この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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これにて第四章終了です。

(内容について)許しは請わん。恨めよ。


第四特異点 エピローグ

 

 英霊ソロモン。確かに仁慈たちの目の前に現れた男はそう名乗った。彼の宣言にその場にいる英霊たちも、通信越しに仁慈たちの様子を窺っているであろうロマニも息を呑む。予め予測を立てられたとはいえ、こうして実際の圧力を以て対峙するのは違うのだろう。

 

『まさか、そんなバカな……ほんとうにソロモンなのか……?』

 

「はい、ドクター。残念ながらはっきりとそう名乗りました」

 

「ハッ、そいつはまたビッグネームじゃねえか。つーとあれか、てめえも英霊か。二度目の人生で人類を滅ぼそうってか?」

 

 モードレッドの言葉にソロモンは表情を変えることなく淡々と、答える。曰く、自分が人間に呼ばれることはなく、この身は自分で復活させたものだということ。英霊でありながらマスターを、魔力供給を必要としない。もはや生前とほとんど変わらない。英霊でもあり、生者であると。

 

「そうだ。私は誰に命令されたからでもない、貴様ら無能のように、下等な誰かに使役されてこのようなことをしているのではない。私は私の意思で、この事業を開始したのだ。愚かなことを続ける人類の――――この宇宙にして最大の過ちである貴様ら人類を一掃するために」

 

「世界を滅ぼすなんて、まっとうな英霊のできることではないはずじゃが……」

 

「………話の流れからして、そういうことはないのでしょうね」

 

「その通りだ。どこに出しても恥ずかしい低級サーヴァント。できるのだよ私には。その手段があり、意思があり、事実がある。現に、お前たちの時代は既に消滅している。時を越える七十二柱の我が魔神によって」

 

 これこそ、ソロモン本人からのネタバラし。仁慈達が今までへし折って来た合計三匹の肉柱は間違いなくソロモンの従える七十二の魔神だったらしい。ロマニはそのことに当然驚愕を覚えたが、それを既に三本折っている仁慈の存在に気づき戦慄した。だが、彼は新たに疑問に思った。それは魔神の姿があまりにも伝承と違っているところである。まぁ、既に何人もの英霊たちのおかげで伝承の精度もそこまであてにならないことくらいはわかっているのだが、ロマニにはどうしてもここで聞いておかねばならなかった。これだけは尋ねておかねば納得できない部分だったからである。

 

「ふん。カルデアの、人類最後の砦の魔術師は随分と古い発想だ。魔神たちは私の復活と共に新たなる器に受肉したのだよ。だからこそあらゆる時代に投錨する」

 

 ソロモンは未だに淡々と語る。魔神たちの役目はその時代の楔となり、この星の自転を止めることだと。特異点の空に常に浮いていた光帯こそが、ソロモンの宝具であると。

 

「天に渦巻く光帯――――まさか、かく時代に会ったあの光の輪は……!」

 

「そうだ。あれこそ我が第三宝具『誕生の時きたれり、其はすべてを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』それらの光帯の一条一条が聖剣のほどの熱線だ。アーサー王の聖剣、それを幾億も重ねた規模の光。すなわち、対人理宝具である」

 

「なに……!?父上の聖剣の何億倍もの熱線、だと……!?」

 

「おい。私のカリバーを単位にするのはやめろ。それともいまここでぶちかましてほしいんですか?ちなみに私、相手がキャスターでも余裕でブッ殺できますよ?だってセイバーですから」

 

「しかし、お主はアーチャーに弱くないじゃないか」

 

「その時はアサシンしてますので」

 

「汚いわね。流石忍者汚い」

 

 ラスボスの前だというのに妙に緊張感のないカルデアのメンバー。その安心と信頼の姿に少しだけその士気を持ち直す。

 

「――――――――さて、貴様の質問には答えた。今度はこちらの番だ、カルデアのマスター」

 

 ソロモンの視線が仁慈へとむけられる。戦闘モードになっていた仁慈はそれと同時に自分の四次元鞄を開けたまま宙へと放り投げる。すると、その中にしまっていた武器たちが仁慈を避けるようにして次々と降り注いだ。仁慈が鞄を回収するころには、現段階で仁慈が持っている武器たちが彼を守るように地面に突き刺さっている状態である。なんか背中で語りそう(エミヤ感)

 

「どうやらやる気みたいよマスター。あの人は私のお友達と遊んでくれるのかしら?」

 

「なんか根本的な出力が違う気がするんじゃが……ま、やれるだけのことはやってみようかの」

 

 ナーサリーや信長と言ったサーヴァントたちの言葉を皮切りに、次々とその場に居たサーヴァントたちがおのが武器を構えて対峙する意思を見せる。しかし、そこに一人マシュだけはソロモンの重圧に押し負けそうであった。

 

「すぅー……ふぅー………よっし、行くか」

 

「ま、待ってください。先輩。あのサーヴァントは、決して―――――」

 

『マシュ!しっかりするんだ。まずは心を保って、敵をしっかりと見る!どんな相手であれ、サーヴァントはサーヴァントだ。必ず勝機はある。それに、君の中にいる英霊だって聖杯が選んだんだ。英霊の格としては引けを取らない!』

 

「は、英霊の格だと?とんだ知恵者かと思えば、どうやら買いかぶりすぎだったようだな。もはや、私の興味はその盾の小娘だけだ。……さぁ、楽しい会話を始めよう。なに、今回はその健気さに免じて四本で留めといてやるよ」

 

 宣言と同時に地面から生える四本の魔神柱。

 本来であれば絶望をするような場面だ。凡百のサーヴァントたちがいくら集まっても倒せるかどうかわからない魔神柱が四体も現れて、さらにはソロモンまで居るのだから。彼自身が手加減をすると宣言していても、それは十分に仕留めきれると考えているからである。

 

 だが、もう何度も何度も繰り返すようだが、ここにいるのは凡百から最もほど遠いと言える樫原仁慈をはじめとしたカルデア組が存在しているのだ。それだけで、ボスラッシュを切り抜けた直後であってもできると、思えるようになるのである。

 

「助けを乞え、怯声を上げよ。苦悶の海で溺れる時だァ!」

 

「ほざけ頭足類!千切って解体してタコ焼きにしてやる!」

 

 仲間を鼓舞するように、自分を鼓舞するように、盛大に啖呵を切りながら地面に刺した武器類を次々と引き抜き構えながら彼らはうねうねと生える肉柱たる魔神柱に向かって行った。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 それは、まさに死闘と言えるものだった。

 

「いいぞ!いいぞ!そうでなくては」

 

 今の今まで魔神柱をないものとして扱っていた仁慈達が今更四本が同時に来たからとはいえ、そう苦戦することなどありはしない。であれば、命運を分けているのは今までにない部分。そう、ソロモンがその場にいるかいないか、ということに直結するのだ。彼は魔術の王、現代に伝わる魔術のほぼすべてを彼が築いたと言ってもいい、偉大なる王である。故に、魔神柱の超絶強化くらいわけないのだ。

 

 ピカーンピカーンと光る瞳。それらを翻しながら仁慈たちは必死にチャンスを窺う。それぞれが己の特性を最大限に生かし、相性のよさそうなものと組んで戦っていた。

 

「くっそ、なんだこの肉柱ァ!超堅ェ!」

 

「文句言ってないで何とかしてくださいよ。無敵の金時さん!」

 

「無茶言うな。バサカで殴る時代は終わったんだよ!」

 

 メタメタなことを吐きつつも攻守そつなくこなす日本出身サーヴァントコンビ。タマモが何とか防御面をやりくりしつつ金時が持ち前の火力を以て殴り飛ばす。単純故に強い組み合わせである。

 それと似たような組み合わせに仁慈とマシュの姿もあった。

 

「やあぁぁああ!!」

 

「―――――――!」

 

 幾重もの瞳から放たれる光線の網目をくぐりぬけ、ソロモンの強化故に魔力周りが良いなかも怯むことなく突撃をかましていく。獲物を振るい、自身に降りかかる攻撃を翻しつつも、お互いに迫り来る攻撃があればカバーをしていくその様はまさに相性抜群。流石は長い時を同じにしてきた二人であった。

 

「先輩!」

「―――――貫く……!アンド、久々の八極拳!」

 

 まだまだ、他にはハロエリとタマモキャットというなんとも不安に満ち溢れたパーティーが揃って一柱を相手取っていた。竜種になったが故に無駄に有り余っている魔力を好き放題に使って魔術を使い、魔神柱の攻撃を相殺しつつ、バーサーカーということで火力が申し分ないタマモキャットがゆっくりと三枚におろしていく。

 

「うねうねしてて気持ち悪いわ!」

 

「フム。このフォルムはタコに……見えなくもない。持ち帰ればご主人の為のご飯となり得る可能性がワンチャン……?」

 

「ないからね!」

 

 口ではなんだかんだ言いつつも流石同じ特異点で主従関係を結んだだけあり、相性はバッチリだった。

 

 

「なんか、わしらのところだけムリゲーくさくね?」

 

「そうかしら?私、こう見えてもやるのだけれど。あと、貴女はもう少し真面目にやった方がいいとおもうの」

 

「そんなこと言われたものぅ……」

 

「貴方は魔王なのでしょう?神を焼き討ちにするくらいなんでしょう?なら、ちょっと大きいだけのタコの足なんかに負けないでしょう?」

 

「あやつらに神性はなさそうなんじゃがな……。まぁ、よかろう!第六天魔王波旬、織田信長の力、南蛮街に轟かせてやろうぞ!」

 

 ナーサリーに煽られ、ノリノリになった信長。調子に乗って火縄銃をかなりの量を用意し、強化された魔神柱へそれを撃ち込む。当然今までの魔神柱とは訳が違うためにその攻撃のほとんどが意味をなしていないのだが、本人は気にしない。赴くままに高笑いを入れつつひたすらに鉛玉を放り続けた。

 

 そして、余っているキャスター二人は気まぐれに苦戦している面々の補佐を行い(しかし、ほとんど参戦していない模様)ヒロインXとモードレッドは魔神柱を強化しているソロモン本人に特攻を仕掛けている。と言っても彼らも自分たちだけで倒せるとは到底思っていない。他のサーヴァントたちが魔神柱を倒すための時間稼ぎをしているというだけだった。

 

「どうした型落ち英霊!そんなことでは足止めすらできんぞ!」

 

「私が型落ちとかふざけてんですか!なんならもう死ね!」

 

「全くだぜ!」

 

「口だけ達者でも無意味だ」

 

 ……時間稼ぎだけのはずなのだが、ヒロインXはそんなこと関係ないと言わんばかりに斬りかかっており、モードレッドもその流れを助長する。どう考えてもブレーキが足りなかった。これは酷い。だが、時にその酷さも助けとなるのだろう。結果的にヒロインXとモードレッドは十分にソロモンを引きつけることに成功していた。まぁ、当の本人も楽しい会話と言っていた分本気を出しているわけでは当然ないのだろうが、それを含めても、彼を引きつけることはかなりのファインプレーといえるだろう。

 

 その甲斐もあり、彼らは四本の魔神柱を何とか潰すことができた。消耗も激しいが、それでも誰一人として欠けていないまさに快挙と言えるだろう。

 

「―――――ほう。面白い。我がしもべたる魔神柱を全員沈めたか。只の型落ちどもかと思えば、思ったよりやるではないか。だが―――――」

 

 ソロモンが片手を無造作に仁慈達へと向ける。その行動に言いようのない悪寒を覚えた者たちは半ば無意識に自身の得物を振るった。それが功を奏したようで、彼らの目の前で目を覆うような光と共に目の前が爆裂していた。事なきを得た面々であるが、もし反応できなかった場合どうなっていたかは想像に難くない。

 

「―――っ!ドクターレイシフトを!このままだと全滅です……!」

 

『それが、そいつの力場が強すぎてアンカーが届かない!そこにソロモンが居る限りレイシフトはできないんだ!』

 

「私より卑怯臭いですね!」

 

「自覚あったんじゃな」

 

「コントしてる場合じゃあないと思うぜ……」

 

「残念だけど、これが真面目で平常運転なのよね……」

 

「なんですかこの面々、シリアスになり切れないとか流石のタマモちゃんもドン引きなんですけど」

 

「自分の顔を鏡で見てからそのセリフを言ってみてはどうかなオリジナル」

 

 流れるような会話。

 ラスボスの前でも余裕を忘れない英霊の鑑である。

 

「まだ、足掻くか。先の戦いで勝ち目がないことくらい、とうに悟っているであろう。貴様たちとは力が、器が、立っている場所が違うのだ」

 

「……フン。まさにその通りだな」

 

「なんだ物書き。有象無象の陰に隠れて怯えることをやめたのか?」

 

「物書きが肉体派サーヴァントを盾にして何が悪い。俺の専門は貴様が言った通り書くことであって、戦うことではない。それに―――――隠れてもできることなどこの世界には腐るほどある。例えば、ソロモン。貴様の正体とかな」

 

 今までほとんど働かず、もはや何のために貴様らは来たんだといいたくなるような作家組の片割れ、アンデルセンが唐突に前に出るとそうソロモンに言葉を叩きつける。一方のソロモンは彼の物言いに興味を持ったようで、自分の正体とはどういうものかと語るように促した。

 

「面白い。語ってみせよ即興詩人。耳当たりの言い賞賛なら、楽に殺してやろう」

 

「ああ、存分に聞いていけこの俗物めが。……俺が読んだ時計塔の記述にはこう書いてあった。英霊召喚とは抑止力の召喚であり、抑止力とは人類存続を守るもの。彼らは七つの器を以て現界し、ただ一つの敵を討つ……」

 

 ここまで静かに語るアンデルセンだが、次の言葉からは声を少々荒げながら紡いでいく。

 

「では敵とは何か?決まっている。それは我等霊長の世を阻む大災害!この星ではなく、人間を!文明を築き上げてきたものを滅ぼす終わりの化身!其は文明より生まれ文明を食らうもの―――――自業自得の死の要因に他ならない。そして、それを倒すものこそあらゆる英霊の頂点に立つモノだ」

 

「――――そうだ。七つの英霊は、その害悪を倒すために現れる天からの使い。人理を守るその時代最高峰の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。降霊儀式・英霊召喚とは元々、霊長の世を救うための決戦魔術だった。それを人間の都合で使えるようにしたのが、今貴様らが使用している召喚システムだ」

 

「だからこその格落ち、か」

 

「その通り。単純な話だ。俺たちとアレとでは用意された器が違う。俺たちは人間個人に対するものだが、向こうは世界に対するもの……その属性は英霊の頂点に立つもの。すなわち冠位(グランド)の器をもつサーヴァントということだろう」

 

「そうだ。よくぞその真実にたどり着いた。故に、我のことはこう呼ぶがいい。王の中の王、キャスターの中のキャスター。―――グランドキャスター、魔術王ソロモンと!」

 

 高らかに宣言するソロモン。それは下等生物の癖によくぞたどり着いたという上から目線全開のものでもあった。

 

「――――さて、褒美だ即興詩人。貴様の五体は懇切丁寧に斬り刻んでから燃やしてやろう。ありがたく思え、人間に呼び出されなければ何もできない人形が、私に消されるという名誉を受け取ることができるのだから」

 

 言葉と同時にほぼノータイムで魔術の祖とも言えるソロモンの攻撃がアンデルセンに向かう。肉体労働専門外を自称する本人はもちろんのこと、そのほかの英霊たちですら反応できなかったその攻撃にただ一人だけ、反逆するものが居た。

 それは、逆に奇跡とでも言えるめぐりあわせによってなんだかんだ特異点を修復してきたカルデア最後にして人類最後のマスター、樫原仁慈である。

 彼は、たとえ失敗作だったとしても自身の師匠から請け負った槍を構え、アンデルセンの前に立ちふさがると、そのまま全身全霊で槍を振るった。

 

 人外殺しの概念が付与されているそれは、人間以外の天敵とも言える。それはたとえ格が圧倒的な上であっても変わることはなく、ソロモンの攻撃をギリギリで防ぐにあたいした。

 

「…………」

 

「――――――――スゥー……」

 

 ゆっくりと息を吐き、キッとソロモンに視線を固定する仁慈。一方ソロモンはそんな彼に関しては殆ど表情を変えない能面のような表情で対峙していた。

 

「………なぜ抗う。全く……貴様らを理解できない。貴様らの命に価値などない。だからこそこの私が一人残らず有効活用してやろうと、我が享楽の道具にしてやろうというのに」

 

「――――っ!?享楽の道具……!?ソロモン、貴方はレフ・ライノールと同じです。あらゆる生命への感謝がない。人間の、星の命を弄んでいる……!」

 

「娘。人の分際で生を語るな。そもそも、その言葉が事実だとして―――それのどこが悪い?そんなことは貴様らが最も得意とするものではないか。生命への感謝、命を弄ぶ……そんなもの貴様らとさして変わらん。お前たちも、生命への感謝など捨て去り、戯れで生命を摘んでいく……。だからこそ、私が有効活用してやろうと言っているのだ」

 

「………」

 

「………」

 

 

 しばらくの間、両者は無言で観察を続ける。やがて、ソロモンは能面のような表情のまま、自身の魔力を仁慈達に向け始めた。それは今までの攻撃など比較にならないほどのもの。

 先の魔神柱など目ではない。先の不意打ちなど目ではない、自らの意思でアンデルセンを焼き払おうとした時ですら―――目ではない。今までにないほどの圧力。それが本気なのかどうかはわからないが、少なくとも、ソロモンと対峙した時間の中で一番の本気であることはうかがい知ることができた。

 

「いや、これ以上の問答は無用。いい加減、目障りだ。消え失せろ」

 

 

 無慈悲にも放たれる攻撃。

 その場にいる英霊たちは、その威力を全員が正確に把握している。どうやっても防ぎきることはできない。今からでは回避すらも間に合わない。

 叩きつけられる冠位の魔力に、文字通り、存在している次元が違う攻撃に誰もがその行動を止めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

―――――ただ、一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 唐突だが、ここで一つ話をしよう。

 ここにいる人物であれば知らないものはいないであろうカルデアのマスター樫原仁慈のことについてだ。

 彼について、知っている人間は数多く存在するだろう。頭がおかしい。お前本当に人間か?もうマスターだけでいいんじゃないかな?……カルデアの職員だけでなく、彼の下に集っているサーヴァント達ですら時々考えることである。

 

 ではそもそもどうして樫原仁慈が頭のイカれたマスター扱いになっているのかと言えば、それは当然ケルトの所為と答えるだろう。

 当時、元々の家からしておかしかったがそれなりに穢れていない(まともであった)仁慈を穢しつくした(キチガイにした)のは何故か外へと現れたスカサハであることはもはや本人の口から常々語られている事実である。彼は神秘が平気で存在していた時代の人物でさえ死に絶えるほどのものを耐えきりここまでのキチガイ性を手に入れた……これが多くの人間が認識している仁慈がイカれた原因である。

 

 

 それが間違っているとは言わない。

 現に仁慈はそれの所為で、ここまで数多くの英霊たちを白目にしてきたのだ。だが、逆にそこを逆に考えてみて欲しい。

 

 どうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということに。

 樫原仁慈という人間がそういうものという認識でも間違って居はいないのだが、そもそもどうして彼は人外殺しという概念が付与された槍を所持しているのか?予測だがそれは数多の人外たちを屠って来たから、その所業の所為だと誰かが言った。だからこそ、こうも言った。もうこいつの起源は人外殺しなんじゃないかな、と。

 

 だが、それはあくまでも結果である。今問題なのはどうしてそれを成すことができたのかということだ。

 

 

――――――――その答えは、単純明快。彼の起源が、人外殺しではなく、もっと根本的なところからきているということだ。

 

 

 

 

「……――――――、――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、気が付くとそこに広がっていたのはソロモンと戦っていたロンドンの地下だった。それを確認した瞬間俺は先程までの状況を思い出し、ソロモンの姿を探す。

 しかしそこにソロモンの姿はなく、唯々自分の味方をしてくれたサーヴァントやカルデアから連れて来たサーヴァントたちが気絶しているだけだった。今一状況が飲み込めないが、ソロモンが発する尋常じゃない寒気も感じることはないため一先ずは安全なのだろうと見切りをつける。

 とりあえずは、先に聖杯の方を回収しなければと、俺はアングルボダの方へと駆けだした。

 

 

 

 

 それからしばらくして、協力してくれていたサーヴァントたちは軒並み目を覚まし始めた。全員が全員、状況を理解できていなかったようだが、ひとまず危機が去ったことを感じ取ると目に見えて力を抜いてリラックスし始めた。そこから早くもお互いの健闘を叩い合いそうな雰囲気になるが、仁慈が既に聖杯を回収してしまったがために、この時代に呼ばれていたサーヴァントたちが消え始める。

 

「おや、ここで退場ですか……残念です。まだあなたの愉快な生を書いていたかったのですが………」

 

「あ、今回本気で何にもしていなかった人ちーっす」

 

「もちろんしてません。私、頭脳派の参謀担当です故」

 

 皮肉も通じなかった。シェイクスピアのメンタル半端ねぇ……。これ以上相手にしても無駄だということで、今度は最終決戦の折だけ手を組んだ金髪ゴールデンな人とキャットの元だと思われる人物にお礼をいう。

 

「ハッハ!いいってことよ。流石に世界の危機とあっちゃあ俺だって戦わないわけにはいかなかったからな!それに最後は全く役に立ってねえんだ。そこまでかしこまらなくていいぜ」

 

「金時さんの言う通りです。人の身であの場を切り抜けただけでも十分に賞賛されるべきことでしょう。私が協力したのも所詮は利害の一致ですし」

 

 ええ人やでぇ……。

 改めて二人に頭を下げた後今度はなんだかんだ言って、物凄く助けになってくれたアンデルセンとナーサリーのところまで向かってお礼を言う。

 

 俺のお礼に対しての二人の反応は対照的だった。

 

 

「どういたしまして、マスター。もうきっとわたし(アリス)が呼ばれることはないでしょうけれど、それでも悪くはない夢だったわ」

 

「礼なんぞいるか。俺は今までの労働分のものを対価として差し出しただけだ。だが、そうだな。貴様のことは大嫌いだが、先程助けてもらった恩もある。一つだけ、言っておいてやろう。―――――己を見誤るなよ。樫原仁慈。おおよそ万人にとってそれは、気づけなくても仕方がないで終わるかもしれんが、貴様はそうではない。これを精々そのぶっ飛んだ頭のどこかに刻み付けておけ」

 

 大人びた言動だが、その時に浮かべたナーサリーの笑みは年相応の笑みだった。それとは反対に、アンデルセンは何処まで行ってもぶれることはなかった。一応アドバイスっぽいものを残してはくれたけれども、どうあがいても俺に対する毒舌が混ざっていた。泣けるぜ。

 

「さて、最後はオレか。つってもオレはジャージの父上とばかりいたからなぁ……今さら話すことなんてないんだが……」

 

「ですよね」

 

「だが、無理やり言葉をひねり出すとすれば、やっぱりこれか……。いいか、父上のマスターってことで特別に言ってやるよ。―――――いいか?結局な、英霊だのなんだの味方につけても、頑張らなきゃいけねえのはその時代に生きている人間なんだよ。かつて偉業を成し遂げた英霊だってマスターが居なければ、そもそも呼ばれなければ、戦うことすらできやしねぇ。だからこそ、仁慈。ジャージの父上に恥じないように、手前があの魔術王とやらを追い詰めろ。数多の困難を乗り越え、残り三つの聖杯を回収して、他でもないお前が、あれを倒せ。今この時じゃなくてもいい。遠く未来になってもいい。だが、このことだけは忘れるなよ」

 

「……………」

 

 失礼な話、飛んでもなく真面目な言葉に俺は面を食らってしまった。いつぞやにも言ったけど、俺的に彼女はヒロインXと共に暴走している姿が多すぎて多すぎていかんせんギャグキャラのイメージが強すぎる。

 

「………(お口あんぐり)」

 

 ほら、Xだってこの通りだ。

 

「そんじゃあな。また縁があって、気が向いたら一緒に戦ってやるよ」

 

 最後にそう言い残し、モードレッドは消えていった。

 その後、カルデアから通信が入り俺たちはレイシフトを開始、死の霧が立ち込めていたロンドンから帰還することとなった。

 

 

 

 

 

 

 更にその後、妙にヘタレて自己嫌悪に陥っていたロマンをマシュと一緒に活を入れ、ついでに俺の手料理をふるまうことで何とか立ち直らせた。

 更に更にその時、ロマンが抱え込んでいた不安の一部を夜通し聞いていたら、何故かその次の日に俺がホモなのではというわさが流れ始めてそれを沈下するのに丸々三日をかけることとなった。くっそ、どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あ、すみません。今さらなんですけど、ひとまず完結優先ということで、ストーリーに全く関係のないイベントは後回しということにさせていただきます。

まぁ、小川マンションと監獄塔はストーリーにがっつり関係あるからやらざるを得ないんですけどね(涙目)

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