この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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次で最後です。


裁きの終わり

 

 

 

 

 

「クハハ!これは面白い。かつての再現というやつか?それとも、我がマスターの危機でも察して助けにでも入ったのか?」

 

「誰があんなキチガイを助けるもんですか。というか、あの男なら助けなんてなくても自力で何とかするでしょう。心配するだけ無駄だわ」

 

「ほう?では、向こう側に回って復讐の続きか?それでもオレは構わんぞ。どの道、ルーラー二人はオレが相手するつもりだった。そこにマスターの援護が入るようになるかならないかの違いだけだ」

 

 仁慈達とルーラー達の戦いを邪魔するかのように炎を出現させ派手に登場したジャンヌ・オルタ。そんな彼女の言い分に対してアヴェンジャーこと巌窟王は挑発をするかのようにそういった。この時、話の中心部に近い仁慈の姿が忽然と消えてしまっているのだが、ジャンヌ・オルタの登場によってその意識を奪われているジャンヌと巌窟王に視線を固定している天草はその事実に気づいてはいなかった。

 

「ハッ!私があの聖女様の味方をするですって?在り得ないわそんなこと。私は私であの女と戦うだけ。貴方たちのことなんて知らないわ」

 

「………ははは、ハハハハハッハ!!いいだろう。周りの事なぞ気にも留めず、唯己の身体を焼き尽くさんばかりの炎に身を任せ暴れまわる……それでこそアヴェンジャー、それでこそ憤怒の化身!」

 

 ジャンヌ・オルタの返答に満足したのか、巌窟王はそのマントを翻し、自らの宝具である巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)の出力を上げる。それに伴い彼を纏うように弾けている電撃が勢いを増し、彼全体を黒く包み込んだ。その形態はかつて彼と対面した時と似通ったものになっている。

 

「さぁ、ルーラー共。オレたちアヴェンジャーの、憤怒の炎を消してみよ!」

 

「いつぞやの続きと行きましょう聖女様」

 

「くっ、仕方ありません。その魂、主に変わって私たちが救済します……!」

 

「それでは、始めましょう……!」

 

 こうして、対戦カードを改めて今度こそ、戦いの幕が上がることとなったのだった。

 

 

――――――――

 

 

 

「汝の道は、既に途絶えた!」

 

「いいえ。まだまだ、道は続いていますとも!」

 

「はぁ――—!」

 

「ゼェア!!」

 

 戦いは熾烈を極めた。クラスでいうなればお互いが例外クラス。それも真反対と言ってもいい二つの戦力のぶつかり合いだ。

 ジャンヌとオルタの対決は、一見してオルタが押しているようにも見えるが、ジャンヌも持ち前の守りの高さから確実に反撃の機会を窺い、一撃一撃を確かに返している。オルタの方は、火力こそ比較にならないがその分守りの面では薄く、如何に反撃を受けないようにするかどうかが勝負の要となる様子であった。彼女たちの戦いはまさに矛と盾の戦いと言えるだろう。

 

 一方、天草四郎と巌窟王の戦いは剣が飛びビームが飛かう勝負となっていた。時々どちらも接近戦を仕掛けることがあるのだが、お互いが決定打というものを入れられずにいる。お互いにどちらもこなせるオールラウンダーだ。彼らは同時に攻めににくい相手であると感じていた。

 ただ、どちらかの攻撃が入ってしまえばその均衡は崩れ去ると、漠然とした予感が彼らの脳裏をよぎり、戦いの手を緩めることはなかった。

 

 

 このような均衡した激闘の中、唯一人空気となり、放置されている男がいた。そう、魔術王ソロモンによりこの監獄塔へと送られてしまっている樫原仁慈である。特に彼らとの因縁があるわけでもない彼は珍しいことに空気を読み空気に徹しているのだが、ここで彼は思い出す。自分は一刻も早くこの場所からでなければならず、ここで倒さなければならないのは何を隠そう傍から見れば正義の味方と思われるルーラーコンビなのだ。

 

 ここで仁慈は考える。敵であれば容赦なく潰し、自分の生命の確保に奔る現代のライトケルトである彼であるが、流石にこの流れで不意打ちするのはあれなのではないだろうかと。例え、人間であるが故に相手にそこまでのダメージを与えられずとも、今このタイミングはアレすぎるのではないかと。

 

「(さて、一体どうしようか……)」

 

 珍しく良心を働かせた仁慈。その時、脳内に電波が届く。彼の頭に届いた声は彼にとって聞きなれた物であり、現在でも滅多なことでは逆らえない某師匠の声にとても似ていた。

 その声は彼にこう囁いた。戦いであれば、容赦など不要である、と。この声を聴いた瞬間仁慈の脳裏には今までの戦い、というよりはカルデアに来る前に受けた理不尽ともよべる試練の数々を思い出していた。

 

 森でのサバイバル&ラスボスとして構えていた、なんか神性を帯びた熊との対決。直接修行をつけてもらった一週間とは別に、ちょくちょく夢の中で拉致られ、影の国へとドナドナされるだけにとどまらず、影の国の女王とひたすらに1on1。低級だろうが神話に出てきそうな化け物と死ぬ気の鬼ごっこ等々、様々な場面を彼の頭の中を通り過ぎていく。

 そのことによって、彼のスイッチが一瞬にして入れ替わる。この時を以てしてルーラー二人は仁慈にとって敵となった。頭が切り替わった仁慈は今まで通り空気に徹しつつ、その場で体勢を低くすると音もなく消え失せ、次の瞬間にはアヴェンジャー組と戦っているルーラー達に狙いを絞っていた。

 

 そうして狙われたのはジャンヌではなく天草四郎である。ジャンヌは仁慈の中に残ったほんの僅かな理性がかつて味方として戦っていたことを覚えていたらしく攻撃することに躊躇していたが、今回初顔合わせである天草四郎にはそのような遠慮は一切ない。

 仁慈が彼の背中を取った時、丁度天草は巌窟王の攻撃を回避するためにバックステップを踏み、仁慈の方へと向かって来ていた。この好機を逃すようでは今現在生きていない、という現代社会ではありえない生活をしてきた彼がこのまま黙ってみているはずもなく、静かに練り上げた魔力と気力とその他諸々を拳へと込める。

 

「――――!……………」

 

 巌窟王はそんな仁慈に気づいたのだろう。声をかけ、自分の獲物であることを叫ぼうとしたが、既に間に合わないことを悟ってしまった。故に彼は自分の攻撃からバックステップで回避する天草を追うことはなく己が被っているポークパイハットをつかみ、深く被った。

 

 その行動に疑問符を浮かべる天草であったが、次の瞬間自身の身体に突き刺さる衝撃によって巌窟王の行動の真意を得た。

 

「――――がァ、あぁ……!?」

 

 唐突に走る衝撃。それは肢体をバラバラにするのではないかと思えるほどの衝撃であった。

 

「残酷なことだ……」

 

 一瞬だけ見ることができた仁慈の表情には見覚えがあった。それはかつての自分である。ファリア神父に会い、自分が嵌められたことを知った時の自分と同じ、なんとしてでも生き残るという強い意思を見ることができた。いったい何がどうしてそうなってしまったのかということまでは分からないが、あのような表情をしている人物を止める資格を彼は持たなかったのである。

 

「ま、まさ……か……。貴方は……」

 

 完全に仁慈の存在を忘却してしまっていたのだろう。天草は背後で自分の背骨に拳を食い込ませている仁慈に在り得ないようなものを見る目を向けていた。しかし、そんな彼に対して仁慈は大した反応も見せず、無慈悲にも第二撃を一撃目と同じ場所に叩き込んだ。

 

 ドゴォ!とまるで時速100キロを超えたトラックがぶつかったと思えるような轟音と共に地面が陥没し、その反動を力に加えた拳が天草の身体に突き刺さる。彼の胸からは背後から受けた衝撃の半分が貫通していき、それ以外は彼の肢体を含めた身体全体にくまなく駆け巡ることとなった。彼は己のプライドからか、叫び声こそ上げなかったものの、口から大量の血液を吐き出す。

 

「は、はは。どうやら、最近の、マスターは、サー、ヴァントと変わりない……人が、多いよう、です、ね……」

 

 仁慈を見て、確かな敵意を彼に向ける。しかし、仁慈はそれには反応せず、彼の身体が金色の光に包まれ、粒子と化していることを確認したのちにその場から再び消え失せた。

 

 一方、天草がやられたことを察したジャンヌ。ここで彼女はある意味で最も放置してはいけない人物を思い出した。

 

「しまった!ここには仁慈さんも居たんでした!」

 

「アハハ!今更思い出してももう遅いわ!けれど、私の復讐の邪魔はさせないわよ!」

 

 仁慈が居るという事実に気づき、焦りだしたジャンヌ。ジャンヌ・オルタは仁慈の存在に気づいたジャンヌを嗤うものの、このままでは自分の復讐を邪魔されると思い彼女に攻撃を仕掛けようとしていた仁慈を止める。

 

「―――――――」

 

 仁慈はジャンヌ・オルタの攻撃を回避すると、その場で止まる。その直後、理性のないような瞳に光が灯り、正気に戻ったような顔をした。どうやら先ほどまでは一時的な狂化状態に置かれていたようだった。もう普通に治療が必要なレベルのトラウマなのではなかろうか。

 

「………まぁ、俺も積極的に倒したいわけではないし、任せるよ」

 

 正気に戻った仁慈はその場をジャンヌ・オルタに任せることにしたのだった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 結局、ジャンヌ・オルタとジャンヌの戦いはジャンヌの消滅ということで決着がついたのだった。監獄塔に支配者として召喚されたということで、本物とは似ても似つかないほどの弱体化を受けたジャンヌと監獄にてほかの怨霊の力を吸収したジャンヌ・オルタでは長くは持たなかったのである。

 しかし、ジャンヌ・オルタはジャンヌが消失すると同時にその霊基を保てないようになってしまっていた。理由としては、いくらこの監獄塔と彼女が相性がいいとしても所詮は存在していない英霊。どうやら、彼女がこの監獄塔に召喚された本当の理由は彼女のオリジナルたるジャンヌが居たからこそ果たされた奇跡であったらしい。

 

 そのことに本人は気づいていたものの、素直に認めることは癪な上に元々の目的として彼女を倒しに来たらしい。仁慈と戦ったことは、本来の彼女出番を奪うという嫌がらせと自分自身の復讐のために来たのだとか。

 

「本当は貴方に復讐をした後に、気持ちよくあの聖女を殺してやりたかったんですけれど……」

 

「そう?なんなら今すぐ止めを刺してあげようか?」

 

「本当にしそうなのが怖いわ……。まぁ、今回は貴方の実力を実感できただけでもいいとしましょう。……聖女サマの方はそもそも弱体化していたことだし。いつかは貴方と共に地獄に送り付けてあげるわ。……後、最期にあなたに伝えておきましょう。言われるまでもないかもしれないけれど、あまり他人を信用しすぎない方がいいですよ?」

 

 ジャンヌ・オルタは消え始めた身体を確認してからそのようなことをそのようなことを口にした。仁慈はジャンヌ・オルタの忠告を聞いた後、そうかと短く答えて彼女の消滅を見送った。

 

「何やらオレの存在意義が揺らぎ始めているが、見事第六の裁きも乗り越えたようだな。残る裁きはあと一つ。これを乗り越えれば晴れてお前は生還することができる」

 

「長かったな」

 

「ここで大変の一言も出ない当たり流石というべきか……。まぁ、裁きを乗り越えるにせよ、屈するにせよ。明日が最後の一日となるだろう。早めに戻ろうとしよう、マスター」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 目が覚めるとそこにはメルセデスが居なかった。ここ最近、彼女の顔を見て目が覚めることが日課と化していたからその変化にはすぐに気づくこととなる。……さて、この流れはどう見るべきだろうか。俺が寝ている間にどこかに消えたのか、それとも――――。

 

「おい、女は何処だ」

 

 

 そこまで考えたところでアヴェンジャーが牢獄に入って来た。彼もメルセデスが居ないことにすぐに気が付いたのか、その居所を俺に尋ねて来た。残念ながら俺も知らないのですよ。まぁ、俺のセンサーは敵意があるかないか、もしくは害になるかならないかで発動するというガバガバなもんだからなぁ……。

 

「俺は知らないよ。案外、裁きの間にでもいるんじゃないの?」

 

「……ふん、まぁいい。あの女が今どこに居ようと関係ない。それよりも最後の裁きの間の準備が整ったようだ。第七の支配者を殺せ。いままで通りにな。どちらにせよ、それしか道はないのだからな」

 

 黒いマントを翻してアヴェンジャーはその牢獄から出ていった。俺はメルセデスのことを考えつつ、彼の背中に続いた。

 

 無言でアヴェンジャーはいくつもの牢獄に繋がる廊下を歩いて行く。俺もその背中について行きながら思考を回転させる。

 

 メルセデスは元々、ここに記憶を無くして居た存在だ。では、どうしてこんなところに居たのだろうか。答えは二通り存在する。一つは彼女がソロモンに連れてこられた可能性。もう一つは、元々この監獄塔において支配者の役割を当てられていたが、何かしらの不具合により記憶を無くしてしまった場合である。

 

 そこまで考えたところで、珍しいことにアヴェンジャーが俺に対して話しかけてきたのだった。

 

「お前は、運がいい。この監獄塔の地獄ともよべる部分をほとんど知らないでいる。拷問の雨による肉体への打撃も、監修された者どもによる呻き、死にかけの大合唱による聴覚への打撃もない。まぁ、この監獄塔は伝説上のものとは異なる。それはオレの在り方に影響を受けているのだが……それはいい。随分とオレとは異なる道を歩むものだな」

 

 フッと、珍しく笑った彼はそのまま裁きの間の中へと入っていった。唐突にどうしてそのような話をしたのかと考えたが、俺に考えてもわからないだろうと結論を付け、そのままいつの間に近くになっていた裁きの間へと入っていった。

 

 中の様子はいつもと変わらない。今まで幾度となく支配者と戦いをしてきたいつも通りの裁きの間だ。唯一つ、違うことと言えばその場には支配者という地位についていたサーヴァントが居ないということだろうか。

 

「準備ができたって言ってなかった?」

 

「―――一つ、昔話をしてやろう。暇つぶしだ」

 

「さっきといい随分と珍しいことを言うね。今日が最後っていうのが寂しくて、急にお話でもしたくなった?」

 

「戯け。……年上の話は聞いておくに越したことはないぞ?」

 

 フッと先程と同じように薄い笑みを浮かべながら彼は話し始めた。それは、世界で最高の復讐劇と言われる物語。彼曰く、愚かな男の物語。

 ある罠によって無実の罪で監獄塔へと送られ、十四年間を無駄にしたのちに無事監獄を脱走し、復讐鬼となった男の話。

 

――――巌窟王。

 

 それは、目の前の男をさす言葉。世界で最も有名な復讐鬼(アヴェンジャー)。モンテ・クリストの名で数々の復讐を行った、本名エドモン・ダンテス。

 

「――――と、こういうことだ。まぁ、こうして男の人生はある悪質な小説家の手により世界中に広まってしまった。あるいは物語こそ男の人生だったのだろうか。どうでもいい。こうして男の魂は大衆が望む形で人類史に刻まれたのだ。いつまでも、復讐の炎を抱き続ける荒ぶる者として。そうして男は魔術の王が人理を焼こうとした時に限って―――」

 

「――――ひどく歪な形で、エクストラクラスという形で現界した。それが貴方ですね。アヴェンジャー」

 

 彼の言葉を遮って現れるのは、ここ数日で聞き覚えのあるものに変わった声。しかし、印象は今までとは異なるものとなっている。

 普段聞きなれたどこか不安を孕んだ声とは逆にその声は凛としていて、尚且つ芯の通った声であった。

 

「……やっぱりかぁ………」

 

「どうやら仁慈様は薄々気づいていたようですね。――――いえ、すみませんが今は仁慈さんと話をするために来たわけではありません。貴方です、アヴェンジャー様」

 

「そこをどけ。女。オレは積極的に女を殺しはしない。どこかの鬼畜男とは違ってな」

 

「何で俺を見て言った?」

 

 積極的に女を殺す人間として見られているとなれば俺はアヴェンジャーと対話しなければならないな。主に拳で。

 

「この塔は悪しきモノです。そしてアヴェンジャー様。貴方も、この世に居てはいけない人物です」

 

「ほう。面白い。再びオレに対してそういってのける女がいるか。メルセデス。否、否。己を失い彷徨う女。まさか、このイフ塔に存在しながらオレの存在を否定するか?か弱い女であるものか。貴様はあの聖女にすら匹敵する魂の強さだ。本性を現せ!このオレが、世に在ってはならぬのなら!」

 

「――――示せ。お前の全力を以って殺してみせろ!」

 

 やる気満々、というより殺す気満々と言った風なアヴェンジャー。対するメルセデス、いや名前もない女性は困惑したように言葉を紡ぐ。

 

「私は未だに自分が誰だかわからない。どうして此処に居るのかさえも。けど、こんな私にも力を貸してくれるものが居る」

 

 彼女の言葉通り、その傍らには名状しがたき黒い影が存在していた。

 

「力ヲ、カソウオンナ。……我等、英霊ニナレヌ死霊ナレド……貴女ノコトヲ忘レタコトハ、カタトキモナイ……」

 

「は、ハハ!どうやらお前はよほどの英霊だったのやもしれぬな。怨念のない死霊にここまで慕われるは。――――だが、怨念なき死霊など、微風にも等しい」

 

 黒き影はどうやら名もなき女性を慕う死霊らしいが、その死霊をアヴェンジャーはくだらないと一蹴する。流石、世界一有名な復讐鬼にて、人類からそうあれと望まれた巌窟王。彼が身に纏った闇は名もなき女性の隣に佇む死霊よりもはるかに濃いものであった。

 

「オオオォォオオ……!アヴェンジャー、アワレ、なワタシよ……。コノ方コソ、我ラガ光。――――唯一、ノ、救い。其レスラモ、オマエハ拒まなければ、ナラヌ! 救われぬ、救われぬ……!せめて死ネ!燃え尽きる蛾のように……!」

 

 その叫びは敵でありながら、アヴェンジャーへの気遣いが見えた。だが、その死霊たちの取った姿に俺は驚愕を強いられた。何故なら、死霊たちが戦闘態勢へと入り、変化した姿は、まさかの魔神柱の姿だったからである。

 

『コレハ、モトモト此処に、在った皮ヲ模シタモノだ。この、チカラをモッテお前をコロス……!』

 

「ハハ、クハハハハハハハ!!!!オレを殺すだと!その姿で、怨念無き貴様らが!?やってみせろ!我が恩讐の黒炎を、消して見せろ!」

 

 

 

―――――――

 

 

 

 決着はすぐについた。当然だ。いくら何でも魔神柱の皮を使うなど、死霊の束ごときでできるわけがない。制御どころかろくに戦うことすらできない肉柱に後れを取るほど、アヴェンジャーは弱くなかった。

 

「クハハハハハハハ!!死ね、死ね!跡形も残さず消え失せろ!怨念無き力なぞ、余りに無力!確かに、相性の点では有利だが――――女。お前の刃は優しすぎた」

 

「その、ようですね……」

 

 死霊を倒す傍ら、彼らの戦いに巻き込まれたのか或いは、あの死霊が彼女と深くつながっていたのか名もなき女性の身体には金色の光が纏わりついていた。

 

「私は決して本物のメルセデスではないけれど、貴方の行く先に光があることを祈っています。アヴェンジャー……いえ、―――エドモン・ダンテス」

 

 最後にそれだけ言い残し名もなき女性はその場から消滅した。しかし、アヴェンジャ―は彼女から言われたことを明確に否定する。その声はまさに咆哮のようだった。

 

「死に間際まで何を言うかと思えば!オレがエドモンだと!?否、否!それは無実の罪で投獄された憐れな男の名!そして恩讐の彼方にて、奇跡とも言える愛を手にし、救われた男の名であり、決してオレの名ではない!この身はアヴェンジャー!永久の復讐者なれば!ヒトとして生きて死んだ人間(エドモン)の名など、相応しいわけがあるまいよ!」

 

 一通り叫んだ後、アヴェンジャーは俺の方へと視線を向けた。その顔は無表情であり、この監獄塔で一番見慣れた表情である。

 

「……これで、このシャトー・ディフは役目を終える。七つの裁きは超えられたのだから当然の結末だ。後は、光差す外界へと歩むのみ。だが―――――シャトー・ディフを脱獄した人間はいない。そう、唯一人を除いては。オレにいくら引っ張られていようとそれだけは変わらない。()()()()()()()()()()()

 

 言わんとすることはわかる。

 この場には俺とアヴェンジャーの二人が存在している。しかし、彼の言うことが確かであるならばここから出ることができるのは一人しかない。なら、やるべきことは一つ。ここでどちらかが残るということだろう。

 

「残される一人は当代のファリア神父となる。絶望を挫き、希望を導くものとしてその命を終えることとなる。それはそれで、嗚呼、意義深きことだろうよ」

 

 その意見には同意する。己の死が、誰かの助けとなるならばそれはとても意味のあることであり、大体の人間はそれを救いとして死ぬことができるだろう。だが、俺に死ぬ気は毛頭ない。まだ死ぬには早すぎる。

 

「フッ、その顔を、今までのお前を見ていればお前の言いたいことは分かる。お前がここで死ぬつもりなど毛頭ないことを――――あぁ、そうだとも。オレと行動を共にすることなく、この監獄に送られた時でさえ、お前の眼は決して死んでなどいなかった!さぁ、僅かながらも我がマスターを務めた男よ!人理の為、愛する者の為、何より己自身のために生きたいというのであれば――――」

 

 アヴェンジャーの身体が黒い闇に包まれる。

 そして、彼の身体から溢れんばかりの魔力が俺の身体を刺すように殺到した。だが、既に戦闘準備をしている俺には特に効果はない。

 

「――――(オレ)を、殺せ!」

 

 アヴェンジャーが言い終えると同時に俺たちは同時にその場を蹴った。

 




ヒロインXオルタだって……!?
これは初課金を検討しなければならないか……!

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