この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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期待にこらえられなかったら申し訳ありません(開幕謝罪)

ご都合主義全開、設定のずれもあるかもしれない。それでも、よろしいという方だけ進んでください。お願いします。


現代の神話(後編)

 

 

 

 ヘクトールとマシュ達の決着がついた時から時間は少し巻き戻る。

 固有結界に隔離されたエミヤと仁慈もそろそろ戦いを始めようとしていた。

 

「往くぞ、大英雄ヘラクレス。命の貯蔵は十分か?」

 

「今回、こちらの勝利は揺るがない。――――その命、全て貰っていくぞ!」

 

「■■■■■■■■■■――――!!!■■■■■■■■■■―――――!!!!」

 

 二人の宣言と、ヘラクレスの咆哮が行きかう。

 そして、エミヤと仁慈は自らの宣言と同時に無限に広がる荒野の地面を抉りながらヘラクレスへと向かって行く。

 

「マスター。ヘラクレスはその伝説の通り、十二個の命を持っている。そして、一度殺された攻撃に耐性を持つ。十分に気をつけろ」

 

「あの強さで十二回殺せとか馬鹿なんじゃないんですかね……」

 

 改めて自分たちが今から戦う存在のでたらめさを再認識し、呆れつつも仁慈は突き崩す神葬の槍を投擲。間髪入れずに地面に生えていた剣を二本引き抜いき、ヘラクレスに向ってさらに加速していく。

 

「■■■■■■■■■――――!!」

 

「うぉおおおおお!!」

 

 大英雄の振るわれた一撃。その速度、威力は数多の怪物を屠り、一つでも乗り越えられることができれば英雄と呼ばれるにふさわしい試練を十二個乗り越えたものに相応しい一撃で合った。 

 それに対して仁慈が取った行動は単純だ。ギリギリまで引きつけ、攻撃が当たる直前のところ……紙一重のところで己が引き抜いた剣を利用してヘラクレスの斧剣を受け流す。

 更に、その受け流した時の力を自分への攻撃へと転換し、持っている剣でヘラクレスの首筋に突き立てた。だが、それではヘラクレスに傷をつけることは叶わない。彼のスキル、十二の試練は合計十二個の命を保有するだけでなく、ランクB以下の攻撃を一切無効化してしまうのである。

 ここに刺さっているのはどれもこれもが、宝具ともよばれる傑作品であるが、それでも、エミヤが視て来た武器たちの贋作。彼の投影は万能ではなく、投影したものはランクが一段階下がってしまうのだ。今回仁慈が選んだ武器はどうやらランクが足りなかったらしい。

 

「硬っ……!?」

 

 そのこともあり、わずかに体を仰け反らせる仁慈。ヘラクレスがその隙を見逃すわけもなく既に整えた態勢から巨大な斧剣を横薙ぎに振るった。仁慈は魔力放出を利用して空中に身を乗り出してその横薙ぎを回避する。そして後方に宙返りをしながら距離を取ると、持っていた剣を魔力で強化しヘラクレスに投げた。が、結果は変わらずヘラクレスの身体に弾かれるのみ。

 仁慈は一度立て直すためにエミヤの方へと戻った。

 

「エミヤ師匠。この武器では歯が立たなかったんですが……?」

 

「ヘラクレスのスキル。十二の試練はランクB以下の攻撃を無効化する能力もついている。ここに在るものは基本的に私が視たことのある武器の贋作だ。選ばなければヘラクレスに傷をつけることすら叶わん」

 

「先に言ってくれませんか!?そんな状況でマスターにだけ突っ込ませるとかなに考えているんですか!?」

 

「剣の補充を少々」

 

「それも前もって準備しててくださいよ……。で、エミヤ師匠。一度交戦経験があるらしいですけど、ヘラクレスとどう戦っていたんですか?というか、どこまで行けたんですか」

 

「捨て身覚悟で、確か六回だったか」

 

「すげぇ!」

 

 ここまで話して居れば当然、ヘラクレスは彼らへと襲い掛かってくる。

 彼はその巨体からは考えられない速度で剣の荒野を疾走し、右手に持っている斧剣を振りかぶる。

 

 仁慈は振りかぶられた斧剣をギリギリのところで回避し、先程と同じ要領で攻撃を仕掛けようとするが、狂化を付与されているとは言え、ヘラクレスの絶技は並みの英霊を凌駕している。当然仁慈の行動にも対処することが可能であった。

 振り下ろされた斧剣を途中で止めると急にその軌道を変更させ再び仁慈へ斧剣を走らせる。ギリギリでそこの途に気づいた仁慈は、襲い来る斧剣の刃ではない腹の部分に魔力放出を利用したジェットパンチとも言える拳を叩き込み、軌道を無理矢理自分から外した。そして、副次的な作用としてわずかに態勢を崩したヘラクレスの懐に潜り込み、霊核がある部分を正確に捉え、魔力と魔力放出を最大限に使った拳を見舞った。

 もちろん魔力のコーティングが加わっているだけの唯の拳ではない。八極拳をも使ったもので魔力だけでなくその他の力も加え、内部を壊すようにする破壊の拳である。最も、威力に重点を置いているだけあり、そうそう多用はできない。すれば魔術でも回復しきれないほど壊れてしまうからだ。

 今回はそんなことを考えている場合ではないのでためらいなく使っているが。

 

「■■■■■■■■■――――!!??」

 

 ヘラクレスの背中から、収まり切れなかった魔力が突き抜けていく。ヘラクレスはそれと同時にルビーのように輝く赤い瞳に光がなくなった。

 仁慈はその隙に再び、後ろへと下がる。エミヤが言った、十二の試練。Bランク以下の攻撃を無効化し何より、十二の命のストックを持つことができるというその効果を覚えていたためである。

 

「我がマスター。我が弟子ながらイカレているという表現が適切なくらい、行動が予測できんな……まさか、自分の肉体だけでヘラクレスの命を消費してみせるとは……」

 

「驚くのはいいから、本当に援護してくれませんかねぇ……」

 

「いや済まない。今度こそ負けるわけにはいかないのでね。入念に準備をしているんだ」

 

「俺、マスターですよ?」

 

「私は君のキチガイさ加減(実力)を信じている」

 

「なんか釈然としない」

 

「■■■■■■■■■■■――――!!!!!」

 

 ここで、ヘラクレスの蘇生が完了したらしく、再び赤い瞳を光らせて咆哮を上げる。その雰囲気は先程とはどこか違って、より鋭く強靭なものになっているようにも感じられた。

 

「どうやら、ここからが本番のようだな」

 

「一回目は舐めプってことですかね」

 

 軽口をたたきつつも戦闘態勢を整える。すると、エミヤが自分の周辺に数多の剣を投影し、その中から二本剣を選び、それ以外を仁慈の近くに突き刺した。

 

「援護を頼む」

 

「了解です」

 

 短い言葉を交わし、今度はエミヤがヘラクレスと対峙した。

 エミヤがヘラクレスへと挑む直前に仁慈はエミヤに強化魔術と魔力を分け与える。それにより本来の性能よりも、上昇したステータスでヘラクレスへと襲い掛かった。

 

 ヘラクレスの斧剣と、エミヤの投影した剣が幾重にもぶつかり合う。投影であるがゆえに衝撃に耐えきれず壊れるエミヤの剣。だが、壊れてもすぐに代わりの剣を投影し迫り来る斧剣を受け止める。

 嘗ては完全に翻してもなお、余波でダメージを受け、斧剣を受け止めるだけで遥か後方に吹き飛ばされていたのだが、今回は強化魔術のおかげか対等とはいかないものの、派手に吹き飛ばされたりはしていない。

 

「■■■■■■■■■――――!!」

 

「マスターがもう少しだけマシであれば、我々は手も足もでなかったかもしれんな」

 

 思い返すのは、彼の義理の姉に当たる少女。イアソンはカリスマ性はあるもののそれしかないと言ってもいいほどで、基本的に指令には向かない。己の思う通りに物事が進まないだけで冷静さを失うとは上に立つ者としては致命的すぎる。まぁ、それは仁慈にも言えることだが、彼には後から教えていけばいいと考えていた。あれでも仁慈は己を顧みることができる人間である。その裏には自分のダメなところを顧み、克服していかないと確実に死ぬような状況にあったということがあるのだがそのことをまだエミヤは知らない。

 

 エミヤがヘラクレスの意識を引きつけている間に、仁慈はエミヤから受け取った投影された宝具たちを矢に見立てて魔力を通し、自分の弓にかける。そのまま弦を引き絞り、エミヤとヘラクレスの様子を見ながら矢を放った。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

 斧剣を振り切ったヘラクレスの頭を狙って偽・螺旋剣を放つ。振り切ったことにより、防ぐ手段がないヘラクレスはとっさに空いている左手で頭を庇った。エミヤがこの偽・螺旋剣を放った場合正確なランクは不明だがA以上の威力は出るらしい。仁慈はその領域には至っていないが、彼には彼の攻撃手段がある。それは魔力にものを言わせた戦法。人間たる彼が、聖杯という願望機を魔力タンクとして使用して手に入れた、ある意味彼だけの戦法。

 

 左腕に刺さった偽・螺旋剣につぎ込んだ魔力を暴走させて爆発させる業、壊れた幻想を発動し、仁慈の膨大な魔力がそのまま爆発となってヘラクレスに襲い掛かる。そのことが分かっていたエミヤは前もって距離を取っていた。

 ゼロ距離、それも頭の近くで起きた爆発に流石のヘラクレスもその態勢を崩す。その隙に仁慈は念のためにもう二本、矢を射た。ちょうど心臓の部分と頭から偽・螺旋剣を生やしたヘラクレスはその命を確かにまた一つ消費した。

 

 順調にヘラクレスの命を奪って行っている彼らだが、これでも決して優位に立っいるとは言えない。ヘラクレスを殺せば殺すほど、彼を殺す手段がなくなっていくのである。

 故に、エミヤは策を弄した。

 ヘラクレスが復活するまでのわずかの間に干将・莫耶を投影、それをヘラクレスに向って投げる。

 

鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ むけつにしてばんじゃく) 

 心技 泰山ニ至リ(ちから やまをぬき) 

 心技 黄河ヲ渡ル (つるぎ みずをわかつ)

 唯名 別天ニ納メ(せいめい りきゅうにとどき)  

 両雄、共ニ命ヲ別ツ (われら ともにてんをいだかず)

 

 夫婦剣がお互いに引きあい、ヘラクレスへと殺到する。そこでヘラクレスの復活が完了し、彼は動けるようになった瞬間から目の前に宝具が飛んできているという状況に陥った。

 しかし、彼は狂戦士ながらも自分を傷つける攻撃が何なのか、しっかりと把握しているらしく、干将・莫耶を払うことはなかった。ヘラクレスの身体に弾かれた夫婦剣だったがお互いに引きあう性質を利用し、再びヘラクレスの下へと戻っていく。そこでエミヤは壊れ幻想を使って意識をそちらの方にずらすと、最後に投影した干将・莫耶を持ちながら接近する。

 干将・莫耶をオーバーエッジと言われる形態へと、変化させ跳び上がるとそのままヘラクレスへと振り切った。復活のタイミングを完全に読まれ、状況を把握できないままにその攻撃を受けたヘラクレスはすぐに三つめの命を失うこととなった。

 

「あと9回。先は長い……」

 

「さて、問題はここからだ。私たちの何よりの欠点は火力が足りない。ヘラクレスの十二の試練とはこの点において相性最悪と言ってもいいだろう。しかし、その分手数は多い。この手数を何とか致命傷レベルの威力に持っていきたいところだな」

 

 干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣、そして仁慈の拳。1つどこかおかしなものが混ざっている気もするが、今までヘラクレスの命を奪った攻撃はこの三つであり、特に前者二つに関してはエミヤの最も得意とする戦法や攻撃手段だった。

 それとは別、そして尚且つその威力はランクBを上回るほどの攻撃力を付与して戦わなければヘラクレスを殺しきることはできないということである。

 

 自分たちの状況を改めて把握し、再びヘラクレスに視線を向けたとき……そこには目の前で既に斧剣を振り下ろしているヘラクレスが存在していた。

 

「――――ッ!?」

 

「なんだと!?」

 

 エミヤは適当な剣を、仁慈はとっさに突き崩す神葬の槍を召喚して、その攻撃を防ぐが強化されている身体であってもその攻撃には耐えることができず、二人そろって後方に吹き飛ばされた。と、同時にヘラクレスも吹き飛んだ二人を斧剣で地面を削りながら追いかけていく。

 一方、吹き飛ばされた方の二人は防御こそ間に合ったものの、空気すらも切り裂くその斧剣によって発生したかまいたちで受けた切り傷を飛ばされながらもなんとか治療する。そして、追撃に入っているヘラクレスを迎え撃つ。

 

 エミヤは、周囲に刺さっている剣をつかんで後方へ向かっている勢いを一瞬だけ殺すと、別の剣を握って地面に無理矢理着地する。そして、ブレーキとして使った剣と新たに投影した剣でヘラクレスの追撃を受け止めた。

 ドン!というまるでダンプカーとぶつかったような衝撃と音に体を軋ませながらも何とか耐える。

 仁慈はエミヤと違い、生えていた剣を飛ばされながらも荒野から引き抜くとそのままの状態で弓にかけ、間髪入れずに射た。

 

「■■■■■■■■■■――――!!!」

 

 しかし、効かない。

 なんとヘラクレスは今までとは明らかに違う強烈な咆哮を放って仁慈が射た矢の威力を弱めたのである。勢いの弱まった矢はヘラクレスの身体を貫通することなく、カンっという音を立てて虚しくはじき返された。

 矢のことなど、気にしてもいないといったヘラクレスはエミヤに対する攻撃を続行、一撃一撃剣戟を重ねていき、再びエミヤを吹き飛ばす。

 

 仁慈は己の方向に飛んできたエミヤを受け止め、交代するような形でヘラクレスと対峙した。

 

「■■■■■■■■――――!!!」

 

「ぐぉ……っ!?」

 

 ―――違う。先程までとは明らかに違う。 

 同じように斧剣の進路をずらすために腹を狙って拳を放った仁慈は確信した。ヘラクレスが確実に強く、否、本来の力を引き出しつつある。今まで手を抜いていたのか、それとも三つ命を奪われようやく英雄としてのナニカが帰って来たのか……仁慈にはわからないが、唯一つ彼でもわかることがある。

 

 それは、このままでは確実にやばいということだ。

 受け流してもなお、自分を傷つけていく剣戟を前に、己が中で経験してきたことを全て生かしてそれらをさばいていく。

 

 上、右、下、右、左、上、左、下、上、右………。

 

 あらゆる方向から縦横無尽に襲い来る剣戟を読み取り、ずらし、回避する。時々、反撃として八極拳の技術を利用した攻撃を見舞うが、一度命を失ってしまったためか、全く以って効いてはいなかった。

 懐に潜り込んでしまったがために、敵の射程圏内から出にくくなってしまった仁慈にヘラクレスの凶刃が迫る。が、それは先程吹き飛ばされ、仁慈に受け止められたエミヤが放った矢によって方向をずらされ仁慈に直撃することはなかった。

 方向がずれ、斧剣が地面に沈む。

 その隙をついて、仁慈は一歩後方に下がった。仁慈が下がったことを確認したエミヤは逃走ように偽・螺旋剣を投影して放つ。

 直接ヘラクレスの命を奪うことはできずとも、威力は無視できるものではなく、壊れた幻想の爆発は時間稼ぎに使うこともできるからである。

 

 風を切りながら、飛来する偽・螺旋剣に仁慈が予想だにもしない行動に出る。

 

「ゼェアッ!!」

 

 自分の隣に偽・螺旋剣が来たタイミングで、飛来したそれに強化した回し蹴りを放ったのである。

 自らの弟子であり、マスターでもある仁慈の行動にエミヤも顔を顰めるが、すぐにその表情が呆れの混ざった笑顔に変わった。仁慈が蹴った偽・螺旋剣はその勢いを更にましてヘラクレスに殺到したのである。

 仁慈の予想だにしていなかった行動によって急激に速度が変化した偽・螺旋剣は再びヘラクレスの身体を―――――貫くことはなかった。どれだけ強力であろうとも、一度受けた攻撃は二度と効かないのだから。

 

「■■■■■■■■■■――――!!!」

 

「やっぱり無理か……バーサーカーにあるまじき耐久度だ!」

 

 わかっていたけれど、むざむざと十二の試練の理不尽さに嘆きつつ仁慈自身もヘラクレスに立ち向かっていく。

 彼のような巨大な斧剣を振るっていて尚且つ巨大な身体をしていると自分の身体周りは特に攻撃の当てにくい場所となる。バーサーカーであり、彼本来の武人の面が潰されてしまっているのであれば尚更効果的と言えるだろう。

 

 ヘラクレスは更に、速度を上げて自分の懐に潜り込んできた仁慈に対して一瞬だけその反応が遅れてしまう。本来ならば、気にもしないようなほんの一瞬。しかし、達人同士、人の限界を超えた者同士の戦いにおいて、その一瞬は大きな時間となる。

 

 ここで、仁慈は今まで当てていなかった自身の宝具を召喚する。

 船の上でははじき返され、投擲しようとも徹底的に弾き落とされてきたその槍。仁慈は知らないことであるが、それこそヘラクレスが最も警戒しているモノ。彼らの天敵とも言える、対人外宝具。

 

 

「――――――突き崩す、神葬の槍……ッ!!」

 

 真名開放をされた仁慈の宝具は自身の色と同じ深紅に光りながらヘラクレスの鳩尾部分に突き刺さる。巌のような黒い肌を貫通し、人外を、英雄を、悪魔を、そして神でさえも屠るその槍は確実にヘラクレスの命を蝕んだ。

 それは、一つの命を奪うだけではなく、彼のストックしている命をも奪っていく。あらゆる偉業を成し遂げ、最終的に神の末席にまで加わったからこその威力だった。

 

「■■■■■■■■■■――――!!!???」

 

 これには流石のヘラクレスも驚いたらしく仁慈から距離を取り、自身に突き刺さった槍を無理矢理引っこ抜いた。

 その後、仁慈に向かって人外的な速度で投擲を行う。

 仁慈はこれを体をそらして回避し、逆に自分の横を通り過ぎようとする槍をつかんで再び構えた。

 そこに、いつの間にか仁慈の近くに居たエミヤが彼に話しかけた。

 

「マスター。すまない、待たせた」

 

「遅いですよ」

 

「ちょっとばかり、私の中に違和感を感じたのでね。それの解析にてこずっていた。――――だが、その価値はあったぞ」

 

 エミヤの因縁のはずなのに、割と積極的にたたかっているのが仁慈ということで不満を口にする。それに対してエミヤは少し申し訳なさそうにするものの、その後に続けた言葉からは自信が感じられた。

 

「時間稼ぎは?」

 

「問題ない。……どうやら、マスターの宝具で奴のスキルにも傷がついたらしい。本当に恐ろしいものだな。その宝具は」

 

 エミヤの言う通り、仁慈の宝具によってヘラクレスの十二の試練に不具合ともいうべきことが発生していた。十二の試練とはヘラクレスが神へと至るまでに欠かせないものである。故に神性を多く帯びているために、命のストックを通してスキルまでその傷をつけたのである。

 故に、今のヘラクレスは命のストック、ランクB以下の攻撃の無効化は出来ても、一度受けた攻撃を無力化するということは出来なくなってしまっていた。

 

「―――――――さて、マスター。すまないが、魔力を回してくれ。……決めに行く」

 

「ついでに令呪も持って行ってください『令呪を以て命ずる。アーチャー、全力で勝て』」

 

「ふっ、承ったぞマスター。―――――――――投影、開始」

 

 静かに呟かれたその言葉と共に、エミヤの手に造られていく剣。

 それは仁慈にとっても馴染み深い剣であり、そして仁慈が知っているそれとは遥かに違うとも言える物だった。

 

 黄金に輝くそれは、セイバー殺しなんぞに燃えてなく、まさに人々の願いが生み出したと分かるような美しさを持っていた。唯そこに存在するだけでも心にこみあげてくるものがあったと、仁慈ですら思った。

 エミヤは投影したそれをゆっくりと、上に運んでいきある程度の高さで止める。

 

「マスターには悪いが、私にとって聖剣とはこちらのほうだ」

 

 冗談を挟みつつ、エミヤが掲げた剣に光が集っていく。

 それは、人々の願い。

 それは、担い手の願い。

 それは、未熟だった少年が抱いた、理想(願い)

 

 本来なら投影することはできないであろうソレ。

 特異点という歴史があいまいになった空間で、固有結界を発動し、そして何より、聖杯と繋がりを持っているというマスターが居るからこそできる裏技中の裏技。

 

 エミヤの出した、ソレ(・・)を見たヘラクレスはあれを受けた先の自分を本能で感じ取ったらしく、バーサーカーとは思えない回避行動を取る。けれども、この場にはもうマスターと言えどももう一人存在しているのである。

 神格を傷つけられ、一度喰らった攻撃への耐性を失ったヘラクレスに対して、神葬の槍を持った仁慈が逃げないようヘラクレスの前に立ちふさがっていた。

 自分の神格を傷つけた槍を警戒しているがため、仁慈が少なくとも一筋縄でいかないことを理解しているからこそヘラクレスは仁慈を突破するか否か、その判断を迷った。

 

 何度も言うが、英霊同士の戦いにおいて一瞬というのは十分に活用が可能な時間である。本来のヘラクレスであるならば、そんなミスは起こさなかっただろう。バーサーカーとして召喚され、宝具のほとんどを自身の技術に依存しているためにステータスは高いものの、戦闘の運び方で差が出てしまったのだ。

 まぁ、色々言葉を弄したが、何を言ってももう遅い。エミヤの投影したそれは既に放つことができる状態まで来てしまっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――この光は、永久(とわ)に届かぬ王の剣。………永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 エミヤの投影した剣、永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)によって放たれた眩く見惚れるほどの光がヘラクレスへ迫る。

 

 ヘラクレスがその時見た光景は、いつか何処かで、目の前の英霊を思わせる少年から受けたものと酷似していると、狂化された思考の中でそう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうオケアノス編終わりでいいと思う。

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