この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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ついにできてしまった主人公不在回。
それ故にキチガイ成分はかなり控えめですがよければ見て行ってください。

今回は残されたマシュ達VSヘクトールです。


現代の神話(中編)

 

 

 エミヤが自身の切り札たる魔術、固有結界を発動し、ヘラクレスを疑似的に隔離することに成功した。だがしかし、その一方で取り残されたサーヴァント達はどういうことだという混乱の中に居た。当然である。自分たちの司令塔たるマスターがここに居ないのだから。

 

『えっ!?何で仁慈君はよりにもよって一番死亡率が高いであろう場所に自ら飛び込んで行っちゃったのか!?』

 

「エミヤ先輩の死亡フラグが云々とおっしゃってました!」

 

『なら仕方ないね!』

 

 マシュの語った理由にロマニは何やら納得したらしい。ヤケクソ気味ながらも彼は仁慈の行動を支持したのだった。それと同時に、仁慈が自分たちとは違う場所であの化け物みたいなヘラクレスと戦っていることを知ったためか、サーヴァント達は各々の得物をヘクトールとメディアに向けた。それは宣戦布告。これからお前を潰すという、意思表示である。

 

「……それでは皆さん最終決戦です!先輩たちが帰ってくる頃には既に終わっているくらいの勢いで頑張りましょう!」

 

「おうともさ!」

 

「はーい!」

「もう少し真剣な返事をしろよ……」

 

「貴方は無駄に図体が大きいの。だから、敵の攻撃には十分注意しなさい。アステリオス」

 

「う」

 

「貴方が喰らいたいのは右手の聖剣ですか?左手の聖剣ですか?え、どちらもいらない?あなた方は正直な方ですね。その正直さの褒美として二本とも喰らって行ってください!」

 

「気に入らないけど、あの髭の弔い合戦と行こう」

 

「そうですわね。……私たちのコンビネーションと海賊の意地を見せてあげましょう!」

 

 ……エミヤ達に比べて残された者たちのカオス加減と言ったら通信越しに状況を窺っていたロマニですら呆れるほどであった。

 しかし、カオスだったのもその宣言のみ。彼らは誰もかれもが歴戦の戦士であり、海賊であり、人智を越えた存在である。空気の切り替えは速い。

 

「―――――行きます!」

 

 マシュの声と同時に味方となっているサーヴァントも敵であるサーヴァントも同時に動き始める。アーチャークラスのエウリュアレとアルテミス、そしてアンは後ろへと下がり、他の前線で戦うサーヴァントたちは一気に前へと踏み込んだ。

 

 一番槍としてヘクトールと切り結んだのはヒロインX。普段の態度と言動からは想像もできないかもしれないが、彼女は伝説の聖剣を二つ扱えるほどのスペックを持ったとんでもない存在なのである。普段は本人の残念さから目立たないだけで。

 

「マスターのためにその首か、ロケットパンチ飛ばせそうな腕を置いていきなさい!」

 

「いくら何でも物騒すぎやしないか?」

 

 ブン!というよりはヴン!といった実に宇宙的な音を立てながら軌道を残しつつヘクトールに迫るライト聖剣エクスカリバー。冗談のような存在が振るう冗談みたいな武器は正確にヘクトールの身体を狙い撃つものの、それに対してヘクトールは完全に対応して切っていた。

 彼はあの神々に愛されたと言ってもいいほどの英雄。アキレウスにも引かなかったトロイア戦争の英雄なのだ。先程までは仁慈の不意打ちによって左腕を落とされ、宝具ブッパによるダメージを追っていたからこそその、実力を発揮することはかなわなかったのだが、今はイアソンの聖杯によって完全に回復している。並みの英雄では相手にならず、一流の英雄でも攻め切ることは容易ではない。

 

「はぁぁぁああ!!」

 

「ウォォオォオオオオオ!!!」

 

 Xとヘクトールが正面から剣と槍を交える中、その場に乱入するものが居た。メアリー・リードとアステリオスの二人であった。今、Xとヘクトールの実力は均衡しているように見えていた。それ故に、この隙をついて一気に攻め込んでしまおうと考えたのである。

 だが、相手はヘクトールだけではない。イアソンの妻であり神代の魔術師、ヘカテーの弟子でもあるメディアが前線に出張っており、その攻撃を見逃すはずもなかった。彼女は自分の周囲に魔術の術式を三つ高速で展開すると、純粋な魔力弾を作り出し、そのままヘクトールに襲い掛かろうとしている二人に向かって飛ばす。攻撃が得意というわけではないが、決して無視できるダメージではない。

 

 メアリーとアステリオス目掛けて寸分の狂いもなく放たれた魔力弾だったが、二人は回避行動に移ることはなかった。そのままヘクトールへの奇襲を続行した。

 なぜか?答えは簡単だ。戦っているのは彼らだけではないからである。背後に跳んでいたアーチャー組のエウリュアレとアンがお互いの相棒に迫る魔力弾を打ち消した。それと同時にドレイクはメディアに向かって銃を撃った。

 

 これにより、ドレイクの対応を余儀なくされたメディアはヘクトールの援護に回ることは出来ない。邪魔者は居なくなったことで二人はそのまま己の得物をヘクトールに振りかぶった。

 マシュを含めたカルデア側の全員が獲ったと確信する。だが、アキレウスとやり合った英雄がこの程度の状況に対応できないわけがない。

 ヘクトールは槍で受け止めていたライト聖剣エクスカリバーを右の機械腕を利用して思いっきり押し返す。その影響で体勢をを崩すX。その後、ヘクトールは右腕の勢いを利用して槍の後ろでアステリオスの鳩尾を突き立てた。

 

「う゛ォッ!?」

 

 天性の魔を持っているアステリオスでも半分は人間の血が確かに流れており、そのために人間としての性質も持ち合わせている。そのため、不意に来た鳩尾攻撃に耐えることができずその場で行動を止めることとなった。

 ヘクトールはアステリオスの行動を止めると、もう一人自分に襲い掛かってきているメアリーに向かってその槍を振り払った。

 

「ぐっ、ぁぁぁあああああッ!!」

 

「メアリーさん!」

 

 ヘクトールの槍によって体を肩から腹まで切り裂かれてしまったメアリーは攻撃を続行できる筈もなく、そのまま攻撃を受けたことによって発生した衝撃のまま吹き飛ばされてしまった。

 

「メアリー!ぐっ……!」

 

 相棒であるメアリーが吹き飛ばされてしまったために叫び声を上げるアン。それと同時に彼女はその場で膝をついた。彼女とメアリーは二人で一騎のサーヴァント。それ故に発生するメリットは計り知れないが、このようなデメリットも発生してしまう。いくら人格と身体は違えど、霊格は共有しているのだ。だからこそ、このようダメージのフィードバックが起きてしまったのである。

 

 メアリーを沈めたヘクトールは未だ動けないでいるアステリオスに止めを刺そうとするが、そこに体を滑り込ませて彼の攻撃を防いだものが居た。

 

 マシュである。

 彼女は未だ未熟な見慣れど、盾を掲げ、守ることに重点を置いたシールダーのサーヴァント。守るという一点において、彼女の隣に並び立つ者はそういない。

 

「また君か。本当に傑作だ。しかし、厄介だ」

 

「これ以上は傷つけさせません!」

 

「防御という一点に特化した奴っていうのはこんなにも面倒なものだったんだねぇ。アイツの気持ちが少しはわかった気がするよ」

 

 そんなことをぼやきながら槍を振るう。それに対してマシュは盾をぶつける。槍と盾がぶつかるたびに火花が散っていく。だが、それでも実力が均衡しているわけではない。積み上げてきた歴史の分だけマシュが不利である。それ故に彼女は少しずつではあるが傷を負う様になってきた。しかし、逆に言うとその歴史的差を蹴とばし、致命傷だけは受けておらず、マシュの心もいまだに折れてはいない。

 そうして、二人が戦っているうちにマシュたちの最終兵器にして最大戦力である彼女が動いた。隠れるつもりなど毛頭なく、ハジケまくっているけれども頼りになるサーヴァント……ヒロインXが再びヘクトールへと向かってきたのだ。

 

「首、おいてけ!」

 

「戻ってきたか!はっちゃけ小娘!」

 

 マシュへの攻撃を中断して、自分に向かって振り下ろされた二本の聖剣を紙一重で回避する。そこからXとマシュの二人がヘクトールへと襲い掛かるのだが、ヘクトールは防御、防衛戦で名を上げた英雄であり、この程度のことに対応できないはずがなかった。時に受け止め、時に受け流し、最後には二人が踏み込んでくる位置を調節し、お互いがお互いの邪魔になるよう巧みに誘導した。

 

「いやはや、敵ながら見事な立ち回りですね」

 

「感心している場合じゃないですよ」

 

「えーい!」

 

「ふっ……!」

 

「やっぱだめかー」

「全ッ然効きやしねえな」

 

 もちろん、アーチャー組であるアルテミスが何もしていないわけではない。マシュやXが攻めている間、ずっと攻撃を仕掛けていたのだが、クラス相性とヘクトールの立ち回りもあり、攻撃が当たらなかった。やはり、オリオンの代わりとして召喚されたことによるランクダウンが響いているようだった。また、エウリュアレがアステリオスの回復まで前線を引いたことも又原因の一つだろう。

 攻撃が止んだ時、メディアがヘクトールへの疲労回復のために魔術を使用しようと杖を構えた。

 

「――――――――ッ!?」

 

 だが、それは叶わない。

 彼女が魔術を使おうとした瞬間三発の銃弾がメディアへと飛来した。ギリギリでそれに気づいたメディアはあらかじめ発動しておいた防御魔術を使用してその銃弾を翻す。

 

「よそ見してんじゃないよ。あんたの相手はこのアタシさ」

 

「フランシス・ドレイクさんですか……わかりました。お相手させていただきます」

 

 メディアはドレイクが来たことにより、完全にヘクトールを回復する機会を失ってしまった。少々の不安を抱きながらも、よそ見しながら勝てる相手ではないと感じているメディアはその視線をドレイクへと固定する。メディアからの視線を受けたドレイクはニィっと唇の端を吊り上げていかにも悪人らしく笑った。本人は悪人だからと答えそうだが。そんなことを挟みつつ、ドレイクとメディアもまた激突したのであった。

 

 一方、再びヘクトールの方。今では復活したアステリオスとエウリュアレも加えてヘクトールを攻め立てるが、それでも彼には通じない。かすり傷をつけることは可能でもそれ以上……致命的なダメージを与えることは未だに叶うことはなかった。

 

「どうなってんのかしらね、あのオジサン!」

 

「流石アキレウスに何度も食い下がった男。攻め切るのは至難の技だなぁ……」

 

「私の弓も上手く躱されてるもんね。どうしようか、ダーリン」

 

「俺にはどうしようもないなぁ」

 

 ヘクトールと同じく神代の神霊である二人はヘクトールの実力に納得しているように言っている。

 だが、マシュの内心は穏やかなものではなかった。彼らはマシュ達がこの大人数で戦っていることに対してヘラクレスに二人で挑んでいるのである。勝つと彼女は信じているが、勝って帰って来たとしても疲労困憊であることは明白だ。その時、ヘクトールを倒しきれていなければ、マスターである仁慈がその隙をついて殺されてしまう可能性があるからである。いくら仁慈が人外に近いキチガイだとしても人間である以上、ゲテモノ料理に負けることはあるし、餓死することもある。弱点なんていくらでも湧いて出てくるのだ。

 

 故に、そのことを思い出したマシュはここで勝負を決めることにした。

 

「皆さん。私なんかが、急にこんなことを言うのはおかしいことだとは思うんですけれど。このままマスターが先に帰ってきてしまいますと、疲労の隙を突かれてしまうかもしれない………なので、ここで決めたいと思うのですが、どうでしょうか?」

 

『異議なし』

 

 マシュの言葉に全員が一斉に頷いた。その様子を見て、マシュは今ここで自分たちに味方してくれているサーヴァントたちに感謝した。仁慈とは違い、マスターではない自分の提案に、迷うことなく乗ってくれる彼らに、心の底から。

 

「それでは――――――マスター。樫原仁慈のデミ・サーヴァント、マシュ・キリエライト。行きます!」

 

 盾を持ち、力強く宣言する。そんな彼女に続き、イアソン達に反逆する者達は一斉にまた、ヘクトールへと向かって行った。

 

「――――はっは。まるでオジサンが悪者みたいじゃないか。まぁ、いいんだけれども。……でも、悪いね。ガキ共。俺は自分でも嫌になるくらい、守ることに関しては得意なんだよね!」

 

 ヘクトールもマシュ達の気概に応えるかのように声を上げ、今までとは違う鋭い殺気を放つ。それこそ、まさにアキレウスと鎬を削った英雄であると相応しい殺気だった。しかし、マシュ達もそれに引き下がることもなく、勢いを落とさないでヘクトールへと向かって行く。

 先程のことを踏まえ、マシュ、X、アステリオスは攻撃時間を少しずらし、お互いが隙を無くすように立ち回る。

 

「はぁ!」

 

「セイバー!」

 

「うぉおぉぉおおおお!!」

 

「ほら、もっと隙を無くさないと反撃を喰らっちまうよ!」

 

 だけれども、ヘクトールは崩れることはなかった。むしろ、反撃を入れてくるほどのものである。

 それぞれが、それぞれの得物をぶつけ合う。状況は3対1という戦力差ではある程度均衡しているのだ。ここにアーチャーであるエウリュアレとアルテミスが加われば、戦況はマシュ達へと傾くことになる。

 

「往きなさい!」

 

「そぉれ!」

 

 2柱の女神が放った矢はぶれることなくヘクトールの頭へと飛来していく。先程も述べた通り均衡している中でヘクトールにこの矢を防ぐ術はない。故に彼はアステリオスの攻撃に合わせて回避することを選んだ。

 もちろんバックステップを踏んだことでできた隙はある。が、ここでヘクトールに追撃をかませば味方であるエウリュアレとアルテミスが放った矢の前に自らの身体を曝すことになる。それを踏まえたうえでの行動であった。

 

 

 ―――――だが、ヘクトールはミスを犯していた。それはかなりの大人数を相手にしていたがために仕方がなかったことであるが、そういったミスが致命的なものにもなり得る。

 彼は完全に忘れていたのだ。マシュ達には、二人で一騎のサーヴァントが居るのことを。

 実際に、マシュ達も後ろに下がるヘクトールを見て、静かにその唇の端を僅かに吊り上げていたのだ。

 

「残念だったね。正義の味方諸君。ここで一端仕切り直しだ。さぁ、オジサンと力尽きるまで戦おう――――ッ!!??」

 

 へらへらとした笑みを浮かべながら言葉を発していたヘクトールの言葉が意図しないタイミングで遮られる。

 その理由は唐突に自身の身体を襲った激痛が原因である。激痛を感じる場所である背後に視線を送ればそこには、体を真っ赤にしながらも不敵な笑みを浮かべたメアリーが居たからである。

 

「はぁ……はぁ……。あれで、死んだと、思ったんだろ……ヘクトール……ははっ、舐めた舐めた、ことしてくれるじゃないか……なぁ?アン」

 

 息も絶え絶えなメアリーの言葉に、銃を杖にしながらも立ち上がったアンも反応を示す。

 

「全くですわ。……あの程度、で、私たちが、死ぬわけないじゃないですか……なんて言ったって海賊ですもの……!」

 

 言い終わると同時に、アンは自分の持っている銃を担いでしっかりと立った。それを合図にメアリーも、最後の力を振り絞るように剣を構えた。

 

「………アン・ボニー……メアリー・リード……!」

 

 もはや彼の顔に余裕などはなく、その視線はしっかりと、メアリーを己の敵として認識したものになっていた。

 だが、もう、遅い。

 

 

 

 

「「舐めるなよ、海賊を!」」

 

 

 

 

 

 先程までフラフラだったとは思えないほどの跳躍を見せたアンがへクトールの身体に銃を振り下ろす。

 そしてその背後からはメアリーが剣で斬りつける。 

 片方が攻撃したところを向かい側に居るもう一人が合わせるようにして敵の身体を刻んでいく。そして、二人は最後の止めとして跳び上がり、アンは銃を、メアリーは剣とは違う武器を取り出して、下に居るヘクトールに狙いを定めた。

 

 

 

「「比翼にして連理(カリビアン・フリーバード)!」」

 

 

 

 そして最後の止めとしてお互いがトリガーを引いて、丁度二人の銃弾が重なる時、丁度ヘクトールの身体にある霊格に当たるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

「はっ……。やっぱり、慣れないことはするもんじゃねえなぁ……それにリーダーがダメだとやっぱり駄目だわ………はぁ、今度はもっと面白いマスターがいいもんだ」

 

 

 

 

 

 と、自嘲しながらヘクトールは金色の光となって消え失せた。

 こうしてトロイア戦争の英雄は、ある意地と誇りを持った海賊に、敗れて消え去ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アンメアの宝具、名前こそ普通のものですけれども描写の参考は水着アンメアの宝具です。
理由?そっちの方がかっこいいからです。


次回は皆さんお待ちかね(?)のヘラクレス編です。


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