この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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予定としては後、二話三話で終わる予定です。
しかし、私の予定はFGOのCM映像並みの精確さです。

P.S

イリヤコラボのミッション100まで無事終わりました。
クロまじ強い。


樫原仁慈はうろたえない

 

「美味しかったですね。先輩」

 

「確かに、あれは師匠の料理に勝るとも劣らない見事なものだった……(モグモグ」

 

「♪(ハムハム」

 

旦那様(ますたぁ)。歩きながらものを食べるのは少々いかがなものかと思いますよ?」

 

 清姫に正論をぶつけられた俺は口の中の料理を胃へと流し込む。それを見て清姫は満足げに笑った。この子、俺を安珍と思わず、狂化もかかっていなかったら間違いなく良妻だったのになぁ。天は二物を与えずというのは本当だったらしい。女性としてのスキルを得る代わりに人間として大事なものを犠牲にしたのだろう。

 

「何か失礼なことを考えていませんか?」

 

「いや、別に」

 

 あまりに正確なその言葉につい短く返事をしてしまう。

 頭の中で清姫悟り説を立てていると、町を抜け、ようやく森の中からでも見えたドでかい城の門へとたどり着いた。見た限りは普通の門であり、下にあった町のようにハロウィン仕様にはなっていないようだ。森の中での幽霊や、パンプキンパイを食べているときに襲い掛かって来た骸骨のようなエネミーの気配もない。

 だが、しかし。俺の予想は若干あっていたようでサーヴァントの気配はした。これは十中八九聖杯が名前を言ってはいけない気がする彼女の手にあるのだろう。

 ………まぁ、聖杯が一つ手に入ると考えればいいか。

 

「先輩。サーヴァントの気配です」

 

「ですわね。旦那様私の背後に………隠れなくていいですね。むしろ私を守ってください」

 

「おいサーヴァント」

 

 凛々しい顔つきで俺を庇おうとした清姫だったが何を思ったのか言葉を訂正し、俺を盾にするしまつ。一応マスターなんですけど。俺が守られる立場なんですけど?

 

「でも、先輩。大人しく守られてくれないじゃないですか」

 

「うぐっ!?」

 

 正論……!圧倒的、正論……ッ!

 そりゃ、マスターが全身全霊を以て前線に出ていくんだから守る必要なしと考えても仕方ありませんね(自業自得)

 

「普通、一流の魔術師でもエネミーに勝てるくらいのはずなのに……」

 

「先輩は魔術師としては三流であっても普通じゃないので、所長の話には当てはまらないかと……」

 

「大丈夫ですわ、旦那様。英霊とは英雄の一部を無理矢理クラスに当てはめたものも居ると聞きます。つまり、生前の方が強い場合も有るのです。マスターは生きているからそれらの英霊に勝てても不思議ではないですわ」

 

「でも、それって元々の器が英雄級じゃないと成り立たないでしょ」

 

しかも、今まででクラスに無理やり当てはめられてんのはキャスニキくらいしか会っていない気がする。

 

「人類救うために戦っているんだから英雄でしょ?」

 

「ホントだ!」

 

 所長の指摘に思わず納得する。

 ぶっちゃけ人類の未来なんて深く考えていないけれども、心持はともかく行動は英雄そのものだった。いや、気づかなかったわ。

 

「ところで、清姫さん」

 

「なんでしょう?」

 

「今さりげなく先輩のことを旦那様と呼んでいませんでした?」

 

「しました。それが何か?」

 

「いえ、それは……意味合い的に正しいのかな、と」

 

 そういえば、さっきさりげなくそう言われてたな。しかし、残念ながら先程も言った通り、彼女は俺のこと自体を旦那としているわけではなく、俺を通してみている安珍が旦那様らしいのでノーカンである。ぶっちゃけ俺自身は関係ない。

 

『ちなみに旦那は面倒を見てくれる人っていうのが語源だから、男女どちらに使っても僕はいいと思うんだ!』

 

「どこにサポート入れているんですかね……」

 

 どうでもいいところのフォローはバッチリ行いやがって。もっと普段からサポートしてくれませんかね?特異点の時とかさ。

 ロマンのタイミングがいいのか悪いのかわからないフォローに呆れていると俺たちの耳に歌声が響いてきた。一瞬だけ、例のあの子かと身構えたが、別にそこまで酷いものではなかったのでとりあえず安心する。

 しかし、歌が大きく聞こえることに比例して先程感じ取ったサーヴァントの気配も近づいていることからその件のサーヴァントの歌声であることが予想できた。

 

「ラー、ラー、ラ~♪……こんばんわ。いい夜ね。若くて、甘い夜。貴方は若くて、苦い男かしら?」

 

 意味不明な歌と言葉を放ちながら現れたのは少々きわどい恰好をした踊り子のような女性であった。ま、気配はサーヴァントなので唯の踊り子ではないことは一目瞭然だけど。

 思っていたのとは違っていたので、少々怪しいもを見るような目を向けていると、隣にいる清姫が震える声で言った。

 

「ど、毒婦の気配……!旦那様、下がってください!那由多の彼方まで!」

 

「別に行ってもいいけど、もう帰ってこないと思う」

 

「まぁ……!私と離れたくないだなんて、なんて嬉しいことを言ってくれるのでしょう」

 

「畜生、都合のいいところだけ狂化フィルターかけやがって……」

 

「フォウ、フォー………」

 

「〝もうこれダメじゃない、アンチン的に“ですか……?ダメですフォウさんそれは皆わかっているのですから黙ってないと。そもそも安珍さんはマスターばりにぶっ飛んでいないでしょうし」

 

「今更だけどフォウ………居たのね」

 

「フゥー!?」

 

 マシュの言う通りだ。俺が安珍だったら清姫に沈まされるわけないだろいい加減にしろ!……いや、やっぱりあるかもしれないけど、安珍はきっとケルト師匠の教えを受けていないからやっぱり俺じゃないな。

 

「あらあら、かわいい招待客さんたちね」

 

「今の会話のどこにかわいい要素が……!?」

 

 確かに外見は可愛いどころが集まっている。しかし、ふたを開ければマシュ以外は地雷というとんでもトラップ集団だというのに……!

 

「幻想飛び交うハロウィンパーティーへようこそ!私の名前はマタ・ハリ。今宵限りのお祭り騒ぎ、楽しんでいってくださいませ」

 

 なんかそれっぽいこと急に言い出したぞこの人。散々幽霊仕掛けておいて……料理は普通においしかったし楽しめたけど、常人なら最初の幽霊でお仲間入りだった気がする。そこら辺のことはしっかりと考えていたのかしら?

 

「それでは拙いので恐縮ですが、私の踊りを楽しんでくださいね………よいしょっと(ぬぎぬぎ)」

 

『!?』

 

『●REC(ガタッ』

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!!何で急に脱いでいるんですかっ!?」

 

 唐突に衣服を脱いでいくマタ・ハリにマシュが反射的にツッコミを入れた。ちなみに彼女と俺以外は再起不能とまではいかなくとも目の前の光景が予想外すぎてフリーズ中である。清姫と所長なんて顔が真っ赤だし。フォウもなんか荒ぶっていらっしゃる。ロマンはその名の通り男のロマンを求めているようなのでそっとしておく。どうせ後で誰かが折檻するだろう。

 それよりも今は早急に対処すべき問題があるのである。

 マシュからのツッコミを受けたマタ・ハリだったが、その表情には何をそこまで騒いでいるのかという疑問が見て取れた。

 

「あら。だって私は、こういうのが得意なのです」

 

「この場は全年齢対象の超健全空間なので、唐突なストリップはやめてください。俺の近くに居る二人がそういったことに耐性がないので」

 

「あらあらー」

 

 全然揺らがないなこの人。生前はそういうことを軸になんかやってた人かもしれない。あまり、歴史とかに詳しくないからマタ・ハリがどんな人物だったのかなんてし在らないけど。

 

「せ、先輩は全く動揺しないのですね。……年頃の男性としては来るものがあったのではないのですか?」

 

「いや、昔とここ最近、改めて敵が何しても問題なく対処できるようにさせられたから大丈夫。多分、今なら女の人が全裸で迫ってきても敵なら即座に殺せる」

 

『うわぁ。マジかい』

 

 ドン引きされました。

 しかし、これに関しては正直自分でも引いているので大丈夫。ロマンの気持ちは十分に理解できる。だが、残念かな。影の国の女王直々の修行という名の拷問はそこらの催眠術よりも深くに根付くのだ。もはや性格の改ざんと言ってもいいレベル。

 俺の発言の所為で微妙な雰囲気が漂い始めたのだが、そこで復活を遂げた清姫が空気を換えてくれた。

 

「キャーーーーーーー!はしたないはしたないはしたない!だだだだだだ旦那様!これよりむやみやたらに柔肌を曝すこの毒婦を成敗いたします!」

 

「俺からすると、普段の清姫もあんな感じなんだけど」

 

「私があの毒婦と同じですと!?」

 

 流石に聞き捨てならないとばかりに異議を申し立ててくる。だが、実際に行動には移さないが、発言と言い、本番直前まで全力で進んでいく姿勢といい割と似通っている気がするんです。

 

「私は旦那様だけにしかやらないからいいのです!それより、成敗ですよ!旦那様もさっさと敵に認定してしまいましょう。そうすれば、容赦なく攻撃するようになるんでしょう?」

 

「俺のこと敵絶対殺すマシーンとでも勘違いしているのか?」

 

「間違っていないですよね?」

 

「フォーウ……」

 

 そこまで言うか。俺の今までの所業は………うん、言い逃れは出来ませんね。

 

「フフフ、何はともあれ戦うのならそれはそれで構わないわよ?」

 

 いつの間にやら脱いだ服を着こんで戦闘態勢バッチリのマタ・ハリ。その様子にロマンは舌打ち一つしながら画面越しで録画を解除したようだ。本人は気づかれていないつもりかもしれないが、残念ながらそういうのは結構目立つのである。

 

「先輩。どうやらすっかり相手は戦闘態勢のようです」

 

「そうだね。………じゃあ、さくっとやってしまおうか」

 

 俺の後ろに居て滅多に発言しなかった所長を下がらせると俺は全身に魔力を巡らせて身体能力を強化する。

 敵はダンスが得意みたいだし、そのお手並みを見せてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あ、あらあら。負けちゃいましたね………」

 

 数十秒後、そこには若干ボロボロになりつつ苦笑を浮かべているマタ・ハリの姿があった。お祭りというだけあって敵の強さもそれなりに良識の範囲で収まっているらしい。つい、特異点レベルの戦闘を行ったら速攻で終わってしまった。途中から完全にお祭りだってこと忘れてたし。

 

「ちょっと、予想外だったけど、素直に道を開けるとします。……まだまだ歌も踊りも料理もあるので、引き続き楽しんでいってくださいね」

 

 それだけ言い残すとマタ・ハリは暗闇に紛れて消えた。ロマンの話ではアサシンのクラスだったらしいのでそれも納得である。ついでに瞬殺された理由もなんとなく察した。

 

 何はともあれ、道を塞ぐものはなくなったのでようやく俺たちは例の彼女が待っているであろう城にはいることができた。

 

 

 

 

 中は普通だった。

 普通すぎるくらい普通だった。多少、ハロウィンの演出なんだか普段からそうなのかわからない血痕などを発見したもののそれ以外は特に何もない普通の城であった。

 若干拍子抜けしつつも、廊下を歩くと前方に見たことのある影が、床の汚れと必死に戦っていた。

 貴族の仕事じゃないのに……とか、全然落ちないなどと愚痴をこぼしながら掃除している姿は本当にシュールだった。

 

「先輩、先輩!見てください。典型的な魔女です。しかも、おとぎ話とかで出てくる悪い魔女的なポジションです!」

 

「確かに」

 

 見た目も相俟ってむしろ魔女にしか見えないまである。

 ここで気づかれたら面倒なことになるのは確定的に明らか(ブロント感)なので抜き足差し足で、必死に床の汚れと戦っている彼女の後ろを通り過ぎようとする。頑張れ、超がんばれ。

 

「あぁ、もう!汚れ風情が!我慢の限界よ、喰らいなさい……ファントム・メイデン!」

 

 俺の心中応援は効果なかったようだ。

 最終的にこの魔女は周辺の床ごと汚れを消し去った。

 汚れが消えたことか、もしくはそれ以外なのかもしれないが、どこか満足そうにしている彼女。渾身のどや顔である。それを見ながら結局散らかしていることには気づいてないのだと察した。

 

「まぁ、酷い。あの人絶対バーサーカーですわ。ほら、見てください旦那様。あの腰が入っていない姿を。あんなのではしつこい汚れが取れるわけありませんわ。まぁ、当然私の家事スキルはA+++で、あの程度の掃除など、子守を行いながらでもできますわ」

 

 マジでか。

 

「あの、清姫さん。そんなスキルは存在しないのですが……」

 

「作りました。大丈夫です。旦那様に会う前の私ならまとめて燃やせばいい的なことを言いだしていましたが、今の私はあのバトラーから家事のいろはを叩き込まれていますので、言葉に嘘偽りはありませんわ」

 

「嫁スペック高いなー」

 

 それを補って余りあるくらいのマイナス(狂化)があるからそこまで目立たないし、意味がないけどね!

 

「というか、何時から居たのよ。貴方たち」

 

 普通に会話をしていたため、普通にカーミラにバレた俺達。だが、彼女に攻撃の意思はないらしく、オルレアンのように戦闘を仕掛けてくることはなかった。せっかく反撃の用意をしていたのに。

 

「少し前、具体的に言えば、ファントム・メイデンを使った経緯あたりからですね」

 

「ピンポイントで見られたくないところに……」

 

 マシュの言葉に頭を抱えるカーミラ。まぁ、あの姿を見られたら頭を抱えるのもわかる。汚れに宝具ブッパとか流石にアレだし。

 

 俺達の視線が生暖かいことに気づいたのかカーミラは抱えている頭を開放すると、ぐちぐちと自分の現状を愚痴として吐き出し始めた。

 

 曰く、例の彼女に家政婦的な立場として呼び出されたらしい。だからこそ、自分で掃除をしているし、トマト料理も作ったのだとか。それを聞いたマシュたちは聖杯があることに驚いていたが、俺とロマンは特にそこまで驚くことはなかった。俺は始めらへんから予想を立てていたし、この世界をある意味外側から見ることができるロマンもここがほかの特異点と似ていることが分かっていたのだ。

 

 さて、そんなこんなで愚痴だけでなくそれなりに有益な情報を手に入れることができた。この情報を誰よりも喜んだのは清姫である。

 

「ふふふっ、あのドラ娘から聖杯をひったくって私が願いを叶えれば………」

 

 お見せできない顔で笑っていたのでそっとしておくことにした。

 

「では、私たちは先に行きますのでカーミラさん。頑張ってくださいね」

 

「えっ、戦ったりしないの?一応私にも歓迎しろと命令が下っているのよ」

 

「――――――――ほう?オルレアンの時の続きがしたいと、申すか?」

 

「先行ってもいいわ。あとサーヴァントはあのバカ娘以外に二体居るわ」

 

「ありがとうございます」

 

 狂化がかかっていない彼女はある程度まともだったので話し合いで戦闘を回避し、他の情報までもらって俺たちは再び城内の捜索を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、所長。全然話していませんでしたけど、どうしたんですか?ずっと黙っていると存在感が消えますよ?」

 

「……………むしろあなたはどうして元々敵対していたサーヴァントと普通に話しができるのよ」

 

 

 ちなみに、所長が話さなかったのはカーミラが怖かったかららしい。

 

 この人、初期に比べてだいぶビビりになった気がする。これが素なのかはわからないけど難儀だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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