道中に起きたトラブルを乗り越えて、海賊たちと共にやってきました海賊島。見た限りは普通の島であり、特に変わったところはなさそうだった。ちょくちょく人の気配を感じること以外は無人島だと言われても違和感がないレベルだ。少なくともこの付近は。
俺達を運んでくれた海賊船の船員たちも準備を終えたようで一緒に島へと乗り出す。すると、俺達と一緒にいた海賊とはまた別の海賊らしきものが俺たちを視界に入れてテンションを上げながら襲い掛かってきた。
「ヒャッハー!女だ!獲物だ!狩りだ!楽しそう!」
海賊にはこんなやつしかいないのだろうか……。後、女だ獲物だ言ってたくせにどうして俺に来るんだ。
世紀末的なテンションで襲い来る海賊の一人を魔力を込めた拳で後方へと思いっきり吹き飛ばし、彼の後に続いていた海賊を諸共吹き飛ばす。そして、海賊たちが動揺している隙に俺は肩を回しつつ脅しの意味も込めて低い声と殺気を振りまきながら、海賊たちに宣言した。
「そうだな。獲物を狩るのは愉しそうだよな。本当に。―――――と、いうことで今から始めようか?」
『マジすみませんでした』
見事なまでの土下座であった。俺がエミヤ師匠から教わったものに勝るとも劣らない出来である。とりあえず、海賊の中で一番無事そうな奴を引っ張ってきて話を聞くことにした。
ちなみにそんな俺の行動を見て、Xは頷き、エミヤ師匠は天を仰ぎ、マシュはもう諦めたような表情をしていた。まぁそんなことはどうでもいいんだ重要なことじゃない。
「許してやるから、キリキリ情報を出せ。じゃないと海に捨てちゃうぞー」
「ひぃっ!?」
大の大人がビビっている姿はなんとも情けないものだった。
「まず最初の質問。ここって海賊島で合ってる?」
「(コクコク)」
とりあえず、この前提が間違っていたら話が進まないので念のためということでこの質問を行うと海賊は怯えたように頷いた。
よし、もしここが海賊島じゃなかったらまた行く当てもなく大海原をさまようことになる羽目になるから助かったわ。
内心で安堵しつつ続けてもう一つ質問を行う。
「じゃあ次、この海賊島について一番詳しい人は?」
「あー……だったら姉御かと」
「姉御とはどんな人物なのですか?」
マシュも疑問に思ったのか海賊に問いかけていた。
するとどうだろう。さっきまで小動物のごとく震えていた海賊の男は急に自信を取り戻し、不敵に笑った。
「ふっふっふ、聞いて驚け。その姉御とは、我等が栄光の大海賊。フランシス・ドレイク様だ!!」
『何で急に態度を大きくしたんだろうか……』
『うーん、多分海賊としての必死のキャラ立てなんじゃないかな。と、思う私なのだった』
「無理してキャラ作る必要はないと思うのだが……」
「気にしてはなりませんミスターレッド。キャラ立てというのは、既にキャラが立っている人にはわからないかもしれませんが、そうでない人にとってはとんでもなく重要な案件なのですよ」
「………」
あの二人は会話をするだけで微妙な空気になるな。やはり人選を誤ったかもしれない。今度エミヤ師匠に差し入れを持っていこう。
とまぁ、あの二人のことは後で考えるとして……
「なら、そのフランシス・ドレイクのところに案内してくれないか?」
「い、いいだろう!ここここ、後悔しても遅いんだからねっ!お前たちなんて、姉御にかかったら一瞬で海の藻屑だい!」
「なんなんですかね。この人は……先程の時より、キャラ立ちがすごいのですが……」
「マスターのプレッシャーで混乱しているのでしょう。あれ、常人にはクるものだと思いますし」
失礼な。これでも明確に敵対しない場合や、利益になる場合は容赦も情けもかけているつもりなんだけど。
「その分、敵となったときは容赦ないようだがな……まったく、どうしてこうなってしまったんだか。少々、後悔しているよ」
いくら何でもディスりすぎじゃないですかね……。身から出た錆とはいえ、ここまでの集中砲火はちょっと泣けてくるぜ。
―――――――――――――――――
キャラが立っていないようで実は物凄く個性的な海賊に案内され、仁慈たちはドレイクの隠れ家へと向かっていた。そんな中、マシュによるフランシス・ドレイクってどんな人?のコーナーが始まっていた。
仁慈の知識は偏っている上に正確性に欠けている。英霊という過去に何かしらの功績を遺した人物たちと戦う身としては、こういった知識を持っていて損はないのである。どこぞの魔王殺しのように、口づけで知識を貰うことなどできないのだから。
「―――――以上がフランシス・ドレイクという人物が行ったことです。人類で最も早く世界を生きたまま一周した航海者であり、当初最強にして決して沈まない太陽と言われていたスペインを落とした……その偉業から
「なるほど」
マシュの説明をきいてうんうんと頷く仁慈だが、彼も十分にそういう類の人間である。敵から見れば仁慈はまさに人の皮を被った悪魔だろう。
特に第一特異点と第二特異点を共に戦ってきたXとカルデアの修行風景から仁慈のアレさ加減を嫌でも理解させられたエミヤは強くそう考えた。彼も立派な悪魔だろうと。むしろ、魔神柱(笑)よりもよっぽど魔神だろうと。
「姉御ー!姉御ー!敵……じゃなかった、客人です!姉御と話をしたいと言ってます!」
「あん?ったく、人がせっかくいい気分でラム酒飲んでるっていうのに……で?その客人は海賊かい?」
「いえ、多分違いやす!ウチらよりも幾分か上品で、遥かに乱暴な上に化け物みたいに強いです!」
「なんじゃそら………まぁ、いいさ。面白そうだ……連れてきな!」
何か自分の興味をそそられることがあったのか、仁慈達との会合を望んだドレイク。彼らを案内していた海賊はその言葉に大人しく従い、仁慈たちをドレイクの下へと連れて行った。
そうして、邂逅したドレイクはマシュの解説で説明されていた性別とは違って女性だった。長いピンクの髪を無造作に伸ばし、胸元は大胆に曝け出している。顔に大きな傷も入っていたが間違いようがないくらい女性だった。
だが、仁慈はこの程度のことで動揺などしない。既に前例が何人も現れているため今更女性だろうが男の娘だろうが両性類だろうが驚かない程度には耐性ができていた。
「…………こりゃまた、随分と奇天烈な奴らを連れてきたねボンベ」
「へい。しかし、見どころはありますよ」
仁慈を案内した海賊――――ボンベといくつか会話を交わすドレイク。その間放置されていた仁慈達も自分たちで話をしていた。
「奇天烈とは失礼なことを言ってくれますね。私のどこが奇天烈だというのでしょうか……」
「聖剣にジャージ、マフラーと帽子を身にまとった英霊………これを奇天烈と言わずしてなんというのだ」
「いいじゃないですか。ジャージ。動きやすさ重視ですよ?」
「あの、そろそろ話が再開しそうですので……」
「あぁ、済まない」
マシュに窘められ会話を中断するエミヤとX。彼らが視線を戻してみれば、ドレイクと自分たちのマスターである仁慈が話し合いを始めていた。
「大体の話は聞いた。あんたら、一体何者だい?うちの阿呆共が世話になったようだけど?」
「追いはぎされそうになったら反撃しますよ普通。……ってそうじゃない。俺たちは簡単に言うとちょっとばかり遠いとこから来た旅人Aってところです」
「面白くない冗談だね。私のお楽しみタイムを邪魔したんだ。もう少しましな冗談を言いな」
「………カルデアっていう組織に所属しています」
仁慈は正直に答えるものの、彼らの言う事実も冗談と大して変わらないため消極的だった。
普通に考えて未来から来ましたなんて言っても信じてもらえるわけがないため、組織名だけを口にした。一応何者かという答えにはなっていた。
「カルデアぁ?星見屋が何の用だい?新しい星見の地図でも売りつけてきたのかい?」
『うわっ!?意外と博識だぞ、この酔っ払い!カルデアの起源を知っているとか……!』
「………なーんか薄っぺらい気配がするねぇ。アタシが一番嫌いな弱気で、悲観主義で、根性なしで、そのクセ根っからの善人みたいなチキンの匂いだ」
散々な言われようである。これには通信越しのロマニもがっくりと肩を落とす。その隣で彼らの状況をのぞき見していたダ・ヴィンチは大爆笑だった。
「完璧です。先輩、彼女の分析……というよりも直感でしょうか?とにかく完璧にドクターという人間を認識しています!」
へこんでいるところに仲間からの追撃が入る。
ロマニはカルデアの管制室でしばらく泣いた。ダ・ヴィンチは腹を抱えて先程よりも大爆笑した。
そんなことは知らないドレイクはそのまま仁慈に視線を向けて、ニヤリと笑った。
「けど、アンタは悪くない。その清濁併せ持った目は割とアタシの好みだよ。これで悪党に傾いていれば言うことなしだったんだがね。そこらの男なんかよりもよっぽど骨もありそうだ……アンタに免じて話だけは聞いてやろうじゃないか」
そうして仁慈とマシュは話を自らの状況を説明した。この時代で感じているである異常とそれを修正するために来たこと。そしてそれに協力してほしい旨を伝える。
だが、ドレイクは海賊でろくでなしだった。このような状況でも楽しむことのできる人間だったのである。
「そんなアタシに話を聞いてほしいなら、このフランシス・ドレイクを倒して見せな!」
「そう来るか……」
彼女が酔っていることもあるだろう。しかし、元々フランシス・ドレイクとはこういう人物なのだ。
ここでどうするか困ってくるのはカルデア側である。彼女は英霊になるほどの器であるが今は人間である。英霊や、それが混じっているマシュが相手することはあまり好ましくない。エミヤなら丁度いい感じに手加減をすることができるだろうが、ドレイクの視線は仁慈に固定されたままだ。
「なぁ、アンタ。今来ている連中のキャプテンなんだろ?ここは一つ、大将同士やってみないかい?」
酒を持っていたビンを投げ捨て、両手に銃を持ったドレイクが笑う。対する仁慈はそれに答えるかのように、右手に一本の槍を出現させる。
「勝てば、話を聞いてくれるんですよね?」
「あぁ。アタシに二言はないよ!」
「わかりました」
ドレイクが銃を構えて、仁慈が槍を構える。
サーヴァントたちはそれを静観している。こんなようなことは今まで何回もあった。今さら騒ぎ立てることではないと考えているのである。
「往くよ!」
「――――――」
――――――――――――――――
「かぁ~っ!効いた効いた。ラム酒なんて問題にならないレベルだねえ。まさか、弾丸全部その槍で弾いてくるとは思わなかったよ!」
二人の戦いは数分で終わった。
ドレイクの弾丸を仁慈は槍ですべてはじき返して反撃に出るものの、ドレイクも持ち前の勘と経験で回避していたのであるが、魔力を使える分仁慈が当然有利なのである。むしろ、人の身で数分持ったことを英霊たちは称賛していた。
彼らにとってあのキチガイから数分生き延びることは偉業と判断されたらしい。
「いや、これくらいできないと生きていけない環境下に置かれていたので……」
「ハッハッハ!本当に面白いさねアンタ。……けどまぁ、何はともあれアタシの敗北だ。煮るなり焼くなり、抱くなり、好きにしな!」
「なら、俺たちに協力してください」
『すごいぞ仁慈君。即答か』
「ドクター。復活したんですね」
「協力ねぇ……さっき言ってた探し物のために足が欲しいってところかね。あんたたちは見た感じ海に不慣れそうだし、海賊であるアタシに頼るしかないわけだ」
「まぁ、極論を言えば。けど、足の意味もそれ以外の意味も含めて俺たちは貴女が……フランシス・ドレイクが欲しい」
何やら致命的に言葉を間違えているかもしれないが大体あっている。彼らが聖杯を探すために船は絶対的に必要であるが、それに乗っている人も強いに越したことはない。その点、ドレイクは第二特異点の時のネロのように戦える側の人間なのだ。これを逃す手はないと仁慈は考えていた。言葉は間違っているけど。
「へー、ふーん、はーん。そうかい。ま、敗者であるアタシに選択権なんてないね。OK、なんでもやってやろうじゃないか」
こうして仁慈たちはフランシス・ドレイクと手を組んだ。その後の会話で既に彼女がサーヴァントと遭遇して交戦していることと、この世界に元々あった聖杯をドレイクが手に入れているということ、そして、この特異点はドレイクさえいればぎりぎり今の状態を保っていられることが判明した。
「どちらにせよ。アンタたちに協力しないとこの宝も何もなさそうな海でずっとさまよい続けるってことかい」
「そういうことになる」
「だったら、協力するしかないねぇ……」
一戦交えたおかげか、ドレイクからかしこまった口調はいいと言われた仁慈が答えるとドレイクは自らが盗って来たという聖杯で酒を注ぎながら答えた。
「おーら野郎ども!明日からの航海は今まで以上の無理難題だ!生きて帰れる保証なんてどこにもないから一生分飲んどきな!」
『おぉぉおおお!!』
船員を煽った後、彼女も酒を口に運んでいく。その姿はここにいるどの海賊よりも様になっており、男らしかった。
そんな彼女を視界の端で収めつつ仁慈も空を眺めて静かに酒を呷った。
「いい雰囲気で誤魔化さないでください。先輩」
「未成年の飲酒は禁止だぞ」
「ちっ、流せなかったか……」
仁慈と姉御の相性は悪くないと思うんだ。多分。