この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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この次からまたイベント編に入るかと思われます。
四章はそのイベントを消費してからでしょうか。まぁ、イベント要らねって意見が多いのであれば飛ばして四章行きますけど。


第三特異点 エピローグ

 

 

 

 

「なっ!?へ、ヘクトール!?」

 

 アルゴー号の上で悠然と戦況を観戦していたイアソンはヘクトールが倒されたことにより、動揺していた。

 プライドが高いイアソンが己の船に乗せるということは彼流にせよヘクトールの実力を信頼していたことに他ならない。戦闘力が皆無とも言っていいイアソンにとっては彼らこそが自分の力なのである。

 だが、ヘクトールが倒れた瞬間にヘラクレスが居た位置へ展開されていた固有結界が解除されていった。これを見てイアソンは一気にその表情を明るくする。

 あれが解除されたということはイアソンにとって術者であるエミヤが殺されたということに他ならないからだ。例え、ヘクトールが居なくてもヘラクレスさえいれば、イアソンが思い浮かべる中で最も強い彼であればこの戦力差なんてないようなものだと。

 

「メディア!私のメディア!こっちへ来るんだ。一緒にヘラクレスが行う正義の執行を見届けよう」

 

「――――はい。マスター。貴方がそれを望むのなら」

 

「行かせるか!」

 

「いえ、行かせてもらいます」

 

 銃弾を魔術で防ぎ、一瞬で目を焼かんばかりの閃光を発動させるとその閃光でドレイクが目を塞いでいるうちにイアソンの隣へと移動した。

 そして、イアソンは余裕の笑みを浮かべながらメディアは感情の読み取れない笑みを浮かべて消えていく固有結界を見ている。

 

 完全に固有結界が消え去り、その中から現れたのはイアソンの予想していたヘラクレス――――――――――ではなく白い礼装と赤い礼装を身に纏った男たち。樫原仁慈と英霊エミヤであった。

 

「なにっ!?」

 

「ヘラクレスが敗れましたか」

 

 仁慈とエミヤの出現にイアソンはこれ以上ないほどに目を見開く。だが、メディアは何処か予想していたかのように静かに事実だけを口にした。一方で仁慈達カルデア側の味方であるサーヴァントたちも驚愕をしつつ喜びの声を上げる。

 

「おかえりなさい。先輩方」

 

「素直に感心するわねー。ね、ダーリン」

「そんなもんじゃねえだろ。まさか、本当にヘラクレスを倒しちまうなんてなぁ……何であんな神代にも中々いなさそうな人間が現代に居やがるんだ……?」

 

「う。ますたー、つよい」

 

「恐ろしいわね。アステリオスが可愛く見えてくるわ」

 

「ふむ、ミスターレッド。貴方私を差し置いて神の聖剣とか言われているものをつかいませんでしたか?」

 

「流石!アタシが認めただけのことはあるね。あの大男を倒しちまうなんて本当に大したもんだ!」

 

「はぁ……はぁー……すごいねアン。あの怪物染みた奴を倒せるなんて」

 

「全くですわ……はぁ、はぁ。人類始まってますわね」

 

 もはや完全に勝った流れである。誰もイアソンについては言及しなかった。仁慈とエミヤも既に「勝った 第三部完!」とでもいうような雰囲気である。

 ヘラクレスが倒されたことと、自分の存在を無視されたことによりイアソンは激怒して仁慈に突っかかった。

 

「ふざけるな……!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるぁぁぁぁああぁぁあああ!!!貴様ァ……!ヘラクレスはどうした!?」

 

「俺とエミヤ師匠がここに居る時点で察することができるだろ?」

 

「あのヘラクレスだぞ!俺達が憧れ、挑み、一撃のもとに返り討ちにされてきた頂点だぞ!?それが貴様らのような三流サーヴァントと人間に負けるものか!!」

 

 イアソンの言うことも確かである。

 本来なら英霊と刃を、拳を魔術を交えることすら困難であるというのだ。

 が、あろうことかヘラクレスと戦った彼らは普通ではないのだ。異常とも言えるこの神秘渦巻く世界においても特大の例外。

 様々な手段を行使しつつもイーブンまで持っていき、あまつさえ少なくとも三度ヘラクレスの命を奪った人間。そして、その成り、性質、戦い方……すべてが異質であるサーヴァント。異常と異常が合わせた結果は単純な足し算ではなかったのだ。何より、一番の敗因はヘラクレスのクラスがバーサーカーだったことだ。狂化でステータスを上げようとも元々高ステータスを誇るヘラクレスには意味がない。むしろ武人として、戦士として鍛え上げられた思考能力が使えず、尚且つ宝具にまで引き上げられた武芸を使えないことが何よりも枷となった。

 

 このことは仁慈もエミヤもわかっている点である。

 ヘラクレスが狂化されていなかったらおそらくこの特異点で自分たちは力尽きたであろうと。

 ま、そのことを態々イアソンに言う通りはない。仁慈はイアソンに対して一瞥するだけで特に言葉を返すようなことはしなかった。

 

「如何いたしましょうか。マスター。降伏は不可能。撤退も不可能。私は治癒と防衛しか取柄がない魔術師……中々難しい状況だと思いますが」

 

「うるさい、黙れッ!妻なら妻らしく、夫の身を守ることだけを考えろ!」

 

 どこか余裕そうな声音で話すメディアを怒鳴りつけるイアソン。しかし、それでもメディアの笑みは変わらない。相変わらずイアソンを見て微笑んだままだ。余りにも変わらないその表情はまるでお面のようにも感じられるが、むしろしっかりと心の底から浮かべているということがわかるからこそ不気味という表情でもあった。

 イアソンもメディアから一歩引いている。

 

「当然、マスターの身を守ることだけを考えていますわ。それこそがサーヴァント、ですもの」

 

「……っ!何なんだ、なんなんだよ!?どうしてこの状況で笑っていられ―――――ゴホッ……!?」

 

 メディアへの恐怖を口にしようとするイアソン。だが、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。それは、イアソンの口から出ていたものが言葉から血液に代わってしまったからである。

 言葉を発しようと必死に口を動かし、酸素を補給するが、出てくるのは血だまりばかりだった。イアソンが視線を動かすと、自分の肺の位置に刺さっている槍が一本あった。更に別の場所に視線を向ければそこにはちょうどものを投げ終えたような態勢でイアソンを見やる仁慈の姿があった。

 これだけ条件が揃えばだれでもわかるだろう。イアソンは仁慈の放った槍に貫かれたのだ。

 

「ぎ……ぎざま…………」

 

「――――正直、こっちとしてはお前たちの話なんかに興味はないんだ。さっさと聖杯を渡して座にでも帰ってくれ」

 

 まさに外道。まさに人間。まさに仁慈。

 これこそ、唐突にやってくる命の危機に準備不足で挑み続けたものの姿である。ゲリラ方式でやってくるケルト式合宿を乗り越えてきた仁慈だからこその理論。殺せるときに殺せ。隙あらば殺せ、何が何でも気合で殺せ。さもなければ死ぬのは自分だ。

 

 無表情ながらもどこか喜びを帯びた声でそういった影の国の女王の言葉を思い出す。これらの経験から培ったことを元に自分の勘に従った仁慈は、イアソンとメディアを放置することなく速攻で仕留めることに決めた。それこそ、殺気を感じさせずに槍を投擲するほどに。

 

「ぐっ……悪の軍勢ェ……!卑劣な、マネ、を……!メディア!私の、傷を……」

 

 イアソンは自分の負った傷を治癒を専門とするメディアに治してもらおうと彼女に声をかける。だが、先程までは欠かさず聞えていた返事が今は聞こえなくなってしまっていた。どういうことだと先程までメディアのいた場所に視線を向けてみれば、そこにはもう誰もいなかった。唯、仁慈の宝具である突き崩す神葬の槍がコロンと転がっているだけである。

 これだけで、何があったのか予想することは容易だった。先程仁慈が投擲した槍は一本だけではなかった。自分に突き刺さったのは二本目の槍であり、一番初めに投擲されたのはメディアが居た場所に落ちている方なのだと。しかもメディアに放った槍は人外に対して強い効果を持っている突き崩す神葬の槍……仁慈が確実にメディアを本気で殺そうとしていることが一目でわかることだった。

 

「ぐそっ!ぐそぉおおおお!!今度こそ、今度こそ……!自分の国を作ることができると、その機会が巡って来たのだと思ったのに……!こんな、卑怯な連中なんかに……!」

 

「力で正義を執行しようとしたんだし、力で返されるのは当然でしょう」

 

 もはや立つ力もなく、アルゴノーツの甲板に倒れ伏すイアソン。そんな彼に仁慈は軽く跳躍することで彼の近くまで近づき、自分の顔を睨みつけているイアソンの頭に槍を突きたてた。

 

 肉を突き潰す、嫌な音を響かせながらイアソンはその体を黄金の光へと変え、その場に転がっている聖杯へと戻っていった。仁慈はイアソンの血だまりの中から聖杯を持ち上げてそのまま数回振って血を落とし四次元鞄の中に放り込んだ。

 

 散々、仁慈たち側に言われてきたイアソンだが、この時だけは大部分のサーヴァントたちが消えていったイアソンに同情したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 仁慈が聖杯を回収したことによりこの時代の異常も少しずつ修正されて行っているようで、ドレイクがいち早くその変化に気づいた。

 

「ん?風が止んだ……ああ、こりゃ終わりだね。もうどうしようもない。けれど、これはいい終わりだ。新しい誕生だ。――――アタシたちの海が帰ってくるね」

 

 ドレイクの言葉に黄金の鹿号に乗っている海賊たちが一斉に喜んだ。

 まぁ、彼らにとってここにいる間は生きた心地がしなかったことだろう。仁慈達と会う前にサーヴァントたちと遭遇して攻撃され、仁慈達が仲間に加わってからも結局サーヴァント達との戦いに参加していた彼らなら、不可解なものが闊歩する海から逃れられることを喜ぶのも無理はないと言えた。

 

「ヒャッホーイ!!こんな意味不明な海ともおさらばだー!」

 

「やったな野郎ども!でもちょっと寂しいぜ!この海にはロマンがあふれていたからな!」

 

「赤い人!俺はあんたが言ってくれたことを忘れないぜ!しっかりと魂に刻み込んだからなっ!」

 

 次々と声を上げては消えていく海賊たち。恐らくは元々いた場所へと戻されていっているのだろう。

 

「おぉ!バンバン消えていくじゃねえか俺ら!やっぱり雑兵から退場するのが世の常かー……世知辛いぜ。とにかくじゃあな!仁慈、マシュちゃん!赤い人、青い人!今度から見た目で襲う人は決めないことにしたぜ!」

 

 海賊たちの最後に、仁慈たちをドレイクの元まで案内した海賊が消えていった。すると次は仁慈達に力を貸してくれた英霊たちの身体も黄金の光に包まれる。

 

「はぁー……これでやっと帰れるわ」

 

「愛の逃避行ね!ダーリン!」

 

「お前もう少しシリアスになれないわけ?ねぇ?……いや、やっぱり何も言うな絶対に疲れが増す。あっ、そういえばマシュちゃん。最後に別れのキスなんかどう?」

 

「お断りします」

 

「バッサリいかれたなー……」

 

「その調子で逝きましょうか?ダーリン……?」

 

「すんません、すんません、すんません!……あ、最後に一つ。仁慈、もし召喚することがあったらよろしく。特にこいつのことを」

 

 最初に消えていったのはアルテミスとオリオン。恐らく無理な召喚がたたって一番に限界が来たのだろう。二人は最後まで相変わらずのやり取りを繰り返して消えていった。

 次に消えかけたのはアン・ボニーとメアリー・リードである。いつ死んでもおかしくない重傷を負いながらもヘクトールを仕留め、ここまで生き残ったのは驚愕と言わざるをえなかった。

 

「次は僕たちかー。まぁ、かなーり短い間で一緒に戦ったって言えるほどじゃないけど、楽しかったよ」

 

「貴方の無双ぶりは爽快ですもの。……身をもって知ってますわ……」

 

「なんかごめん。でも、ヘクトールを仕留めてくれたんだってね。ありがとう、正直かなり助かった」

 

「かまいません。私たちの個人的な感情ですもの」

 

「そうだね。僕たちは海賊の意地を見せただけ。別に君の為じゃないよ………でも、次は君と一緒に色々冒険するのも悪くはないかな」

 

「私たち、始まりはあの変態でしたからねぇ……」

 

 しみじみと、そんなことを呟きながら二人も消えていく、最後に残ったのはエウリュアレとアステリオスの二人だ。

 次々とサーヴァントが消えていくのをアステリオスの肩に乗りながら見ていたエウリュアレが口を開く。

 

「これで私たちの役割もおしまい。全く、なんて酷いお仕事だったのかしら。変態に襲われるし、戦場の真っただ中には置かれるし、おまけに(ステンノ)駄妹(メドゥーサ)もいないんだもの」

 

「う?えうりゅあれ、このたび、いやだった?ぼくは、うれしかった、たのしかった。みんな、ぼくのなまえをよんでくれた、おびえないであそんでくれたから!」

 

「……そうね。酷いお仕事だったけど、つまらないわけじゃなかったわ。貴方も居たし、さっきの女海賊たちの言う通り、仁慈の無双っぷりは見ていて痛快だったもの。だから仁慈?あなたが望むのならご褒美に接吻くらいはしてあげましょうか?」

 

「いや、結構です」

 

「何よ。失礼ね。……ま、それでこそ貴方って感じもするけれども。何はともあれ、これからも好きにがんばりなさいな。気が向いたら貴方の元へ行ってあげてもいいわよ?」

 

「ますたー、ありがとう。また」

 

 微笑みながらそう言ってのけるエウリュアレと、大きな手を小さく左右に振るアステリオス。最後の最後までよくわからないけどいいコンビだったと仁慈は思った。

 

『いやー、今回も仕事がなかったなー。終盤とか何の役にも立たなかったなー……』

 

「そう拗ねるなロマニ。帰ったら好きなものを作ってやる」

 

「本当ですか!?」

 

「君じゃないから座っていなさい」

 

 いつも通りのやり取り、しかし、ここにロマニが加わっているともう終わったのだという気持ちになる仁慈。基本的に戦闘中にロマニと漫才染みた会話を行うことはないのでそう感じてしまうのも無理はないことであった。

 

「ドレイク船長。今回は本当にありがとうございました。貴女に会えていなければここまで順調にことは運ばなかったと思います」

 

「確かに。海に詳しい航海者が居たことは大きいよね」

 

「良いってことさ。アタシはアタシに従っただけだしね。あんた達との航海も楽しかったし言うことはないよ!ただ……この修正ってやつが終わったらあんた達に関する記憶も消えちまうのかい?」

 

「まぁ、そうですね」

 

「……あんとき仁慈が言った言葉の理由がようやくわかったよ。覚えていたらってこういうことだったんだね」

 

「すみませんね。結果が見えているようなものを賭けに使ってしまって」

 

「別にいいさ。見抜けなかった私が悪いのさ。それにね、海の人間にとって唐突な別れなんていつものことさ。大砲にフッ飛ばされて、波にさらわれて、挙句の果てに行き先を見失って死んでいく。……それらに比べたら生きたまま別れるなんて悲しみの内にはいらないさ」

 

 と言ってドレイクは出会った時と変わらない、豪快な笑みを浮かべた。

 

「しかし、貴女は、これから………」

 

「ん?あぁ、わかってる。死ぬんだろう?けど、それが当り前さ。自分の好きなことをやって生きて来たんだ。自分の最期がそれは酷いものだろうと自覚してるさ。けどね、私は愉しくやっていきたいんだ。そのために生きているんだよ」

 

 楽しみがない人生なんて死んでいることと同じさと付け加えるドレイク。この豪快さこそ、彼女である。

 世界で初めて生きたまま、世界を一周した星の開拓者。その本質は、どこまでも自分の欲求を満たし、未知を、宝を、刺激を求める無法者。

 大半の人間から見ればそれは考えなしの愚者に映るかもしれない。しかし、そういった愚者や愚か者、馬鹿と呼ばれる者たちが世界の常識を書き換えていくのである。

 

「じゃあね。元気でやんな。あんた達ならきっと、人類の未来とやらを取り戻せる……そのためにアタシだって、覚えてなくてもそれなりのことをやってやるさ」

 

「えぇ、ありがとうございます。船長」

 

「じゃあ、ドレイク。機会があればどこかで」

 

 それだけ言い残し、仁慈たちはカルデアへと帰還するのであった。

 

 

 

 

 

 

 




フォルネウス「…………」
アタランテ「………」
ダビデ「………」

彼らは犠牲となったのだ……。


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