ジャックちゃんつおい。
名前も知らぬこの特異点の原因と思われるサーヴァント、Pを倒した俺たちはあの後、一日ずっと寝ずに活動していたせいで限界を迎えたためにすぐさまジキルの部屋へと戻り仮眠を取った。
そうして、数時間ほど寝てすっきりしたのちに、俺たちは最後にPが残した言葉を確認するためにモードレッドとXを引き連れて適当にロンドンの街並みを歩き回った。彼の言葉が本当というのであれば、サーヴァントが霧から召喚されるということであり、これ以上敵に戦力を回さないために監視の役割もあった。ついでに、霧からサーヴァントが召喚されることを考えると、この霧は九割九分聖杯が生み出しているものあると、すっかり存在を忘れていた所長が教えてくれた。
これらのことを踏まえてロンドンの街並みを歩き回っていると本当にPの言う通り霧から新たなサーヴァントが召喚されている場面に出くわした。その風貌はかっこいい年の取り方をしたおじさまという感じであったのだが、口を開いた瞬間にそんな雰囲気は霧散してしまう。
「さぁ、吾輩を召喚せしめたのは何処のどなたか!このキャスター・シェイクスピア。霧の都にはせ参じました!――――いや、しかしどうやら此度の聖杯戦争は通常のものとは一癖も二癖も違っているご様子。これは困りましたね。我が傍観すべき物語は、吾輩の心を、魂を揺らし、なんかいい感じにインスピレーション溢れるというか、デンジャーでデストロイな物語はないものか…………いや、まさかそこに在らせられるは……おぉ、間違いないこれこそまさにマスターというもの。神はやはり私を見捨てていなかった。そして、幸運なことにこのマスターは確実に吾輩の魂を揺さぶるような物語をつづっていきそうな顔立ちではないですか。誠に結構でございますな!」
―――――――――うん。こんなコンタクトだったんだから、上記のような印象が一瞬で霧散……というか四散してしまったことに納得してくれたと思う。正直、関わりたくないと思ってしまったし、現在進行形でも思っている最中なのだが、それでも彼はサーヴァント。向こう側につかれてしまうと厄介極まりないため、仕方がなくキャスター・シェイクスピアを仲間にすることにした。ジキルの部屋に着くなりに、アンデルセンと一緒に好き勝手しだしたあたりで、仲間ではなくて座に還すべきだったと思ってしまったのはここだけの秘密である。
閑話休題。
と、まあこのような経緯がありながらも一体サーヴァントを増やした俺達。この後、俺がロマンを感じた機械人形などが大量発生したことと、特異点のことを聞いたアンデルセンが疑問に思ったことの答えを探すためにロンドンにある魔術教会を訪れることにした。恐らくそこにならそう少なくない資料が保管されているとのことで、現状の解決に一役買ってくれそうだと良いことが理由である。
やることと言えば、P以外の首謀者を考えることか、外を歩き回っている人形やら何やらを殲滅するくらいしか仕事がないために、アンデルセンとジキルの案を採用。サクッと資料をあさりに行った。まぁ、途中で絡まれた機械人形擬きに引っ付かれてそこまで詳しく調べられたわけじゃないけれど。それでも、ジキルがハイドになったり、眠気も覚まして気分爽快になったりしているうちに資料の読み取りは終了していた。
――――――――――ということで、以上が今までの経緯である。
現在俺たちが居るのは相も変わらずジキルの根城。そこにハイド化?するための薬を飲んだ副作用によって床に臥せるハイド氏に代わってあのアンデルセンが話を切り出していた。なんでも彼はずっと聖杯戦争と聖杯、そしてマスターとサーヴァントということ自体にずっと疑問を抱いていたとか。
そうして抱いた疑問に対して彼は行動を起こした。ロマンに聖杯戦争のこと英霊召喚のことなどを聞いて、そしてそれと同様に魔術教会の魔導書等もそれらしいことが書いてあるところに目を通して来たのだという。
「俺は呼び出した英霊たちを戦わせる、というところに少々引っ掛かりを覚えてな。魔術教会の方でも調べてみたんだが……それを含めて言うと、『儀式・英霊召喚』と『儀式・聖杯戦争』はシステムこそ同じなれど、ジャンルは違うと言える。『聖杯戦争』は元々あったものを人間が利己的に利用できるようにしたものなのだろう。だが、英霊召喚は違う。―――――あれは元々、一つの強大な敵に対して最強の七基を投入することが目的だということだそうだ」
つまり、人類ないし世界が危機に陥ったときのカウンターというか、対抗策のようなものだろうか。
「おそらくはな。………もしこれが本当であれば、元々割り振られていた七体は一体どんな霊基を持っていたのやらな」
呟いて彼は口を閉じた。ついでにこの資料をあらかじめ見やすいように整理していた者がいるのではないかということも最後に付け加えていた。……正直そこら辺のことはこちらには関係ない。というよりわからないことなので一度棚に上げることにした。確かにその聖杯戦争や英霊召喚のことについても気になるけれども、現状優先すべきはこの街に出没している自動人形とは別のロマンあふれる機械――――ヘルタースケルター(最近覚えた)の止め方だったのだ。それが達成されていない時点で、魔術教会への遠足()は半分くらい失敗と言ってもいいかもしれない。
――――――――――――
次の日。
昨日一昨日でフル稼働したためにどうにか休憩を取ろうとしたのだが、ジキルが俺に貸してくれた部屋にはなんと現地で会った作家組に加えてサーヴァント界ナンバーワンなコメディアンと焼き討ち大好きな南蛮かぶれ、ついでにことあるごとに油とガソリンと火炎放射器と消火器を同時にばらまくかの如き混沌をもたらすタマモキャットが居るために全く休んだ気がしなかった。一瞬だけ見れた夢の中でも兄貴が師匠にボコられている光景がチラリと見えた気がしたし、俺、ここに来てからまともに休めてないんですが……。このままだと死にそう(小並感)
「あ、おはようございます先輩。昨日はゆっくりとお休みになられましたか?」
「ごめん無理。あの面子の中で穏やかに休めるにはまだまだ胆力が足りなかったようで」
「え……?確か先輩のお部屋は………あっ」
どうやら察してくれたようである。
一応、例の如く頭のおかしいタイツ師匠のおかげで短い休憩で万全に近いコンディションに持っていく技能は持っているから二日くらいならいいんだけれども。精神的に来るものがあるのである。特に、ハロエリが歌いだそうとした時は槍を取り出したし。
「―――――貴女の服は綺麗ね。まるでおとぎ話に出てくる花嫁そのものだわ」
「………ァ……ゥゥ……?」
「えぇ、綺麗よ。とってもね」
「………ゥゥ…………」
あぁ、なんということだろう。ついさっきまでアレでアレな光景を見ていたせいで、ナーサリーとフランのやり取りにとても癒される。相変わらず何を言っているのかはわからないが、フランの頬が微妙に染まっていることからナーサリーに褒められて照れているのだろう。なんといういじらしさ。とってもいいと思います。マシュも、俺の隣で頬を緩めている。
「つつ………。何とか筋肉痛は抜けて来たなぁ……。あれ、アンデルセンたちは何処へ?」
「俺に割り振られた部屋で面白おかしく原稿を書いてるよ。どこに出すのか全く分からないけれど。うるさいったらなかった。あの人たちは何か話してないと死ぬんだろうか」
「あはは……。心中察するよ。……モードレッドとヒロインX、だっけ?彼らは?」
「朝早くから剣を交えに言った。多分、多くのヘルタースケルターをはじめとする敵を巻き添えにできるところで派手に立ち回ってるんじゃないかな」
「……………街を壊さなければいいけど」
「ビームは封印するって言ってたから大丈夫だと思う。………多分、きっと、メイビー」
「不安なんですね」
セイバー(バーサーカー入ってそう)と自称セイバー(霊基はアサシンの模様)の二人だからなぁ。なにが起きても不思議ではないと思うんだ。
などと、ジキルと共に心配していたのだが、意外や意外。二人は案外普通に帰って来た。追っている傷も許容範囲内。適当に回復魔術をぶっかけて何をしていたのか聞くことにした。
「で、こんな朝早く……かどうかはわからないけど、何をしてきたんだ?戦ったにしては妙に傷が少ない気がするけど」
「ふっ、マスター甘いですよ。私がいつまでたっても学習しないと思いましたか?少なくともこの特異点にては過去のことを忘れ、セイバー殺しも我慢しているこの私が」
「うん」
「日頃の行いって重要なんですね……」
信頼できる要素などどこに在ろうか。
遠い目で俺から視線を逸らすヒロインX。そんな彼女を見かねたのかモードレッドが間に入ってきてさっきまでやっていたことを説明してくれた。内容はどちらが多くのヘルタースケルターを狩れるかという競争を行っていたらしい。……円卓の騎士と騎士王が揃って何をやっているんだか。
若干あきれの混じった視線で彼女たちのことを見ていると、全くこちらに関わることのない所長が珍しく通信画面に映し出された。久しぶりに見たな。正直、最高責任者はロマンになっているのではないかと思い始めていたし、意外性倍ドンである。
『変な言い方やめてくれない!?私はオペレーションを行っていないだけでしっかり仕事してるわよ!今からその証拠を見せてあげるわ!』
勇ましく切り出した所長。彼女が俺たちに見せてくれたのは今まで相手にしていたヘルタースケルターの正体。何やら長々と彼女は語っていたのだが、俺の凡俗な頭では理解できなかったのでカット。とりあえず重要な部分としては、あのヘルタースケルターは何者かの宝具であり、自律に見えたあの動きもどこかに大本となるものが存在しているということである。これが本当であれば、今現在町で一番多いヘルタースケルターを無力化することができる。やはり所長はお飾りではなかったんや……!
『って、ダ・ヴィンチが言ってたわ』
「……素直なのはいいことですね」
それ言っちゃうんだ………。ちょっとだけ好感度が下がった気がするけれども、素直に白状するその潔さは普通に美徳だと思うので結果的に所長に関する好感度が上がった。
で、それが分かったからと言って正直、その操っている奴の場所がわからなければぶっちゃけ無意味である。そこのところ我らが便利屋、ダ・ヴィンチちゃんはどう考えているのだろうか。
『彼もそこまではわからないってさ』
『ちょ、ちょっとロマン!あんたは少し休んどきなさいって言ったでしょうが!もうわ私の言ったことを忘れてしまったのかしら!?』
『大丈夫です。問題ありません。このままだと今度は僕が空気になりそうだったので』
『そんな理由!?』
カルデア式漫才は放っておくとして本当にどうしようか。本体ということは他のに比べて魔力量とかが違う筈なんだけれども、この霧だ。魔力での探索は不可能と思っていいだろう。マシュも、モードレッドも、ジキルもヒロインXもお手上げといった感じで腕を組んで考え始めてしまった。
いっそのこと、複数に分けてしらみつぶしに探していこうかと考えた瞬間、視界の端っこで、ナーサリーとお話ししていたはずのフランがこちらにちらちらと視線を向けていることに気づいた。
「マスター。どうやらこの子、話があるみたいよ?」
ナーサリーがフランの背中を押して、こちらに送る。すると、当然俺たちの視線はフランに集中するわけだ。
「…ァ……ゥゥ…………」
注目を浴びすぎて縮こまってしまった。仕方がないので、彼女が平時に戻るまで少々待ってみる。
すると、数分したのちに彼女はガバッと下げていた頭を上げて、身振り手振りを使って俺たちに何かを伝えようとしてくれた。彼女には悪いが俺には何が何だかさっぱりわからない。分からないのだが、こちらには彼女の意思を完全に読み取ってくれる人とそれに近しい人がいる。
「ふんふん」
「ほうほう」
「……ァ……ァァ……ゥ……」
「それはすごいです!」
「お手柄だなフラン」
『………できればこちらにもわかるようにしてほしんだけど』
「うん。マシュ、フランはなんて言ってた?」
「それなんですがね。――――実はフランさん。分かるそうですよ」
「わかるって、もしかして」
「あぁ、そうだ。ヘルタースケルターの本体のところ、フランならわかるらしいぜ。な?そうだろ?」
「(コクン)」
モードレッドの問いかけにしっかりと答えたフラン。これで少しは攻め手に出れそうだな。
モードレッドに頭をわしゃわしゃとされ、ナーサリーとマシュにあたたかな表情で見守られているフランを眺めながら俺はこの特異点の終わりが近いと漠然と感じていた。