この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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オケアノスは今までで一番長くなるかもしれません。

後、明日から学校が始まるので、今までのように一日一話更新という頭のおかしい速度は維持できなくなります。予めご了承ください。


やればできるんだよ。普段はやらないだけby仁慈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、俺たちは今謎の迷宮の前にいます」

 

「先輩、誰に向かって言っているんですか?」

 

「ヤツの突発的な行動は今に始まったことじゃない」

 

「その通りです」

 

 サーヴァントのみんなが冷たい件について。

 まぁ、それはともかく、前回の引きよりもだいぶ物事が進んでいるのでちょっとばかし簡単に説明をしよう(メタ話)

 

 

 エイリークの地図から島を見つける→上陸して調べる→大きな地震で船が心配になる→結界を張られて閉じ込められた!→結界を張った本人を探して迷宮にたどり着く←今ここ

 

 

 地下迷宮とはまたすごいことになって来たと思う。もはやなんかのアトラクションでもやっているかのような気分だ。まぁ、迷宮内にはいくつかの反応があるし、その中で大きいのも二つほどあるというのは漠然と感じているけれど。なんというか、その大きな反応の位置が安定しないのである。まるで霧をつかむような感じで、靄がかかっているようだった。もしかしたら、この迷宮は感覚を狂わす何かがあるのかもしれない。

 

「おー!地下迷宮じゃないか!海賊の血が滾るねえ!」

 

「ち、ちょっと待ってください。地下迷宮の規模もわかっていないんですから、一度撤退してみてはいかがでしょうか?」

 

「大丈夫だよマシュ。ちょっと待ってて……」

 

 撤退を提案するマシュを少しばかり呼び止めて、自分の耳に魔力強化を行う。そして、迷宮の地面をコンコンとニ、三回叩いて音を出した。魔力で強化された耳は音を反響した音を拾い、その長さでこの迷宮の道を割り出していく。

 

「この辺の地形は把握した。どうやらこの先いくつか分岐点があるみたいだ」

 

「あんた本当に多芸だね。便利にも程がある……けどちょっと面白くなくなっちまったよ……」

 

「大まかな地形を把握できるだけだから財宝の在り処なんて言うのはわからないよ」

 

「それでも面白さ半減さね」

 

「我慢してくれ。流石にここで死ぬわけにはいかないから……」

 

 ちょっとだけ機嫌を損ねてしまったドレイクを宥めつつ、地下迷宮の中を進んでいく。途中、ラミアだの動く骨だのとてもテンプレートな敵が湧いて出てきたりもしたけれどもサーヴァント二体の時点で負けるわけがない。なので、適当に蹴散らしつつ道順だけはドレイクの勘に従って進んでいく。

 

「あ、そうだ。先輩。離れないように、手をつなぎましょう。そうすると嫌でもはぐれませんから」

 

「いいでしょう(即答)」

 

 断る理由などあるのだろうか?マシュからのお誘いである。しかも、手をつなごうというお誘いである。別にこれだけ固まっていればはぐれることなどないし、もしはぐれたとしても俺一人でもある程度何とかなるし、最悪令呪を使えば転移などで合流できるのだが……そこは言わないでおこう。何度でも言おう。マシュからのお誘いである。断る理由などありはしない。ここで断るなんて言うやつは次元を超えて槍をくれてやる。

 え?手がふさがった状態だと戦えないし、マシュも盾を構えることができないって?問題ない。マシュを抱えて俺が足で戦えばいい。

 

 というわけできゅっと手を握る。冬木にレイシフトする以来の手つなぎであるが特に何かあるというわけではない。思うことと言えば妙に懐かしく感じるなーということと、自分よりも幾分か体温が高いということ、そして柔らかいということだけである。

 

「随分と初々しいじゃないか仁慈。君もその根幹は男だったか……」

 

「私はマスターの剣ですから。大丈夫ですよ。えぇ」

 

「ヒュゥー!なんだ、妙に大人びているかと思ったけど年相応のところもあるじゃないか!」

 

外野がうるさい。

 ほら、お前らの所為でマシュの顔がとんでもなく赤くなってしまっているじゃないか。これで速攻で手を離されたらどうするんだ。

 

 なんて心配していたのだが、そんな必要はなかったらしく、マシュはさらに強く手を握って来た。

 

「なんだかこうしていると、あの時のことを思い出しますね。まだ、それほど時間がたったわけではないのにすごく懐かしく感じます」

 

「まぁ、あの日から一日一日が濃すぎるからなぁ……」

 

 思えば、まだあれから半年たってないのか。大体四か月くらいってところかな?もうとっくに半年は過ぎていると思ったんだけど……思えば色々あったな。オルレアンの時なんてまだ未熟だったら一回ぶっ倒れたっけ。いやぁ、懐かしい。

 マシュのぬくもりを感じながら過去に思いを寄せていると、俺の鼻によく覚えのある臭いが漂ってきた。職業柄嗅ぎなれているであろうドレイクも気づいたようだ。

 

「ちょっと待って。臭うな……」

 

「これは血だね」

 

「あぁ………発生源はこれか」

 

 ドレイクが見つけた血痕は点々と続いており、この怪我を負っている人物の足取りを俺たちに教えてくれていた。

 

「ふむ、この感じはそこまで時間は経っていないな。少なくとも、三時間以内といったところだろう」

 

「どうする?追ってみるかい?」

 

「出血量から言って、そこまでの怪我を負っているというわけじゃあなさそうだ。これなら、この地下迷宮内の敵にやられていなければ会えるかもしれない」

 

「唯一の手掛かりですし、追ってみましょう」

 

「(馬鹿な。この私が、会話に入っていけないだと……!?)」

 

 一人で戦慄するXには誰もツッコミを入れなかった。エミヤ師匠でさえついにスルーし始めたのである。彼女はしばらく固まっていたが、俺たちが先に行ったことに気づいたのかすぐに後を追ってきた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「なんか、嫌な予感がするねえ……」

 

 だいぶ前に頼りにしていた血痕を見失い、適当に突き進んでいる最中にドレイクが唐突に呟いた。

 彼女の勘が唯のあてずっぽうじゃないのは短い間共にしただけの俺達でも十二分に理解している。こういう時は頼りになる直感もちのXに話を振ってみるに限る、というわけでXに話を聞いてみることにした。

 

「何かいる気配はします。唯……それに対していつも通りの対応をすると、取り返しのつかないことになりそうなんですよね」

 

「取り返しのつかないこと、だと?」

 

 Xの曖昧な言葉にエミヤ師匠が首を傾げる。俺たちがいつもしている対応っていうのは、恐らく敵になるものは容赦なく攻撃しているということだろう。正直これ以外にいつも徹底していることはない。

 ただ、これをしてしまうと取り返しのつかないことになるということは、仲間になってくれる可能性があるサーヴァントが襲ってくるとかそんな感じだろうか。頭をフル回転させて思考を巡らせる。ここの選択肢は間違ってはいけない気がするのだ。

 

 そもそも、どうして結界などが張り巡らされたのか。敵が俺たちを逃がさないためか?いや、それなら張った時点で襲ってこないのはおかしい。閉じ込めて時間稼ぎをするためか?これも違う。ドレイクが持っている聖杯がある限りこの時代の破壊は成功しない。相手方も彼女が持っている聖杯を欲しているはずだ。となると………人理をぶっ壊した俺たちの敵とは関係ない、もしくは敵対しているサーヴァントが自分のことを守るために、結界を張った………?

 今までの流れからして、確実に人理を破壊するために召喚された英霊たちとそれに対抗する為に呼び出されたサーヴァントの二種類が居るはずだ。もしかしたらここで結界を張っているのは、そういったサーヴァントかもしれない。

 

 そう、結論をつけた瞬間。俺たちの方にまっすぐ進んでくるサーヴァント反応を確認した。この迷宮の仕様なのかロマンと通信が通じないために相手のクラスが分からないのがちょっとばかし辛い。

 

 もう全員気付いているだろうが、一応声に出して臨戦態勢を整えるように言っておく。

 こちらが戦闘準備を整え終えたとたんにそのサーヴァントは姿を現した。

 

 牛の頭を象ったような鉄の仮面をつけて、上半身は裸で傷だらけ、両手には大きな斧を持っており、その身長は二メートルを優に超えている。

 

「………しね」

 

「で、でかっ!?何だいコイツ……!?」

 

「この、あすてりおすが、みな、ごろしに、する……!」

 

「どうやら、ここは彼の……領域だったようです!アステリオスとは一般的に知られているものだとミノタウロスですから!迷宮はつきものです!」

 

 彼女の言葉を耳に入れる。

 ミノタウロスか、それはまた随分と有名どころが来たもんだ。だけど、相手の言語能力とそのミノタウロスという正体からおそらくクラスはバーサーカー。ここは相手のホームグランドなれど、逃げなければ大してそのアドヴァンテージは変わらない。

 で、あれば――――――

 

「Xの直感のこともあるし、適当に戦闘不能にするぞ!」

 

「無茶を言う……!」

 

「あの化け物相手に手加減だって!?正気かい!?」

 

「大丈夫ですドレイク船長!手加減が必要なのは主に、先輩とXさんだけです!あの二人の力と何より容赦のなさは折り紙付きですからっ!」

 

「任せてください。マスター!」

 

 まず仕掛けてきたのは相手側、アステリオスだ。

 その巨体からは想像できない速度で跳び上がり、そのまま両手にもった斧を振り下ろす。ここは迷宮で通路上での戦いだ。避ける場所は少ないため有効的な攻撃だと言えるだろう。しかし、こちらには頼りになるシールダーが居るのだ。

 

「マシュ!」

 

「はい!」

 

 彼女に対して全力の魔力強化を行う。普段よりもステータスが高くなったマシュはアステリオスの攻撃を真正面から見事に受けきってみせた。流石の防御力である。エイリークの時に見せた力の受け流し方もバッチリだ。

 

 攻撃を受け止められてできた隙を縫って俺とエミヤ師匠、Xががら空きの背後に回る。エミヤ師匠にもらった投影ゲイボルクを手に持ってアステリオスの背中にそれを突き立てようとするが、マシュへの攻撃をいったん中断して、大木のような腕を振るって斧を横薙ぎにして振るう。

 

 俺はそれをかいくぐるように姿勢を低くして回避するが、鉄球の付いた足も振り回してきたため、後退せざるをえなかった。

 そして代わりに第二陣としてエミヤ師匠が干将・莫耶を両手に向かって行く。その背後にはXも控えており、前方には盾を構えたマシュとドレイクもいる。

 

 初めの方は両手を振り回し、斧を無造作に振るって攻撃を回避していたのだが、体力も消耗して段々と傷が目立つようになってきた。

 

 結局、数の暴力には勝つことができなかったアステリオスは五分後には傷だらけの状態で地面に膝をつくこととなった。

 

「ふぅ……戦闘終了……!?なっ!?」

 

「ウ……グッ、う、うぅ……!」

 

「あれだけ鉛玉を喰らってまだ立つかい!大食漢にもほどがある!」

 

「ま……もる……!」

 

 守る、ねぇ……。やっぱりこの結界は俺たちを閉じ込めるために張った物じゃないっぽいな。

 そう確信を持った俺はさらに強い銃を取り出そうとするドレイクに静止の声をかける。すると、その言葉がどこかの誰かとかぶった。

 

「ドレイク、ストップ」「お待ちなさい!」

 

 俺と同じタイミングで静止を呼び掛けた人物はサーヴァントだった。とてもひらひらした衣装に薄紫色の美しい髪をツインテールにして縛っている。その外見はとても可憐であり、神々しさすら感じるものだった。ま、内面は酷そうだが。

 

「わかった!私がついて行けばいいんでしょう!?煮るなり焼くなり好きにするがいいわ!」

 

「え、えっ……えっ?」

 

 マシュ、大混乱である。

 わからなくもない。急に食い気味に私を連れて行きなさいというサーヴァント相手にどう対応していいのかわからないのだろう。エミヤ師匠とXはこのサーヴァントが不意を突いてこないか警戒しており、ドレイクもなにがなんだかわからないという感じなので代わりに俺が話を進めることにした。

 

「ちょっと、ストップ。俺たちは別に、君たちを狙ってきたわけじゃない」

 

「はぁ?何言ってんのよ。あんた達は私をアイツのところに連れて行こうとしているんじゃないの?」

 

「アイツっていうのが誰のことだかわからないが、俺たちは君たちに用はない。唯、この島に張り巡らされた結界を解除してほしいだけだ」

 

「え?じゃあなんでアステリオスと戦闘してるのよ?」

 

「襲われたらそれなりの対応をする……当然のことでしょ?」

 

 現に今回はしっかりと先手を譲ったのだ。

 普通にいつも通り相手をするなら気配を察知した段階で先制投げボルクくらいはしている。それに、待ってと言われて待つわけがない。さっさと止めを刺す。

 

「えっと、もしかして?」

 

「………とりあえずこちらの状況を説明するわ」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 俺はお互いに少しだけ冷静になったために今までの状況をアステリオスを庇った少女に説明した。すると彼女は力の限り叫んだのである。

 

「な・に・よ・そ・れーーーー!!あんた達、紛らわしいのよ!」

 

「ま、これはお互いさまということで納得してもらうほかない」

 

 怒りをあらわにする少女にそう言いつつ、アステリオスに回復魔術を施していく。一応警戒はしているのだが、戦闘の意思がないことくらいはわかってくれているのだろう大人しく治療を受けてくれていた。

 少女は傷がいえていくアステリオスに安心している。治療にはもう少しかかるため、今度は相手側の事情を聴くことにした。

 

 

 

 

 

 

「変態サーヴァントに追われた……ねぇ……」

 

 

 話を聞き終わった後思わずそうつぶやいてしまう。少女―――女神エウリュアレが言うには、とんでもない変態サーヴァントに追われていたためにここで結界を張って籠っていたのだという。

 籠るという選択肢を取らざるを得ないということは彼女一人ではかなわなかったのだろう。そうすると、敵はかなり強い個人か、複数人いるということになる。今までの感じから言ったら後者だろう。

 

「うーん。だったらあんたら二人ともアタシたちと一緒に来ないかい?私はね。面白いものと金になりそうなことが大好きなんだ。アンタは金になりそうだし、そこのアステリオスもよく見りゃいい男だしね!」

 

 思考を巡ららせているといつの間にか勧誘が始まっていたでござる。意外な展開に俺は動揺を隠せない。ま、エウリュアレはわからないがアステリオスは戦力になりそうだしいいかもしれないけど。

 

「……どうする、アステリオス?」

 

「おまえ、が、いくなら、いく。ひとりは、さみしい」

 

「――――そう、ならいいわ。船に乗ってもいいわよ。あ、でもね。私専用の個室を用意してもらうわそれからね―――――――」

 

 どうやらドレイクの誘いに乗るようだ。少しばかり要求が多い気がするが、女神というのなら納得できる。ドレイクはその要求にたいして豪快に笑っていた。自分の船に女神が乗るのならそれも安いと思っているのかもしれない。

 ま、何はともあれ丸く収まってよかったよ。

 

 

「X。どうもありがとう」

 

「いえ、私は直感に従ったまでですから。それに――――マスターの役に立てるのであれば、私はそれで充分です」

 

「ありがとう」

 

 Xにそう返した後エミヤ師匠にもお礼を言う。

 

「エミヤ師匠もありがとうございます」

 

「ふん、手加減する余裕がない男にお礼を言ってもいいのかね?」

 

 うわ、微妙に拗ねている。心は硝子かな?

 

「そう卑下しないでくださいよ。弟子である俺まで低く見られちゃうじゃないですか。それに助かっているんですよ?エミヤ師匠の投影」

 

「……ま、それしか能がないのでね」

 

 皮肉気に嗤うエミヤ師匠。どうしてこの人はこうも素直じゃないのだろう。俺もそんな彼に苦笑しつつ、なら遠慮はいらないとゲイボルクの追加を頼んだ。師匠は泣いていた。皮肉ばっか言っているからですよ。

 

 そして、最後にマシュに対して労りの言葉をかける。

 

「マシュもお疲れ様。防御の仕方も堂に入って来たね」

 

「はい!ここ最近、先輩と一緒に訓練に参加していてよかったです」

 

 眩しい笑顔を見せるマシュ。あー心が浄化されるんじゃー。

 心底彼女を眺めて癒されていると、マシュは少しだけきょろきょろと周囲を見渡した後に上目遣いで視線をよこしてくる。そして、

 

「あの、先輩。……ご褒美、いただいてもよろしいですか?」

 

 この後輩、俺を殺す気らしい。

 

 

 

 このあと無茶苦茶ご褒美(なでなで)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仁慈もやろうと思えば、手加減できるのです。

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