五章はもう少々お待ちください。
ま、休みがもうすぐ終わってテストやらなにやらが始まるので、ここまで早いスペースで更新することはもうできないとは思いますけれども。
―――――801号室、もしくはぐだぐだ本能寺 劇場版ノブの境界 炎上螺旋
「……」
「……」
『……』
「……」
扉を開ければあらびっくり、こんな変化は他になかったというレベルでその一室はおかしかった。まず目に飛び込んでくるのはどこかで見た覚えのある燃え盛る寺。五階で遭遇した大死霊の部屋ですらここまで空間を無視するようなものではなかったというのに、これを作り出したであろうノッブはそれを更に超えていた。うちのサーヴァントは本当に大人しくできない連中ばかりである。これはカルデアに帰った後、
カルデア組はもうこれだけでここに誰がいるのか理解できてしまえるために、呆れたような疲れたような顔をしている。式も、どうなってんだと少々その表情を険しくした。
そんなどう考えても歓迎されていないという雰囲気の中で堂々と馬鹿笑いをしながら現れる人影が一つ。もう、隠す必要もないだろう。この部屋を不法に占拠しているカルデア三大問題児のうちの一人、第六天魔王織田信長である。
「よくぞたどり着いたカルデアの精鋭たちよ。ここに坐は第六天魔王、つまりはわしじゃ!」
「よーし、ノッブ。今から大人しく帰るか、今すぐ串刺しにされるか選ばせてあげちゃうぞー」
「もう既に槍を投擲しているんじゃが!?」
当たり前だろう。見た感じどう考えても変質しているというわけではなさそうだ。というより、俺たちのカルデアでヒロインXとタメはれるレベルのギャグ補正を持っているノッブがそうやすやすと闇落ちするとは限らない。ここの部屋がどこか本能寺染みてるとかその他諸々突っ込みたいところもある気がしなくもないが、気にしなくてもいいという精神で俺は往く。
ノッブ、俳句を読め。カイシャクしてやる。
「ま、待て待て待て!ちょっとはわしの話を聞いてくれてもよいではないか!?わしとて一々お主を困らせる……というか、怒らせるようなことをするはしないぞ!?だってどれだけ容赦がないか知ってるからネ!」
是非もなし。敵と意図して足を引っ張る仲間に容赦など不要。敵ならば滅殺し、足を引っ張る仲間であるならば調教、もしくは教育するに決まっている。今回ノッブは後者……つまり、一回ボコボコにするということだ。
「確かにそうですね。……先輩の恐ろしさを知っている信長さんが、態々こんなことをするなんてことは考えにくいです」
「恐ろしさって何?」
久しぶりに喰らったマシュからの口撃に心を痛めつつ、ノッブの言い訳を聞いてやる。
『なんだろう。遺言を許したようにしか感じられない』
失礼な。
「おう、わかっておるのうマシ―――いや、マシュマロサーヴァント!」
「先輩、やっぱりやっちゃいましょうか。相手は信長さんです。どうせ碌な理由じゃないでしょう」
「熱い手のひら返し!」
ギャグキャラ特有の自らを追い詰めていくスタイル……。ノッブも学習しないなぁ……。一応一度了承した手前もあるので無言でノッブの言い訳を聞くスタイルに入る。さっきまで味方だった対俺特攻のマシュを失ったせいか、先程よりも若干震えつつ、ノッブは口を開いた。
「わしはな、腹を立てているんじゃ!誰に対してか?それは当然あの人きりじゃ!あいつがな、『いやー、素敵で可愛い沖田さんは今日もがっぽりとフレポ稼いじゃいましたー!ちなみにノッブのフレポは……あっ(察し)』と、煽りおるんじゃ!全く、イベント中はノッブ可愛い、ノッブ最高!とか言っていたのに……イベント終わったとたんに沖田ばっかり活躍しているんだが!?」
「仕方ないね」
沖田は強すぎるから仕方ないね。大体俺のフレンドは諸葛亮孔明先生か沖田さんだからね。セイバー層が薄い俺としては大変助かっています。……まぁ、彼女が最終霊基再臨まで行かなかったことも拍車をかけているんだろう。あのイベント、鯖がいなかった人には辛すぎたからな。復刻はよ。
まぁ、それはともかく。
「だからこそ、わしはここから、ノッブのノッブによるノッブの為の新イベント、劇場版『ノブの境界』の礎となってもらうことにしたのだ。わはははは!」
――――だからと言って、謎の特異点に引きこもることを正当化できたわけではないからな?
式に誰かと聞かれ、無駄にご丁寧に返すノッブを視界に収めつつ、俺は槍を投擲、それと同時にノッブの死角を縫ってその身体を彼女の背後に滑り込ませた。
ギリギリで槍の存在に気づいた彼女はそれを華麗に回避すると同時に、背後に居た俺の存在にも気づいたようだ。どこから出したんだとツッコミたくなる場所から火縄銃を二つ取り出し俺に発砲する。
マスターに対して容赦のない行動だが、そんなことは関係ない。予め取り出しておいたナイフと短刀を使って迫り来る弾丸を両断、そして丁度、後ろを向いたことにより背中側に居るマシュに指示を出した。
聡い彼女は名前を呼ぶだけで俺の指示を把握したのか、盾を構えて真っ直ぐノッブに向けて駆けだした。式はそんなマシュの盾に隠れるようにして追従する。ノッブは背後に迫るマシュの存在に当然気づいているが俺のことを警戒して中々背後に振り返ることができないでいた。
そんなことをしているうちにマシュがノッブを自分の攻撃範囲内に捕らえる。このまま挟み撃ちはマズイと彼女はダンッと元床、現燃え盛る地面を蹴り咄嗟に右側に避けるが………盾から飛び出した式には気づけなかったようだ。
「げっ!?初対面の人!?」
「じゃあな!」
「なんの!このノッブ、そうやすやすと倒れん!」
「いや、倒れろ」
「ファ!?」
残念ノッブ。
ぶっちゃけ、君も俺達三人が来た時点で詰んでいると言ってもいい。むしろ契約が切れていない以上ノッブはどうあがいても俺に勝てない。一応こうした戦闘の形をとっているけれども、令呪があるからねぇ……。ま、というわけでおとなしくカルデアに帰ってくれ。
「震脚、肘撃、そして、靠撃!」
「容赦の欠片もないネ!ぐぼぁ!?」
ここ最近使っていないことで若干錆び付いている疑惑がある八極拳を用いてノッブの身体をフッ飛ばす。何かを諦めたような顔をした彼女は、抵抗も虚しく遥か後方に吹き飛ばされていった……。
「……わかっていたとはいえ、本当に容赦がないの。まぁ、お主と敵対した時点でこの結末はわかり切ってたけどネ。……ではわしは一足先に帰るとするかの。お主たちも心残りなどないようにしておくんじゃぞ?コラボイベントはその機会を逃すともう取り戻すことはできないのだからな。ノッブとの約束だぞ?」
最期まで若干メタメタしつつノッブは消える。その消え方にマシュは暗い表情を浮かべるものの、別にそんな必要はない。恐らく彼女のことだ、忽然とひょっこりと現れるに違いない。
「いやー、今日も沖田さんは大活躍でした!ノッブー、帰りにアイス買ってきましたよー!何味がいいですか?」
「わし抹茶!」
「えっ」
フラグ回収が早いなぁ……。
帰ったはずのノッブは何故かいた沖田のアイスに反応してちゃっかりここに戻ってきていた。アイス食べ終わった後に帰ってくれるならいいけど、もしまた残るようなら今度こそ令呪使おう。
「あ、オレはストロベリー」
「式も要求すんのかよ!」
―――――804号室
「最後の住民は私ですかそうですか!しかし、文句はいいません。こうしてマスターが迎えに来てくださったんですから。……ですがマスター申し訳ありません。私はまだ帰るわけにはいかないのです。そう……後から来た新参者の分際で、なんだか物凄く大きくなった乳房をこれ見ようがしに揺らして自慢し来たアレを倒すまでは……!」
「………いやー、見事なまでに予想通りだなぁ。ねえ?マシュ」
「はい。先程の信長さんの件と言い、どうやらこの階の空間は歪んでしまっているようですね……」
何やら復讐の炎を燃やしているヒロインXではあるが、一つだけ引っかかることがある。彼女があれなのはいつものことなのだが、恐らくいま彼女が殺したいと言っているのは四階で遭遇した槍を持ったサンタオルタのことだろう。しかし、彼女ではヒロインXがここにくる理由にはなり得ない。何故ならサンタオルタの変化はこの特異点擬きに来たことによるものであり、ヒロインXには知りようがない事実だからだ。このことから、ほぼ確実に彼女がほかの目的でここに来たということになる。まぁ、サンタオルタの変化を知ってここに来た可能性が無きにしも非ずだが、カルデアからそこまで詳細なことを知らされなかった以上それも難しいと思う。
このことが、気になったので、とりあえず本人に聞いてみた。
「え?私がここに来た理由ですか?ええ、元々私がここに来た理由はこの特異点に好反応のセイバー反応をキャッチしたからです。それはもう、これを知った瞬間に行くしかないと思いましたね。だって、その反応はアルトリア顔が出すものとほぼ一致していたのですから。すべてのセイバーと戦うことは私のノルマですが、全てのアルトリア顔を殺すのは私の悲願です。その二つが合わさり最強に見えた結果私は今ここに居ます」
大体いつも通りだった。
しかし、ここで一つ疑問に思うことがある。ここにあの槍トリアを越えるほどのアルトリア顔にしてセイバー反応を出すような奴なんていただろうか?マシュも心当たら胃がないらしい首を傾げていた。アルトリア顔ということならなんとなく式がそう見えなくもないと言ったところだが、彼女はアサシンだ。うん。そんなことを思いつつ彼女に視線を向けてみると、
「もう。なにをしているの二人とも。早く戦闘の準備をしないと。宇宙の生き物なんて――――あら珍しい。鮮度が落ちる前に切れ味を確かめておかないと」
なんちゃらマーダー擬き戦でとても活躍してくれたお淑やかな式が、花柄の着物と後ろで団子を作ってまとめた髪型で佇んでた。その表情は興奮しているのか、微妙に頬が赤くなっていて大変色っぽい。言っていることはかなり物騒だけど。
「えっ、何ですかこの人。着物に日本刀とかガチ過ぎて怖いんですけど。……しかもどうして私が宇宙から来たギャラクッティックセイバーということを知っているんですか。やっぱり超怖いんですけど。……なんかこの人にはギャグ補正も仕事しない気がしますし……」
あのヒロインXがガチ引きである。これは珍しいものを見たと思ったが、相手があの式なら仕方ない。あの人の強さは近くで見ていた俺も自覚済みである。
「…………すみません、やっぱり人違いでした!マスター私大人しく帰りますので、何とかしていただけませんか!」
「まぁ、素敵。勇ましいだけじゃなくて奥ゆかしさもあるのね。ますます弄りたくなっちゃうわ。お相手してくださらないかしら旅人さん?私、こう見えて十字に斬るのは得意なの」
「ごめん。これは多分俺にも止められないと思われ」
「よーし、緊急脱出失敗!我ながら自業自得ですかそうですか!マスター、何とか直死の魔眼なんてチートは使わせないようにお願いします!」
「努力はしてみる」
覚悟を決めたらしいヒロインXは、勇ましく初めから全力で式に襲い掛かる。一方の式はとても余裕を持った表情で日本刀を構えたのだった。
「当たり前のように戦闘描写はカットですかそうですか。せっかく華麗な私の勝ち姿が……」
「嘘つくな」
戦いを初めて数分。ヒロインXはそれはもう抵抗した。物凄い抵抗したのだが、やっぱり式さんには勝てなかったよ……と言わんばかりに床に倒れ伏している。むしろ、この状態の式にある程度対抗できた彼女を褒めたたえたい。
「くっ、ま、まぁいいです。とりあえず、ここでの用事が解決したということであれば用はありません。私はこの特異点が消える前に下にいるであろうアレを滅殺してきます!それではさらばです。そこのセイバーさんも、今度会ったらおせちでも食べさせてください。では、アディオス!」
それだけ言い残すと足早に消えていくヒロインX。どうやら彼女にとってこの式は天敵とも言える存在らしい。終始借りた猫みたいになってたからなぁ。
「ヒロインXさん、無事に撤退してくれました。恐らく、すぐに帰って来てくれると思われます」
「それはよかった」
あれでもうちのカルデアの中でもトップに位置するサーヴァントだからな。こんなところで何かあったら困る。
「残念。せっかく星を斬るチャンスだったのに。次会ったら、まずあのくせっ毛を斬り落とすわ」
「やめたげてよぉ!」
それはヒロインXにとって死活問題ではないのだろうか。というか彼女のアホ毛は取ってはいけないと俺の勘が囁いている。それに、その式にも生えているアホ毛を斬ってしまっていいのだろうか。
「あら、私にもあるの? なら、斬ってしまうのは善くないことね」
よくわからない理論だが、彼女は納得したらしい。俺はひとまずヒロインXのアホ毛の無事を確保することができたのでホッと息を吐くのだった。