とある天文台の男性会議
――――――此処はカルデアのとある一室。別に特別なつくりでも何でもない部屋だ。だが、使っている人がその何もない部屋をとんでもない特別なものにしている。そう、その部屋はカルデア唯一のマスターの樫原仁慈のモノであった。
カルデアにおいて、マスターの部屋というのはとんでもなく重要なものだ。それはレイシフトを行う管制室にも匹敵する。何せ、カルデアの戦力とも言える数多の英霊たちと契約を交わしているマスターの自室なのだから、ここを落とせばカルデアは終わったのと同義と言ってもいいだろう。最も、同じ施設内で部屋の主であるキチガイをぶち殺すことができる者は少ないし、時間をかければ英霊たちも十中八九来るのでムリゲーとも言えるのだが。
それはさておき、
以上のことから、仁慈の癒しであるマシュ以外は容易に入ることができないある種の聖域となっているこの場所には珍しく、複数の人影が存在していた。
「……この程度でいいだろう。よし、出来上がったぞ、適当につまんでくれたまえ。お茶はすぐに入れる」
「おー……!待ってましたよ。エミヤ君!」
「ホント、何で俺がこの弓兵と仲良く茶しばいてんだ……」
「別にエミヤ師匠と兄貴いうほど仲悪くないでしょ」
今仁慈の部屋にいるのは、その部屋の主である樫原仁慈にカルデアの頼れるヘタレ、ロマニ・アーキマン。仁慈のキチガイっぷりの一要因でもある英霊エミヤに仁慈をこんなことにした大体の元凶であるケルト師匠の弟子にて仁慈の兄弟子である英霊クー・フーリンだ。
彼らは月に一度、こうして男たちだけで集まる機会を作っていた。理由?それは当然仁慈含め自分たちの息抜きである。……何故か、何故かこのカルデアに男性は少なく、自覚はなくとも常に気を張っている状態である彼らにとってはこうした同性同士で集まる機会が必要なのだと、仁慈が提唱したのだ。
といっても、話し合う内容は特別なものではない。ごく普通に男同士でしか話せないような馬鹿なことを話したり、女性陣に対する愚痴をこぼしたりするだけである。
「……うん、とりあえず話し合う前に、仁慈君第四の特異点の修復お疲れ様。色々予想外というか面倒臭いことになったけどよく無事で帰ってきてくれたよ」
「まぁ、自分でもどうして無事に済んだのか謎だけどねぇ……」
改めて、魔術王ソロモンと対峙した時のことを思い出す。確実に死ぬかもしれないという衝撃を受けたのちに気絶。目を覚ませばだれもいない地下に投げ出されていただけなのだから。
「その話もいいが、この集会の目的は日頃のストレスを貯め込まないためだ。Dr.ロマン。そういった話が悪いとは口が裂けても言えないが、この時はやめておこう」
「そこの弓兵の言う通りだ。人間鞭だけじゃ限界が必ず訪れる。こういった飴がひつようなのさ。……世の中には飴を与えず地獄に叩き落す鬼もいるがな」
クー・フーリンの呟きに仁慈は心当たりがあるのか、天井を仰ぐ。ケルトの弟子たちの心情は確実に一致していた。これはマズイ空気だと思うロマニは慌ててその雰囲気を吹き飛ばすために話題を変えた。
「そ、そういえば。皆がカルデアに来てからしばらくたったし、仁慈君に対して踏み込んだ質問をしてみてもいいかな?」
「え?急に改まってどうしたんですかねぇ……?」
「フフン。こういった話題は女の子の特権とされているけれども、そんなことはない!
男女平等を掲げるのであれば、僕らがこうしたことを話題にしても問題ないということだよ仁慈君!」
「テンションたけぇ……」
先程までの空気を完全に一掃するためなのか、不自然に思えるくらいの高いテンションで話題を振ろうとするロマニ。内容に関してはノーコメントである。
「結局、何を聞きたいのさ」
「それはずばり、いまカルデアにいる女性陣をどう思っているのか、ということさ!」
「あー……」
ロマニが男女平等を例に挙げたことを理解した。世間一般ではこうしたいわゆるコイバナと言えるものを話し合うのは総じて女性側でアリ、男性だとしも話が多いという認識があるからだ。
「お、面白そうだな。弟弟子の人間関係を知るのも兄弟子の特権だよな」
「では、私は師の権限ということにしておこうか」
「ノリノリだなこの野郎……まぁ、兄貴はケルト出身ですからそういったことにはオープンそうですし、エミヤ師匠の方は……うん、言うに及ばずと言ったところでしょうか」
「ちょっと待て。その認識について私として議論を起こさざるを得ない。それに、私にそういった経験はない…………見せつけられたことなら腐るほどあるが……」
「えぇ~?ほんとにござるかぁ~?ちなみにロマンは?」
「………ぼ、僕にはマギ☆マリがいるから(震え声)」
『あっ(察し)』
ロマニが死んだ!この人でなし!
まさにこれこそ、同性同士の遠慮ない会話。おかげでロマニにダメージが言ってしまったが、それはコラテラルダメージである。致し方ない犠牲だったのだ。
「僕のことはいいんだよ!問題は仁慈君さ!ちなみに、仁慈君。ここに来る前そういった経験はあるかい?」
「逆に聞くけど、俺がそういったことできると思う?」
仁慈の言葉に三人が思い起こすのは普段の彼の姿。骸骨を、ゾンビを、敵を、容赦なく刈り倒し、サーヴァントを地面に沈め、不意打ち上等な彼の姿を思い浮かべ、全員が声をそろえてこういった。
『ないな(ね)(ねぇな)』
「でしょ?」
「だったら、余計に気になるねぇ。中身はともかく、ここにいる連中の外見は誰もかれもが絶世の美女、美少女だぜ?」
「ま、そこは否定しないけどさ……」
マシュは言わずもがな、エリザベートや清姫だって、外見だけで言えば極上に含まれる類のものだ。男性であればそういったことを考えてしまっても仕方がないとも言える。
「じゃあ、まずはタマモキャットからだ。彼女のことはどう思う?割と好意的だと思うけど」
「うん。家事もできて気配りができて正直物凄い優良物件だとは思う。けど、うん……こういっては何だけど、疲れる。主に解読に」
言わんとしていることはわかる。別に言うことを聞かないわけではない。だが、ストレートに伝わらない。彼女と会話をするときいかに無駄な単語を削り、真に言いたいことを聞きとるかがカギとなる。それ故に、リスニングにはなかなかの疲労が伴うのだ。
「ならば、清姫はどうだ?器量がいい点で言えば彼女もなかなかのものだと思うが?」
「確かに彼女もそういった点で言えばいいけど………流石に、人違いはちょっと………」
清姫は仁慈のことを安珍だと思っていることは既に周知の事実である。器量よしや容姿いい、狂化が入っているなどと言ったものの前に、そもそも自分に向けられていない感情をどうしろと仁慈は考えていた。エミヤもその理由に納得したの黙り込む。
「じゃあ信長?かなり仲いいよね?」
「あれは友人って感じだし、そういった対象ではないかなぁ……。悪友って表現がぴったりくるよね」
「ならブーディカ」
「人妻でしょうが」
「ケルトなら普通」
「自分現代日本出身なんで……」
遠慮なくブーディカと名前を上げるクー・フーリンにツッコミを入れる仁慈。何度も言うけれども良識はあるのだ。
「エリザベートならどうだ!」
「なんというか、小動物って感じ……?」
打てば響くという感じが面白可愛いらしいがそういう対象では見れないとのこと。
「なら、何故かサンタの袋を持ったアーサー王ならどうよ?」
「結構好きよ?けど、恋愛方面と言われれば首を傾げるかなぁ……。向こうも俺のことはトナカイくらいにしか思ってないだろうし」
「では、アーサー王のようなナニカは?」
「ヒロインXも悪友みたいなもんかなぁ……」
次々思い浮かべる人を言っていくのだが、考えていたような反応は中々帰ってこない。故にロマニは切り札を切ることにした。
「なら、マシュは?」
「当然好きです(キリッ)」
「はやい!」
「もう反応したのか!」
「流石すぎる!」
予想通り過ぎて予想以上の反応となった仁慈の返答に、呆れ半分興奮半分で馬鹿どもが声を上げる。だが、安心してほしい。彼らが飲んでいるのはエミヤが、メル友から教えてもらった紅茶であり、決してアルコールを摂取しているわけではないのだ。
「やっぱり、マシュの嬢ちゃんが本命か」
「順当な結果だな」
「僕としては複雑だなぁ……。あんないい子をここまでぶっ飛んだ仁慈君に預けることになるのかぁ……」
「?何言ってんの?マシュは俺の癒しであり、最優先事項……嫌いなわけがない」
『………』
ここで三人は気づいた。これはどう考えても家族や友人に対しての好きだということに。
まさか自分たちの切り札たるマシュですらこの反応で返されるとは予想していなかったために両手を上げる三人。そんな彼らに仁慈は静かにこういった。
「そもそも、俺にそんな感情を抱く暇があったと思いますか?まさか、カルデアに来てからそんな余裕があったと?」
『……なんかごめん(すまない)』
この後無茶苦茶謝罪した。
ちなみに。
ロマン「どうしてスカサハ女史のことを話さなかったんだい?」
仁慈&兄貴「話題に上げるまでもなかったから。もはやそういう話題に出す必要すら――――――」
エミヤ「おい、今深紅の槍がそちらに向かったぞ。必中だから躱せないと思うが」
<ピチューン