この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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タイトル詐欺。


FINAL DEAD LANCERS

 

 

 

 

 

 

「そら!受けてみよ!」

 

 威勢のいい声と共に放たれるのは、無数の赤い槍。それに対峙するは俺こと樫原仁慈とアイルランドの大英雄にして俺にとって色々な意味で先輩にあたるクー・フーリンである。

 普段とは比べ物にならない密度を誇るその弾幕に俺たちは一人で対応することを諦めると、お互いに一瞬だけ視線を配らせ頻繁に位置を変えつつ槍をはじき返す。兄貴はクラスに収められ弱体化しながらもなお猛威を振るう技術を使い、俺は今までの経験から弾いた槍で別の槍を弾いてやり過ごした。

 

 これくらいは予想の範疇だったのだろう。師匠は槍を放出するのを辞めて左手にもう一本槍を取り出すと、二本とも携えて俺たちの間に体を滑り込ませた。

 

「っ……!マスター!来るぜ!」

 

「はいよ!」

 

 兄貴の呼びかけに今までに培われてきてしまった身体が勝手に反応を示す。師匠が右手の槍を振りかぶると同時にこちらも神葬の槍を彼女の右手に向って突き刺す。当然彼女の右手を貫くには至らなかったが、それでも師匠が槍を振り下ろすことは出来なくなった。彼女もこの槍の効果は一応認めているらしい。多少の無茶をしつつも俺の槍を相殺しに行ったことにより、隙ができる。

 もちろん右手に向かって槍を突きだしている俺はその隙を突くことはできないが、彼女と対峙しているのは俺だけではない。兄貴だっているのだ。

 

「その心臓――――貰い受ける!」

 

 嘗て師匠から貰い受けた槍を持ってして彼女の心臓を奪いにかかる。それこそが兄貴にその槍を授けた師匠の望みであるからだ。

 発動することで結果を確定させてから過程を作るという因果逆転の性質を持つ槍を兄貴は何のためらいもなくその真名を開放する。

 

刺し穿つ、死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 死を告げるその槍は兄貴の宣言通り、確かに師匠の心臓を射貫く――――――――――ことはなく、遥か彼方へと進路を変更。俺たちが今現在使っているカルデアの訓練室の、その天井へと飛んでいきそのまま突き刺さってしまった。おかしい。オルレアンにて、兄貴はこの槍でサーヴァントの命とワイバーンの命を数多く奪い取ってきている。ここでいきなりゲイボルクがボイコットを起こすとは考えにくい。兄貴の技量だって、聖杯戦争という仕様上生前のポテンシャルには届かないが卓越したものを誇っているはずなのだ。

 

 呆然と天井に生えた槍を見やる兄貴。

 確かに自分の宝具が持ち前の効果を投げ出し、相手とは180度真逆の天井に突き刺さりに行ってしまったとあればそうなってしまうのも仕方のない話だと思う。しかし、俺たちが敵対している人物を忘れてはいけない。いくら不測の事態でも呆然という選択肢だけは取っていけない。それ即ち、師匠に付け入る隙を与えることと同義であるからだ。案の定、師匠は飛んでいった槍を見ている兄貴に狙いを絞っていた。対応できるのはその行動を読んでいた俺のみだ。

 俺から体を放そうとした師匠の行く先に神葬の槍を投擲して、一瞬だけその動きを留めさせ、その後に無防備にさらされた横っ腹に魔力を練り込んだ拳を叩き込んだ。地面を陥没させ、周囲に轟音をまき散らしながら放たれたその拳を受けた師匠は紙屑のように吹き飛ばされる。が、そのくらいで師匠が死なないことは既に把握済みな俺はそれで安心することはなく四次元鞄から例の礼装祭りのときに手に入れていた黒鍵を取り出して8本投擲する。更には黒鍵の後に続くように俺も彼女に向けて突撃をかます。師匠は吹き飛ばされ、内側で魔力が荒ぶっていても動揺することはなく冷静に態勢を立て直す。その後軽々と俺の放った黒鍵を弾き迎撃態勢を整えていた。このまま突っ込むのは少々恐ろしいもののここまで来てしまっては後戻りなどできるはずもない。訓練室の床を蹴って更に速度を上げた俺は勢いも含めた全力の回し蹴りを放つ。

 

「はは!そういえば、お主にはそれもあったな。私が視て来た勇士の中でも己が肉体を極めたものは中々思い至らないからな。よいぞ、新鮮で実にいい!」

 

「まだまだ余裕そうですねコンチクショウ!」

 

 もちろんただ速いだけの回し蹴りなんぞ当たるわけもなく、体を逸らされて回避されてしまう。だが、俺の狙いはそれだ。回避のために逸らした視線……その一瞬の間に、遥か遠くに行ってしまった槍を回収し終えた兄貴が帰ってきた。兄貴はそのまま反撃に出ようとする師匠の死角から奇襲を仕掛ける。

 

 けれども、まぁ俺が気づいていた兄貴の接近に師匠が気づかないなんてことはなく。どこからともなく召喚された紅い槍にしっかりと防がれてしまった。兄貴はその雨を回収してきたばかりの槍を回転させることによって防御をすると深追いはせずに俺の隣へと降りた。

 

「すまねえなマスター。ちょっとぼさっとしちまった」

 

「あれはしょうがないと思うマジで」

 

 多分だけど、不死である師匠の因果を見つけることができなかった結果があの大暴投だと思うし。通常ならまずありえないからね。アレは。

 

「セタンタ。お主、もしかしなくとも弱くなっているな?仁慈に助けを求めるなど、以前のお主では考えられなかっただろう」

 

「へいへい、どうせ俺は弱くなっているし、必中宝具を大暴投に変える青色全身タイツだよ。……ったく、仕方ねえだろ。俺だって弱体化したくてしているわけじゃねえんだよ」

 

「………ま、原因が何であろうと答えは単純だ。弱くなったのであればまた強くなればいいだけのこと。そら続きだ。そのコンビネーションを以てして私をもっと楽しませるがいい!」

 

 やる気を更に上げる師匠。その証拠に、彼女は自分の背後にシャレにならないくらいの槍を出現させて待機していた。もはやいつぞやに戦った英雄王のようである。

 

「師匠のやる気はMaxか……。マスター、こっからが本番だぞ。気合を入れろ!」

 

「ですよね…………おっし、やるぞ!」

 

 俺達の勇気が師匠を倒すと信じて!

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いう夢を見たんだ。

 

 

 

 

 

「んっ、んう?」

 

 朧げな意識の中で俺は頭に当たる柔らかさとぬくもりによって意識を覚醒させた。それはいつか何処かでマシュから受けた膝枕に大変似ている。

 

「あっ、先輩。気が付いたんですね。よかったです」

 

 というかその光景のまんまだった。

 いつぞやのように俺はマシュから膝枕されているような状態であったらしく、俺の目の前には見覚えのある2つの豊かな山が存在していた。激しく自己主張するその山から視線を逸らしつつどうして俺が膝枕を再び受けるようなことになったのか思考を巡らせる。

 すると、マシュが俺の思考に気づいたのか、答えを先に口にした。

 

「あの後、先輩とクー・フーリンさんはスカサハさんにやられて気絶していたんですよ」

 

 そう笑って言う彼女。夢じゃなかったかぁ……。

 それは置いといて、うちきり漫画の如き覚悟を示した俺たちが気絶した時の状態はもう少し酷い状態だったらしく、マシュやロマンをはじめとした初対面の人間まで食って掛かるほどの酷さだったという。しかし、具体的な内容を聞いたら割と大したことがなかった。別に槍で空中コンボされるくらいケルトにとっては普通である。

 マシュの話だと俺は人間でマスターだからこそそれで済んだのだが、槍を外し、俺と肩を並べてしまった様を見て大層お怒りだったらしく今でも寝込んでうなされているとのこと。兄貴ェ……。

 大体状況の把握が済んだので、頭に感じている柔らかい感触に注意しつつ、周囲を見渡す。ここはカルデアの医務室だろう。清潔感のある部屋にベッドがいくつも並べて在り、鼻には消毒液の匂いが漂ってきた。隣を覗くと俺と同じく師匠にやられたらしい兄貴が寝ており、反対側にはいつもの赤い聖骸布を脱ぎ捨て、髪も前に流しているエミヤ師匠が寝ていた。…………え?何で?

 

「ねぇ、マシュ」

 

「なんですか先輩」

 

「隣でエミヤ師匠が寝ているのは何故でしょうか」

 

「…………」

 

 俺の問いかけにマシュはそっと視線を逸らした。口では何も言わないもののその表情は何よりも雄弁だった。曰く、嫌な事件だったね……というところだろうか。

 何があったのか物凄く気になるのでとりあえずじーっと彼女を見つめることにした。マシュは俺からの視線が恥ずかしいのか徐々にその白い肌を赤く染めていったかわいい。

 

「…………なんで黙って私のことを見ているんですか?」

 

「エミヤ師匠のことを教えてもらおうと」

 

「……………わかりました。言いますから、ちょっとだけ、むこうの方を向いてくれませんか?顔を戻すので」

 

 赤くなった顔をむにむにほぐすマシュから仕方がなく、本当に仕方がなく視線を逸らす。するとマシュの方も顔を元に戻しながらエミヤ師匠のことについて語った。

 

「流石に、マスターである先輩が倒れたとなれば、当然カルデアに居る人たち全てにその話がいきわたります。そうして回って来た情報からスカサハさんに苦言を呈したのがエミヤ先輩だったんです」

 

 曰く、修練に怪我等は付き物だが、いくら何でもあれはやりすぎということでエミヤ師匠が師匠に言いに行ったらしい。それだけならば、師匠と口論するくらいで済んだのだが、彼が俺の師匠と言うことを明かしたのがいけなかったらしく、あれよあれよと戦うこととなったらしい。で、結果は見ての通り、エミヤ師匠はカルデアのフカフカベッドのお世話になる羽目になったとのこと。

 

「とんでもなく申し訳ない気持ちになる」

 

「仕方がないと思いますよ。あれはどう考えても先輩のせいではありません」

 

 フォローを入れてくれるマシュに感謝しつつ、俺は必ず師匠にある程度の自重をさせようと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、そんなことあの人が聞いてくれるわけもないんだけどね。

 

「遅いぞ、仁慈、セタンタ、エミヤ。そら、目覚まし代わりの修練だ。今日こそは私に一太刀浴びせてみせよ」

 

 それはこの光景を見てみればわかるだろう。

 俺が兄貴と一緒に倒れて膝枕されてから三日後、こうして今度は三人でスカサハ師匠に対峙する俺達。この人は意地でも俺たちを鍛えることをやめないらしい。

 

「なぜ私まで……こういう役回りはランサーである君たちの役割ではなかったか?」

 

「ほざけ弓兵。こうなりゃお前も道連れだ。精々、死なないように死力を尽くせよ」

 

「二人が協力してくれるのはいいんだけど、それが味方と戦う時に限ってって……」

 

 ある意味その辺の敵よりボスしてるから更に質悪いんですけどね!

 言いつつ、俺たちはそれぞれの武器を手に、師匠へと向かって行くのだった。

 

「ゲイボルク・オルタナティブ!」

 

「ぐっは!?」

 

「ランサーが死んだ!」

 

「この人でなし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束事

 

 1、師匠はむやみやたらに周囲を巻き込んで修練をしない。以上、これさえ守れればいいです。

 

                  by仁慈

 

 

 交換条件

 

 セタンタ、仁慈、エミヤの三人と早朝に修練を行う。お主らにはまだまだ伸びしろがある。私がそれを育ててやるから、私を殺せるほどにまで成長してくれ。

 

                 byスカサハ

 

 

 

  




アーチャー(紅茶)も死んだ!この人でなし!

それはともかく、次回からは四章を開始します。すみません。サンタオルタについてなんですけれども、流石に長期休暇時とはわけが違うので、今後書かなかったイベントストーリーにつきましては本編の方がひと段落してから書き始めるというスタンスでいこうと思います。
納得できない方もいるかもしれませんがご理解のほど、よろしくお願いいたします。

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