袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第二五話 田中、南皮に帰還

「ようやく南皮の町に到着した」

 

 田中達が南皮に到着したのは河水の戦いが起こってから3日後のことであった。

 

 袁紹は後方の馬車に乗って町の人に歓迎を受けながら入場の予定だ。今は、入場のために隊列を整えているところであった。これも袁紹の指示であり、勝ち戦の後でも住民を安心させるために隊列を組めとの命令であった。

 

 帰ってきた兵士数は約1万ほど。

 

 その兵士をまとめるには大分時間が掛かっていたが、ようやくまとまり入場しようとしているところだ。

 

 

「全体、前へ!」

 

 太鼓音共に全兵士が一斉に城門へ向け、歩き始めた。

 

 それに呼応するかのように城門が開け放たれ、中から住民達の歓声が響いてくる。

 

 城内へ入っていくと中では警邏隊が規制線を敷いて住民が袁紹に接近しすぎないように警戒を行っていた。

 

「帰ってきたので……」

 

 帰ってきたという安堵感から来た言葉が口を突こうとしたとき、田中はあるものを見て固まった。

 

 前方の方で何かが動いているのが見える。それは白い小さめの盾を乱舞させている人間の集団であった。

 

 

 しかも妙に動きが鋭く、凄まじい踊りを行っているのだ。

 

「何だ、あれは……」

 

 それは河水の戦いの勝利の立役者である顔良隊の踊りであった。

 袁紹が凱旋したとのことで早速の機会にと顔良が始めることにしたのだ。

 

「す、すごい!」

 

 隣にいる戯志才はその部隊の練度の高さを見て唖然としている。

 戯志才達、曹操軍が戦ったのは、袁紹軍の中でも練度は高い方ではあったものの一番高いのは顔良と文醜の二人が率いる部隊が最強である。

 

 その踊りをしているのは顔良が発案を行った盾隊によるものであった。

 

 

 お題は「袁太守様の勝利に捧ぐ」である。

 

「何をやっているんだ、あいつらは……」

 

 あまりの才能の無駄使いに田中はうめいた。

 

 しかし、そのうめきは誰にも聞かれず住民の歓声にかき消されていった。

 

 

 

 

 

「見事でしたわ、斗詩さん!」

 

 屋敷についた一行はそのまま報告会に入った。報告会ではそれぞれの戦闘を行った武官や文官を集めた。

 

 まず、盾隊の踊りを見た袁紹が会議の始めに、開口一番に言った。

 

「ありがとうございます! あれは袁太守が仰ってくださらなければ出来なかったことです。あれが出来たのは袁太守様のおかげです」

 

「そうですか。それでもあなたがあそこまで育て上げたのです。それはあなた自身の功績でしょう。今後も鍛錬に励みなさい」

 

「御意!」

 

 会話はそこで終わり、本題に移っていった。

 

「それでは、今回の本題に移っていきたいと思います。先日まで行われた戦闘の結果について双方から報告をお願いします」

 

 逢紀が司会役として会議が始まる。

 

 最初に発言をしたのは荀諶であった。

 

「まず、汜水関方面の戦闘についてですがこちらの被害は極めて軽微。失った兵士の数は千ほどです。汜水関を死守するという作戦目標は達成しました。またこの戦闘において曹操配下の戯志才殿を客将としてですが配下に加えることが出来ました」

 

「それでは質問のある者は?」

 

 特に誰も無く、荀諶はそのまま席に着く。

 

 続いて立ち上がったのは郭図であった。

 

「それでは河水の戦いについて述べさせていただきます。今回の戦闘による被害は兵士を五千ほど失いました。しかし、敵を七千ほど討ち取り、二千ほど捕虜にすることが出来ました。また敵将の公孫越を捕らえただいま独房に入れてあります」

 

「では質問は?」

 

 すると田中が手を上げた。

 

「田中殿」

 

「はい。河水の戦いにおいて戦闘を終えた部隊はどこへ向かいましたか?またその部隊に継戦能力は残っておるのですか?」

 

 その質問に郭図が答える。

 

「間者を送り込んだ所、その後、敵部隊に大きな動きはないとのことでした」

 

「相手は連合を組んでいるとのことでしたが、連合は瓦解せず残っていると?」

 

「はい」

 

 この話を聞き、もう一人の人物が発言を求めた。

 

 それは一連の流れを聞いていた郭嘉であった。

 

「では郭奉孝殿」

 

「お初お目に掛かります。私は名を郭嘉。字を奉孝と申します。瓦解させずに連合軍が残るの今後の脅威となりますので、ここは策を用いて敵を瓦解させるべきだと思います」

 

「確かに。その点は同意です」

 

 田中も賛同の意を伝えた。

 連合軍は兵力を失ったとはいえ、継戦能力は失っていない。今後も再度攻めこむ可能性がある以上は敵を瓦解させるのが、今後の最大の目標と言えた。

 

「ではどのようにすべきだと思う?」

 

 逢起が尋ねると意外なところから意見が出た。

 それは今まで沈黙を保っていた袁紹であった。

 

「私、とんでもない策を思いついてしまいましたわ!」

 

 それは今後、歴史の大きな転換点となる策になるとはこの時、誰も考えはしなかった。

 時は190年2月、まだ寒さが抜けきっていない頃の出来事であった。




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