この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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前回は誤字がひどすぎて申し訳ありませんでした。
修正してくださった方、報告してくださった方ありがとうございました。


ケルトってなに?ためらわないことさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええぇぇぇぇえ!!??」

 

 マシュ、絶叫。ついこの間起きた、無駄にぐだっている二人組と行動を共にした時を超える位には絶叫している。不謹慎ながら、普段物静かな子が超驚き顔で叫ぶのは可愛いと認識できるくらいには物凄い驚きようだった。仕方ないね。なんて言ったって師匠は有名だもの。日常の中からちょくちょく答えは出てたけど。俺も正体はカルデアに来てから初めて気づいたけど。

 

「まぁ、そういう反応になるよね」

 

「……お主、この娘にいったい何を吹き込んだ?ことと次第によってはこの場でお主の修練をしてやってもいいのだぞ?」

 

「ステイ師匠。俺は事実しか言ってない。ウソイツワリナドアロウハズガゴザイマセン」

 

 だからその刺し穿つ死翔の槍を仕舞ってくださいお願いします。

 

「どうして先輩はそう落ち着いていられるのですか!?スカサハですよ?神霊級とも言われている神殺しの超人。ケルト神話、特にアルスターサイクルとして知られる一世紀ごろに逸話を残した人物です。冥界に相当する超常の領域の支配者にて、私たちもお世話になっている大英雄クー・フーリンの師として知られている無双の女戦士、同じくして大魔術師でもあるのですよ!?」

 

「………そういえば、マシュの前で師匠の話はしなかったな……」

 

 俺が師匠の話をするときは、大体兄貴と二人で槍を交えている時であり、その内容はあの人やっぱりおかしいよ……的な愚痴が殆どだった。マシュも加えて兄貴と修練したときもあるからてっきり知っているかと思ったけれども、その時は愚痴を出すことはしなかったみたいだ。

 

「でも、おかしいです先輩。今の彼女からはサーヴァントに似たような反応も

感じることができます。しかし、スカサハは英霊の座に登録されていません」

 

「ん………?あぁ、そうか。師匠は本来死ねないから、死後登録される英霊にはなれないのか」

 

「ふむ。そこの娘……名前は確かマシュと言ったな。正解だ。点数をやるぞ。そうさな………やや、早口だったのが惜しい故、星三つだ!」

 

 マシュに視線を向けて先程の解説に対して点数をつける師匠。するとマシュは先程すごい勢いで話したのが恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながらお礼を言った。尊い。普段から、ヒロインXやタマモキャット、清姫にエリザベート(かぼちゃ)最近加わった信長そして目の前の師匠というエキセントリックな女性たちとしか関わる機会がないので、ブーディカさんやマシュのような存在は貴重だ。主に俺が女性に対する不信感を抱かないために。彼女を見ることによってやはり、あの人達がアレなのだと再認識することができるのだ。

 

「お主の場合は、静かに語った方が効果的だ。何事も内に潜め、静かに燃える炎であるがいい。……っと、これは私の悪い癖だな。仁慈、それにマシュよ。今回は故あってこうして姿を見せた。この夢で起きていることを終結させるために、な。そら、こたびの異常……その根源、人ならざるものが姿を現したようだぞ」

 

 師匠の言葉と同時に視覚に黒い靄のようなものが現れる。それと同時に敵の魔力も感じることが可能となった。その黒い靄は何処か見覚えのあるような人型になっている。まぁ、どんな奴が相手だろうと、たとえ近くに師匠が居座り、こちらを穴が開くくらいに見つめて居ようともやることは変わることはない。敵なら倒す。いや殺す。

 

「先輩。目視と同時に姿を確認できました!敵、接近中です!」

 

「向かってくるならやることは一つ。迎撃を開始しよう」

 

「了解です。……迎撃戦闘開始します……!」

 

 盾を構えて黒い霧を見据えるマシュ。俺も、四次元鞄を通じて神葬の槍を含めて合計六本の槍を呼び出した。そして、神葬の槍を手に取りほかの槍を地面に突き刺して迎撃の準備を整えた。

 

 しかしここで予想外のことが発生する。こういったことには基本的に介入することのない師匠が、トレードマークとも言っていい紅い槍を持って俺たちの隣に立った。

 

「よっと……!さて、仁慈。私にも一席用意してもらおうか」

 

「わっ、スカサハさん……!?」

 

「珍しいですね師匠がこうして介入してくるなんて。普段ならこの程度自分の手で振り払ってみせよ、くらいは言うかと思ったんですけど」

 

 実際、一番初めにサバイバルへと駆り出され、魔獣と戦わされたときはこの程度自分で対処しろ的なことを言われた気がする。

 

「なに、ほんの気まぐれだ。このように肩を並べて槍を握ったことはなかったからな。長く生きていると、何かと刺激が必要になるものだ。……では、戦いだ!まず戦う。考える前に戦う悩み惑うは戦の後、生き残った生者の特権よ。故に戦え、戦え、戦って勝ち取れ!それがケルト流だ!」

 

「フハハハハハ!相変わらずケルトは世紀末だぜ!」

 

「先輩!?」

 

「あ、マシュは気にしなくていいよ。うん、そのままで居てくれ」

 

 彼女がこのノリに染まってしまったら俺は死ぬ(精神的に)

 とまぁ、こんなことがありながらも俺たちはその靄と激突した。

 

 

 

 俺が対峙した靄はまさかの師匠である。

 黒い靄で形作られているものの、その槍や外見は正しく俺の隣で槍をブンブン振り回している師匠と瓜二つだった。マジか。

 

 師匠(靄)は一直線に俺の方へと近づいてくる。彼女のトレードマークと言える紅色の槍は靄の所為で黒くなっているが、その太刀筋は俺のよく知る師匠と同じものであった。その攻撃を神葬の槍で防ぎ、近くにあった槍を引っこ抜いて黒い靄の師匠に向かって突き出す。

 それに対して師匠(靄)は魔境の叡智で対抗。その姿を消したのちに、背後に現れる――――

ことはなく上空へと移動していた。そうして同じく黒い靄を纏った槍を雨のように降らせる。すると対抗する手段は自ずと限られてくるのだ。左腕に持っている普通の槍を投擲、ここ最近お世話になりっぱなしの壊れた幻想で一瞬だけ間をあけさせる。その間に身体強化と魔力放出を利用して駆け出し、一瞬で師匠(靄)の背後を取り、踵落としを喰らわせる。

 一応攻撃を受けたものの、手ごたえはそこまでではなかったが、地面に叩きつけることはできた。追撃として神葬の槍を投擲する。そして、

 

「―――――喰らえ!」

 

 真名開放ができるようになってからやらなくなった科学の側面を押し出す。ダ・ヴィンチちゃんの改造した部分を使って俺の魔力を増幅、爆発させる。周囲を巻き込まないようにはしているが、そこそこの範囲爆発させた。

 

「仁慈。その槍の件で後で話がある」

 

「OH……」

 

 さりげなく近くに居た師匠から耳打ちされ冷や汗を流しつつも、俺は更に追撃をするために爆心地の近くに槍を構えて突っ込む。重力と魔力放出による後押しによって莫大な破壊力を含んだ槍を突きたてるが、師匠(靄)はそれを難なく回避した。くっそ唯の偽物って感じじゃないのが更にむかつく。

 そして何よりもあれなのが既にマシュと師匠が戦い終わっているということである。なに?俺のだけ?こんなに強いの。

 

「マシュにはあの靄がどう見える?」

 

「それは今まで戦ったことのある相手、主にスケルトンやゴーストなどでしたが……スカサハさんは違うのですか?」

 

「いやもう、唯の煙かモヤよ。なんせ死なんてものを明確に予感したことは一度もないのでな」

 

「では、先輩が戦っているのは……」

 

「仁慈のあの戦い方、表情、筋肉の動きからして相手は私だろうな。あやつにとって明確に死を感じる相手とはどうやら私のことらしい。フフフ……また、話すことが増えたな」

 

 なんで知らないうちに死亡フラグ的なものが立っているんですかね。今の僕には理解できない。

 

 考えつつも、意識の大半は目の前の師匠(靄)をどう倒すかということに注がれている。奴がこちらの想像に左右されるような存在であれば俺の考えようによって弱体化する可能性があるが、残念ながら俺の記憶に刻まれた師匠は全く以って弱体化しない。むしろ考えれば考えるほど勝てる気がしなくなってきている気すらする。あれ、詰んでない?

 

「はぁー………すぅー………よしっ」

 

 逆に考えよう。

 俺だって今まで戦闘経験を積んできた。普通なら在り得ない、古今東西の、時代すらも越えた英雄たちと激突してきたのだ。それらを信じれば己の中にあるトラウマという名の師匠も越えることができるはず。

 

「――――――フッ!」

 

 やることは、単純。

 想像上とは言え、あれは師匠だ。打ち合いになれば十中八九負ける。なら、どうするか?人間なら人間らしく、卑怯卑劣な手を使ってでも勝利をもぎ取らければならない。それこそが人間であり、弱者の立場に立たされているものにできることなのだから。

 

 四次元鞄から、エミヤ師匠に投影して貰った残りのゲイボルクを全て取り出して、師匠に投擲し俺もそれに続くように彼女に近づいていく。そして槍と俺が師匠と接触する直前、壊れた幻想を発動させる。

 それと同時に俺は身体能力と魔力放出を自分の身体が耐えることができる限界レベルまで引き上げて、更に爆発の勢いを受けて加速する。

 

 自分でも知覚できないほどだったが、それでも何とか自我を保つと、左手に持っていた強化だけを施した普通の槍を地面に刺してこれを基点に体を回転させる。そして、師匠(靄)の影を背後から奇襲した。

 

 

――――そうこれこそが俺の最大の武器。正面から戦うこともできる。条件が揃えばそれで戦いを優位に進めることもできるだろう。しかし、俺にとってはこれが一番手っ取り早く確実なのだ。人外殺しの槍を手に入れたのであれば尚のこと。少なくとも今俺が身を置いている環境下で人間というのは物凄く少ないのだし。

 

 

 師匠(靄)の背中から胸にかけて俺の神葬の槍が貫通する。本来ならこれで死ぬかどうかも怪しい彼女だが、そこは靄ということだからだろう。そのまま霧散して消え去った。

 靄の気配と魔力反応の消失を確認した俺はその場で息を吐くと今まで使っていた槍を全て四次元鞄に収納した。投影ゲイボルクのストックがなくなったし、そろそろエミヤ師匠に補充を頼まなければいけないかもしれない。

 

「ところで、師匠。あれは何だったんですか?」

 

「なんと説明したらよいのやら……そうさな、簡単に言えば、あれらは死にさえ置いて行かれた残骸共。こうして浮かび上がっている街も、今戦った連中も、お主たちが人理を守らんとして戦った時に見た死だ」

 

「見放された……ねぇ……」

 

「でも、どこからそんなものが?」

 

「別にそれらはお主の中から湧き出たものではない。これらの原因はすべて外的なものだ。これがまっとうな滅亡なら冥界が死で溢れかえるだけで済む。だが、人類焼却はその死すらも焼き尽くす偉業だそうだ」

 

 感心するように、しかし何か思うことがあるような声音でそう口にした。

 けれどもぶっちゃけよう。なにを言っているのか全然わからない。

 

「師匠。結局、これの原因と今の状況は何ですか?」

 

「ふっ、教えを乞うだけでは解決などしないぞ?だが、このようなことを理解せよというのも少々酷だな。答えてやろう」

 

 なんで若干楽しそうにしているんですかね。さっきのマシュに対する点数付けの時も思ったのだが、段々と人に槍や戦い方を教えているうちに楽しみを見出すようになったのだろうか……。

 

「今お主たちには先に言った溢れた死に置いて行かれし残骸が居座っておる。ここにな」

 

 そういって師匠は自分の胸に手を当てた。それにつられてマシュも自分の胸に手を当てる。

 

「と、言ってもお主のマシュマロの中じゃないぞ。その内側(こころ)にだ」

 

「!?」

 

「既に侵食済みってことですか」

 

「そうさな。お主でもこれに対応できなかったようだな……フフッ、巷では散々な物言いをされているようだが、やはりお主も人間だったようだな」

 

「貴方にだけは言われたくない」

 

「せ、先輩?どうして、いつも通りなんですか?私たちは……」

 

「大丈夫、大丈夫。このくらい日常茶飯事。寝てたら死にかけるなんて普通だから(白目)……それに、今までどれくらいの英霊たちを相手に大立ち回りしてきたか思い出してみなよ。特にヘラクレスとヘクトール。あれらに比べたらわけのわからない残骸の十万や二十万くらい余裕だって」

 

 ヘラクレス十二回殺せって言われた方がよっぽど絶望感あったわ。俺の残骸は師匠(靄)っぽいけど、一度そいつを経験したことにより何とかなりそうだし。……後から師匠(真)にぼこぼこにされて再びトラウマ刻まれそうだけど。

 

「……そうですね。なんだかんだね、何とかなりましたしね。今までも」

 

「そうそう」

 

 ま、強引になんとかなった結果を引き寄せたって感じだけどな。とりあえずマシュが安心しているのであればそれでいい。

 

「方針は決まったようだな。では、往くとしようか」

 

「あ、本気で来るんですね」

 

「当たり前だ。お主たちを生かすためには私もいた方がいいだろう。それに、死にたくても死ねないということのどうしようもなさを、私は知っている。――――ならば、私が救うしかないだろう。神が救わぬならばな」

 

「で?本心は?」

 

「失礼な奴だな。これも本心だ。しかし、そもそも挑まれたら断る理由もないということも一因ではあるがな」

 

「ですよね」

 

 助けるだけ、という理由では決して動かない人ですよね、師匠は。

 それでは行くぞと先行する師匠。彼女に対して圧倒されたように固まるマシュ。そんな彼女たちの間に立ちつつ、俺たちは燃え盛る街を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 


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