この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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………あれ?


一つの終焉、一つの開戦

 

 

「たーまやー。いやー黒髭ことエドワード・ティーチは強敵でしたね……」

 

そんなことを言っても違和感ないくらいには、今の状況は酷かった。

仁慈考案というか、いつものと言っても差し違えない基本行動である先制ブッパによって敵である黒髭の船は壊滅的な被害を被っていた。一応、黒髭の宝具ということで沈没は免れたものの、それぞれのサーヴァントは無視できない程のダメージを負っていまっている。

 

「あのクソガキ………!」

 

これには流石の黒髭もキャラを投げ捨て素を出しながら憤慨した。まさかまさか、遠距離から一斉に宝具が飛んでくるとは夢にも思ってなかったのである。

 黒髭のこの考えは一般的に正しい。普通の人間では何人もの英霊の宝具を同時に発動することはほぼ不可能と言ってもいいからだ。答えは単純、魔力が足りないのである。だからこそ、飛んできてもサーヴァント一体分の宝具であるはずなのだが……残念かな、人類最後のマスターに選ばれたものは人類で最も新しい基地外だったのだ。聖杯という魔力タンクも内蔵していることから、このような常識はずれな行動がバンバン取れてしまうのである。

 

「………まさか、こんな手でくるとは。いや〜、時代も進んだもんだ」

 

呑気に話す緑色の服を着たサーヴァント。だが、その内心では全くもって余裕のない状態である。何とか黒髭の部下をガードベントとして利用し、直撃こそは免れたもののビームと爆発物相手に無傷とはいかず、左腕も加えて体中ボロボロである。

 普段であれば、海に飛び込むなりして回避することもできたのだが、今回はそれを行うことができない理由があった。

 

「ちっ、降りてきませんでしたか………」

 

 仁慈の指示によって黒髭の船近くで待機していたXが居たからである。ジャージを着こもうと帽子をかぶろうと、聖剣をライト聖剣に改造していようとも、たとえ本人が隠しているつもりであっても彼女はアーサー王(仮)なのだ。湖の精霊から受けた加護のおかげで浮くことができるのだ。

 そこで、仁慈は彼女に宝具を回避するためにサーヴァントが海に降りてきたら一方的に殴り倒してやれと伝えておいたのである。まさに外道。それ故に有効的だった。Xが下で聖剣をブンブン振り回しながら待っているために黒髭たちはその場で踏みとどまるしかなかったのである。

 自由に動くことができない海の中よりは船の上で黒髭の宝具の影響で生み出された海賊たちを使ってガードベントした方がまだましだと考えたのだ。それなりに距離が離れており、本来の威力で飛んでこないだろうと考えていたことも理由の一つとして挙げられた。まぁ、それでも黒髭たちが大ピンチなことには何ら変わりないのだが。

 

「ぐっ……つぅ、随分と派手にやってくれたもんだね……」

 

「しかし、あれだけ大量の宝具を開帳すればマスターもただではすみませんわ」

 

「……いや、どうやらそういうわけでもないみたいだなぁ。これじゃあどっちが敵側だかわかったもんじゃないね」

 

 メアリーとアンもそれぞれダメージを負いつつ、この采配を行ったであろうマスターの状態を予想する。だが、彼女たちの予想は味方の緑色の服を着たサーヴァントによって否定された。

 彼女たちは一度、そのサーヴァントの方を見てから相手となるドレイクたちの船にその視線を移す。するとそこには、ビームこそないものの、偽・螺旋剣と突き穿つ死翔の槍が飛来してくる光景があった。

 

「なっ!?」

 

「あぁ、もう!勘弁してほしいです!」

 

 自分たちの予想を超えてランクが低いとはいえ宝具級の攻撃をドンドン飛ばしてくる仁慈たちに悪態をつきつつ、銃を持ったアンはひたすら飛来する武器を撃ち落す。

 本来なれば決して不可能ではなかったその行動だが、ダメージを負ってしまった今の体では処理に間に合わずいくつかの攻撃が自分たちに降り注ぎ再び爆発を起こした。サーヴァントたちは全員が敗北寸前。その所為か黒髭の宝具である船、アン女王の復讐号も徐々にダメージを負い始めていた。

 

「くっそ野郎が!あの爆発物を追撃しようにも自分の近くで撃ち落せばどちらにせよダメージは免れねえ。かといって、遠くから落とせるのはアン・ボニーただ一人……」

 

 敵からの効果的すぎる攻撃に、黒髭は必死に活路を見出すために思考を巡らせる。しかし、彼の頭が弾き出すのは不可能という三文字だけ。逃げることは向こうの船の方が機動力が高いために不可。ここから巻き返すのは絶望的。何より戦力の差がありすぎる。黒髭たちは本人を含めて少なくないダメージを負ってさらに、向こうには水の上を移動できる変態サーヴァントが居る……これらを正確にとらえているが故の結論である。

 

「まさか、現代にあんなブッ飛んだ奴がいるとはな゛ッ!?」

 

 するとここで、黒髭の身体に違和感が駆け巡る。違和感を感じる部分に視線を向けてみれば自分の身体から見覚えのある槍が生えていた。それはもちろん仁慈が持っている物ではなく、彼の味方として共にいた人物が持っていた武器。

 

「……まさか、ここで裏切ってくるとは思わなかったぜ。ヘクトールさんよ。テメエだけじゃあのぶっ飛んだガキとBBAの相手はキツいんじゃないかね?」

 

「いやいや。本当に厄介なお方だよ、船長。まったく隙を見せずに、常に懐の銃を握っているんだからねえ。どうやらこちらの思惑にも多少気付いていたようだし?……おじさん感心しちゃうぜ」

 

「狙いは俺の聖杯か……」

 

「ま、それはついでだったんだけどね。本命はちょっと俺には荷が重そうなんで、これだけ持って帰ろうかと……ね!」

 

 槍を引き抜くと同時に黒髭の聖杯も奪い取った緑色の服を着たサーヴァント、ヘクトールは前もって準備していたボートを使って逃走を図った。

 

 一方、聖杯を奪われ体に穴も開けられた黒髭はその身体を引きずって甲板の端に立った。そんな彼の先には先ほどよりも距離が縮まった黄金の鹿号が存在している。仁慈たちは思ったよりも重症だった黒髭に驚きの表情を浮かべて攻撃をいったん止めた。黒髭はその隙に、自分の身体を度外視して口を開く。

 

「すまんBBA!勝負つけられそうにねえわ!」

 

「だったらもう少し態度に出したらどうなんだい!」

 

「wwwwwwwwそwwれwwwはwwww無理でござるwwwうぇwwwww――――しかし、横やりでお宝を奪われるとは俺も落ちたもんだよなぁ?BBA」

 

「…………海賊の最後なんてそんなもんだ。アタシらは自分の好きにやって、奪い、荒らした無法者。無様に死んで地獄行きがふさわしい末路なのさ」

 

「なんという正論。これは何も言い返せないでござる。くやしいのぅwwwくやしいのぅwwww」

 

 黒髭とドレイクは言葉を紡いでいく。

 そこには仁慈には、いや、仁慈達にはわからない海賊だからこそ、自分勝手に生きることを選んだ者たちだからこそ理解できる部分が含まれた会話であった。

 黒髭の身体を黄金の光が包み込んでいく。聖杯を失った彼がたどる末路は決まっているのだ。

 

「では、海賊らしく一つ情報を残しておくとしますかな。……俺をやったのはヘクトール。狙いは俺が持っていた聖杯ともう一つ本命があるらしい。さぁ、クソガキ。この遺言(地図)を以てして、見事に聖杯(俺の宝)を手に入れてみな。……なんてwwww最近、海賊王が言ったこの言葉から始まる漫画が流行っているらしいので言ってみますた(キリッ)」

 

 冗談のような口調で言っているが、その言葉は普段の黒髭と同じく目が笑っていなかった。そのことを読み取った仁慈は今の言葉が嘘偽りないものだと、感じて己の心に刻み込む。

 その様子を見た黒髭は再びドレイクに視線を戻した。

 

「じゃあBBA。先に地獄でいっぱいやっているでござるよ?」

 

「BBA言うな。さっさと逝っちまいな。―――――一応、アンタの話はマシュとロマニから聞いてる。今度はその首忘れずに持っていくんだね」

 

「当然。拙者、大海賊なのでその辺は抜かりなし!いや、裏切られた時点でぬかってる?細かいこと言いなさるな」

 

「誰に向かって言ってんだい」

 

「紳士は次元の壁すら超越できるもんなのですよぉ?しっかし、やはり拙者は……俺は大海賊だった。こんな終わりの間際になって、誰よりも尊敬した女に!思い焦がれた海賊に看取ってもらえるうえに首まで取っててくれるとは!生前では決して手に入らなかった宝だろうよ!は、はははははは!さらばだ人類!さらばだ海賊!黒髭は死ぬぞ!くっ、ははははははは!!」

 

 その高らかな笑い声を最後に仁慈たちの前に立ちふさがった大海賊、黒髭は消滅した。最後に、自分が最も欲したものを手に入れて消えていった彼は、誰の目にも等しく大海賊として映っただろう。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 黒髭が消えたことにより、彼の宝具であったアン女王の復讐号も消え失せる結果となる。そうして残ったのは爆発物の雨を卓越した狙撃技術で防いだアン・ボニーとメアリー・リードは仲良く海に浮かぶ羽目となり、そこを魔力放出を利用した飛行術によって飛んできた仁慈に引き上げられて簀巻きにされていた。

 

「さて、とりあえず二人には選択肢が二つある」

 

 彼女たちを回収した本人である仁慈は簀巻きにされて動けない二人に向かった人差し指を立てながら口を開いた。

 

「まず、選択しその1。ここで死ぬ」

 

 彼が言った瞬間、仁慈とアン&メアリーの前に彼の真に所持していると言える宝具である突き崩す神葬の槍がどこからか現れ、突き刺さった。アン&メアリーは名の知れた海賊である。本来であればこの程度の脅しなんてへでもないのだが、仁慈の瞳がどろどろとした深淵を思わせるものであったためにわずかに恐怖を助長させられた。

 そんな二人に気にせず、仁慈は中指を打ち立ててピースの形を作り出す。

 

「で、2つ目。黒髭の言ったヘクトールの情報を吐いて、俺たちと共に、ヘクトールを含めた連中を潰す…………どうする?」

 

『………………』

 

 二人は考える。

 しかし、すぐに答えは出た。彼女たちは海賊であり、自分の好きなものは奪い取ってでも手に入れる。黒髭はあのような性格で、とんでもなく変態的だったが、それでもあの時だけは彼女たちのボスだった。そんな彼が奪われたものを奪い返すのは当然であろう。奪ったら、あの世か英霊の座にいるであろう黒髭を煽ってやろうとも考えていたが。

 

「………いいよ。仲間になる」

 

「海賊のものを奪ったらどうなるか教えて差し上げなくてはなりませんからね」

 

「交渉成立。これからよろしく。アン・ボニー、メアリー・リード」

 

「うん、どうもよろしく」

 

「私たちは二人でサーヴァントなんです。うまく使ってくださいね?」

 

 見事にサーヴァント一騎(?)を味方へと引き入れた仁慈。するとそのタイミングでXからの念話が入る。今の今まで使うことのなかった念話。実はつい最近その存在を明かされ速攻で覚えたというエピソードがある。

 

『マスター。ヘクトールの船を追いかけています。現在は東北東に移動中で、その動きに迷いがないことから確実に目的地があります。恐らく、黒髭とは違う戦力かと』

 

「了解。こっちはXの反応を追ってすぐにそっちに向かう。なるべく気づかれないように」

 

『はい。このX。セイバーもアサシンのどちらもいけることを証明してみますとも』

 

 念話を終了した仁慈は、方角をドレイクに伝えてその方角へと全速力で急ぐように部下に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 そうして、途中でXを拾ってヘクトールの後を追いかけていくと、目の間に船を一隻発見した。

 ドレイクの部下が言うには見たことのない船らしい。その船にヘクトールが乗り移ったことを確認した仁慈はエミヤに甲板の様子を見るように言った。彼も、仁慈の考えをある程度トレースすることは可能なため、それを既に行っていた。

 そうして、甲板に居る面子を見て、エミヤはその表情を固めた。

 

「……やれやれ、ランサーとまでは言わないが、あれとも縁があったらしいな」

 

 思わずこぼれたといったような言葉に仁慈が質問を投げかける。

 その質問にエミヤが答えようとした時、目の前の船が自分たちの方に向かっていることに気づいたドレイク。エミヤの言葉を遮る形で大砲を撃つように指示を出すものの例の如く大砲は効かなかった。ドレイクはまたこのパターンか、と舌打ち一つした。

 

「はぁ……仕方ない。せっかく作ったんだ。衝角を使って攻撃でも仕掛けようか」

 

「宝具ブッパしなくていい?」

 

「一応、無限に撃てるらしいけど、そういうのには疲労を感じるのことが世の常だからね。あれは一端休みな。魔力?ってやつには問題ないけど、実際疲労感は感じてるだろ?」

 

「バレたか。でも、これくらいはさせて」

 

 ドレイクに気遣われ、宝具ブッパはやめた物のXを呼んで二人して、船の最後尾に向かう。そして仁慈がこんなことを言った。

 

「X。加速」

 

「ダイナミック魔力放出というわけですか……。というわけで加速カリバー!!」

 

 仁慈の端的な指示を正しく理解し、それを速攻で行動に移すX。聖剣が泣いてしまうような扱い(今更)をしつつ、ビームをブッパする。その反動で機動力を得た黄金の鹿号はその爆発的な加速を利用して衝角から自分たちに向かってきている船に突撃をかましたのであった。

 

 

 ぶつかり合った2つの船が大きく揺れる。

 誰もが船にしがみついて、振り落とされないようにしている中、エミヤだけは敵の船に乗っている黒い筋肉隆々の男に鋭い視線を向けていた。それは相手側も同じであるようで、ヘラクレスもエミヤのことを視界にとらえてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに、過去どこかで行われた戦いの第2ラウンドが始まろうとしていた。

 その結果がどうなるのか、それは人類最後のマスターである樫原仁慈(キチガイ)がカギを握っているかもしれない。

 

 

 




………さて、どうやってアタランテとダビデに会わせようか。
流石に無計画が過ぎたようです。もしかしたら書き直すかもしれません。

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