この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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エリザベートちゃんイベントが再び……今度はキャスターじゃなくてセイバーなのでしょうか……。

>何度も出てきて恥ずかしくないんですか?


あるべき姿へと

 

 

 

 

 

 

 

「………つまらん」

 

「いや、つまらないってあなた……」

 

 轟々と燃え盛る炎。それは現実とも言えない世界の中に在っても肌を焼くような感覚を俺の脳内に送り付けてくる。どうやらこの光景を俺たちの中から引っ張り出して見させている連中は相当にキているらしい。だからと言って俺とマシュに当たられても困る。どうせならこれを起こしたであろうソロモン(仮)にしてほしい。どんな理由にせよ多分そいつの行いが死をも焼却する偉業とやらまで昇華したのだと思うし。っと、そんなとこよりも今は師匠の方をどうにかする方が優先度は高い。この人なら俺たちのわからないところでアクセルを踏み倒して暴走する可能性がありまくりだから。

 

「お主の槍のことは後々じっくりと話し合うにしても、本当につまらん。襲い掛かってくる黒い靄は私にとって唯の靄。先程まで私と重ねていた仁慈の靄も雑魚にかわりおったしな………自分で自分の意識を弄ったな?」

 

「そりゃ、向かい来る大量の師匠を相手にするわけにはいきませんから」

 

 いくら相手が靄だろうと。いくら相手が俺の小さいころに見たスカサハ師匠の再現だとしても、いくら彼女ほどの叡智と戦闘経験を持っていなくても、普通の相手なんかよりはよっぽど強力だ。それが物量を伴って襲い来るだって?ハハッ、しねる。

 

「……ふん。まぁそこはよい。それにしても、便利なのもある程度わかるが、外部から力を高めるとは本当に人間らしいな」

 

 なんとも言えない表情でそういう。

 おそらく師匠の言う外部からの力というのは俺が魔力タンクとして使用している聖杯のことだろう。

 状況が状況だし、どんな手を使ってでも勝つのはケルトというか戦いの基本だけれども、こうして実際に目にするとどこか腑に落ちないんだろう。しかし、師匠。残念ながら俺が英霊と渡り合うにはこうでもしないとやってられないんですよ。

 

「これは人間の定めみたいなものなんですよ……」

 

「私とて理解できているが…………そうさな、こうするか。ちょいさ」

 

 俺の言葉に不機嫌、とまでは言わないもののわずかに棘のある声音で返事をしたのちに何を思い立ったのか、魔力を纏った手刀を俺の胸のあたりにサクッと振り下ろした。だが攻撃というわけではなかったのかダメージを受けるわけでも、秘孔を突かれてひでぶするわけでもなかった。

 

 ……だが、違和感はすぐに訪れることになる。

 なんと、聖杯とのパスを繋いでいたラインが切れたらしく、供給がなくなってしまっていた。無限に魔力が沸き上がる感触は完全に消え失せ、自分の魔力のみを感じる。なんだろう、この〇獣の力だけを引き出されたような感じは……。

 

「師匠。もしかしなくても、聖杯とのパスを切りました?」

 

「気づいたか。その通りだ」

 

「す、スカサハさん?なんでそんなことを………」

 

「聖杯なんぞに頼り過ぎて、むやみやたらに魔力を放出するだけの戦いでは、そう遠くないうちに破綻するのは目に見えている。ちょうどこの場には私が居る。仁慈、自身の力でこれから戦ってみよ」

 

「耳が痛いなぁ……」

 

 思い返してみれば、魔力の回復速度という名の供給速度に胡坐をかいて効率の悪い魔力放出の連打。宝具のブッパをひたすらやりまくっていたからなぁ……。これは文句言われても仕方ない。

 

「せ、先輩は悪くないと思いますよ……!聖杯を魔力タンクにするっていう発想、というか当然だと思います!」

 

「そこまで必死にフォローせんでもよい。私もその有用性と、利用しようとする発想力は理解しておる。だがな、奴はわずかな時間なれど、我が槍術を教わった身なのだ。外付けの力だけで得意がられては困る」

 

「相変わらずグサグサと……」

 

「どうだ?泣き所を突かれた口撃はさぞ痛いだろうな?」

 

「今すぐ頭を抱えてのたうち回りたいくらいには。さっき手刀を喰らった胸なんて張り裂けているのか疑うレベルですよ」

 

 普段から無表情で有名な彼女の唇が若干ながらも吊り上がるくらい楽しんでいらっしゃる師匠。本当にごめんなさい。しかし、これからも精進します。しっかりとさせていただきます。少なくとも普段の修練の時には使いませんから……!

 

「その言葉に嘘偽りはないな?では、この件を済ませたのちに、そちらに邪魔するとしよう」

 

 ………………すまない、兄貴。非力な弟弟子を許してくれ……。

 

 

 

 

 

「GAAAAAA!!!」

 

 

 するとここで、オルレアンでよく聞いたような咆哮を耳が捉える。そちらの方に視線を向けてみればそこには見間違うことないくらい立派な竜が居た。

 

 

 

「師匠。めっちゃ大物が出て来たんですけど?」

 

「これはちょうどいい。さあ、仁慈。マシュ。この残骸を見事超克してみせよ」

 

 師匠が指さして越えてみよというのはかつて戦ったことがある邪竜ファヴニールに勝るとも劣らない巨大な竜。いや、よく見たらまんまファヴニールだわ。

 

「せ、先輩………これは流石に………」

 

「……やるだけやってみようじゃないか」

 

 ファヴニールと言うことを理解したのかマシュが指示を仰ぐ。だが、残念ながら今の俺に後退などはない。後退すれば最後、俺の背中は無限の槍製と化す。

 

「……失礼を承知で聞きますけど、先輩正気ですか?」

 

「残念。今この場に居るケルトはどいつもこいつも正気じゃありません」

 

 正気ではやっていけません(真顔)

 冗談とも思えるやり取りを真剣に行いつつ、傍観者を気取り始めた師匠を一瞬だけ見やる。一応、かなーりピンチになれば俺を――――おそらく正確にはマシュを――――助けてくれるのだろう。小さく首をたてに振った。

 

「やはりケルトは格が違うんですね……」

 

「俺の中ではインドにも並ぶやばいとこだと思ってる」

 

 こればっかりは自分の実体験が入っている分余計に恐ろしく感じることもあるのかもしれないな。

 そんなことを考えながらも俺とマシュはファヴニールと対峙した。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「やぁぁぁああ!!」

 

「――――ッ!!」

 

「GAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 唐突に現れた巨大な竜と仁慈、マシュが激突する。その様を見ていたスカサハは、二人の動きに終始視線を固定していた。

 

「……仁慈は派手な動きを無くしたな。最小限の動きで消費を抑える気か……そのような器用な真似ができるのであれば初めからすればいいものを……」

 

 呆れたように溜息を吐きつつも仁慈の動きを見やる。そこには繰り出される尻尾や爪、翼をぎりぎりのところで翻し見事にファヴニールの意識を引きつけている。更に、その攻撃を翻すついでに自身の持っている槍を突き、少しずつ着実に傷をつけていた。例えるのなら、それは切れ味の足りていない武器で飛竜の鱗を攻撃するかの如く。

 

 聖杯を封じられても割といつも通りだった仁慈にスカサハは小さく笑みをこぼしつつ、マシュの方に視線を向ける。

 盾を持っていながらも仁慈が注意を引きつけているうちに攻撃する役目を背負っているマシュは今、大きく宙へと飛びあ上がっていた。そして、ある程度上まで上がったところで持っている盾を下に、自重を加えつつ落下する。着地地点はファヴニールの頭。

 

 これは仁慈の立てた作戦だった。彼曰く、頭を打撃系武器をぶつければスタンをすると言うことらしい。いつぞやのモンスタ〇ハンターを未だに引きずっているらしい。

 そんなバカみたいな推測から決行された作戦なのだが、マシュの攻撃はほどなくしてしっかりとファヴニールの頭蓋へと叩き落された。デミとは言え、サーヴァントの攻撃を不意打ちまがいにくらい、尚且つ彼女が仁慈からの強化魔術が施された状態である。いくらファヴニールと言えども頭に喰らったことも相俟ってその巨体を震わすには十分な威力だった。

 

 そして、ファブニールの揺らぎにいち早く反応したのはもちろんそのことを見越してこの阿保みたいな作戦を考え付いた仁慈である。

 嘗てファヴニールを屠った英雄、ジークフリートには及ばないものの、仁慈もオルレアンにてかの邪竜討伐に一役買っている。そして、今は人外殺しの槍も持っているのだ。正真正銘のファヴニールであるならばともかく、残骸には違いないこの竜であれば、問題はなかった。

 

「―――――――――喰らえ……!」

 

 キィィィン!

 

 仁慈の神葬の槍に光が集う。聖杯のバックアップこそないものの、元々持ち合わせている強大な魔力が神葬の槍の力を最大限に引き上げていた。

 

 もちろん、命の危機を感じ取り、そのまま棒立ちをかます生物などは居ない。それは伝説的な邪竜であっても当然同じことだ。ファヴニールはその強靭な顎を仁慈の方へとむけて、爆発的な熱量をその口内にため込んでいく。そして、そのまま発射。いつぞやのように間をあけて放たれたそれとは違い、威力は劣るもののファヴニールへと目掛けて進んでいる仁慈を仕留めるには造作もない攻撃であった。

 自分の命を刈り取るに値する火球が仁慈へと殺到する。だが、仁慈は回避をするどころか更にその場で加速を始めた。魔力放出こそないもののそれでも早い速度で彼はファヴニールの懐を目指す。どうして彼は回避行動を取らないのか?それは単純だ。彼には自分なんかよりもよっぽど攻撃を受け止めることを得意としている相棒が居るからである。

 

「はああああああ!!」

 

 仁慈へと向かい、彼を焼き殺さんとする火球にマシュは飛び込んでいった。そして、己の持つ魔力と仁慈から送られてくる魔力を手のうちにある巨大な盾に込めてその火球を受け流す。

 

 仁慈を筆頭としたキチガイ面子の所為で低く見られがちだが、竜種とは幻想種の中でも文句なしで上位に地位を食い込ませている種族である。それが今彼らの目の前にいるファヴニールのような純粋な竜種であればなおさらだ。その攻撃を正面から受け止めるには城壁でも足りない。それを受け止めることなどほぼ不可能だ。

 今までもそうだった。彼女が相対した相手はどれも彼女よりも強かった。勝っていることは何処もないと感じていた。だからこそ、自分でも対抗できるように工夫した。仁慈にクー・フーリンに、Xに……名だたる英霊(若干一名違うが)たちに鍛えられたマシュの受け流し技術は今やカルデアでも上位と言ってもよいほどだ。

 

「先輩、お願いします!」

 

「――――――突き崩す神葬の槍」

 

 もはやお決りと言っていい静かな宣言。

 それと共に放たれるは人外にとって猛毒と言ってもいい人外殺しの槍。突き立てるは胸にある紋章だ。

 

 真名開放と共に真の力を開放したそれはとんでもなく堅いファヴニールの鱗を貫通し、心臓までその槍を届かせる。

 

「GUAAAAAAAAAAAAAA!?」

 

「……………やはり、面白いな」

 

 竜退治であれば、彼女をまだ人間が認識できた時代にも成す人物はいた。だが、それはそれなりの環境があってこそ。そのような人外魔境であれば自ずと人間たちもそれに大なり小なり対応するだろう。しかし、彼は少々事情が異なってくる。

 彼が生まれた時代はまごうことなき現代。神秘という概念は薄れ始め、昔のような英雄など、もはや必要とさえされなくなった時代である。

 

 何を以てして、このような時代にあのような存在が生まれ落ちたのか。まるで今起きている人理焼却を予想していたかのような………。

 

「いや、どちらにしても私には関わりのないことか……」

 

 そこまで考えてスカサハは己の考えを振り払う。彼女にとって重要なのは仁慈がいかにして生まれたのかではない。彼がどこまで行くのか、そして……自分を殺せる領域まで届くのか……。それだけが彼女の気にすることなのだから。

 

 

「仁慈。先の戦闘にて話がある」

 

「ふぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダ・ヴィンチ「ん?仁慈君と聖杯のパスが切れた……うわっ、しかも結構乱雑だ。これは少々手間だなぁ……彼は一体何をしたんだか。私はおおよそ万能だけれども、ドラえもんとは違うんだけど」

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