怒鳴った。
「よく、そのような戯れ言が言えますね! 町では『鮑済北相と孔太守は一番軍事力を持っている公孫太守を恐れて彼女らの戦力を落とそうと裏で袁紹と組んでいる。その結果、奇襲攻撃を食らった公孫太守の軍は将軍を一人失ったのに、両名の軍は一人も失わなかったのだ』と噂されておりますよ!」
「お待ちください! そのように言われる理由は何ですか? 理由もなくそのような濡れ衣を掛けられても困りますぞ!」
「問答無用! 町の噂が何よりの証拠だ!」
もはや、公孫瓉は怒りに我を忘れ、正常な判断が出来ない状況となっていた。
「覚悟!」
そう言うやいなや、そのまま鮑信に斬りかかった。
「うお!」
とっさに攻撃を躱してそのまま近くの窓から身を乗り出し屋根を伝って逃げ出した。
「待て!」
その鮑信を追って公孫瓉も走り出す。
外に出ると、そこでは鮑信や孔融の配下と公孫瓉の配下の部隊が戦闘を行っていた。
だが、完全に油断しているところを攻撃された孔融と鮑信の軍は完全に混乱の中にあり、まともに戦えている部隊はほとんどいなかった。
公孫瓉は屋根から飛び降りた鮑信を追って、走り続けるが路地裏に回り込まれ、見失ってしまった。
「どこだ、どこにいる!」
しかし、どこにも鮑信の姿は見当たらない。
そこに孔融を殺しに行った副官が来た。
「どうだ?」
「いえ、ギリギリの所を太史慈に阻まれ出来ませんでした」
「そうか。では、全軍に伝えよ。本国へ帰還する!」
そう言って、公孫瓉は城外に出て行った。
「敵は計略に掛かりました」
間諜が田中に報告をした。
「ご苦労様です。では引き続き、敵の動向を監視し続けなさい」
そして間諜は消えた。
「舞台は整いましたよ。後は頼みますよ、公則殿」
静かに田中は呟いた。
毎度、「袁紹を活躍させてみようぜ!」をお読みいただきありがとうございます。
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