この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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来週からレポートだの、テストだので投稿が難しくなると思われますがご了承ください。


嫉妬

 

 

 

 

――――――――簡単に説明をしてやろう。

 

 

 どうして俺がここに来たのか、お前は誰なのか、ということの答えを受け取った後、この監獄塔の本来の役割を聞いていた。ここは、生きているだけで俺達(人間)の奥底に秘められている本質を知ることができるそれはそれはステキな場所らしい。また、ここから無事に出るためには七つの『裁き』を乗り越えなければならないとアヴェンジャーは口にした。拒否をすれば死ぬ。行動を放棄すれば死ぬ。当然、裁きを乗り越えられなければ死ぬ。ここは本来そういう場所であったという。だが、今のここはどうやらそれとは勝手が違うらしい。

 

「元々、この場所は監獄塔の形を模した魔術王の作り出した狩場だった。だが、先も言った通りお前が予想以上だったらしいな。心底忌々しいことに、余計な手を加えた。それが肉柱……お前らの言葉を使うなら魔神柱だ。………今ネタバレをしてしまうのは大変つまらないが、七つの裁きは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。人ですらない連中など、この場所には不要だ」

 

 小川ハイムで俺たちに向けた物よりも一層激しい憎悪を抱きながらアヴェンジャーは言う。俺はここでふと式の言葉を思い出さした。人は好きなものに裏切られたときこそ復讐へとはしる。故にあいつは人間が大好きなんじゃないか?という言葉を。

 ここに来てからそこまで時間がたったわけではない。アヴェンジャーのこともお世辞にも知っているとは言えない。しかし、彼女の予想が間違っていないことを俺は確信した。彼の言葉からは魔神柱に対する憎悪と人間のありのままの感情、姿を想う雰囲気を感じることができたのだ。だからこそ、魔神を冠する連中が邪魔だと断じているのだろう。

 

「……あぁ、言い忘れていた。今のお前は己の肉体から剥離させられた魂、のようなものだ。あの第一の塔……マンションで使っていた槍は持ち込むことはできん」

 

「……なるほど。じゃあほかの武器類も全滅か……けど、魔力は使えるみたいだけど」

 

「特別サービスだ。元々マスターとしての役割を果たすために最低限の魔力を使うことは許されていた。……が、恐らくオレは魔神柱をへし折る作業で忙しい。故に多少の無理はきかせてある。元来、ここの支配者はこのオレだからな」

 

 俺の力であれば、七つの裁きのうち最後以外は特に問題はないだろうがとアヴェンジャーが付け足す。これは信頼されているのかどうか迷うところだが、特にツッコミを入れることもなくスルーする。そうこう話し合っているうちに第一の裁きを受ける場所にたどり着いたようだ。

 数多くの牢獄に繋がっていた廊下を抜け、今までで一番開けている場所にでる。ぱっと見円形の形となっているその場所はローマに作られたコロッセオのような闘技場を思わせるものだった。

 

 

「――――さあ、第一の裁き。おまえが七つの夜を生き抜くための第一の劇場だ。七つの支配者は誰もがお前を殺したくて疼いているぞ?……見るがいい、味わうがいい、第一の支配者はファントム・ジ・オペラ!美しき声を求め、醜きもの全てを憎む、嫉妬の罪を以てしてお前を殺す化け物だ!」

 

 アヴェンジャーの妙に堂に入った宣言と共に姿を現したのは、第一の特異点で対峙し、俺がアンブッシュを決めて速攻で座に還したファントム・ジ・オペラ。彼は相変わらず人とは思えない赤く、禍々しい手と顔の半分を覆う仮面を携えて俺達の目の前に立ちふさがっていた。

 

「クリスティーヌ……クリスティーヌ、クリスティーヌ!クリスティーヌ!」

 

 正気とは思えない、狂気を多大に孕んだ声で彼は愛しきクリスティーヌへの愛を歌に乗せて語り始める。常人にはとても禍々しいものに思えるものであるが、アヴェンジャーは平気な顔をして耳を傾けていた。ああいうのはいいのだろうか。彼は。

 

 アヴェンジャーの趣味に若干引いていると、歌を中断したファントム・ジ・オペラがいつぞやの仕返しと言わんばかりにその禍々しき爪を振り上げて俺の顔目掛けて振り下ろして来た。

 バーサーカー入ってそうな彼も実はアサシンのサーヴァント、不意打ちをするなど造作もないだろう。しかし、不意打ちを常日頃から行うものがその対抗策を講じないのかと聞かれればもちろん否である。

 素早く地面を蹴り、後方に下がることでその不意打ちをやり過ごす。そして、地に足が着くと同時に今度は俺の方からファントム・ジ・オペラに向って蹴りを放つ。推進力を力に変えたその蹴りは残念なことにファントム・ジ・オペラを捕らえることはできなかった。記憶があるのかどうか定かではないが、向こうも学習はしているらしい。

 

 一連の攻防を見ていたアヴェンジャーはとても愉快そうに笑い、その整った顔を醜く歪めながら俺に語りかける。

 

「さあ、どうする!あれはお前を殺しに来るぞ!自身のすべてを以てして!己の身を焼くかの如き嫉妬を以てして!殺しに来るぞ、他ならぬお前を!」

 

 いったいどんな言葉を期待して、俺に問いかけてきているのかはわからない。が、敵に攻撃され向こうも臨戦態勢。こちらも武器はないものの五体満足……このような状況に置かれたとき、俺が取る行動など一つしかない。もとより、これしかできない……これしかないような環境に置かれていたのだ。今さら戸惑うこともない。

 

「どうするも何も、俺のやることは変わらない。倒さなければならない相手であれば倒す。相手がサーヴァント?俺は人間?差は歴然?大丈夫、()()()()()()()

 

 

「クッ、クハハハハハッハハハ!!その通りだ。カルデア、いや人類最後にして我が仮初のマスターよ!であれば、往け!乗り越えろ、あれこそは人間の持つ七つの罪源である!」

 

 心の底から愉しそうなその声を聞き届けると同時に、俺は魔力を全身へと循環させ肉体を活性化させる。そして、足の裏から爆発を起こしながら地面を蹴り、再びファントム・ジ・オペラへの攻撃を開始した。

 

 

――――――

 

 

 

 仁慈がファントムに襲いかかった時、彼の近くに立って居たアヴェンジャーはその光景を見ることはなくファントムに……いや、正確には彼の遥か背後、この部屋の壁に位置する空間に視線を固定していた。

 

「フン。無粋にも程がある。お前のような非人間に、この場に踏み入れる資格などない。まして、ほかの人間(あの男)の試練に関わろうなど、言語道断だ。故に、我が恩讐の果てに消え失せるがいい」

 

『――――!』

 

 溢れんばかりの憤怒を放出するアヴェンジャー。それに反応したのか、彼が見据えていた方向からも敵意のようなものが彼を貫いた。しかし、そんなことは関係ないと、アヴェンジャーは一瞬とも言える時間で彼が憤怒を向けた方向に移動する。

 その状況を危機と捉えたのか、アヴェンジャーが向かった先で、大きな肉柱にも見えるそれ……通称魔神柱がその姿を現した。

 

「うわ、本当に出やがった!」

 

「視線を逸らすな。そら、嫉妬の化け物が、お前の細首に手をかけようとしているぞ!ま、オレにはお前が死のうが生きようが関係ないがな」

 

「クリスティーヌ!」

「やかましい」

 

 本当に現れた魔神柱の存在に仁慈の意識がそちらにずれるが、意外なことにアヴェンジャーがそれをたしなめる。どうでもいいと言いつつもしっかりと注意喚起をしてくれている当たりそこまで悪く思っていないのかもしれない。

 

 仁慈の方も彼の言葉を素直に受け入れ、視線をファントムに戻すと、彼の攻撃を見極め、紙一重のところで回避する。もちろんそれだけでは終わらない。攻撃を外し隙を晒すファントムの鳩尾に魔力と技術を込めた肘鉄を叩き込み、彼の動きを一瞬だけ封じた。その後、重心を乗せた拳をファントムにぶつけて後方に吹き飛ばす。

 その光景を視界の端で捉えつつアヴェンジャーは己の思うがままに行動をする。本来の役目とは全く違ってしまっているがそれはそれ、彼は気にしないことにした。

 

『――――――妬みを!』

 

「(………魔神柱って話せるのか!?……しかも妬みを!って直球じゃない?)」

 

「変なこと考えているならさっさと終わらせるなりなんなりしろ」

 

 悲報、魔神柱喋る。

 

 いま仁慈の頭の中にはこの知らせが走り回っていることだろう。戦いから意識を逸らすことこそなかったものの、頭の中では余計な考えが蔓延り始めていた。スカサハがいればさぞ怒り、仁慈に地獄を見せるべくゲイ・ボルクを手に取ったことだろう。そんな彼に呆れるアヴェンジャー。仁慈に反論の余地などなかった。

 

 それはともかく、魔神柱の掛け声?とともに、柱に生える無数の目玉がアヴェンジャーの姿を捕らえ、光る。それは既に仁慈達も体験している攻撃。目玉が光るのは攻撃前の予備動作のようなもので、その後に繰り出される圧倒的魔力の爆発は並みのサーヴァントを一撃で消し炭にすることができる威力なのは疑いようもない。

 

 だが、その圧倒的な爆発を前にしてもアヴェンジャーは止まることはない。例え彼の隣が爆発をし、その爆風が襲って来ても……目の前で爆発が起こり、視界を塞がれたとしても、鋼の如き意思を以て、前へ前へと突き進む。

 

「クハハ!どうした、英霊一人も止められないか!そんな無様を晒すからアレに大敗を期することになるのだ!」

 

 人理の焼却を果たした魔術王ソロモンの僕たる魔神柱を嘲笑いながら、アヴェンジャーは戦いを終わらせるべく動く。しかしそれよりも魔神柱の方が早く大きなアクションを起こした。

 今までの攻撃でも十二分に強力な魔力だったのだが、これはそれをはるかに上回るほどの濃度である。誰でもこの後に来る攻撃はこの魔神柱の切り札であると考えることができた。

 

『――――罪源、解放。深き愛よ、愛しき者よ。それらの交わりがあるが故、人は羨み羨望し、嫉妬する。焼却式、グレモリー』

 

 比較にならないほどの暴力。そう表現することがふさわしいほどの威力と魔力を孕んだ攻撃。数多の英霊すらも葬ることができるソレが、唯一人アヴェンジャーを消し去るためだけに放たれる。

 対抗する、アヴェンジャーはポークパイハットの唾を軽く触ると、その後限界ぎりぎりまで唇の端を吊り上げた。

 

「ハッ、ハハハハハハ!クハハハッハハ!!人間でもない、下僕共でも己の本質を歪まされるか!面白いものを見せてくれた礼だ。我が力、その身に焼き付けて消えるがいい」

 

 宣言と共に彼は更に加速。もはやその姿はとらえることはできず、彼の動いた後が光となり、その軌跡を描くのみだった。

 

「我が往くは恩讐の彼方――――虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!」

 

 真名開放。

 英霊の切り札たる宝具の効果を最大限に高めることができるそれを行ったアヴェンジャーは、肉体、時間、空間という牢から脱し、本人の視点から見れば時間停止をしているにふさわしい所業を起こす。この状態の彼を止めることは同じ次元を生きている者では叶わない。たとえそれが人とは似ても似つかない存在であろうとも例外ではないのだ。

 

 

 結果、魔神柱はその宝具を抵抗することもなく受け、自身の崩壊を受け入れることとなった。

 

 

 

 

 アヴェンジャーが決着をつける一方で、仁慈とファントムの戦いも終わりが近づいていた。

 仁慈は冷たい瞳でファントムに視線を固定しており、対するファントムは服と仮面、そして肌に無数の傷を負っていた。一見して仁慈の方が圧倒しているようにも見えるが、一撃でも喰らえば致命傷になるため、紙一重だと言ってもいい。

 

「ォォオオオオォォ……!認められない、認められぬのだ、この心を……オォ、クリスティーヌ!」

 

 ボロボロの身体を引きずりつつ、それでも尚仁慈を殺そうと立ち上がるファントム。最後の力を振り絞り、彼は己の宝具を展開した。

 

地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)!!」

 

 それは彼の妄執とも言える感情の形なのだろう。

 幾重もの人の亡骸をばらし、パイプオルガンのような形状に組み上げた見るも無残な装置を召喚し、そこからファントム自身の歌声と共に、魔力を含んだ音による衝撃波を放った。魔力を纏いしこの攻撃は物理で防ぐことが可能ではあるが、その手段を今の仁慈は持っていない。ここに彼の武器はなく己の肉体しか頼ることができない以上回避することが一番有効な手段と言えるだろう。

 

 が、それを行うにはあまりにも距離が近すぎた。もはや、どこに逃げても回避しきることは難しいと判断を下した仁慈はかつて第二の特異点で己が行ったことを思い返す。

 

 それはマシュがレフ・ライノールに攫われ、一種の暴走状態に陥ったときに行った行動。自分の声に魔力を乗せて衝撃波としてはなった、奇しくも目の前の宝具と同質の攻撃方法だった。仁慈はそれを思いついてから即座に実行に移す。空気を吸い込み、肺に魔力を循環させて馴染ませると、そのまま攻撃として放出する。

 

「――――――ッ!!!!!」

 

 轟ッ!!と二つの音が決して大きくはない部屋に響き渡る。耳を塞ぎたくなるような音量同士のぶつかり合いに戦いを終えたアヴェンジャーはわずかに顔を顰めた。

 

 数秒間だけ拮抗していた二つの音だったが、すぐにその拮抗は崩れ去ることとなる。元々出力で言えばサーヴァントという常識を外れた存在の方が高いのだ。むしろ宝具相手に数秒持った方が奇跡と言えよう。

 己の声が負け始めたことを察した仁慈は声を出し、ファントムの攻撃が当たることを遅らせつつ射程範囲ギリギリまで歩みを進め、そして打ち負けると同時に攻撃範囲から脱出をした。

 

 体を転がせるようにして、ファントムの宝具を回避した仁慈は、転がった勢いを利用して即座に体勢を復帰させ、一目散に駆け抜ける。

 

 そして、流れるような身体運びで肉薄すると、そのまま彼の心臓部分……英霊で言うところの霊核がある部分に正確な正拳突きを放った。

 ファントムの肉体に触れてもなお減速しないその拳は体内へと侵入を果たし、そのまま彼の霊核を崩壊させたのであった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 ファントム・ジ・オペラと魔神柱、嫉妬の顕現グレモリーを葬った仁慈とアヴェンジャー。二人は、ファントムの嫉妬を聞き届けたのちに、仁慈が目覚めた部屋へと向かっていた。

 

「流石、と言っておこう。我が仮初のマスター。お前は正しくオレの思った通りだった」

 

「お眼鏡にかなったようで………。まぁ、それはいい。アヴェンジャー。お前はファントム・ジ・オペラを嫉妬の怪物と言ったな?」

 

「ああ」

 

「そして、先程の魔神柱は嫉妬を名乗った……。それはつまり」

 

「予想の通りだ。あの肉柱はあと六柱存在している」

 

「やっぱりか……」

 

 仁慈は頭を抱えた。そして同時に理解した。アヴェンジャーが言っていたのはこういうことだったのだ。裁きの間に罪を背負いしものと、魔神柱の両方が存在する。故に無理にでも魔力を使わせ、一対一の状況を作ろうとしたのだろう。己が魔神柱を屠るために。

 

「しかし、仮初とはいえマスターが居るだけでこうも変わるか……サーヴァントというのは不便なのか便利なのか……」

 

「不便の方だと思うけどな、令呪もあるし」

 

「それについては同感だ。だが、道理ではある。獣にせよ兵器にせよ、安全策というものはいくつも打ち立てておくものだ……。さて、仮初のマスターよ、ひとまず第一の裁きを乗り越えたことに賞賛を送ろう」

 

「別にいい。あと六つ残ってるんだし、どうせなら全部終わってから聞くことにする」

 

「フッ、そうか」

 

 

 ここから先に会話はない。

 だが、二人の雰囲気はそこまで悪いものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと、巌窟王がちょろすぎたかもしれない。

が、後悔はしていない(キリッ)

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