エミヤ師匠と決着(仮)をつけて、レインボーもやっとボ〇ルを授かった俺たち。休憩中に会話に割り込んでくる敵というユーモアあふれる骸骨や死霊たちを倒しつつ、聖杯の本体ともいうべき大聖杯と呼ばれるものがある洞窟の奥底にたどり着いた。
「こ、これが大聖杯………超弩級の魔術炉心じゃない……何でこんなものが極東の島国なんかにあるのよ……」
「ほら、極東……というか、日本はもの作りとある文化においては変態的な技術をもってますから、ね?」
『確かに!極東のオタク文化には驚かされるよ。ぜひ一回行ってみたいよね。秋葉原とか!』
「私も興味があります。もっと外の世界のことを知ってみたいと思っていましたし、先輩の住んでいた国ですよね。日本は」
「うん。そうだけど、マシュにオタク文化は早い―――――いや、既に存在がその系統に位置している俺たちなら適応できるか……?」
「おっと、何言ってんのかわからねえが、おしゃべりはそこまでだ。奴さんがこっちに気づいたようだぜ」
「―――――――――――――――――」
キャスターの視線の先には病的なまでに白い肌を持ち、その肌の色とは真逆の黒い鎧を身にまとった女性だった。だが、そんなことは関係ない。距離があるにも関わらず押しつぶされてしまいそうな重圧を彼女から感じた。流石至高の騎士、滅びゆく国を立て直すために現れたと言われる英雄アーサー王というところだろうか。
「……すごい魔力放出です。あれが、アーサー王……」
『あぁ、こっちでも確認したよ。何か変質しているようだけど、彼女は間違いなくブリテンの王。聖剣の担い手アーサーだ。性別が違うけど昔だったらよくあることだろうし、アーサー王の近くには宮廷魔術師のマーリンがいる。彼が伝承にある通り、趣味の悪い人物だったらその可能性もゼロじゃない』
「あっ、本当だ。女性なんですね。男性かと思いました」
マシュのその何気ない一言に、だいぶ距離が離れている騎士王がびくりと反応した気がした。その証拠に彼女の視線が若干下の方を向いている気がする。………元気出しなよ騎士王。
「見た目は華奢だが甘く見るなよ。あれは筋肉じゃなくて魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃が馬鹿みたいに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」
「………魔力放出、馬鹿力……うっ、頭が……」
所長が急に何かを呟きながら頭を抱えだした。視線はこちらに固定しながらである。どうして俺の方を見るんですかねぇ……。所長につられてか、マシュもキャスターも通信越しのはずのロマンさえも俺の方に視線を固定している気がしてきた。
「あー………」
「そういえばうちにもいたな。魔力にものを言わせてぶっ飛ぶ化け物が」
「今すぐぶっ飛ばしてほしいか……!」
ここ数時間で練度がかなり上がってきているからほとんど無詠唱で強化できるんだぞ……!
何やらとても失礼なことを考えている俺以外の人たちに向かって既に強化が済んでいることを知らせるために、足元の地面を踏み砕く。すると彼らは俺からさっと目をそらし、真面目に話し始めた。もう手遅れな気がしないでもないが。
「ま、何はともあれ奴を倒せばこの街で起きたことはすべて消える。それは奴も俺も例外じゃない。それ以降のことはお前さんたちでどうにかしてくれ」
キャスターはそういって杖を構えた。
マシュもキャスターの言葉に元気よく返事を返して戦闘態勢に入る。俺も同じく鞄から弓を取り出して弦をを引く。
これから戦いが始まると思ったそのとき、黒い騎士王がふと口を開いた。
「―――――ほう、面白いサーヴァントがいるな」
「なぬ!?テメエ、喋れたのか!?何で今までだんまり決め込んでやがった!」
「ああ、何を語っても見られている。だから案山子に徹していたのだが――――面白い。その宝具は面白い」
まるで死人のような白い肌の顔に浮かばせていた無表情がその形を変えて薄い笑みを作る。整った顔立ちの所為か蠱惑的な笑みであったが、彼女の全身から感じられる殺気の所為で恐怖しか感じられないようなものに変化していた。
「構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう」
「来ます、マスター!」
「わかってる……負けるものかよ!」
騎士王は俺たちの反応を確認する前に既に宝具を発動していた。彼女が持つ、アーサー王を象徴する聖剣・
『星の息吹を束ねて放つ攻撃……性質が変化しても、その破壊力は変わらなさそうだ……!』
星の息吹とかなにそれ超すごそう。というか、絶対にやばいだろ……。のんびりと構えている場合じゃない。
すぐさま俺は右手をマシュに向けると、三つしかないサーヴァントへの絶対権である令呪を使用する。
「令呪を以て命ずる。シールダー、全力で敵の攻撃を受け止めろ!」
「お任せください、マイマスター!」
一瞬のまばゆい光とともに右手に刻まれていた令呪の一つが消える。それと同時に体の中の魔力が幾分か持っていかれた感覚があった。その魔力はマシュの方へと流れていったようだ。
「これは……!すごいです。力が湧いてきます。それに……なんかあったかくて気持ちいいです。……私の中に先輩の熱を感じます」
この土壇場でそのセリフ選びはどうなんだろう。
ちょっとばかりエロいこと考えた自分に自己嫌悪をしつつ、マシュに宝具の開帳を許可する。
「『卑王鉄槌』、極光は反転する……光を呑め―――――」
「真名、偽装登録。宝具、展開します」
お互いがお互いに宝具を使用しようとしているためか、魔力がそこらかしこで渦巻いてぶつかり合い、空間を揺らす。そういえばここ洞窟の中だったような気がする。天井がやばいかもしれない。
と、考えつつも鞄から武器を取り出して、いつでもその場を動けるような態勢をとる。
「キャスター、準備しておいて。マシュが敵の宝具を防いだすぐあと、奇襲をかけるよ」
「おう。わかった」
さぁ、あとはマシュが宝具を防ぐだけだ。こればっかりは信じるしかない。
騎士王の持つ聖剣に集まる黒い光が最高値に達したとき、彼女はそれを一気に振り下ろした。それと同時に、マシュも両手で盾を持ち足を程よく広げて耐える態勢をとった。
そして、ついにお互いの宝具が激突する――――!
「
「
すべてを飲み込む黒い光の奔流がマシュに向かって殺到する。彼女はがっしりと構えた盾から十字架をあしらった魔法陣を出現させてその黒い光の奔流を真正面から受け止める。じわじわと後ろに下がっていきながらもマシュは決してつぶれることはなく、耐えている。
俺とキャスターは彼女が宝具を受け止めている隙に、マシュに宝具をぶつけている騎士王に奇襲を仕掛ける。
キャスターと俺はお互いがお互いに強化魔術をかけて今まで以上に身体能力の底上げを行っている。さらに、呼吸を気配を世界と同一化させることで自分の存在を最大限まで薄めることでより気づかれにくくする。この状態ならよっぽどのことがなければ気づかれない——————そう思っていたのだが、
「無粋だな」
「―――ッ!」
殺気も感じさせることなく、無心で攻撃を仕掛けようとした俺を騎士王はとらえていたらしい。宝具を解除すると、黒く染まった聖剣を俺に向かって振り下ろした。どういう感知能力してんだよ……!こればっかりは昔から自信あったのに……!
体をひねることで一回目の攻撃を回避すると同時にその回転の遠心力を利用して鞄から刀を一本取り出す。そして、続く二回目の攻撃を刀で受け止めた。しかし、完全に勢いは相殺しきれずに無様に吹き飛ばされた。魔力放出半端ねぇわ。
無様にフッ飛ばされた俺に追撃を加えようとする騎士王だが、キャスターが透かさずフォローに入ってくれた。
「アンサス!」
「フン!」
「ファッ!?」
しかし、効果はないようだ。
キャスターの放った魔術を正面から普通に突破してきて、接近してきた。マジか。空いている手で鞄の中から槍を出して、エミヤ師匠の時と同じように地面に突き刺す。そしてそれを軸に回って俺に向かって突っ込んできている騎士王の背後を取り、逆に蹴り飛ばした。
「ぐっ」
「浅いか……!」
地面から槍を引き抜いてバックステップを踏む。そして同じく背後に跳んできたキャスターに話しかけた。
「ちょっと、全然効いてないけど!?大丈夫なの!?」
「セイバーの対魔力舐めてたわ。俺が本来このクラスじゃないことも相俟って全然きかねえ……」
「完全に役立たずじゃないですかーやだー」
「言うな言うな。というかこれ俺の立場ねえじゃん。おい、坊主槍一本寄越せ。キャスターでも何とかしてみせる」
「いや無理だろ」
だべっていると、急に背筋に冷たいものを感じてその場から飛びのく。隣を見てみるとキャスターも同じように回避行動をとっていた。俺たちがその場を飛びのいたすぐあと、その場所が陥没する。
砂ぼこりで見にくいが、よく目を凝らしてみると、地面から黒い聖剣を引っこ抜いている騎士王が居た。
「あぶねぇ」
「やべぇ」
「すみません!お待たせいたしました!」
男二人で冷や汗をかきつつ体制を立て直していると、宝具を受け止めていたマシュが回復したのか、合流した。
「ありがとうマシュ。おかげで助かったよ。情けない姿を見せて悪いね」
「い、いえ。むしろあのアーサー王と戦っていまだに立っていることがもうすでにすごいと思います」
「………普通の魔術が効かないとなると……どうするか……ウィッカーマンでもブッパするか?」
「こっちもやばいからやめて」
あの巨人に暴れられたらこっちもやばい。
……さて、再び三人そろったところで何をするか。向こうさんはまだまだ元気。こっちは消耗しているマシュと決定打を持っていないキャスター。その両方の因子を持っている俺。普通に考えたら詰んでいる。
「というか、キャスター。あの騎士王未来でも見えてるの?悉く攻撃が回避されているんだけど」
「技量の差もあるが、あれはおそらく奴の直感スキルの所為だろうな。ランクが高いともはや未来予知と言っても間違いじゃないくらいの効果を発揮するらしいぜ」
なにそれ聞いてない。
ただでさえこちらが不利なのに、未来予知完備とかこんな戦いやっていられるか!俺はカルデアに帰るぞ!(フラグ)
「それって身の危険だけですか?」
マシュがそうキャスターに問いかける。
「……ランクにもよるな。A+から上にかけてはかなり範囲が広いだろうよ。だが、奴に関しては基本戦闘事だけのはずだ」
むしろそうであってくれないと困るぜ……とキャスターは言った。……自分の魔術が効かないことがだいぶキているらしい。
しかし、マシュの質問とキャスターの回答で俺たちの取る最後の一手が決まった。かなり分の悪い賭けになるが、これしか策はない。二人を俺のそばに集めて簡単に作戦を説明したのち、騎士王に向き直る。
「――――どうした、もう終わりか?」
「終わりにしたいです(迫真)」
冗談抜きでこれはきつい。思わずこうノータイムで返してしまうくらいにはつらい。だが、あきらめるわけにはいかない。
「では、我が一撃で楽にしてやろう」
「お断りします」
「遠慮するな。――――『卑王鉄槌』、極光は反転する……光を呑め――――」
再び黒くなっても衰えることのない星の息吹が、黒い聖剣へと集まっていく。しかし、同じものを何度も撃たせるわけにはいかない。あんな極太ビームをどうしてここまで連発できるのかはわからないが、撃たれる前に、俺たちの最後の策を実行する。
持っていた刀で刺突の構え取り、静かに一歩進める。
なぜか刀を持っていると成功率が上がる縮地を以てして、騎士王の正面から刀を突きつける。どうして正面からかって?背後に回っている時間がなかったんだよ。
「牙突じゃないよ!」
「聞いてないぞ」
正面から刀を構えて現れた俺に騎士王は剣を俺に振り下ろす。そうだ、それでいい。それこそが俺の目的だ。
俺は対峙する剣から目をそらさずに令呪をもう一つ消費する。
「第二の令呪を以て命ずる――――シールダー、騎士王の背後に来い!」
「何っ!?」
騎士王が一瞬背後に気配を集中させる。そこにはでたらめでも何でもなく、俺の最初のサーヴァントたるマシュが居た。キャスターを連れて。
これで騎士王は俺とマシュ、キャスターに挟まれる形となった。剣は既に振り下ろされているため、彼女はもうどちらを斬るかという選択肢しか残っていない。
――――一秒にも満たないであろう思考の末に、騎士王は背後の二人を攻撃することを決めたようだ。
当然だろう。唯の人間と、サーヴァント二体……どちらの攻撃が致命的になるかと言えば勿論後者だ。
――――――さぁ、ここが正念場だ。
今ここですべてを決めろ。己が築き上げきた
刀を右手から離して、代わりに拳を握りしめる。
今ここに必要なのは鎧すらも貫通する一撃。いまだ道半ばなれど、我が八極の一撃は決して軽いものではない!
「――――――――!」
「貴様ッ!―――ガッ!?」
マシュとキャスターの方に向いていた騎士王の背中に一撃を入れる。今までのように背後に吹き飛ぶことはしない。その衝撃すら彼女の体の中に閉じ込めた一撃を放ったからだ。
今の彼女は俺の放った攻撃を余すことなく体内で受けることとなり、がくりと膝を折った。
――――――――――――――
アーサー王がこちらを向いて黒く染まった聖剣を私たちに振り下ろしてき。それだけ……ただそれだけなのに、私はものすごい恐怖に襲われた。これが騎士王、滅びの未来が待ち構えていたブリテンを立て直すために王となったアーサー王の重圧……。
こんなものを正面から受けてもなお、戦いに行ける先輩は私よりもよっぽどすごいと感じてしまう。
そんなことを考えつつも、作戦の成功に私は内心喜んだ。これこそが、私たちの目的。このような状況に陥れば、どう考えても私たちの方に意識が向くだろう。普通の人間とサーヴァントでは重みがまるで違う。アーサー王の判断は誰もが下す正しいもの。
しかし――――――私の先輩は……普通の枠には収まらない。
一般枠でカルデアに訪れたはずだけど、その実誰よりも逸脱していた48人目のマスター候補。にも拘わらず、サーヴァントと真正面から戦うことができる、現代の英雄とも呼べる人物なのだ。
「―――――――!」
「貴様ッ!―――ガッ!?」
アーサー王と重なって見えないが、先輩の一撃が背中に直撃したんだろう。彼女は立っていられず、地面に膝をついて息を荒げていた。
「ごふっ……フフ、フ……まったく、マーボーといい眼鏡の高校教師といい貴様といい……最近人間離れした奴らが多い……な」
「………あれ、前者の人知ってるかも……」
アーサー王にそこまで言わせる人物と知り合いという先輩。やはり、常軌を逸脱した人の環境もまた非常識なものなのでしょうか。
頭の片隅でそのことも考えつつ今は彼女の言葉に耳を傾ける。
「貴様をただのマスターと侮った私の敗北か……。聖杯を守り通す気でいたが、己の執着に傾いた結果がこれだ。結局、私一人では同じ末路を迎えるということか」
「あ?どういう意味だそりゃあ。テメエ、何を知っていやがる」
「いずれあなたも知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー――――聖杯をめぐる戦いは、まだ始まったばかりだということをな」
その言葉を最後に、アーサー王は黄金の光となって消えて――――
―――――――――――――
最後に盛大なフラグをおったてて騎士王は消えて――――
「そういえば忘れていた。ほら、そこなマスター。これを持っていけ」
――――行かなかった。半分くらい透明になりつつもしっかりとその体を残した騎士王は俺の方に向くと何かを投げてきた。
反射的にそれを受け取り、視線を向けてみれば……形容しがたいものがそこにあった。柔らかいような硬いような金色の物体で、きれいに湾曲している、かなり細いバナナのようでもある……ほんとよくわからないものだった。
「なんだこれ」
「私が黒化したときに取れた髪の毛だ。召喚するときに媒体となるだろう。………私を沈めた褒美だ。持っておけ」
それだけ言って彼女は今度こそ消えた。
……これは喜んでいいのだろうか。とりあえず、鞄の中にしまっておこう。はじめは何だと思ったけど、今では感謝している。家の人……鞄持たせてくれてありがとう!
「帰って来たのならさっきの意味深な言葉の意味を教えてほしかったぜ……っと、俺も強制送還か。……じゃあな、坊主と嬢ちゃん。大して役に立てなくてすまなかったな」
「いや、あれは冗談だから。強化のルーン、本当に助かったよ」
「私も宝具を出してもらいましたし。口が裂けてもそんなこと言えません」
「おう、サンキュ。今度呼ぶときはぜひともランサーで呼んでくれ。そうすれば、今回のような無様はさらさねえからよ」
今まで色々助けてくれたキャスターも騎士王と同じく消えていき、これでこの特異点Fでの騒動は完全に終わったかと思われた。
だが、騎士王の体からでた水晶体……彼女が異常をきたしていた元凶を回収しようとした時、それは起こった。
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者。全く見込みのない子どもだからと、善意で見逃してあげた私の失態だったよ」
聞き覚えのあるその声とともに、水晶体は俺がこのカルデアで三番目に知り合った人物……レフ・ライノールへと変化した。
初めからちょっと胡散臭いやつだと思っていたため、そこまで動揺はなかったが、マシュと所長の方はショックが大きかっただろう。特に所長はレフ・ライノールをかなり信頼していたようだし、目に見えて動揺している。
とりあえず、あれが元凶そうだったので過去最高の速度で弓と矢を取り出しセット&シュート。
「全く、どいつもこいつも屑ばかりだ。どうしてこうも人間という生き物はどうしようもn―――――「発射」うぉぉおおおおいいいい!!??」
ちっ、避けたか。
無駄に反射神経のいいやつだ。
「まだ話している途中だろう!?人の話はちゃんと聞けと教わらなかったのか!?」
「ふっ、馬鹿め。敵の前で朗々と自分語りもしくは罵りをしている奴は死にたい奴って戦場では決まっているんだ」
言葉を弄するならしっかりと相手の動きを封じた後にするべきだと俺は思う。後、レフ・ライノールは俺に感謝してほしい。あのまま色々言っていると完全に噛ませキャラ化していたと思うし。
「な、なにを言っているのレフ……?いつも通り、あなたは私を助けてくれるんでしょう……?」
「助ける?私が、君を……?ハハハ、面白い冗談だ。既に死んでいる君を、どうやって助けるというのだね?」
「………えっ」
レフ・ライノールの言葉に全員の空気が固まる。
彼はそのことに知ってか知らないでか、所長を嘲笑うように言葉をつづけた。
「疑問に思わなかったのか。君にレイシフトの適性はない。しかし、君は今ここにいる。……適性はその人の肉体が決めているんだ。逆に言えば、肉体さえなければレイシフトは可能ということだ。……全く君は私の予想をよく裏切るな。きっちりしっかりと、君の真下に爆弾を仕掛けていたのに、精神だけになってまで人類のために尽くすなんてね」
レフ・ライノールの言葉を彼女は飲み込めないようで、本物の石像のように固まってしまった。だがそれも仕方ないことだろう。自分が既に死んでいるなんていきなり聞かされてはいそうですかと受け入れられる人間はいないだろうし。
その後、レフは空間を捻じ曲げてカルデアとつなげて、人類の未来を焼却したことを俺たちに告げた。人類の未来をつぶしたのは自分たちだと、高笑いをしながら。
イラッと来たので再び矢を射た。今度は五本同時である。
俺が放った矢は見事にレフ・ライノールの帽子に突き刺さった。自分でやっておいてなんだけどすごいシュールだ。
「きぃぃさぁぁぁまぁあああああ!!さっきから何なんだ!?遠くからチマチマチマチマと!?私に何か恨みでもあるのか!?」
「人類の未来焼却しておいて何言ってんだよ」
ちょっとあの人情緒不安定すぎやしませんかね。
「ま、まぁいい。聖杯がなくなったことでこの特異点ももうすぐ消え去る。お前たちはこのままこの空間と運命を共にするがいい!」
「………(ヒュン」
「ぐはっ!?」
何やらものすごく小物くさい捨て台詞とともに消えようとしているレフ・ライノールに矢を一本だけ追加して当てる。彼は合計二本の矢を体から生やしながら消えていった。
さて、黒幕の手下的なレフ・ライノールは追っ払ったが、問題は消えかけているこの空間からどうやって脱出するかということと所長をどうするかということだ。
「ロマン、なんとかならない?」
『今全速力でレイシフト実行中だよ!ギリギリ間に合うとは思うけど、問題は所長だ』
彼の言葉で脱出の目処は立ったが、所長をどうするかがまだ決まっていなかった。彼女の体は既になく、カルデアに帰っても消滅してしまう。代わりの肉体なんて用意できないし……。
ぐるぐると頭をフル回転させてこの状況の打破できる策を考える。そこで、俺はふと気づいた。
鞄の中に手を突っ込んで取り出したのは、エミヤ師匠からもらったレインボーもやっとだ。彼は言っていた。
–––––––––これは、霊核となるものだ。
そうだ、これだ。
霊核とは即ち英霊が現界している源–––依り代のようなものだ。一か八か、これを所長に突っ込めば英霊に似た存在となって連れて行けるかもしれない。
「所長カモン!」
「な、何よ。このまま……ここで死ぬ私に、何か用?」
完全に泣きが入ってる……。
まぁ、仕方ない。ただでさえ肝っ玉が小さいであろう所長がもう既に死んでいて、さらにここから完全に消滅するなんて聞かされたらそうなるだろう。だが、残念なことに今彼女に付き合っている暇はないのだ。
「所長、これを飲んでください!もしかしたら、俺と契約した英霊扱いでカルデアに行けるかもしれません!」
俺の言葉を聞いた彼女は少し冷静さを取り戻したのか、顎に手を当てて考え出した。
「た、確かに可能性はある……けど、この大きさは無理よ!」
「斬っ!」
大きいなら小さくすればいいじゃない。今まで使っていなかった方の刀を取り出して、レインボーもやっとを細かくカットする。そして、所長に差し出した。
『レイシフト、準備完了!転送するよ!』
ロマンのその言葉とともに俺の視界は白くそまっていく。そんな中、所長が意を決して元レインボーもやっとを飲んでいる姿が見えた。
安定のメインアタッカー。
マスターとは一体なんだったのか……。