この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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邪ンヌなんてなかった。いいね?


確定

 

 

 

 

「――――――大体だな。以前しごいてやったというのに、再びつけあがるとは何事だ?確かに貴様はこの時代の人間としては破格の強さを持っていると言ってもいい。私が人に知られていた時代と比べても遜色はないと言ってもいいだろう。だが、その強さも慢心しては意味がない。慢心は圧倒的な力の差を覆される大きな要因となるだろう。お主も心当たりがあるのではないか?先の特異点では血斧王エイリークごときに後れを取っていたこともある。そこらのことをしっかりと理解できているのだろうな?いや、理解しろ」

 

「ハイ………」

 

 正論が……正論が痛いよ……。自分の非がはっきりと理解できる分ダメージ倍率は更にドンと来ている。今の癒しは俺の横でハラハラとこちらのことを心配してくれているマシュだけだ。

 

「聞いているのか?」

 

「もちろんでございます」

 

 だめだ。下手に視線を逸らそうものなら師匠からの説教も二倍になる。つまり俺に逃げ場なんてなかったのだろう。泣けるぜ。

 

「あ、あの……スカサハさん。そろそろいいのではないでしょうか?先輩も、人類の未来という大きな重荷を背負って数多の英霊たちと戦っていたのですから……」

 

「無論。そのことはわかっている。しかし、だからと言って魔力による力押しを許すわけにはいかん。どれだけ動けようと、仁慈は人間なのだ。外付けの力だけでは必ずどこかで限界が来る。重要なのはその人間の持つ技そのものなのだ」

 

 もし、魔力のラインを切るような相手が現れたときはどうするのか。サーヴァントとの契約を切れるような武器、宝具を持っている相手と対峙したときはどうするのか……。時間を稼ぐにしても倒すにしても、それらを成すには常軌を逸した技量を求められる。

 残念ながら俺のそれは未だその域には達していない。よく、考えることがおかしい。それを実行するのはおかしい、というか軽くキチガイじゃね?とは言われるが所詮、動揺を誘えた時に使える一時凌ぎだ。それで仕留められればわけないがもし倒し損ねてしまった場合はその戦法が通じないばかりか普通に戦うことになってしまうのだ。オルレアンの時はそれで何とかなったが、今後特異点における戦闘は更に激化するだろう。師匠が言う様に、ここいらで何とかしておかなくてはいけないかもしれない。……だからと言ってここでやらなくてもいいんじゃないかとは思うけれど。

 

「そ、そうなんですか……」

 

「うむ」

 

 先輩でもまだまだ未熟なんですね、スカサハさんにとっては……と口にして感心したようにスカサハを眺めた。

 尊敬するまでならいいけど、弟子入りはやめてね?するならブーディカさんにしてください。この人たちは攻撃を翻すか、一撃で仕留めるか、ゲリラ戦しか出来ないから。盾で受け止めるなんて考えない人だから。

 

「そういえば、仁慈。お主は槍以外もそこそこつかえていたな?」

 

「一応は」

 

 確かに、扱うことはできる。それは偏に樫原という家系が武術に傾倒していた一族だからである。しかし、それに実力が伴っているかと聞かれれば首を傾げる。できると言ってもそれは所詮普通の人間レベル。師匠をはじめとする人外から見ればお粗末とも言える物が殆どだ。だからこそ、宝具に覚醒する前から神秘を纏い、ダ・ヴィンチちゃんに改造してもらったことから槍を愛用してきた。一番時間は短くともそれを補って余りあるくらいに濃密な時間だったしね。

 

「……そうさな。仁慈、やはりカルデアに私の席を用意してもらおうか。人理が焼却され、ある程度は自由となった身だ。ここでセタンタ諸共お主を扱ってやるのも悪くなかろう。私は槍以外にも修めたものがあることだしな」

 

 済まない兄貴、非力な弟弟子をゆるs(ry

 

 これにて、スカサハ師匠によるカルデア参観が決定してしまったのである。実はこの残骸たちをしのぎ切っても俺は死ぬんじゃなかろうか。あぁ、何処か遠いところで自分の死期を悟って穏やかな表情を浮かべる兄貴が見える……。

 

 と、馬鹿なことを考えつつ冬木の街中をずんずん進んでいく。 

 そうして俺たちがたどり着いたのは、ある橋の下だった。近くには川も流れている。まぁ、燃えているからそこまでいい景色じゃないけれども。

 

「はー……昔の先輩はそんな感じだったんですか……」

 

「あぁ。あれは昔から機転だけはよかったな。適当な場所にサバイバルとして突っ込んだ時、まずは自分に近いサルなどを使って食べることのできる物を判別していた時はさすがの私も驚いた」

 

「……それは動物愛護団体か何かに訴えられそうな方法ですね。先輩」

 

「生きるためには致し方なかったんだ」

 

 それにそのサルは俺のことを狙って襲い掛かって来た野生の猿。それを俺が返り討ちにしたのだ。その時点でサルの命は俺が握っているも同然なのである。態々野生のルールに従ってやったのだから文句を言われる筋合いはない。

 

 というか、勝手に俺の過去話とかはじめないでくれませんかね?普通に恥ずかしいんですけど。マシュに聞かせたくないような話も当然あるんですけど?俺のプライバシーとかどうなっているんですかねぇ……。

 

「―――――どうやら、話はここまでのようだな」

 

 ここで、マシュと雑談を交わしていた師匠が会話を切り上げ、厳格な声で告げる。その直後、あたりをかなり大きな揺れが包み込んだ。震度にすると4くらいだろうか。割と大きな揺れだ。

 そして更にそれと同時に膨大な魔力が沸き上がってくるのを感じることができた。しばらくしてその全貌が現れ始める。どうやら結構な魔力を感じさせながら現れたのはいつぞやの肉柱だったらしい。

 

「大気中の大源(マナ)を取り込んで自動的に肥大化している……!しかも先輩、この外見は……!」

 

「レフ・ライノールが変身した姿。もしくは第三特異点で回収した聖杯に張り付いていた肉柱。魔神を名乗る、唯の案山子ですな」

 

「魔神柱です!」

 

 マシュからツッコミを貰いつつも、俺はしっかりと神葬の槍を構える。最近槍しか使っていないって?この人外殺しの性質がとても便利なんだすまない。

 もちろんツッコミをしているマシュだって戦闘準備は出来ている。冬木を含めた四つの特異点のおかげで彼女もスイッチのオンオフが自然にできるようになってきた。師匠は元々構えらしいものを取らない。槍を持って敵を正眼に捉えるだけでも十分なのだ。

 

「■■■■■■■■■■――――!!!」

 

 魔神柱が明確な敵意と悪意を以て、こちらを睨みつける。柱にびっしりと敷き詰められているイクラのような目に見つめられるのは気分が悪いが……逆に言えばそれだけだ。それだけなのだが、マシュはどうだっただろうか。俺が平気だからというからマシュが平気というわけではない。あの魔神柱は存在感だけなら並みの英霊すらも凌駕する存在だった。もしかしたら、そのことが彼女の中に少しだけでも残っていてこうして姿を現したのかもしれない。師匠曰く、ここでは自分が今まで見た死、そしてこれから見るであろう死をも再現してくるらしいし。

 こうして唯の案山子が出て来たのもマシュが思った死の形なのだろう。そうであるならばここで越えよう。彼女にもこれはどれだけ案山子なのか教えてもいいと思う。もちろんケルトに染まらない程度にね。

 

「マシュ・キリエライト、行きます!」

 

「さて、魔神柱とやらの力。見せてもらおうか」

 

「魔神柱の解体作業はーじめーるよー」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 カット。

 結論から言えば、地面から生えている肉柱を三人で寄ってたかって淡々とボコボコにしていただけだった。魔神柱は確かにその存在は通常のものではなく、その攻撃は絶大な破壊力を持っている。しかし、過去にも言ったかもしれないが、魔神柱の攻撃は基本的に柱についている目を媒介として行われていた。それが分かった瞬間どうするか?答えは明確だ。全員で目を潰して回ったのである。

 いくら柱にびっしりと敷き詰められていようと、師匠の操る槍の雨と俺の人外殺しという毒、そしてマシュの硬い防御を使えばその程度のことは余裕だった。だからこそ、結果としてできあがあったのはサンドバッグと化した肉柱だったモノである。

 

「目標の消失を確認しました。先輩」

 

「お疲れ様、マシュ。よく頑張ったね」

 

「はい!」

 

「ん~……………………」

 

 魔神柱をサンドバッグとして倒したのちにお互いを労わり合う。マシュは特に晴れ晴れしい笑顔を浮かべており、やはりあれは彼女が作り出したものだったのではないかと思った。もちろんそれを指摘するようなことはしなかった。

 そんな中、先程まで魔神柱が居た場所を見て師匠が唸る。いったい何があったというのだろうか?

 

「うむ。あれはあれで異界の美であろうし、我が国の土城を支える支柱としてはそう悪くない」

 

「いえ、醜悪だと思います」

 

 あんなのが支えている城とか想像するだけでも恐ろしいんだけど。少し悪趣味すぎやしませんかね……。あのマシュですらその表情が引きつっている。そりゃそうなるよね。

 

「そうか?まぁ、そんなことはどうでもいい。……しかし、あまり褒められたものではないな。よりにもよって、随分とねじ曲がった命名をしたものだ」

 

「スカサハさんはもしかして、あれがなんであるのかわかっているのですか?」

 

「深淵たる魔境の身なればある程度の先見もするが、いいや。今回は知っているのではなく、あれに連なる未来の一端を垣間見ただけに過ぎぬ。つまり人理の焼却だ。まぁ知っていることはお主らとさして変わりはせぬよ。……こういったものは多く見えるがな!」

 

 悪趣味な柱に想いを馳せる空気から一変、師匠は唐突に槍を振るう。よくよく見るとそこには何かが確かに存在しており、そこに向かって振るったことがわかる。だが、その一撃は当たることはなく、虚しく空を切った。

 

「……あれを躱すか。成程、破壊の大王なぞ名乗るだけのことはある、か」

 

「それはこちらの言い分だ。私の剣でも破壊されない、その槍……なんだ?破壊する。旧い文明も新しい文明も。この惑星にある知性の痕跡を、一掃する。私は、私の前に立ちはだかるすべてを破壊する」

 

「これもまた残骸か……人理の焼却とはこんなものにまで行き当たるほどに、歪めてしまうものなのか……」

 

 そう師匠が呟く。

 彼女の前に対峙しているのは一人の女性。髪の色と肌はエミヤ師匠にも似ている褐色に白髪だが、随分と露出度の高い布のようなものを纏っているような恰好であり、何より赤、青、黄色、の三色が無駄に光って自己主張していた。字面だけ見れば見事に信号機カラーである。

 だが、その身体から発せられる存在感は決してふざけている場合ではないことを知らせてくれている。これは聊か以上にまずいかもしれない。確実に、ヘラクレスに並ぶ強敵と言っていいだろう。

 

「師匠、あれを知っているんですか?」

 

「これでも数多の神々を屠って来た身なのでな。少なくともお主達よりも知っておるよ。……しかし、過去と未来を、しまいには次元すらも越えて来たか」

 

「す、スカサハさん。彼女は一体……?」

 

「あれは、そうさな。言ってしまえば別の世界でのお主らが対峙した敵、とでも言っておくか。とりあえず今確実に言えることは……この戦闘機械擬きを残骸として顕すにはいささか以上にまずいと言うことだ!」

 

「マジか」

 

「戦闘開始します!」

 

 師匠が聊か以上にまずいと言ったからには本格的にやばいのではなかろうか。これは少しばかり気合を入れていかなければならない。少なくとも、ヘラクレスに挑んだ時くらいの意気込みは必要だろう。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

「そぉれ!!」

 

 掛け声とともに、スカサハは跳び上がり、どこぞの英雄王よろしく影の国へとゲートを繋ぐ。そこからゲイボルクの模造品と言える槍をいくつも取り出すと、そのまま褐色白髪の女性、アルテラに放った。

 

 だが、それは容易く回避される。彼女が持つペンライトにも似た剣がその槍を破壊するとまではいかないものの完全に捉え、全て振り払う。無造作に散らばる槍に目もくれずスカサハは地面に降り立つと第二陣として再び槍を放った。が、これも無意味。無造作に振るわれた剣により、深紅の槍は唯の一つもアルテラに届くことはなく見当違いの方向へと突き進んでいく。

 しかし、ここで現れるのはスカサハに曲がりなりにも教えを乞うた仁慈である。彼は四方八方に飛び散っていくゲイボルクをいくつか掻っ攫うと、そのままアルテラに突撃、自重を加えた刺突を見舞う。

 

「―――――――」

 

 いつもの如く、気配も音も感じさせず繰り出されたそれはアルテラにまるで初めから来ることが分かっていたかのような緩やかな動きで防がれた。仁慈はすぐさま持っていた槍を投擲してアルテラの気を逸らしてその場から離れる。

 

 仁慈と交代するようにマシュが前に出ると、仁慈に対して追撃を加えようとしたアルテラを牽制した。その隙に、スカサハが彼女の盾を隠れ蓑にしながらアルテラの前に飛び出す。

 しかし、これも失敗。マシュに気を取られていたにもかかわらずスカサハの攻撃はアルテラに届かなかった。逆に、剣の形をしながらも時折ムチのようにしなやかな軌道を描く武器に反撃を受ける。しかしそこは仁慈が剣ではなく持っている腕を標的として、黒鍵を投擲したためにアルテラは一時的に攻撃を中断した。一方の仁慈達も一度後方に下がって三人で固まる。

 

「先輩。この感じどこかで覚えがあるんですけど……」

 

「あれじゃない。黒騎士王と戦った時」

 

 今は懐かしき最初の特異点と言ってもいい冬木にて、戦った黒騎士王ことアルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕のことを想像しつつ仁慈がそう告げた。

 このまるで見て来たかのような反応は、高いランクの直感を所持していたアルトリアによく似ていた。

 

「槍の効きが悪い……?相性差ができているとでもいうのか?……いや、今は詮無きことか……致し方ない。……仁慈!お主の魔力を少々間借りするぞ!」

 

 返事は聞かずに作業に入る。とりあえず聞くだけ聞いてみたといういい見本である。

 

「我が『門』から来たれ、螺旋の虹霓よ。神なる稲妻の具現をその手に携えしもの、古きアルスターの守り手よ。来たれ、来たれ、いざ戦え!螺旋なりし虹の剣!」

 

 仁慈の中の魔力が勝手に使われた感覚を覚えながらも背後に浮かび上がった魔法陣を彼は一瞬だけ見やる。

 が、それをすぐに中断するとペンライトのような光る剣を携えて跳び上がりつつ上段から斬りかかるアルテラに集中する。

 

「マシュ!」

 

「はああああ!!」

 

 マシュがアルテラの上段攻撃を受け止める。

 もちろん仁慈はマシュを盾にしただけではない。攻撃を受け止め隙ができた際に反撃を行う。二人でいるときはこれが基本スタイルだ。

 

「せぁぁああ!!」

 

「効かぬ」

 

 己の込められるすべてを込めてその槍を放つ。だが、それでもアルテラに傷をつけることはできない。

 と、ここでスカサハの行ったことの結果が出たらしく、彼は自分の後方で大爆発する音を聞いた。

 

「ははは!!ようやくか、いやよかったよかった!あまりに呼ばれないんで、あのまま寝に入ってしまうところだった!」

 

 爆発音の次はとんでもなく大きく、豪快な声で響き渡る笑い声。声音からして豪快な気質を持つ男だということがはっきりと理解できる。

 仁慈は前から繰り出される縦横無尽な攻撃をマシュと一緒になって捌きながらも背後のおそらく召喚されたサーヴァントの口上に耳を傾ける。

 

「アルスターの赤枝騎士団が若頭!フェルグス・マッグ・ロイ、召喚に応じて参上した!いやはやもう出番はないのかと気をもんだぞスカサハ姐!さて、俺が相手にするのはそこの身体の細い娘か!」

 

 なんかすごいのが出て来た。

 仁慈の言い分はこれに尽きたのだった。

 

 

 彼こそはクー・フーリンの師匠の一人。

 あらゆる宝具の原点とすら言われる虹霓剣の使い手にして、ケルト族の洗礼を受けし者である。その実力は疑うまでもない。

 

「その通りだ。……私たちはここで油を売っているわけにはいかないのだ。なんせこちらにもタイムリミットがある」

 

「それに関してはこちらでも把握しているさ。……ハハハ!あれを見ていると股間の芯がぎゅうぎゅう締まる!下手するとスカサハ姐以上の逸品!」

 

 心底楽しそうにフェルグスは笑う。

 彼の反応は予想通りだったのだろう。スカサハは彼に対してこの場を任せるような言葉をかける。それに対して彼が返す答えなどはわかりきっていた。

 彼らにとって挑まれた戦いをわざわざ断る理由もない。どいつもこいつも三度の飯より戦好きというような連中だ。たとえそれが負けるのが半ばわかっている戦いも相手が強敵と言って喜んでいくだろう。

 

「では」

 

「あぁ……久しぶりに、滾るぞ!色々な意味でな!」

 

 仁慈とマシュは完全に置いてけぼりである。

 しかし話の流れからして召喚されたフェルグスがアルテラの相手をしてくれるらしい。

 

「いいんですか?」

 

「ふっ、問題なし!弟弟子の前で良い恰好を見せることもまた兄弟子の務めだ」

 

 豪快に笑いながら答えるフェルグスは、頼もしいと思いつつも心中で思わずこう思ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 タケシ、と。

 




今、正式に仁慈と兄貴にフラグが立ちました。しかも席と来ています。これは居座る気満々ですわ……。

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