袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

18 / 93
第十七話 汜水関の戦い

 袁紹軍は到着するとすぐに汜水関の中に入っていった。

 

 田中達幕僚が汜水関に入るとそこには先ほどの人物が立っていた。

 炎のように赤色の髪と目に黒い肌。頭には触覚のような二本の長い髪の毛が出ている。

 

「先ほどは案内ありがとうございます」

 

 田中が礼を言うと彼女は黙って頭を下げた。

 

「私は袁太守様の副官の田中という者です。以後お見知りおきを」

 

 そう言って田中は臣下の礼を取る。

 

「恋の名は呂布。字は奉先。宜しく」

 

 

(呂布だと!)

 

 今までで一番驚いた。呂布と言えば三国志の中でも最強の武将として知られている。

 人中の呂布とまで謳われた人物であり、数多くの人間を裏切り最終的に曹操に処刑された人物である。

 しかし、裏切るのは自分からではなく何かしらの陰謀に巻き込まれ、陰謀を企む人物を信用したために裏切ることとなる。故にある意味では凄く純粋な人物であると言えよう。

 

 史実においてこの呂布は汜水関にはいない。

 歴史とは違うと言うことは登場する武将が全員女性と言うことで理解していたためにそれほど大きな驚きはないが、呂布がいるのは田中にとっても驚きであった。

 

 それだけ反董卓連合の力を恐れているのか、それとも他の何か別のもくろみがあるのか。

 

 分からないが、呂布がいるという現実は変わらない。

 

 とにもかくにも賽は投げられたのだ。様子を見るしか他はないと考え、田中はこれから起こる戦のことに頭を切り換えた。

 

 

 

 

 袁紹軍が汜水関に入ってからすぐ董卓軍と共に軍議が開かれる事になった。

 

「うちはここの指揮官の張遼や。字は文遠。よろしゅうなぁ」

 

 紫色の髪をして胸にさらしを巻いた女性がそう挨拶を行う。

 

 張遼

 最初は丁原に仕え、続いて何進、董卓に使えており、呂布に董卓が殺されると呂布に仕える。呂布が敗れ捕獲されると曹操を逆賊呼ばわりして激怒させた。しかし、その場にいた関羽や劉備の仲裁で忠義の士として曹操に仕えることとなる。その後は多くの主要な戦に出陣し、手柄を立てた。特に合肥の戦いは有名であり、たったの数百名の兵士のみで数十万といる呉軍をさんざんに打ち破り孫権をあと一歩に場所にまで追い詰めた。

 しかし、曹丕の時代に戦の矢傷が原因で死去。史実においてはこの時期に病気を押して出陣したために病死したとなっている。

 

「私は袁紹、字を本初と申しますわ。勃海群太守です。宜しくお願いいたします」

 

 そう言って袁紹は華麗にお辞儀をする。

 

「堅苦しい挨拶は無しにしてくれな。うちはあまり得意じゃない」

 

「そう言われましても癖ですので、お気になさらず」

 

「ほうか。ほな気にしないようにするわ」

 

 そう言って、双方の諸将が挨拶をしていく。

 

「私の名は華雄。よろしく」

 

 華雄

 字は不明であり、董卓に仕えた将軍。演技においては関羽の引き立て役に近い扱いをされており、初戦で汜水関を巡る戦いで奮闘するも関羽に斬られ出番が終了する。史実においては陽人の戦いで孫堅に斬られている。

 

「私は袁太守様の副官の田中です」

 

「恋は呂布。字は奉先」

 

「私は逢紀、字を元図でございます」

 

「私の名は許攸、字を子遠と申します」

 

「私は荀諶と申します。字は友若です」

 

 この戦いにおいて袁紹軍からは文官達を董卓側からは武官を派遣し、互いに協力をしあうことは既に決まっていたために、このような偏った編成となっている。

 

 一同が挨拶を終え、早速軍議が始まる。

 

「今回、敵は20万ほどの軍勢で攻めてきている。陣は見ての通り汜水関の正面に布陣。敵は今のところ動きはない。敵の主な武将は曹操、袁術、孫策、公孫瓉です。このほかにも多くの将が参加している」

 

 あらかじめ情報の収集を行っていた華雄が報告を行う。

 

「こちらの兵力は華将軍の2万、張将軍の3万、呂将軍の2万。それから袁太守の兵力として2万5千の総数9万5千です」

 

 逢紀がそれぞれの戦力分析を行って兵力を計算する。

 

「うちらが圧倒的に不利やな……」

 

 張遼が嘆息しながら言う。

 

 重苦しい空気が立ちこめる。分かってはいたものの圧倒的な兵力差に愕然とさせられるばかりだ。

 しかしその中でも田中が一言呟く。

 

「いえ、そうとは言い切れませんよ」

 

「何?」

 

 張遼が聞き直す。

 

「この諸侯はあくまでも利益の点から出陣を選んでいる可能性が高いです。故に同盟とは言えど名ばかりのもの。実質はただ集まっているだけの烏合の衆でしかありません」

 

「それはどうしてそんなことが?」

 

「見ていれば分かるでしょう。あちらの兵士達をご覧ください。訓練している部隊もあれば飲んでばかりいる部隊もある。部隊の天幕の張り方もしっかりしているところもあれば、適当に張られているところもある。点でばらばらで統一感がまるでないのは簡単に見て取れます」

 

 実際に言ったとおりの状況が起きている。

 

「確かに」

 

 華雄がいかにも納得と言った雰囲気を出して頷く。

 

「このような軍は数で押すだけしかできません。ですから実質の能力はかなり低いはずです。とは言えど数は脅威です。故にこちらは敵の士気が下がるのを待ちつつこの関で敵を迎え撃てば良い。何せ敵はこれだけの大軍ですから兵站を維持するのも相当困難なはず。時が満ちればやがて撤退するでしょう」

 

 田中がそのように締めくくる。

 

「成る程なあ!うちにも分かりやすかったわ!ならば籠城すれば良いってことやなあ?」

 

「ええ。さらに敵の兵站を止めるために将軍方には定期的に夜襲や敵の兵站への攻撃を行っていただきたいのです」

 

「お待ちください」

 

 許攸が口を挟む。

 

「籠城は構いませんが、この関にはどれほどの兵糧がためられているのですか?」

 

 いざ籠城と言ってもこちらの兵糧がなくては話にならない。

 許攸はそのことを危惧していた。

 

「安心しぃ。ここは洛陽を守る汜水関や。10万ほどの兵力ならば3ヶ月は持ちこたえられるほどの兵糧は蓄えられておるで!」

 

「ならば安心して籠城できます」

 

「しかし、籠城してこちらに得はあるのですか?兵糧が尽きるというのは、あまりにも希望的な観測のような気がするのですが……」

 

「大丈夫ですよ、やがて万にも匹敵する味方が助けに来てくれますから」

 

「その味方とは?」

 

 その張遼からの質問に袁紹軍の軍師達は微妙な笑顔で答えるのみであった。

 

 

 こうして、袁紹董卓連合軍は籠城戦の構えを見せたのだ。

 

 董卓連合が汜水関に立てこもることを予測していた反董卓連合は、早速攻撃を開始した。

 

 まず汜水関に攻め込んできたのは、孫策軍である。

 

 

「徳謀、汜水関をどうやって落とせば良いと思う?」

 

 ピンク色の髪に黒色の肌できわどい服装をした女性が横にいた青色の髪の同じくきわどい服装をした女性に聞く。

 

「はい。この戦いはこちらの人数が圧倒的に有利です。ここは数の利で攻め滅ぼすのがよろしいかと……」

 

「そうね、ここは手始めに攻撃してみましょう」

 

「いえ、お待ちください!」

 

「何、公瑾?」

 

 公瑾の名で呼ばれたのは同じくきわどい服装をしたグラマーな女性。

 

「彼らは数は少ないと言えど、呂布や張遼、さらに荀諶や逢起が率いていると聞きます。彼らは優秀な将軍ばかりです。手始めの攻撃でかなりの損害を被る可能性が……」

 

「そのようなひ弱な考えで、敵を倒せると思うの!孫呉の兵士は勇猛で董卓らの弱兵如きには負けないわ!」

 

 徳謀の名で呼ばれた人物が怒りの声を上げる。

 

 ここまで書けばお気づきであろうが、ピンクの髪は孫策、青色の髪は程普、公瑾は周瑜である。

 彼らは反董卓連合の一員として汜水関への攻撃方法について議論していた。

 

「申し訳ありません!されど今しばらく慎重に考えられてからご決断ください!」

 

「構ってられない。行きましょう」

 

 必至の周瑜の説得に耳も貸さず、程普と孫策は出陣の支度を始める。

 

「公瑾、忠告は感謝するわ。だけれども今回は本当に軽く様子を見るだけだから大丈夫よ」

 

 そう言って孫策も出陣の準備をして部屋を出て行った。

 

「何もなければ良いが……」

 

 胸の中によぎる嫌な勘をどうか外れてくれと祈りながら、周瑜は二人を見送った。

 

 

 

 

「張将軍!敵が出陣して参りました!」

 

 物見が孫策軍の動きをすぐに把握し、張遼に報告する。

 

「どこの部隊で数はどのくらいや?」

 

「孫策軍のものと思われます!数は2千ほどです!」

 

「手始めに斥候がてらに出陣か!蹴散らしてくれるわ!」

 

 そう言って呂布を呼んだ。

 

「恋、分かっとるな!敵は少ないが、手練れやぞ。決して油断せずに敵を殲滅せよ!」

 

「うん」

 

 そう言って、呂布は待機させていた部下達と共にすぐに出陣をした。

 

 

 

「雪蓮、敵将が出てきました!」

 

「へえ、誰?」

 

 舌なめずりをしながら孫策は聞く。

 孫策は戦狂いで戦闘となると若干逝ってしまうのだ。

 

「あれは……まずい!呂布が出てきたようです!」

 

「呂布ねえ、軽く戦ってみたかったのよ」

 

「お待ちを、呂布は危険です!攻撃せず退却をすべきです!」

 

「いいえ、ここまで出てきて退却は兵の士気につながるわ。今は突撃をしましょう!」

 

 そう言って単騎で呂布の所へと駆けだした。

 

「お待ちください!ええい、こうなったら全軍私に続け!」

 

 そう言って程普も駆け出す。

 

 こうして汜水関における戦いは幕を開けたのだ。

 

 

 呂布は単騎で駆けてくる孫策を見た瞬間、配下の兵士に一斉に矢で射るよう命じた。

 一斉に兵士が矢を射るも最低限の矢だけ払い落としこっちに突撃を続ける。

 

「死ね」

 

 その一言共に駆けてくる孫策に愛用の武器の方天画戟で一太刀浴びせる。

 

「くっ!」

 

 その一撃を本能的に躱す孫策。

 その一撃は地面にぶち当たり、周囲を陥没させる。おそらく孫策がまともに防ごうとしていたら剣ごと体も真っ二つにされていただろう。

 

(何よ、この攻撃!あの早さでこれだけの攻撃を行うなんて!)

 

 しかし、孫策が少し考えている間にも呂布は2撃3撃と攻撃を繰り出してくる。

 それらをどうにかいなした孫策の所へ程普が到着した。

 

「雪蓮、無事でしたか!」

 

「どうにかね!」

 

 しかし、程普が加わったところで呂布にかなわないのは目に見えている。

 

「徳謀、隙を見つけて逃げるわよ!」

 

「分かりました!」

 

 そう言って二人は呂布にかけ出した。

 

「無駄」

 

 二人が同時に放った斬撃を柄で受け止め、そのがら空きになった胴体めがけて蹴りを繰り出す。

 それを予測していた二人は一気に体を回転させて蹴りをいなす。

 

 そして蹴りを放った呂布はその勢いを殺さずに今度は方天画戟で二人の武器を上に跳ね上げ、横一文字に切りつける。

 

「ぬんっ!」

 

 この攻撃にとっさの判断で転がってよけた二人はそのまま逃げ出した。

 

「逃がさない」

 

 そう言って二人を追いかけようと構えた直後、撤退の銅鑼が鳴る。

 

 この銅鑼が鳴っては呂布は撤退しなくてはならない。

 

「……」

 

 呂布は若干不満ながらも撤退をした。

 

 この戦いにおいて呂布軍は出撃したのが7000ほどだったのに対して、被害は100ほどだった。これに攻撃を受けた孫策軍は1000近い被害を出して撤退をした。

 

 こうして汜水関を巡る戦いの一戦目は董卓軍の勝利となった。

 




 今後の作品作りのため、読みづらいや違和感を感じるなどのご意見、ご感想があれば遠慮なくお寄せください。
 忌憚のないご意見、ご感想をお待ちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。