この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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次から監獄塔イベントです。

題名は、監獄塔で復讐鬼は泣くです(笑)


空の境界イベント エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

「これですべての場所の見回りが終わりましたね。先輩」

 

「その通り、ご苦労さん仁慈。これでオレのアルバイトもようやく終わりだ」

 

 ヒロインXを撤退させ、タンスの角に小指をぶつけて気絶したことになっていた式と共に八階までのすべての階を見終えると、二人から言葉をかけられる。今回も中々一筋縄ではいかないところだった。特に最後のあたりが。俺の精神ポイントをゴリゴリ削ってきやがって。

 

『お疲れ様、仁慈君、マシュ。さて、ここからは両儀くんのこともあるし、カルデアに帰ってくるかい?』

 

 ロマンがそう声をかけてくれるが、マシュや式の表情は固かった。恐らく、このマンションの外で出会ったあの影のサーヴァントのことを気にしているのだろう。彼は仕事があると言っていた。それはここを新たな地獄とすることであるとも言っていた。で、あれば本来この空間の要である大死霊を倒そうとした時に現れなければおかしい。地獄を作ることをあきらめたのか、もしくは別の理由があるのかそれはわからない。まぁ、こうしている間も襲ってくるわけでもなし、態々余計なことに首を突っ込まなくても別にいいのだが……。

 

 チラリ、と再び二人に目を向けるが、先程とあまり変化はない。多分二人ともあのサーヴァントのことが気になっているのだろう。まぁ、ここで断ってもいいんだけれども、新しくカルデアに来ようとしている式の機嫌を早々に損ねるのはマズイ。

 

「いえ、まだ私たちが相手しなければならない者がいます。―――メフィストさんはサーヴァントたちを連れてくるだけで変質はさせていないと言いました。で、あれば、変質させるように動いた人物、もしくはここをそういう風に変えた人物がいるはずです」

 

「っていってももう、結論はわかってるだろ。外で会ったあの真っ黒黒助だな。ま、深く考えなくてもそいつが黒幕なんだろ。ここまで来たんだし、ついでに最後まで行っちまおうぜ」

 

 どうやらやる気満々のお二人。確かに積極的に仕留めにいく理由もなければこれと言って絶対に拒否するという理由があるわけでもない。要は断る理由もないので二人について行くことにした。

 途中、屋上に出るための扉を発見するも鍵がかかっており、蹴り破ることも出来なさそうだったが、いつの間にかフォウが外で戦った亡霊から鍵を奪っているというファインプレーをしたことによって俺たちは無事に屋上に侵入することができた。

 フォウにはカルデアに帰ったら精一杯ご飯を作ることを褒美とした。とても喜んでいて可愛かったです(小並感)

 

 

 

 

 

 

――――さて、そんなこともあり、場所は俺達が今まで探索していた小川ハイムの屋上である。カルデアに来てからというもの、こういった建物の屋上には出ていないからか、どこか懐かしい感じがした。月も普段より大きく見え、その分距離が縮まっているのだと感じさせる。

 

「空が近い――――外見からは考えられない高度です。あと、とても月が綺麗ですね」

 

「月が綺麗な夜には気を付けろよ。うっかり、殺人鬼なんかに遭遇しかねないからな。……それはともかくとして、仕事とやらは終わったのか、真っ黒黒助」

 

「――――――――終わるものか。我が恩讐が晴れることはない。永遠に」

 

 式のセリフに呼応するかのように現れる黒い影。相変わらずその輪郭はかろうじて人と判断できるレベルの明瞭さであり、性別すらも断定はできない。只、左目と思わしき部分が赤く光っているのみだ。

 

「確かにこの空間はお前たちの手によって無に帰するだろう。だが、オレの仕事は終わらない。絶望の島、監獄の塔、宝の城。その姿を思い出すまでは」

 

「っ、敵サーヴァント戦闘態勢に入りました!こちらも準備を!あれはこの世に居てはいけない英霊です」

 

 影のサーヴァントは相変わらず、不気味というかこの世の負を塗り固めたかのような異質な気配を放っている。それに反応してしまっているのだろうマシュもあの影を最大限に警戒していた。

 

「ハッ、クハハ!ハハハハッハハ!この世に存在してはいけない英霊だと?舌を焼かれるぞデミ・サーヴァント!死霊も英霊もさして変わらん。どちらもともに世界に陰を落とす呪だ」

 

 影の嘲笑う声と共に、この特異点擬きの要として戦った大死霊が出現する。その魔力反応は前よりも一層濃くなっており、どう考えても五階で戦ったものと、同じものとは思えなかった。どうやら、死霊は死霊らしくやられた分の恨みをきっちりと力に変えて復活してきているようである。

 

「あの巨大ゴーストは……!」

 

「………もう一体目……?いや、違うな復活したのか……」

 

「その通り。このゴーストは呪いであり、呪いとは消えないものだ。別にあの時消えたのも消滅したからではない。この呪いは魔術王がオレに押し付けた、完成された呪いの循環だ。人間たちの負債のだ。……他者が居る限り、恨み殺し、それが再び別の復讐を生む……つまりは永遠だ。無限に、そして無間に続く生き地獄だ。………ようは、これは不滅の現象。――――いと深き場所の神だ」

 

 神……その言葉にいつぞや相手にしたアルテミスの存在が蘇る。あのアルテミスは分霊でありながら圧倒的な気配を持っていた。師匠が居なければ勝てないと思わせるには十分なものが。

 それに比べて、この死霊のなんて儚いこと。恐らく元々そういう存在ではないということもあるのだろう。所詮これは数多の人々の死のコピーペーストを塗り固められてた偽りのもの。真に何百年と人の死を蓄積させたのであればともかく量産型のコピーペーストで作ったのもであれば、迫力に欠けるというものだ。

 

 そして、何より、俺の近くには死なないし、戦うたびに強くなっていくキチガイ染みた師匠が居るのだ。今さらそんなとを言われたってふーんくらいの反応しか返せない。

 

 

 

 

 

 

「故に、貴様らにこれは殺せない―――――」

 

 

「―――――殺すよ。生きているのなら殺す」

 

 

 

 

 どうやら式も同じこと……というわけではないのだが、諦めてはいなさそうである。影のサーヴァントの言葉を遮り、鋭い目で上着のポケットから取り出したナイフを構えている。その瞳に一切の迷いはない。彼女は本当にあの死霊を呪いを殺す気でいるらしい。

 

 

「――――ほう、不滅の現象を。オマエは殺せるというのか」

 

「一万年か、一億年か、もしくはそれ以上の年月”在る”としても、それが人間にとって不老不死に見えるだけの話だ。万物には綻びがある。未来永劫、不変なものなんてこの宙の元にはありえない」

 

「消えろ復讐鬼。どれだけ長く、偉大な命だろうと――――――それに終わりがあるのなら、オレは神様だって殺して見せる――――!」

 

 

「……そこの人間、お前も同じ意見か?」

 

 

 どうしてここで俺に話を振るんですかねぇ……。このまま戦闘に入ってもいい感じの雰囲気だったじゃないですか。しかし、これだけかっこよく式が啖呵を切ったのだからこっちもそれ相応のことを言わなければいけなかったりするのだろうか。ま、いいか。その辺は個人のさじ加減だろ。

 

 

「当然。人間には、目に見えた不可能に挑戦することができるという特権を与えられている。これは本能のみで活動する動物や、絶対的強者には不可能なことだ。月並みだけど、俺たちはこうして弱いからこそ、不可能を可能にすることができる。………となれば、多少死ににくいだけの亡霊だなんてとるに足りない」

 

「ハッ!クハハハハハハハ!!いいだろう。その心意気確かに受け取ったぞ冒涜者たちよ!では、後は証明するだけだ。人の悪意を否定することができるかどうか……永遠に消えぬものなどないということをな!」

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 影のサーヴァント、その宣言により再び仁慈たちの前に立ちはだかった数多の死、その具現が声なき声を上げる。

 一度それを見て、知っている仁慈は復活した大死霊を視界に入れず、しばらく影のサーヴァントのみを注視していた。

 たとえ、大死霊がその巨大な両手を振るおうとも、大死霊☆ビームを放とうとも、持ち前の危機察知能力と感覚、そして経験からそれらを全て翻し、影のサーヴァントから視線を外すことなく観察し続ける。

 

 そうして、仁慈が得た情報は、あの影のサーヴァントがこの戦いに参加しようとはしていないということだった。現に、今もマシュと式にぼこぼこにされ、若干涙目と見えなくもない大死霊を前にしても一ミリたりとも動いていなかった。

 

「……つまり、本当に知りたいだけ、ということか……」

 

 彼は言った。永遠がないものと証明してみよと。どうやらこの戦いに置いては自分の言葉通り静観を決め込む三段らしい。そのことに確信を抱いた、仁慈は影のサーヴァントから視界を切り、今度は先程までガン無視を決め込んだ大死霊の方へと視線を向けた。

 

 だいぶ式にズタズタにされたらしいその死霊はまたその魔力を増やしており、逆にマシュと式には多少なりとも疲労が見て取れた。だが、仁慈が影のサーヴァントに中止しつつも攻撃を受けていないということはどれだけ強くなっても攻撃手段は変わらないということなのだろうと彼は予想付ける。

 そこで仁慈は相手の攻撃性のについて大まかな予測を立てると、今度は防御面での性能はどう変化があったのかを確かめるために、いつもの槍を右手に持つと、そのまま大死霊の顔面と思わしき部分に投擲する。

 

 見事クリーンヒットした槍は、頭蓋骨を盛大に削って現代の夜空へと消えていく。しかし、抉り取れた頭蓋骨は瞬く間に修復され、もとの骸骨に戻ってしまった。防御面はともかく、再生という点におていてはかなりのランクアップを果たしたとみていいだろう。

 

「おい、遅いぞ。なにをやってたんだ?」

 

「ちょっとばかり観察を。で、マシュ。相手は大体どんな感じ?」

 

「はい。攻撃は私の盾で問題なく防ぐことができます。攻撃事態も式さんが居るので何の問題もありません。ただ……」

 

「やっぱり、きりがない。元々一つの存在じゃなくて、複数の存在の寄せ集めだから継ぎ接ぎだらけ……これは大本の核を潰さないとどうしようもないぜ」

 

「…………」

 

 呆れながらいう式だがその瞳に諦観の色はない。仁慈も彼女はいかにも負けず嫌いというか、自分で言ったことを曲げようという性格ではないということは大まかに察していたので特に驚くこともなく思考の海に沈む。

 

 そうして、しばらく大死霊を適度に削りつつ、必死にない頭を回転させていた仁慈に一つのアイディアが浮かんだ。

 

 

 彼は言った。これは魔術王が生み出した完成された呪いであると。恨みを蓄積し、再びあの形となって強力になって甦る。倒さることで恨みも溜まることから復活しないということはあり得ないということなのだろう。

 

 だが、再びその恨みをもって形を成すには、ひな型となる原型……もしくは集まるための核が必要となる。元々が、億という死のコピーペーストの集合体なのだ、そうでもしないと説明がつかない。もし、そんなものがあればとっくに式が自身の眼を使って切り殺しているところではあるが、生憎相手は存在そのものが死。核なんて見えなくなるくらい外装も死で塗り固めているような化け物だ。それができなかった可能性は十分にある。

 

「……なるほど」

 

「その可能性はありますね。……しかし、どうやってその外装を外しますか?今のゴーストは破壊と再生を即座に繰り返していますが………」

 

「その件に関しては私にいい考えがある」

 

 若干フラグっぽいものを立てながらも仁慈が自信満々に宣言した。そんな彼を不安ながらもほかにやることもなしと式とマシュは受け入れる。

 

「マシュ。少しだけ準備に時間がかかるから、守り任せた」

 

「はい!お任せください!」

 

 盾を構えさせたマシュの後ろに佇み、四次元バックからできるだけ槍に分類される武器を取り出して小川ハイムの建物に突き立てる。そして、全ての槍を取り出し終えたのちに仁慈はその槍に一文字ずつ紋章のようなものを書いていく。

 

「はぁ―――!」

 

 マシュが大死霊の攻撃を受け止めているからと言ってのんびりなどできないと考えていた仁慈は迅速にその作業を終わらせると、攻撃が止んだタイミングでマシュの盾から飛び出した。それと同時にマシュに追従するように伝える。

 

 全力で大死霊へと向かって行く二人。当然雨のような密度で攻撃が飛んでくるものの、盾のことにおいては右に出る者はいないマシュの守りはそれだけで貫通することはできない。

 そうこうしているうちに懐に潜り込んだ仁慈は手に持っている槍を死霊に突き刺した。すると、どうだ。彼が刺した槍に向って先程まで小川ハイムに突き刺さっていた槍が殺到し始めたのである。これは彼が修練で教わったルーンである。今まで使うことがなく、このままそんな機会すらないのかと不安に思われているものだった。効果は磁石のようなもので、あるマークに対してもう一つのマークが書かれたものを引き寄せるというものである。

 

 これによって連続的に攻撃を受ける死霊はみるみるうちにその外装であるゴーストたちを失っていく。再生しようにも次から次へと襲い来る槍に再生が間に合わないでいた。一体仁慈の鞄にどれほどの槍が入っていたのかということを突っ込んではいけない。今もなお、カルデアの食堂にてその腕を振るっている彼の苦労を忘れてはいけないのだ。

 

「――――見えた。仁慈、ナイスだ」

 

 

 この好機を逃す式ではない。

 自分たちの目論見がうまくいったとみるや否や、彼女はその黒い瞳を蒼く染め、ニヤリと片方の唇の端を吊り合げる。そして、ナイフをしっかりと握ると、思いっきり地面を蹴り穿った。

 

 

 

「―――――――直視………―――――――!」

 

 

 

 その能力を加味しなくても脅威と言える速度で振るわれるナイフ。その切っ先は間違いなくこの大死霊の核ともよべる場所を貫き、見事この世から消して見せた。

 

 さらさらと消えていく大死霊。今度は、復活の兆しも見せず、大人しく消えて言っていることから三人はこの戦いが終わったことを感じ取った。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 では、この特異点の大黒柱たる大死霊を倒した後の話をしよう。

 影のサーヴァントはその後、逃走を図ろうとしたが、なんだかんだあって式に倒されることとなる。なんでも彼女曰くナイフをもう一本忍ばせておくのは女の嗜みらしい。影のサーヴァントも含めたその場にいる全員が心中でそんなわけあるかと突っ込んだことはこの特異点に居るものではわからなかった。

 

 そんなこんなで、消えつつある影のサーヴァントに、ロマニ・アーキマンは問うた、君にこんなことを依頼したのは何者かと。

 

 影のサーヴァントはそれに対してお前らと敵対しているものだとしか答えなかったが、曰く頼みに来たものは復讐というような感情を抱いていなかったから協力しないと口にした。それ以上は特に何を言うべきでもなく影のサーヴァントはこの特異点から消失した。

 

 最期、正体を聞いたロマニに対して、―――待て、しかして希望せよ、と言い残して。

 

 

 

『――――さて、今度こそこの特異点の大黒柱たる亡霊は消えた。これで本当に解決、この長い夜もやっと夜明けを迎えることができる』

 

「それは確かに喜ばしいことなのですが……結局あのサーヴァントについては何もわからずじまいでした。……あの口ぶりでは私たちの敵のようですし、再び戦うことになるのでしょうか?」

 

 マシュの不安そうな呟きに対して意外なことに式が仁慈よりも早く返事を返した。

 

 

「さあな。只、あの手の奴は案外一度手を取り合ったらコロリと転げ落ちるもんだからな。案外、心強い味方にでもなるんじゃないか」

 

「そうなのですか?」

 

「そうなんだよ。マシュ。人間が人間に復讐する理由は知ってる?」

 

「え、いえ……生憎と私はそういったものには疎くて……」

 

「仁慈はどう?わかる?」

 

「そうだなぁ……大方、愛が深すぎるからとかじゃないかな。ほんとにどうでもいい相手には何もしようと思わない。むしろ存在すら認知しないからなぁ」

 

「ん、正解。好きなものに裏切られたとき、人は恨みを持つ。愛憎劇なんてその典型的な例じゃないか?だから、多分。あの真っ黒黒助は基本的に人間が大好きなんだろ」

 

『かもね。まぁ、今はこんな時代というかこんな状況だ。縁があればまたすぐに会えるだろう。なにはともあれお疲れ様。両儀くんの歓迎会もあるし、なるべく早く帰ってきなよ』

 

「お、気が利いているな胡散臭いの。ストロベリーのハーゲンダッツよろしく」

 

『高い!遠慮がない!そもそもコンビニなんてないから、それは―――』

 

『フッ、私の出番のようだな。……行くぞドクター。冷蔵庫のスペースは十分か?』

 

「何やってんですかエミヤ師匠」

 

 最後の最後で話が脱線してしまったが、それでも、まぁ、平和に解決したとも言えるだろう。

 

 まぁ、小川ハイムに行ったごく一部のサーヴァントにはこれから仁慈の説教が待っているのではあるが、仕方あるまい。

 

 みんなで笑い合う光景を見て、フォウを抱えたマシュは柔らかく微笑んだのだった。

 

 

 

 

 




まぁ、あの前書きのことは冗談として、実は仁慈を倒すということに対して最も相性がいいのは巌窟王です(唐突)

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