―――もしもカルデアに仁慈(GE)が召喚されたら
いつか何処かの時間軸。今や人類最後の砦となったカルデアで唯一のマスターである仁慈は召喚システム「フェイト」が置かれている部屋へと向かっていた。目的はもちろん英霊召喚という、暗黒空間もびっくりな闇の儀式を行うためであった。彼はその部屋で英霊召喚を行うたびにこう思っていた。この機関は本当に人理を救う気があるのか、と。
何故なら彼がここ最近呼び出すものはもっぱら礼装と言われる装備品のようなものがその殆どを占めており、サーヴァントを呼び出すことが稀になってきてしまっているからである。始めこそ、バンバンと良い調子でサーヴァントを引き当てて来た彼だが、スカサハがカルデアに来たことを最後にサーヴァントを呼べないでいた。余りにサーヴァントを呼ぶことができず、仁慈が自ら引いた礼装を装備して単独でレイシフト、むしゃくしゃした結果八つ当たりで素材を掻き集めてくるという悲劇すら引き起こしたこともある。
そのような結果があり、今の彼は英霊召喚に対してあまり積極的とは言えなかった。今回も、カルデアの所長であるオルガマリーが急かさなければ絶対に行うことはなかっただろう。
溜息を吐きつつ、特異点先以外では滅多に見かけることのない聖晶石を召喚システムに突っ込んでグルグルと光の帯が連なる様子を眺めていた。いつもはここで、一つの光の帯が形作り、礼装となるのだが今彼の目に映る光の帯は三つ連なって回転していた。これはサーヴァントが構成される合図であり、仁慈は思わずその場でガバッと立ち上がる。
三つに連なった光の帯はやがて合わさり、一つの光の柱となり、器となるものを形成していた。こうして仁慈は最近見ていなかった英霊の召喚に立ち会ったのだった。英霊召喚とは名ばかりシステム「フェイト」とこのままでは改名しそうだったので仁慈は大層その結果に喜ぶこととなる。
しかし、彼の笑顔は召喚された英霊の姿を見ることによって曇ることとなった。何故なら召喚されたその英霊の外見は細部は違うものの、仁慈にとって見慣れ過ぎたものだったからだ。
銀のように光を反射する白髪に、血のように紅く鮮やかな瞳。上着は今仁慈が身につけているカルデア礼装と同じく白色だが、そのデザインはカルデアのものではなかった。穿いているズボンも、仁慈と同じ黒色のものであるが、向こうの方が幾分か動きやすくまた、何かが入るように小さいポーチが腿の部位に付けられている。
そして、何より目に留まるのは召喚した英霊が持っている武器である。全長は二メートルには及ばないものの確実に180センチは超えているであろう大鎌であり、鎌の刃の近くにはたたまれたシールドと銃火器のような部分が付属されていた。
持っている武器、来ている服装、そして、髪や瞳の色と先ほども言ったように細部は所々違うものの、その姿はまさに――――
「……これで3回目。……一体全体どうなっているんですかねぇ……。召喚判定ガバガバすg―――――いや、これは納得だわ。これ以上ないくらいの媒体じゃん」
「始めまして、
「――――――――マジかー」
――――英霊召喚を行った、マスターである樫原仁慈にそっくりだったのだ。
――――――――――――――――
『ハッハ、彼が二人いる。これは世界崩壊のカウントダウンかな?』
これが、新しく召喚したサーヴァント。樫原仁慈をカルデアの職員含め全員に紹介した回答である。それはもう寸分のずれもなくそう答えてくれた。これには流石のダブル仁慈も苦笑いであった。
しかし、彼らの考えもわかる。ただでさえ、現代のマスターとは思えないくらいのポテンシャルを備え、サーヴァント?神秘?何それ美味しいの?むしろ俺自身が神秘じゃオラァ!と言わんばかりに戦っている仁慈が正真正銘のサーヴァントになって呼ばれてしまったんだからこのような反応をしても致し方ないと言える。
「あ、ちなみに俺はここの樫原仁慈とは全くの別人だと思うので、あしからず」
更にはこんな爆弾発言までぶっぱなすあたり、別の方向でもぶっ飛んでいるのではないかとカルデアの善良な職員たちは考えたりしていた。
この発言によって、魔術師であった人々は魔法だなんだと騒ぎ始め、ダ・ヴィンチちゃんはどこぞの金髪マッドサイエンティストを思わせる動きで英霊仁慈の身体を調べようとしている。他のサーヴァントたちは世界が違っても仁慈は仁慈と納得を始め、ケルトの某師匠はアップを始める始末である。
「……あぁ、カルデアの収集が着かなくなっていく………っていうか、自分と全く同じ顔が居るってすごく気持ちが悪い。ヒロインXの気持ちが分かった気がする」
「そうでしょう、マスター!では早くセイバーを殺しに行きましょう!死すべしですよ、死すべし!」
「そこまで過激にはいかないけどね」
「というか、殺されそうになったら全力で抵抗するけど……」
仁慈の呟きにそう返す英霊仁慈。声質は英雄仁慈の方が成熟しているためか、低いもののどちらともそう変わらないものでさらに周囲は混乱極まってきている。だが、そんな状況の中でも今の英霊仁慈の言葉を聞き逃さない人物が居た。そう、ケルトキチことスカサハである。
「ふむ。では、このサーヴァントの実力を測るために、一戦交えてみるか。………仁慈が」
「ふぁっ!?」
まさかの指名に仁慈は気の抜けた言葉を発する。それはそうだろう。サーヴァントの実力を測るためにマスターをけしかけるなどどこの馬鹿がやらかすというのか。流石にこの世界にそこまで詳しくない英霊仁慈の方もその提案は丁寧に断りを入れた。けれども、
『どうしてこうなったんだ』
「では始めるぞ」
結局、ダブル仁慈VSスカサハ&クー・フーリンというよくわからないタイトルマッチが始まることとなってしまったのは相手が悪かったとしか言えないだろう。
さて、その後の話をしよう。
英霊樫原仁慈は、対人戦に置いてはそこまでの実力を発揮することはなかった。精々が一流に近い二流程度であり、技術面で言えば、マスターの仁慈に劣る様ではあった。しかし、相手が巨大な化け物であったり、神性が混ざっていれば別である。彼はぶっ飛んだ発想と、今までアラガミ相手に培ってきた経験を存分に発揮し、巨大生物をなぎ倒し神性を含んだサーヴァントや神獣たちを蹴散らしていった。特に第六の特異点や第七の特異点では無双とも言える活躍をしたのである。
それらを確認したカルデア勢はやはり
――――ヒロインXオルタよ来い、という思いで書いた話。
「マスターさん、マスターさん。この和菓子は何処の和菓子ですか?……あんこの甘さ、口どけの良さ、そしてお茶との相性……全てがぱーふぇくとです。さぁ、さぁ早く吐くのです。私はこれからこの商品を銀河amazonuの亜光速便で運んでもらうためにぼたんをぽちぽちする作業が残っているのですから」
「おう、この前よくわからないところから和菓子お取り寄せしておいて言うじゃないかこら」
なんだかよくわからず、宇宙から来たとか名乗る人にハンコ求められた俺の気持ちわかりますか?しかも無駄に現実的な値段で俺の給料が天引き状態なんですけど。前もって申告してないから経費で落ちなかったんだけど?そこの所どうしてくれるんですかね?反省が足りないようだな……。
「なんです?たとえマスターさんが相手だとしても、和菓子の邪魔をするのであれば容赦しませんよ?マスターさんの部屋にあった役立たずのエアコンみたいにバラバラにしますけど、よろしいですか」
「よろしいわけないだろうが。……はぁー」
普通にして入れば、バーサーカーとは思えないくらい静かで話も通じるとてもいい子ではあるのだが、和菓子や自分のこだわることとなると急に暴走するからどうしようもない。バーサーカーで召喚されている分ヒロインXよりは潔いのではとは思うけれどもね。
このままでは本当に俺と一戦交えそうな雰囲気だったので、俺は観念して彼女が今ももぐもぐと食べている和菓子の出先を教えることにした。
「ちなみに、それはお前のいう銀河amazonuでは買えないぞ。なんせ、カルデアのお母さんたるエミヤとブーディカ、そして俺で作ったオリジナルだから」
「―――――ッ!!??」
その時、X・オルタに電撃が走る。とでもいうのだろうか。彼女は心底驚いたかのように両目を見開き、俺から一歩、二歩と下がりながら残った和菓子をぱくりと口の中に入れる。それでも食べることをやめない彼女には若干の尊敬の念を抱く。
「マスターさん。貴方が、私の仕えるべき、マスターだったのですね……」
「唐突な手のひら返しである」
和菓子が無ければ俺に対して無反応だったくせに。
「仕方がありません。私の魔力転換炉、オルトリアクターにはある種の糖分が不可欠で、それには手作りの和菓子が最適なのです。まさか、ここに理想の魔力供給手段があるとは……」
「俺としてはそれがとても怪しく感じるんだけど……」
「事実なので仕方がありません。というわけで、おかわりを要求します。ええ、今すぐ。いーまーすーぐー」
ええい、袖を引っ張るな。ダダこねているように見せているが、無表情+抑揚のない声に殆ど恐怖しか感じることができないんですけど。
ダダこねるX・オルタに負け、俺は彼女をカルデアの厨房に通す。ついでにブーディカとエミヤ師匠を令呪を通じた意思疎通機能を使って厨房に呼び出した。
「何か用かね?」
「どうしたの?また何か新しい料理でも作る?」
「ん」
「じー……」
『あっ』
ここまで僅か十秒である。
流石ヒロインXとサンタ・オルタという前例を知っているだけある。X・オルタを見た瞬間に俺の言いたいことが分かったらしい。特にエミヤ師匠なんてどこか悟ったように遠くを見始めてしまった。ヒロインXとサンタ・オルタで大分精神を持っていかれているにも関わらず、頭痛の種であるXのオルタと名乗る彼女まで来てしまったからね。仕方ないね。
「それじゃあパパッと作ろうか。悪いけど、手伝いをお願い」
「……構わんよ」
「うん!腕が鳴るね!」
俺の急な呼び出しにも嫌な反応を返すことなく準備に取り掛かってくれる二人に心から感謝しつつ、俺も自分の作業に取り掛かるのだった。
―――――――
「むぐむぐ……フフッ♪」
おいしそうに作ったばかりの和菓子をパクつくX・オルタ。その姿はとても愛らしいのだが、彼女の前に置いてある皿に盛られている和菓子の量がとても可愛らしくない。彼女の腹は某ピンクの悪魔なのではないのかと間違いそうなほどであった。
ちなみに、先程までともに戦った戦友の二人はもう既にこの場にはいない。エミヤ師匠は自室へと戻り、ブーディカはマシュの所に行っているのだ。エミヤ師匠がその場に居たくない理由はなんとなくわかるけれどブーディカがどこか焦ったようにマシュの元に言ったことが若干気がかりだった。
「そんなに食べると糖尿病になりそうだ……」
「むぐm……問題ありません。私のオルトリアクターはそこまで貧弱ではないのです。……はむ」
「夢中すぎでしょう……?」
俺の言葉に必要最低限の言葉で返すとすぐさま目の前の燃料(御馳走)にかぷり突くX・オルタ。
結局俺たちが作った大量の和菓子は十分と立たないうちにX・オルタの胃袋へと消えて行ってしまった。アルトリア系の胃袋は本当に不可解なくらいに容量があるなぁ。そんなことを思いつつ、彼女の頬に付着したあんこを指で掬いティッシュで拭きとる。慌てて食べるからこういうことになるだよ……。呆れながらX・オルタに視線を向けると、彼女はいつもよりもさらにけだるげな表情を浮かべた。
「………そこは、普通自分の口へと運ぶものじゃないんですか?」
「ハハハッ、何をたわけたことを」
そんなことをするのはラブコメの世界だけですよ?現実でやったらドン引き間違いなしじゃないですか。
「…………………マスターさん。今すぐスターバックスのトールダークマターチョココスモキャラメルウィズダークチョコソースエクストラホイップエクストラグラビティを入れてきてください。大至急です」
「ファッ!?」
今、確実に一回じゃあ覚えることが不可能な商品を注文された気がするのだけど。気のせいではないだろう。だって彼女の視線は今のトールダークなんちゃらを早く入れて来いと訴えかけているのだから。
「はりーはりー」
「うわっ、なんてむかつく」
ヒロインXとは別系統で疲れるよ、この子。そんなことを思いつつ、なんとなくフィーリングで作ったカプチーノ擬きを彼女に渡すと、特に文句を言うことなくそれをおいしそうに飲んでくれた。
マイペース過ぎて本当によくわからないな、彼女。只、自分で頼んだそれを俺に飲ませる意味は一体あったのだろうか。
改めてそんなことを考える俺なのであった。まだまだ、ヒロインXと同じくらいに謎の多いサーヴァントである。
「…………とっても、甘いです」
仁慈が食堂を出て言った直後、態々持ち手を変えて、仁慈が入れたカプチーノを飲んでそう呟いたX・オルタが居ることを、本人以外誰も知り得ることはなかった。
書けば出る。というか、出てください(土下座)
なんだかんだ課金する勇気がない私。何故か、少し未来の自分が背中で、「その先(課金)は地獄だぞ」と語り掛けてくる気がするんですよね。