この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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プライミッツ・マーダーの霊長類に対する絶対的殺害権って具体的にどんなの何でしょうか?うーむむ、わからん。

なので、その辺結構適当です。ツッコミどころは多々あるかもしれませんがなるべくスルーでお願いします。


その根幹は

 

 

 

 

 

 なんだかんだでマンションの半分ほど上り詰めた俺達。まともに戦えば強敵だったであろうサンタオルタ(槍)から上に行く許可を貰い、そのままに上に行くことが解決への最善の近道なのだが……所変わってマンションの敷地内にある茂みに足を運んでいた。

 マシュやロマンは俺の行動が理解できないらしく「何をやっているんだ?」という視線を向けられるが、正直俺にもわからない。只一つ言えることと言えばかなり面倒くさい奴がここに巣窟っているということだけだ。むしろ、これの所為で上に上がれなかったと言ってもいい。

 俺の行動に何かしらの意図があることを察したマシュが俺に問うてきた。

 

「先輩、どうかしたんですか?」

 

「いや、なんとなく何かが居ると思ってちょっとね……」

 

『………仁慈君が気にかけるほどの相手だって?そんな馬鹿n―――――………』

 

「ドクター?……ドクター!………ダメです。カルデアとの通信、繋がりません」

 

 ロマンが何やら失礼なことを言っている途中、不自然な形で言葉が切れる。それと同時に俺の曖昧だった予感が確信へと変わった。ロマンの通信が聞こえなくなったと同時に俺たちに絡みつくかのように不快な感情が渦巻き始めたのである。それは人間の持つ感情の中で最も根強く、最も厄介で、最も……感情を抱いた本人に牙を剥く感情……憎悪だった。

 

「……?式さん?」

 

「ったく、仁慈の勘もここまで来れば異次元だな。何でここまでやばそうな奴をホイホイ見つけるんだか……おい、そこの隠れて居る奴、出て来い。オレたちの寝首を掻くのであれば睡眠中を狙うんだな」

 

 マシュをさりげなく下げつつ、言葉を投げかける式さんマジイケメンだと思います。

 心中、馬鹿みたいなことを考えてはいるものの、警戒を怠るようなことはしない。明らかに怪しい場面で気を緩めるなんてどうぞ殺してくださいと宣言しているようなものだからだ(洗脳済み)

 

 おそらくカルデアとの通信を妨害しているであろう存在はそんな式の言葉に返事をしつつその姿を現す。

 

『殺意など抱いていない。俺が抱くのは、正当な憤怒だけだ』

 

 現れたのは、黒。

 これ以外に表現の仕様がない存在だった。気配は感じる。朧げではあるが、人型ということも判別できる。サーヴァントという魔力も感じはする。しかしそれ以外は驚くほどに見通せない。性別、外見、得物、まるで、小学生になってしまった高校生探偵の物語に出てくる犯人の如くだ。

 

「サ、サーヴァント!?でも……見えない、何も見えません!シャドウサーヴァントのように真っ黒なのに、全く違うものです!それに、今までのどのクラスにも該当しません!」

 

 混乱極まる様子で叫ぶマシュ。俺たちが知っているクラスと言えば、マシュが該当しないと言われた通常の七騎とオルレアンで会ったルーラーのだ。だが、どのクラスにも該当しないと言われている以上、ルーラーということもないだろう。そもそも、あのような真っ赤でドロドロしたものが調停者(ルーラー)だったら色々やばいと思う。正体不明の敵と遭遇した場合の対処は色々あるが、最も確実なのは撤退だ。この時、相手の情報を奪い取ることができればいいのだが、未知の敵である余計な行動は極力なくしたほうがいい。………ま、その最善を俺たちが取れるかと言われればまた別の話なのだが。

 

『フン……そんなことは、どうでもいい。オレが言いたいことは、唯々オレの邪魔をするなということだ。……ここにいる魂は生ある時から報われず、無念から死を迎えることすら叶わない。安寧を捨て、無を選んだ敗北者。生に見捨てられ、死にすら置いて行かれたもの―――そう、名前もなく姿もない怪物どもだ』

 

『彼岸にすら行き場のない魂に、安息を。地獄が彼らを拒否するならば、新しい地獄を作る。この塔は怨念に満ち満ちてなければならない。それこそが、我が信仰にして存在意義なのだから』

 

 言いたいことだけ言って、その黒い影は消え失せる。おかげで俺たちの周囲を覆っていた不快な感情は消え失せた。まぁ、その代わり――――

 

『――――、――――――』

 

 ――――――超弩級の面倒事を置いて行ってしまわれたのだった。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「フォウ、フォウ、フォーーウ!」

 

「かつてないほどフォウさんが興奮しています!」

 

「動物の本能か何かであれがやばい奴だってわかったんじゃないかな。もしくは、単純に驚いているか」

 

 軽い言葉を返している仁慈だが、決して彼は余裕というわけではなかった。彼の額には傍から見てもわかるくらいの冷や汗が流れている。彼は理解しているのだ。ケルトによる無茶無謀の訓練によって培われた、獣にも負けない第六感によって、目の前の存在は自分たちにとっての天敵であると。

 それを理解しているのだろう。外に出てから一言話すことなく、静観に徹していたメフィストフェレスが、彼にしては珍しく本当に心から惜しいと思っているような表情を浮かべつつ言葉を紡いだ。

 

「あーあ、これはいけません。いけませんよぉ、マスター・仁慈。あれは超回復、超体力、超スキルというチートを人類に対する度を越えた恨みだけで搭載した、怨念の最終形態みたいなやつです。魔術世界には、霊長類だけ確実に殺害するなんちゃらマーダーっていうやつがいるみたいですけど……目の前のあれはそれの一歩手前に位置している名もなきゴーストのようです」

 

 メフィストフェレスの言葉を心の中で吟味して飲み込む。つまり、目の前のこれは霊長類特攻という馬鹿みたいに範囲の広い特攻を引き連れて戦ってくる連中ということなのだろう。くっそ、人外特攻とか使っている俺が言えることじゃないが、卑怯臭いぞと仁慈は心中でごちる。

 

「あぁ、全く以って残念です。マスターの破滅は私の望むところですが……ほら、私達ここで全滅してしまいますし?」

 

「その言いよう……いや、何も言うまい。後で色々清算させればいいだけだ」

 

「おや?その物言い、もしかして勝つ気でいます?アレに?あなた様の天敵にですかァ?………ほっ、それはそれは。しかしぃ……やる気をそぐようで悪いのですが、不可能ではないかと思いますよォ?」

 

 仁慈は実感がわかなかった。超回復、超体力、超スキル――なるほどそれはすごい脅威だろう。この戦力では対抗は難しいかもしれない。霊長類を確実に殺害するという意味も正しく理解できていない。撤退が可能であればもちろん仁慈は迷わずその手段を取る。

 が、この状況で撤退をできると思っていられるほど彼の頭はおめでたくない。具体的な手段が分からないが、向こうが霊長類に対する絶対的な殺害権を持っているのだとすれば、ここに居ようと逃げようとしても無駄なのだろう。なら、かけるしかないではないか。呪いのようなものでなければなんとでもなる。何より、こちらには式がいる。彼女であればおそらく葬ることも不可能ではない。不思議な力によって殺されそうになっても隣に居る霊長類か怪しいメフィストフェレスを盾にすればいいとすら思っていた。

 

「もちろん、逃げられるなら逃げる。……でも、それが無理なら戦うしかない。……戦わなければ、生き残れない」

 

 その言葉には仁慈のすべてを含んでいる言葉だったと言えよう。彼の人生、ごくわずかにして一部の時間にしても、そう考えなければいけなかった時期があったからこそ、言えるのだ。

 

「―――――――えぇ、その通り。諦めるには早すぎるわピエロさん」

 

 仁慈の言葉を肯定する声が横から入る。

 それはその場に居る人間にとって聞いたことのある声音でありながら、それを全く感じさせない何かを纏っていた。……ただ一人、仁慈を除いては。

 

「相手が本物のガイアの怪物なら仕方がないけれど、実際はアラヤの怪物の劣化品。相手が死に狂った末の亡霊なら、こちらも死に物狂いで戦えばいいだけですもの」

 

「し、式さん――――え、ええっ!?」

 

 マシュが驚くのも無理はない。聞いたことのある声とはそれ即ちこの特異点擬きで行動を共にすることになった式の声だった、それは間違いない。だが、マシュがいざそちらの方を向いてみれば、確かに外見こそ式だが、その恰好は白を主にした着物に身を包み、日本刀を携えているのだから。

 

「はじめまして、マシュさん。そしてこんばんは、仁慈君」

 

「こんばんは。……意外と早い再会だとは思うけど」

 

「あら、もしかしてもう私と会うのは嫌だったのかしら?」

 

「そんなわけないです(迫真)」

 

「ふふ、即答ね。……ま、今回は、相手が相手だし、仁慈君も()()()()()()()()()()()()こうして出てきちゃった。少しの間だろうけれど、もし私でよければ使ってあげて」

 

 そうやって微笑む姿は、外見が式と全く変わらないにも関わらず、本来の式とは正反対の印象を覚えると仁慈は感じた。ついでにその意味深な発言もやめてほしいと心底感じだ。

 

「せ、先輩!式さんが……式さんが……!なんというか、こう……いつの間に着替えたんですかとか、そういうことではなく……花が散るほど穏やかな女性と言いますかっ!風光明媚とはこの事ではないでしょうかっ!ぶっちゃけますと、先程までの式さんとは比べ物にならないくらい女性的です!」

 

「あら、驚くのはそこなのね。普通の女の子っぽくて不思議だわ。それにしても、貴方本当に戦いに向いていないのね。そこは、少しだけ残念だわ。……あと、あの子も可愛いところ、たくさんあるのよ?中々出さないから……こんな風に思われてしまうけれど」

 

『――――――、――――――――!』

 

 変質かそれとも変身か、もしくは変心か……どれか説明は着かないものの、お淑やかさマシマシの式が現れると先程まで霊長類ということだけで反応していた亡霊が、意識的に理解できない音を発する。それはまるで、この状態の式を警戒しているようだった。

 

「……もう風情のない。せっかく悲しくてあったかい気持ちだったのに……。ここまでのものが育つなんて土地が悪いのね。そうに決まってるわ。………さて、仁慈君。準備はいいかしら?大丈夫、余計なものはすべて私が引き受けてあげる。だから、普段通り、己の往くままに戦えばいいの」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて。――――マシュ!」

 

「はい!マシュ・キリエライト、何時でも行けます!」

 

 亡霊には物理ではなく、槍の方がいいといつもの得物を取り出す仁慈と彼に応えて、盾を構えるマシュ。メフィストフェレスはその展開に目を細めながら舌を出して嗤っている。まさにお手並み拝見といったところだった。

 

「――――さて、私としても、地獄を作るだなんてことは見逃せないわ。それは閻魔の仕事ですし何より恨み声の蓄音機だなんて地獄の鬼ですら真っ平ごめん―――――その見果てぬ夢ごと、両義の狭間に消えなさい」

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

『――――、―――――――、―――』

 

 人類への恨みを溜めに溜めた亡霊が声なき声で叫びあげる。それは、その名もなき亡霊に与えられた権限。目の前の霊長類を葬る力。ひとたび受ければ耐えることなどできず、人類であれば死ぬしかないものだ。

 けれども、今の仁慈達には心強い味方がいる。……長く白い振袖を纏いつつも乱れのない式の剣先が亡霊の権限を、呪を、無効化していく。彼女がいる限り、そういった攻撃は不可能だ。本物の足元にも及ばない、贋作ですらない劣化品ではそれも当然のことだろう。だが、それを差し引いても名もなき亡霊が持つ数々の能力は脅威となるだろう。それは、式の眼に頼らざるを得ないほどに。

 

「」

 

「はぁ!」

 

 が、だからと言って彼らが戦わない理由にはならない。インチキ効果を防いでくれている時点で式は十二分に働いていると言える。そこから更に敵を倒してくれなんて何もしないうちから口にするほど仁慈は堕ちていなかった。戦わなければ生き残れない、この言葉を実行するためにも彼は己の槍を振るう。

 彼のもつ槍だって、仁慈の現代人とは思えないイカレタ経歴を元に、人外殺しという概念として纏っている立派な魔槍だ。劣化品であれば効果のほどだって見込めるだろう。

 

『―――――――!』

 

「っ!今ですっ!」

 

「――――――刺ッ!」

 

 たとえ、確殺の概念を飛ばしてこずとも、人間である仁慈にとっては敵すべての攻撃が致命傷となる。一撃で殺されなければ魔力にものを言わせた回復魔術も使えるが、それには隙ができるし、何より後々の戦いに響きかねない。何より、人間の耐久値で一撃死しないなんてことは、仁慈が反応できなければ在り得ないのだ。故に、彼はマシュを信頼している。彼女であれば自分を守ってくれると信じている。だからこそ、こういった場面に置いて仁慈は無茶な攻撃に移ることができるのだ。

 

 人外殺しの概念を纏いし槍が亡霊を貫かんと迫る。だが、相手も一筋縄ではいかない。彼らはあらゆる死を集め飾ったこのマンションでその内に秘めたる怨念を貯め込み続けたのだから。彼らは亡霊らしからぬ動きで片腕だけ犠牲にする形で仁慈の攻撃を回避する、それと同時に反撃に転じた。

 だが、疑似オワタ式を採用している仁慈がその程度の反撃を予測できないわけがない。突き出したままの勢いを利用し、体を回転させる。突きという攻撃の勢いを利用し、威力をました薙ぎ払いと化した攻撃をそのまま反撃に転じた亡霊に直接叩きつけた。吹き飛ぶ、とまではいかないが、それでも確かにその動きにふらつきが見えたため、マシュがここで追撃として圧倒的質量を持つ盾を押し出した。亡霊にして質量に押し出されるという矛盾を孕みながら、吹き飛ぶ名もなき亡霊。しかも、その吹き飛ばされた先には運が悪いことに、刀を抜き放って亡霊を見据える式が居たのだ。

 

 さて、ここで問題だ。先程仁慈は既に十二分に働いている式にこれ以上の仕事を押し付けるのは申し訳ないということと、自らの考えのもとにこの相手と対峙している。が、彼は考えていなかったのだ。態々出てくるほど、こちらに味方してくれている彼女が今更、アラヤの怪物にすらなり切れていない存在をその一太刀の元に切り伏せるくらい大した労力とは言えないと。むしろ、彼女は喜ぶだろう。自分が出てくるだけの価値はあったのだと。己が救った人間は確かにいるのだ、と。

 

 こうして、仁慈はとくに活躍することすら叶わず相手を倒されてしまったのである。この男、最近色々重なり過ぎである。しかし、あの式が出てきてしまったら仕方がないとは思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あ、一応、このカルデアに居ない英霊は外します。
なのでサーヴァントはあと三、四体ってところです。

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