この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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あー……早く最終章書きたいです。
最終章で生命院サブナックに「誰てめぇ」って言わせたいです。


小川ハイム 一階

 キィン!

 

 金属同士がぶつかり合った時に聞える不愉快な高音を鳴らしながら俺と、着物ナイフの女性はお互いに逆方向へと弾かれる。厄介だ。なにをどうしているのかはわからないが、彼女はこちらの武器を大体一回の攻撃で破壊してきている。種は全く分からないがある程度の条件くらいならよめた。彼女は俺達に攻撃を乗せる際に、人体の急所や、それ以外のとことを見ている時がある。特に武器などの場合はそれが顕著だ。恐らく、彼女はものを一撃で壊せるところを読むことができるのだろう。人体に関して言えばわからないが、マシュの盾にも所々傷がついているところから、人体および、サーヴァントにも効果があると推測するべきだ。

 なので、それに気づいてからはもっぱら俺は彼女の視線のみに注意を向けていた。彼女が狙うのは一撃で壊せるところ。ならば、彼女の視線から狙いを読み、ずらしてやれば回避は可能ということ。

 

 というわけで、まともに打ち合えるようになってからはこのような硬直状態が続いている。こちらが二対一で有利なはずなのだが、如何せん向こうは勘がいい。マシュや俺が攻め手に回る瞬間を巧みに読み取り、深追いせず戦線を維持しているために決定打にかける状況となっていた。

 

「………やめた」

 

「……えっ」

 

 そんな中、もう何回目か数えるのも面倒くさいくらいの打ち合いを終えて、お互いに吹き飛んだ時唐突に相手方がそう呟いた。

 

「途中から、対応してきたのは面白かったけど、アンタ真面目に戦う気ないだろ」

 

 別にそういうわけじゃない。ただ、あの夢の人がちらついていて力を出せないというか、その能力が厄介すぎてまずは対処優先で動いていたといいますか……。はい、正直に言います。ぶっちゃけ、その能力が怖すぎて無意味に手出しできなかっただけです。普段は俺がやっていることをまんまやり返された感じがしたわ。

 

「別にそういうわけじゃないんだけど……」

 

「まぁ、集中してないなら、それでいい。アンタはアレらの仲間じゃなさそうだし。突然斬りかかって悪かったな。じゃ、そういうことで」

 

「えっ……!ちょっ……!?」

 

 余りに流れるようにどこかに行こうとしたのでかなり動揺したようにマシュが慌てて止めに入る。ついでに彼女が急ぐ理由もどさくさに紛れて聞いてみた。

 

「?どこに行くかって、それはもちろんあのマンションを解体しに行くんだよ。あんなの放っておけるわけないだろ。中身ホラー映画みたいになってんだ。動く死体とか、幽霊とか、そういうのが跋扈してんだよ。ここ最近、あのマンションに移り住んできたそこの盾持ってる奴みたいな存在がな」

 

『サーヴァントの所為だって?』

 

「ああ。おかげでここはお祭り騒ぎだ。サーヴァントって実態持ってる幽霊みたいなもんだろ?そりゃ、他の連中も調子に乗るさ。……ま、ここではオレもそのサーヴァントってものにさせられてるんだけど」

 

「おおかた、ここに因縁があるから呼び寄せられたんだろ。ホント、いい迷惑」

 

「……えーっと、つまり、我々の目的は一致している、とみていいのですか?一応私たちもあのマンションに移り住んでいるサーヴァントに用事がありまして……よければ橋梁区などは……」

 

「嫌だよ。そこにいる奴、マスターなんだろ?そんなことしたらそれこそサーヴァントみたいだ。オレはたまたま呼ばれただけの異邦人。誰とかかわる気もな―――――」

 

「フォーウ、フォーウ!」

 

「…………」

 

 あ、勝ったわ。

 マシュの勧誘に難色を示す着物ナイフの女性だったが、マシュの盾からひょっこり顔を出したフォウを見て、表情を固まらせ、チラチラと見ている姿を見たとき、これは同行が許されますわと確信した。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 フォウが発する無敵のマスコットパワーにより、着物ナイフの物騒な女性改め両儀式が仲間に加わった。マスコットの力は万国共通と見える。もうフォウが最強でいいんじゃないかな。

 

 彼女が仲間に加わったことにより、あのマンションの実態が少しだけわかった。色々な仕掛けと動く死体、幽霊が闊歩しているらしい。あとマンションの背景としてはとある魔術師があらゆる死を蒐集しようとした場所でもあるらしい。なんとも物騒なところである。

 

 そして、最後に彼女の持っていた能力について、ロマンから説明が入った。なんでも彼女は魔眼という神秘を帯びた眼を持っているらしく、この式が持っている魔眼はその中でも一番上位に値する虹色を帯びた眼。死の概念を直接捉え干渉する眼らしい。

 まぁ、流石に見ただけでは殺せないようだが(殺せたら俺たちはもう死んでいる)それでもモノの寿命を見ることはできるらしく、そこを切るかなぞるかしてものを殺していたらしい。師匠お手製の武器が次々と犠牲になったのはそういった背景があったとか。避けといて正解だったわ。

 

 と、まぁそんなこんな話しつつ、式曰く小川ハイムの中である。

 確かにこれは幽霊マンションと呼ぶにふさわしい。そこら辺ふよふよゴーストが浮いているし、死体っぽい何かが闊歩していた。それらを三人で蹴散らしながらとりあえず近くに会った101号室と書かれた部屋の扉を開いてみる。

 

「ちなみに、どの部屋に何が居るのかとかわからないの?」

 

「知るわけないだろ。そもそも、そいつらがお前たちの知り合いかどうかもわからないしな。一個一個地道に確認するしかないぞ」

 

「うわぁ……」

 

 どうやら結構な数があるこのマンションを一つ一つ探していかなければいかないらしい。面倒だと考えつつ、中に入ってみるとそこには――――

 

「―――お、オォオオオオオオオオオオ!!」

 

「すみません間違えました」

 

 何やら憎悪に塗れた長身の男が居たので思わず扉を閉めて退室をする。……あれはカルデアに居たサーヴァントじゃないし、普通にスルーしてもいいんじゃないかな。見たこともなかったし。

 

「先輩、あれは……」

 

「なんだ、あいつはお前らの知り合いじゃないの?」

 

「知らない人ですね」

 

 関わり合いなんて一切ない。見たことくらいはあるかもしれないけど、少なくとも目的のサーヴァントじゃないことは確かだ。

 

「あ、そう。でも無視は許さねえよ。ここにいるサーヴァントは例外なく帰してもらうから。マスターなんだろ?」

 

「別にあの人のマスターってわけじゃないんだけど………」

 

 まぁ、一応こっちは式に協力を依頼している立場だし、利害の一致っていうことになっているし処理しますけどね。

 先程閉じてしまった扉をもう一度開けて、中で恨みつらみを呟いている男のサーヴァントと向かい合う――――――――――こともなく、式、マシュと共に死角に入り込み、その首を一閃。速攻で座におかえり願った。

 

『サーヴァントランサーの消失を確認。相変わらず容赦がないなぁ……』

 

「まだるっこしいことをしないのはいいことだ。それに首を撥ねに行くのもいいセンスしてるぜ」

 

「物騒ですね。式さん」

 

「倒すにはこれが一番早いってだけだ」

 

「ま、次行こうか次」

 

『………怖いなー。この人たち超怖いなー……』

 

 まぁ、是非もないよネ!ということで、次行ってみようか。

 

 

 

―――102号室

 

 

「―――着いたぜ。ここ、表札ないだろ。間違いなくサーヴァントが住み着いてる」

 

「どうしましょうか?」

 

「ちなみに、扉を開けて、部屋の中爆散っていうのは?」

 

「認められるわけないだろ。部屋の中での戦闘は認めるけどな。流石に部屋ごと吹っ飛ばすのはだめだ。そら、今回は特別にそのカギをくれてやるよ」

 

「ダメか……」

 

「それはそうでしょう……では、先輩。開けますね」

 

 よくよく考えてみれば、下の階をぶっ壊してマンション自体が落ちてきたりでもしたら目も当てられないか。では仕方がない。なるべく先手を取れるようにしておこうと考えつつ、マシュが開けた扉をくぐった。

 

 

「ええ、ええ。ようこそ、カルデアのマスターにデミサーヴァントのお嬢さん!この怨念渦巻く部屋に転居したるはもちろんこの私。悪魔メフィストフェレスでございますとも!」

 

「さて、処理するか」

 

「OH!情けも容赦も尺もないとございましたか!いいのですかぁ?私はこの事件の黒幕ですよぉ~?」

 

『あっ』

 

「ギルティ」

 

「よし、やっちまうか」

 

「えっ……?えっ!?話とか聞いたりは――――――」

 

 メフィストフェレスを突いてもまともな話はできないのでやるべきことは一つ。とりあえず駆除安定です。

 

 

 

 

 

 駆除しましたー。

 

 

「おぉ……なんということでしょう。ほんとに何もしゃべらせてもらえないまま倒されてしまうとは……。人の話を聞かないとはまさに悪手、敗着、駄目の極み……!推理ものなら迷宮入り待ったなしですよォ?けどまぁ、最近では犯人が序盤で死ぬものも結構ありますしぃ?精々面白おかしく頭をひねってくださいな」

 

 い つ も の。

 別にメフィストフェレスがそのまま事実を語るなんてこれっぽっちも思ってない俺としては別に惜しいことをしたとは考えてない。情報を引き出してほしいならそれ相応の信頼を築いてからにしてほしいもんだね。

 

「先輩、これでよかったのでしょうか?もしメフィストさんの言葉が本当なら、私たちは唯一の手掛かりを自分たちの手で壊してしまったことになります。ダメ探偵です……」

 

『うーん。探偵かぁ、探偵ものだったのかぁ……』

 

「犯人を自分で殺しに行く探偵ものとか嫌すぎるでしょう……?」

 

「殺ったのお前だけどな」

 

 まさか式からツッコミを入れられるとは思わなかった。

 

『けど、やっぱり惜しいことをしたかもしれないね。せめて尋問なんか行ってから倒すべきだったかも……』

 

「どうせ、何も話したりしないでしょ。メフィストフェレスだし」

 

「ええ、ええ。そうでしょうとも。私、カルデアのマスターがとてもよく理解してくださっていてサーヴァント冥利に尽きますとも!」

 

「せい」

 

「ヒョッホー!?」

 

 つい反射的に背後からメフィストフェレスの声がしたので、珍しく忍ばせておいた短刀をつかんで振り向きざまに水平切りを行う。が、その攻撃は奇声を上げながら頭を下げたメフィストフェレスに回避されてしまった。おしい。

 

「表情も変えずに斬りかかってくる……噂に違わぬキチガイぶりですねえ!」

 

「どこの噂何ですかねぇ……まぁ、いいや。とりあえずもう一回座におかえり願おうか――――」

 

「ちょーっとお待ちを。私実は、先程倒されたメフィストとは別のメフィストなんですよ。強いて言えば、先程倒しのは悪いメフィスト。ここにいるのは善いメフィストです!クフフっ、私悪いメフィストじゃないですよぉ(ニヤニヤ)」

 

「うわ、なにこいつ胡散臭いぞ」

 

「いつものことです。初見の時もこんな感じでした」

 

『なんでもいいけど、これは味方……ととらえていいのかなぁ……』

 

「味方にしても、いつ爆発すか分かったもんじゃない不発弾になると思うな……」

 

 悪いメフィストじゃないとか言いながらにやにや顔を浮かべている時点で怪しさ満点なんだよなぁ……。

 

「ご心配なく。この善いメフィスト、仁慈様の忠実(笑)なサーヴァントですよぉ?」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

『……………』

 

 胡散臭い。物凄く胡散臭い。これ以上ないくらいに胡散臭い。

 

『どうする仁慈君?処す処す?』

 

「とりあえず、この事件の真相を二行で語れば許す」

 

「お、いいね。そういうの嫌いじゃないぜ」

 

「えー、二行で語れとか流石に無理がありますよォ!まぁ、やりますけど(笑)私はハーメルンの笛吹、無実の客寄せ道化なのです!」

 

「二行です!」

 

「やればできるじゃないか」

 

 意外とノリがいいと判明したが、メフィストフェレスが黒幕ということはないようだ。思いっきり無実の客寄せ道化とか言ってるし、ただの勧誘要因ということなのだろう。

 

「その通りでございます。えーっと、たしか、私たちのクラスの一つ上?とって最も偉い?方に召喚されまして。『お前はこっちであれこれしてる方がそれっぽいだろ』とか言われてしまいまして」

 

 十中八九ソロモンだろうな。グランドキャスターとか名乗るくらいだし。メフィストフェレスのクラスもキャスターだったはずだからまぁ、間違いないだろう。

 

「それで私はその魔術王の隙をみて契約を解除して、こうしてあなたのことを待っていたのですよ!いや~信じていましたよ。人類最後のキチガイ――――失礼、マスターであるあなたが来てくれることを!」

 

「訂正できてないからな」

 

 このままこいつを連れていくことに言いようのない不安を覚える。正直、彼は居てもそこまで戦力にならないむしろ、戦況を引っ掻き回す可能性すらあるからここで始末しておいた方がいいんだけど……。

 

「フォウ!」

 

「先輩、フォウさんが先を促してますし、諦めて連れて行きましょう」

 

「………致し方ないか……。メフィストフェレス。裏切るそぶりを見せたら即座にその首を撥ねるから注意するように」

 

「ご心配なく。私勝者には絶対服従です。ええ、そもそも?物騒さで言えば、そこのアサシン嬢とどっこいどっこいですし?私も面白ろおかしく協力しますとも」

 

「…………だ、そうですが、そうなんですか?式さん」

 

「はぁ?あんなのと一緒にするな。ハサミよりナイフの方が切れるに決まってんだろ。それに、そこにもう一体物騒な奴がいるし、人のことは言えないな」

 

『ツッコムところそこなんだ!あと、否定できない!』

 

 否定してよ。

 

 

 

――――104号室

 

 

 

 悪いメフィストフェレスを倒し、善いメフィストフェレス(仮)を仲間に加えて再び外見と一致しないくらい長い廊下を歩く。その間の暇つぶしなのか、このマンションのことやメフィストフェレスが式の魔眼のことを聞いていた。

 なんでもあれが無機物だろうと幽霊だろうと死体だろうと問答無用に殺せるのは死、忘却、崩壊……あらゆる終わりを全て混同してみているからだという。聞けば聞くほど、とんでもない力だ。まぁ、その眼を通してみる世界はろくなもんじゃなさそうだけど。その辺に線だらけとかおちおち歩いても居られなさそうだし。

 

『―――仁慈君、気を付けて。その廊下の行き止まりにサーヴァント反応だ。今までの流れからして、絶対にまともなサーヴァントじゃないぞ!』

 

 ロマンの言葉を聞いて警戒レベルを上げながら、廊下の行き止まりまで歩いて行く。するとそこにはとても優しそうな表情を浮かべた金髪の青年。ついこの前一緒に事件解決に動いたジキルの姿があった。………ま、彼の来ている服にべっとりと赤い血がついている時点であの時に会った苦労人たる彼ではないことはわかってしまうのだが。

 

「ようこそ怨念の庭へ。歓迎するよどこかで見た気がする君。僕は四号室のジキル。この階の管理人でもあるんだ。……君たちはここに来てから間もないし、まだ変質もしてないんだね。なら上の階は早い。大丈夫、この寒さにも時期慣れるからさ。僕の部屋でゆっくりしていくかい?ちょっと散らかってるけどね」

 

 その声、その表情は確かに俺たちがロンドンでみたジキルそのものだ。しかし、その血は拭えよ。普段通りでも、そのほかのすべてがおかしい状況下であるのなら、普通が異常となるんだからさ。

 

「先輩、あのジキルさんは……なんといいますか……どこか恐ろしいです……」

 

「まぁ、腹に血がべっとりだもんな……」

 

「それに、メッフィー、汚部屋とか基本的に受け付けないたちなので。私、性癖を暴くのは大好きなのですが、見せつけられるのは嫌いなんですよねぇ……。というわけで、ジキル氏の誘いは断りなさいマスター。そもそも貴方もサーヴァント(従者)なら、片付けくらい自分でしたらどうなんですか?それともぉ―――――――アナタ、片付けられない方なんですかねぇ?」

 

 イイ笑顔である。確実にわかっているのに遠回しで攻めていくスタイル。いったいこれのどこが善いメフィストなのか教えてほしいレベルだ。が、今のメフィストフェレスの発言で確信が持てた。あれはジキルではなくハイドの方なのだろう。腹についている赤い血、そして、わずかに漏れ出ている殺気からそうじゃないかなとは考えていたけれども。

 

「え、うん。実はそうなんだ。整理整頓は苦手だし、なにより、ほら―――――――――すぐ真っ赤に汚れるからさぁ!一々片付けなんてしてられませんよねぇ!?」

 

 図星を突かれてすかさず変身。素早い動きでナイフを投擲する。しかし、それは既にナイフを用意していた式がはじき返した。

 

「ハッ!ノリのいい奴が一人いるじゃねえか!けど、何防いでくれちゃってんの!?今のは完ッッ璧な奇襲でしたよねェ!?さてはあれだな。お前、オレ様ちゃんと同類だろ?まともなふりして人の首を撥ね飛ばしたくて仕方がない殺人鬼ってわけだ!」

 

「…………ちぇ。なにそれすっごい失望。楽しみにしてたのに。ほんと、待望の出会いだったのに。気づいたら小川ハイムに居て、サーヴァントなんかになってて、恨み言しか言わないゴーストと戦って、変なマスターと会って。あ、いや、それは別にいいや。悪いことじゃないし、仁慈が本気になれば大いに楽しめそうだし。でも不満はいっぱいだった………それでもやる気を出したのは予感があったからだ。本物に会えるかもしれないって」

 

 手にもっているナイフを投げて弄びながら、式は言葉を切って、視線をジキル――いや、ハイドに向ける。そこには彼女の言葉通り、失望がありありと見て取れた。

 

「オレの大先輩。世界で一番有名な二重人格の殺人鬼!なのに、何それ。ふざけてるの?やっと楽しめると思ったのに、ショックで寝込みそう。ねぇ、さっきの優男に戻ってよ。その方が強いし、オレの好みだから」

 

「はぁ?なにいっちゃてるんですかぁ?貧弱なジキル君から――――――」

 

 なんだこれ。なんだこれ(真顔)

 一体何が悲しくて殺人鬼同士のこだわりというか、そういったことを聞かなければいけないのだろうか。ぶっちゃけこのまま攻撃したい。不意打ちをしたい。さっさと終わらせたい。

 でもなぁ……ここで不意打ちかまして、式に機嫌を損なわれると非常に厄介だ。もう一度彼女と対峙するとか面倒くさいし何より体力の無駄遣いである。彼女の見ている死の線を予測して攻撃を翻すのはすごい集中力を使う。うん、静観してようか。あと、マシュの耳を塞いでおこう。なんかメフィストフェレスまで会話に加わってるし。

 

「?先輩、どうしたんですか?」

 

「いや、これは聞かない方がいいよ。うん」

 

『仁慈君ナイス!』

 

「フォ!」

 

「――――真剣じゃないの燃えないってか!そっちも大概にイカれてんなぁクソ女!んじゃまぁ、楽しくダンスと行きましょうかねぇ!!」

 

「ちっ、仁慈。変わってくれない?」

 

「二人で楽しくやっててくださいません?」

 

「何で敬語なんだよ。まぁ、仕方ないか……これ以上失望させてくれるなよ、先輩!」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 決着は、着いた。宣言通り、式は圧倒的な力というか技術でハイドを翻弄して、見事に致命傷を与えてみせた。式強いなぁ……。もうアイツ一人でいいんじゃないかな。

 

「……う、ぐっ……あぁ、また、ハイドが出て来たんだね……。ごめん……僕もハイドも、あいつに操られてて……仁慈君。気を付けて、メフィストは信用できない」

 

「えぇ……私?私が信用できないですって?」

 

「心配には及ばない。基本的に信用してないから」

 

「OH MY GOD!」

 

「神様なんて信じてないくせに何言ってんだか」

 

「ぐ……霊基何故かが保てない……視界も暗くなっていく……仁慈君、手を、手を出して……最期に渡さなきゃいけないものが……」

 

「…………」

 

 まぁ、貰える者があるなら貰っておこう。ぶっちゃけ、不意打ちされても問題ないように右手に武器を持って、左手を差し出す。

 

「……あぁ、よかった。まだ人を信頼する心を持ってる。………君は、僕が願った通りのマスターだ。さあ―――――これが上に行くための鍵だ―――――これを使って上の階に――――――」

 

 ここで感じるは殺気。

 普段のジキルでは絶対に出さないであろう殺気。これは、ハイドになったときに感じる殺気だ。

 どうやら、ハイドは俺を仕留めたと思ってわずかにその唇の端を吊り上げているが……この程度で殺せるなんて思われるなんて。

 

「上の階に行く前に死ねぇぇぇぇぇええ!!」

 

「お前が死ね」

 

 ナイフを投げるよりも早く、用意してあったナイフで心臓を貫く。そして、ハイドが投げようとしたナイフを取り上げて、それを肺に突き刺した。後ろでマシュとロマンの引く雰囲気を感じたけどそこは関係ない。スルーさせていただく。

 

「あ、鍵だけはありがたく貰っとくわ」

 

「………イカれてんのは、あのクソ女だけじゃなかったのかよ………」

 

「何言ってんの。こっちは快楽じゃなくて命かかってんの。一緒にしないでほしいわ」

 

 心臓に突き刺したナイフを更に奥へと抉ってハイドを座に還す。そして、付いてしまった血液を振るって落として仕舞い込む。

 

 

「………なぁ、やっぱり今からでも全部をかけた殺しあい、しない?」

 

「しないしない」

 

「クヒヒヒヒッヒヒ!いいですねぇいいですねぇ!これだけのことをしておきながら、罪悪感を抱かない異常性!」

 

「…………やっぱり、先輩は先輩ですねーフォウさん」

 

「……………フォーウ」

 

『これは酷い』

 

 

 

 


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