申し訳ないついでにもう一つ、年末ということで色々忙しいので更に一週間周期すら保てなくなってしまうかもしれませんが、ご了承ください。
「解体するよ」
動きは一瞬。
敵である切り裂きジャックの姿がブレ、消える。それは、ロンドンの霧に加え、ジャックのステータスもあるのだろう。魔力強化を施されている仁慈の視力でもとらえきれない。
だが、彼女は先程口にした通りに魔力を求めているらしく仁慈を一直線に狙ってきた。一番殺しやすそうな奴から攻撃するのは定石だ。彼女には自分を捕らえることができないだろうという自信があった。今まで何度か剣を交えたモードレッドをはじめとするサーヴァントならいざ知らず、魔術師とはいえ人間に防がれるわけがないと。
事実として仁慈はジャックを見失っていたし、当然そのような可能性はあったのだ。だが、忘れてはいけない。ここには彼の剣となり、盾となるサーヴァントが居ることを。
「させません!」
ジャックと仁慈の間に体を滑り込ませたマシュはジャックの小柄な体の前に自身の身長と同等の大きさを誇る盾を構え、行く手を阻む。彼女は一度だけその盾に持っているナイフを突き立てるが効果がないことを悟るとすぐに盾を蹴って距離を置く。
深追いをせず、一度後退した隙を逃すことはない。ここでモードレッドは一歩踏み込みジャックを追い立てる。遠距離専門(一部を除く)と言っても過言ではないキャスター組に位置するナーサリー・ライムとハロウィン・エリザベートもここぞとばかりに魔力を酷使し、魔術を使う。
「ふふっ」
完全な、とはいかないものの大きな隙を狙ったはずなのだが、ジャックはそれをものともせずに回避する。むしろあの形容は攻撃の方から回避していったと表現してもよいものだった。仁慈はこれと似たような現象に見覚えがある。なにを隠そう彼をここまでのキチガイに仕立て上げた大体の元凶であるスカサハが使う回避スキルが発動した時もこのような現象が起きるためだ。仁慈はそれを確認した瞬間内心で舌打ちをした。このスキルを持っているということは長期戦になる可能性があるからである。背後にキャスターのPが控えていていることもあり早々に決着をつけたい仁慈からすれば、女性特攻疑惑も相俟って最悪の相手と言ってもよいだろう。
「あぁ、もう、うっぜえな……!そういえばこういう野郎だったぜ!」
モードレッドも暖簾に腕押しというような状況にストレスが溜まっているようだ。仁慈は心底同意した。
「………うん。もう、殺そう。お腹もペコペコだし、せっかく目の間に居るんだからそうしないと勿体ないもんね」
ジャックの不吉な言葉が耳に届く。
仁慈とモードレッドはそれを聞いた瞬間自身の中にある直感が警報を鳴らしていることに気が付いた。これは宝具が飛んでくると。
「先輩、彼女の攻撃にはこれと言って私たちに有効な攻撃だとは思いませんでした。ということはつまり……」
「多分、宝具にあるんだろう」
英霊が生前を象るのであれば、ジャック・ザ・リッパーである彼女が女性特攻を持っていないはずがない。
仁慈をはじめ、特に女性陣は警戒態勢に入った。モードレッドなんて既にナーサリー・ライムよりも後方に逃げていたアンデルセンを引っ張ってきて盾の代わりにしている。
「いきなりつかんできたと思ったら何をしているんだ?」
「宝具撃ってきそうだから盾にしているんだよ。それくらいわかれ」
「理解できないししたくもないな。そもそも本気で俺を盾にする気か?俺は作家だぞ、キャスターだぞ?宝具の盾になんぞなるわけがない。だから今すぐ開放するんだ」
「そうか。なら身代わりにでも使うわ」
「どうあっても離さない気だな。無駄に強固な意志を感じるぞチクショウ」
仁慈はすっと視線を逸らした。今は、彼らのやり取りよりも中止するべきところがあるのだから。
殺す気満々になったジャックは体勢を低くするとそのまま段々と周囲に広がる霧へと解けるように消え始めた。ここで既に宝具を展開していることに気づいた仁慈は自身で攻撃を行いつつキャスター組にも攻撃を行う様に支持を出す。
形を成した魔力と、武器がジャックを射貫く――――――――ことはなく、彼女は完全にその姿を溶け込ませてしまった。
これはマズイ、と仁慈は考えた。何故なら宝具の効果か霧の影響か、ジャックの気配を捕らえることができなくなってしまったのだ。これではどこから攻撃が飛んでくるのかわからない。しかし彼女の声だけは彼らの耳に届いて来ていた。
『――――此よりは地獄。わたしたちは、炎、雨、力―――――――殺戮をここに……!』
直感もちの二人だではなくその場にいるサーヴァント全員が感じた。来ると。
仁慈は自身の持ち得る感覚を全てをつぎ込みジャックの気配を探る。これは唯一初期から自信を持っていた彼のスキルなのである。ここでとらえられませんでしたということで誰かを倒され、あまつさえ自分すらも殺されるなんて言う事態になれば、今自分の兄弟子に当たるクー・フーリンをしごいているであろうスカサハに地獄まで来られてぼこぼこにされるに違いない。
そうして―――限界まで研ぎ澄まされた仁慈の感覚は、今から攻撃しようとするジャックの動きによって生じた空気の流れを感じた。その狙いは、ナーサリー・ライムである。仁慈はそれを理解すると同時に地面を蹴り、ナーサリー・ライムの前に先ほど自分が庇われたように体を滑り込ませ、ゲートオブ何某と言ってもいいのではないかとヒロインXが密かにささやいている四次元鞄から深紅の日本刀を取り出し、そのまま薙ぎ払う。
―――正面から来たジャックは初めに両手に持っているナイフを一回ずつ振るう。それに対して仁慈は空気の動きだけでそれらを防ぐ。正面からの攻撃を防がれたジャックは勢いを殺さないまま彼の背後まで駆け抜ける。そして、すぐさま体を反転させ、無防備な仁慈の背中に今度こそナイフを突き立てんとする。
「『
宝具の真名を開放して更に出力をました凶刃が背中に迫る。
しかし、姿も見えず、捕らえることもできず、気配すら感じられない相手に空気の流れだけで対応をしてきたキチガイが、最後の攻撃にも反応できないわけはなかった。彼は先程ジャックが行ったのと同じように体を反転させた。そして、既に持っている刀を振れる状態にすらしてある。
「――――ッ!」
「―――――」
そして、ついにロンドンを恐怖に陥れた凶刃と、人類史に仇名す敵たちを絶望の淵に叩き落す刃が交じり合った。
――――――――――――
「………そう、ですか。えぇこれが正しい形なのでしょう。さようなら愛を知らぬ可哀想な子。いつかあなたが真に愛を得ることができるよう」
消えていくジャックを眺めながらキャスターたるPはそう口にする。
「――――さて、本来ならここで私も貴方たちの刃にかかるべきでしょうね。悪逆の魔術師は英雄に倒される。それは、私の望む回答の一つでもある。ですが、まずは私の役割を果たす。願わくば、貴方たちが悪逆を倒す正義の味方であり続けますよう―――」
「残念それは俺に関係ないことだ」
もう、いつも通りの光景である。
もはや誰と明言しなくてもいいだろう。彼はPの言葉を遮り、メフィストフェレスの時と同じように武器を投擲する。
仁慈の手から放たれた武器は寸分の狂いもなくPの両手に突き刺さり、彼の身体をそのままスコットランドヤードの壁に貼り付けた。
「―――っ!?」
「相手の役割、言い分を一々聞き入れる義理も人情もない。………先程の言葉に嘘偽りがないのであれば、何かしらの情報を残して消える道を選べ」
「…………」
壁に貼り付けられながらも黙り込むP。彼は聖杯を使って自分の本拠地へと帰る算段になっているため、それが来るまでの時間稼ぎを行っているのだが、どうにも先程からそのようなことになる気配が全く起きなかった。どういうことだと首を傾げる反面、それでもいいと諦めてしまっている彼もいた。
「………では、正義の味方であり続けるであろうあなたに、一つ情報を与えましょう。その少女と、先程のジャックを含めた英霊はすべて霧から召喚された……元々はどちらの陣営にも所属していないサーヴァントなのです。………それだけ言えば、いくつかの予想を立てることができましょう」
「……………有益な情報をありがとう。じゃあ、さようなら」
後腐れなく、ここで適当に生かして後々出てこられたり、まかり間違っても逃げられてたりしたら目も当てられないために仁慈はためらいもなくPに止めを刺した。欲を言えば、彼らのメンバーとその潜伏先くらいは聞いておきたいと考えていたのだが、欲に駆られ過ぎれば確実にしっぺ返しが来るということを理解しているためにそれをすることはなかった。
「………先輩、いつもいつも、嫌な役回りをさせてすみません。本来ならこういうことは私たちがやるべきことなのに………」
「……ん、戦闘中は普通に割り切れるから大丈夫。……というか、そうされた。まぁ、慣れたしいいよ」
一週間という期間だけ鍛えられるということで逆に想像を超える過酷な環境に叩き込まれたことによる弊害だなぁ、と仁慈は死んだ目で話す。
その後、彼らはロマニに先ほどPが言ったことを改めて伝え、拠点に居るジキルに前もって伝えていくれるように頼むとそのままジキルの拠点へと向かったのであった。
「………いい加減はなせ」
「……おう。なんつーかあれだ。アイツを見ているとどこか釈然としない気持ちにさせられるな」
「考えない方が身のためだな。あれはおそらくそういう生き物だ」
……後ろから聞こえてくる失礼な言葉を聞き流しながら。
次からは飛ばし飛ばしで行こうと思います。
もう流石に往復する気にはなれない。