時は少し遡り仁慈達がニコラとことを構える頃。槍を携えたアルトリアの元へと向かっていた
「……くっそ、これじゃあ近づけねぇ……!」
「泣き言を言っている暇はありませんよバカ息子。それに、むやみやたらに魔力を放出させているだけです。全く問題はありません」
「(それはかつての父上と全く同じなんじゃ……いや、よそう。オレの勝手な想像で父上の機嫌を損ねたくはない)」
嘗て、配下の騎士が王は聖剣をブッパするのが仕事ということを言っていたことを思い出したモードレッドだったが、それを口に出すようなことはしなかった。恐らくヒロインXレベルまで突き抜けると自覚したうえでそれを行っている可能性がなくはないのだが、それでも見える地雷に態々突っ込むような真似は避けるべきであると考えたモードレッド。賢い。
それはともかく。
ヒロインXは正しく暴風と化しているアルトリアの攻撃を、普段は宝具の時にしか出さない黒い聖剣すらも取り出し、魔力放出を以てしてかつての仁慈の様な変態機動を再現していた。おかげで仁慈の魔力もじわじわと持っていかれていく始末である。これはひどい。隣で自分の父親がハッチャケているのを見てモードレッドもそれにならい、クラレントに魔力を流し込んでから爆発させることで機動力を手にし、二人そろって嵐を切り裂きながら肉薄する。
「――――――――」
アルトリアは高速で動き回る二代目変態達にも動じることなく黒い槍を引いて、神速とも言える速度で突く。その平均的なサーヴァントではそれだけで消滅し、即座に消えるような攻撃を、ヒロインXは、相手がアルトリアなためか、ごく一部が育ちすぎている故の恨みのパワーか、両手に持つ聖剣二本で完璧に対応をしてみせた。そして、生まれた一瞬の隙を縫い合わせるようにモードレッドがクラレントを上段から下段へと振り下ろす。
だが、アルトリアもこれを馬のラムレイをたたき上げ、後ろに下げることに回避、と同時に再び踏み込み剣を振り下ろした直後のモードレッドを串刺しにしようと接近する。今度はモードレッドが不利になる番だった。だが、モードレッドとて、伊達にアルトリア・ペンドラゴンを追い詰めてはいない。騎士に似合わぬ戦法は煙たがられる反面実に有効だったことを誰よりも本人が理解している。
「ハッ、甘く見るな!」
彼女は、自分の上半身を逸らせると同時に後ろへと飛び、バック転で貫かんとする攻撃をやり過ごす。それだけにとどまらず、彼女は腹筋を使って足を持ってくる際にアルトリアの槍をひっかけ、そのまま上へと弾く。
アルトリアも槍を落とすという愚行こそ冒さなかったものの、それ故に上半身がわずかに逸らされ確かな隙が生まれる。
当然、そこまでわかりやすく見え透いた隙を逃すわけがないヒロインX。今もなお増殖を続けるアルトリア顔ヒロインたちに激おこなセイバースレイヤーは笑顔で不肖の息子を褒めつつ生き生きとした笑顔で斬りかかった。
「よくやりましたモードレッド!後で、何かしてあげましょう!」
「じゃ、じゃあ、キャメロットの窓を割って回ったことを許してくれー!」
「許しません」
「ちっくしょう!」
円卓漫才+親子漫才という生前では絶対に在り得なかったであろう会話を交えながらヒロインXは自らの持つ聖剣に魔力を通す。右手に持つ聖剣には、その名にふさわしき極光を、左手の黒き聖剣には目の前に存在してるアルトリアのように、絶望を感じさせるにふさわしき黒光を。
「久しぶりのまとも宝具(自覚あり)―――――――――星光の剣よ。赤とか白とか黒とか、目の前にいる牛乳とか消し去るべし!みんなにはナイショだよ?
左右両方の手から持っている聖剣が交互に繰り出される。それは、一つ、二つと振るうごとに段々と加速していき、ついには目にも留まらないほどの速度まで昇華されていた。
「――――――!」
モードレッドに槍を弾かれ、体勢を崩していたアルトリアはラムレイを動かして回避を試みるが、悲しきかな彼女はヒロインX。例え、厳密な本人と言わずともある程度の予測くらいなら問題ない。普段はぶっ飛んでおり、よくわからない言動ばかり繰り返すヒロインXだが、彼女は戦闘に置いてカルデアの中でも頭は一つほど抜き出ている。そんな彼女が自分の恨み(逆恨みの模様)でブーストされているのだ。逃れることはできない。
段々とアルトリアの鎧がヒロインXの鎧が聖剣によって切り裂かれて行き、彼女の肌がさらされていく。それには、女性的に発達した肢体も晒されるということであり――――
「■■■■■■■■■――――!!」
―――彼女の更なる怒りを誘発することとなった。これは酷い。いくら何でも自分で勝手に攻撃をして勝手にキレるなど理不尽にも程がある。
「―――――!」
いかに理不尽であろうともアルトリアは唯でやられる気はないらしく、何とか槍を使ってヒロインXを後方へと弾き飛ばし、そのまま槍を回転させ始める。同時に、ロンドン中にばらまかれている霧やらニコラの紫電やらを取り込み、混ぜ合わせるかのように、槍に纏わせるかのようにしていく。
戦い始めていた時の嵐なんて目ではない。それ以上のものが来ると、じかに見ずとも、頭で考えずとも、直感を働かせずとも理解できた。
「モードレッド!」
「わかってる!」
大声の応答。それだけ余裕のない二人は、恐らく宝具であろうその嵐を防ごうとアルトリアを仕留めに入るが、先程とは比べ物にならない嵐が邪魔をして思う様に動けないでいた。魔力放出による強行突破も途中でばらばらになりそうな風の壁に阻まれ行えそうにない。
「ジャージの父上。あれやばいよな!?絶対やばいよな!?」
「ええ、やばいですとも。あんなの撃たれたらこの街が吹っ飛びますよ。えぇい、私め!最低限の理性すらも残ってないのですか!」
ここに仁慈が居れば『お前が言うな!』と叫ぶだろうことを呟きつつ、彼女は自分の聖剣に魔力を注ぎ込む。黒い聖剣を消して、フリーになった左手もしっかりと聖剣を
握って上段に構えた。
その姿は、本当にかつてのアルトリア・ペンドラゴンを思わせる姿だった。いや、本人ではあるのだが、そう思わざるを得なかったのだ。きっとこの光景を見たらエミヤであったとしても認めるだろう。普段では絶対にありえないが。
「―――――へっ。そこまで殺したいっていうのなら……いいぜ、あん時の再現をしたいっているならやってやるよ」
ヒロインXの姿に触発された所為か、モードレッドも獰猛な笑みを浮かべると自身の愛剣を強く握りしめ、その真なる力を開放する。
「――――束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるがいい!」
「――――これこそは、わが父を滅ぼす邪剣……!」
収束していく。星々と人々の願いと希望を束ねた光が、父に認められず、愛するが故に破壊に進んでしまった子どもがたどり着いた暴力の具現が。
「
「
「――――――――――!!!」
吹き荒れる。ぶつかり合う。喰らい合う。人智を越えた膨大な魔力がお互いを喰らい合おうと鎬を削る。彼女たちがもっているのはどれもこれも文句なしに一級品の宝具だ。その真名開放による威力を想像することは容易い。だが、同時にロンドンの街に与える被害は想像もつかなかった。最低でも街一つを纏めてフッ飛ばすことは確実だろう。これはマズイと考えた二人は宝具の角度を調整すると同時に二人を押し切ろうと更に魔力を巡らせようとして――――――急にアルトリアが爆発した。
「―――!?」
「なにっ?」
「これは…………」
全員が一斉に視線をずらす。そこにはちょうど槍を投げ終わったかのような態勢で固まっていた仁慈の姿があった。ヒロインXはこれまで合計三つもの特異点に付き合ってきたのだ。今さら彼が何をしたのかなんて考えるまでもなかった。
「余計なこと、しやがって……!!」
「言っている場合ではありませんよ、モードレッド!貴方だってそこまで正々堂々と戦うような質ではないでしょう!」
「否定できない……!そしてそれを父上が言うことにとんでもなく複雑なんだがっ!」
この親子、いくら何でもノーガードすぎやしないだろうか。元々の関係だと絶対に在り得ない光景ではあるが、元々騎士という質ではないモードレッドと、王としての責務をかなぐり捨て、唯々セイバースレイヤーとして、アルトリア顔絶対殺すウーマンとして再誕した外道成分増し増しなヒロインXとの相性は悪くないのかもしれない。
「さぁ、このまま押し切ってしまいましょう!」
「くっ……ジャージの父上に免じて許してやる……!あ、でも向こうも父上だわ……」
複雑な思いを抱くモードレッドに対して、相手が自分であるにも関わらず――――いや、相手が自分だからこそ、容赦の欠片もないヒロインX。感じることは真逆でも、やることは同じである。二人は仁慈の槍を受け集中が途切れた隙をついてアルトリアをその極光の中に飲み込んだ。
――――――――――――
こうして魔術師M(暫定)に呼ばれた英霊と黒い槍を持ったアルトリアを倒してめでたしめでたし……とはいかない。俺たちはさっき半分ぶっ壊したアングルボダの中から回収するのを忘れた聖杯を取りに再び地下へと訪れていた。
そこには何故か、先の最終決戦に不在だった作家組の二人も存在している。今さら何しに来たんだろうか。
「よっし、後はこれを回収して終わりか。はぁー……これでやっと解放されるぜ……ジャージの父上ともやることやったし、結果的には降りてきて正解だったかもな」
「ほう。あの反逆の騎士殿が随分と丸くなったようですな。これはこれは、またなんとも……」
「フン、唯絆されただけだろう。見てみろあの顔を、『こんなのもたまには悪くない』とでも言わんばかりの顔じゃないか」
「………今さら現れといて随分なものいいじゃねえか。よし、お前らそこに直れ。一人ずつ丁寧に首を斬り落としてやる」
「おいおい、せっかくきれいに丸く収まったんだ。ここで流血沙汰はやめとけよ」
「それで止まる方は中々いないと思いますがねぇ……あ」
「む?おい、セイバー。シェイクスピアを斬り刻むのは止めんが、それより先にあそこの狐耳をやれ。あれは相当面倒くさい女とみた。具体的には最低最悪にして災厄のあれと同類だ」
「相変わらずですねぇ、このマセガキ」
「全くである。コレはともかくアタシは主人に尽くす忠猫、忠犬?忠狐?……とりあえず亭主関白もバッチな良妻系サーヴァントである」
「この……っ!言うに事欠いて私のセリフを……!」
「少し落ち着いてください……!」
「……今回ばかりはあの狐に同情するわ。自分と同じ存在が目の前に現れるってとっても頭痛くなるもの」
「収拾が着かない……!」
ただ聖杯だけを回収しに来たというのにこの乱れようである。もはや誰が何をしゃべっているのか全く理解できないまである。
はぁ、と溜息と付きながら俺は半壊したアングルボダに接近し、聖杯を回収しようとする。
「のう。その聖杯ちょっと爆弾に変えたらだめかの?」
「やったらお前が爆散な」
「ちょっ!」
『……ははっ!なんか急ににぎやかになったね。いつものことだけど、今はそれに輪をかけてね。いやーカオスだねー』
「ロマン!今すぐそのカオスたちを引き連れてそっちに帰るよ!ついでにロマンの部屋で打ち上げ会やるよ!ハロエリが歌うよ!」
『やめて!』
こんな、バカげたやり取りをロマンとしつつ、なんとなく一つ余った魔力回復ポーションを呷りながら聖杯に手に掛けようとする。だが、それが行われることはなかった。何故なら、後ろでバカ騒ぎをしていたサーヴァント達と隣のノッブ、そしてロマンと俺の直感が一斉に言葉に言い表せないような寒気を感じたためである。
『なんだこれは!?地下の空間全体が歪んでる……!?気を付けて、そこに何かが出現するぞ!召喚とは違う方法で何かが!』
ロマンの言葉が真実であると背後にいる歴戦の英霊たちの反応を見れば理解できた。故に俺は本能的にその場から離脱し、皆の場所へと下がる。
「先、輩―――――。変です、何の異常もないのに、寒気が――――――」
「おいおいおいおい、ここに来て随分とやべぇ奴が来たんじゃねえか?」
『空間が開く……来るぞ!』
そして、それは現れた。
「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国神祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。多少はできると思ったが、まさか小間使いすらできないとは……興覚めだ」
ここからでもわかる。圧倒的な魔力量。そこにいるだけ、唯存在するだけでこちらを押しつぶそうとしてくるほどの重圧感。正しく、今まで相手取ってきた連中とは桁が違う。
「くだらない。くだらない。やはり人は時代を重ねるごとに劣化する」
『あぁ、くっそ。シバが安定しない!音声しかダメか……!マシュ、仁慈君!今どうなってる!?』
「わ、わかりません。何か人型のような影がゆっくりとこちらに向かって来ていて……」
マシュの容量を得ない言葉が耳に届く。だが、言いたいことはわかる。正直あれをどう形容していいのかわからない。あれは一体何なのだろうか。どういうことなのだろうか。あんなのは、師匠との修行でも遭遇したことのないものだ。いや、出会ってたら死んでるな。うん。
「嬢ちゃん、下がってな。ありゃ、まっとうな娘が視ていいもんじゃねえ」
「どうやらそのようですね。私も一本だけだと穢されてしまいそうです」
「では、私に喰われるか?物理で」
「ちょっとは空気を読んだらどうなんですかねぇ……」
「今世紀最大のお前が言うなだワン」
「あれはセイバーなのでしょうか……」
「ジャージの父上、それは流石にないと思うぞ……。だが、この魔力量……竜種なんてめじゃねえ、もっとくくりのでかいもんだ」
「そうですな、伝え聞く悪魔か天使、いやそれでは足りますまい……」
「いうなれば神の領域、と言ったところかの」
「なに、あれ……鳥肌がとまらないわ……」
「……まさに桁違いってことね。……バットエンドが大好きなアンデルセン。貴方はどう見る?」
「別に俺はバッドエンドが好きなわけじゃあないぞ。世の中こんなことばかりだという、現実の糞さを書いただけだ。……で、質問の方だが、正直俺達では歯が立たん。よりにもよってこのタイミングで大本命が来たか」
『大本命だって……!?じゃあ、まさか―――――』
「ほう、私と同じで声だけは届くのか」
俺達の会話に、ロマンの通信すらも聞こえているらしき、その影は再び口を開いた。その言葉には俺たち人類に対する悪意とも、憎悪ともほかのものともとれる感情がごちゃまぜになって乗っていた。
「カルデアは時間軸から外れたが故、誰にも見つけることはできない。そう、それは忌々しいことに私の目も例外ではない。だからこそ、貴様らは今も生きている。無様にも。無残にも。無益にも。決定した滅びの瞬間を受け入れず、いまだ無の海を漂う哀れな船だ。それがお前たちだ。樫原仁慈という個体だ」
名前を呼ばれた瞬間に、意識が切り替わる。それは先程のような戦闘が終わったときのものではない。これから戦闘が始まる。負けられない戦いが始まる。これで負ければ自分が死ぬ。そういったものが始まる瞬間だと自分に自覚させることによって切り替わる、戦闘用の意識だ。
「燃え尽きた人類史に残ったシミ。私のなした事業に唯一残った、私に逆らう愚か者の名、か」
「―――ドクター。今私たちの前に現れようとしているのは……」
「お前は誰だ?」
予想はついている。しかし、それでも決めつけはよくない。というかこういったことの事実確認は重要だ。そんな意味を込めて問うたのだが、向こうは本気で分からないからこそ聞いているのだと思ったらしく、実にいい嗤い顔を晒しながらゆっくりと口を開いた。
「ん?既に知り得ているはずだが?まさかそこまで言わなければ理解できないサルなのか?」
「何言ってんだ。珍しく名乗らせてやるって言ってんの」
俺の所業を見よ。ほとんどが不意打ちだぞ(自慢できない)
「くっ、その強がり。まことに無様で面白い。いいだろう。その笑いに免じて名乗ってやる」
「我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、人類を王座にて滅ぼすもの。―――名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」
ヒロインXはともかく、モーさんは誰これレベルだよね。