ストーリーにしか興味がない、という方には申し訳ありません。
こ、これもFGOリスペクトと取っていただければ……(言い訳)
パーティーの始まり
第二特異点を無事に復元して帰って来てからというもの、しばらくの間は次の特異点に向かうことはできなかった。発見は一応できているのだが、どこか不安定らしくその状態で送っても無事に到着する確率はゼロに等しいらしい。失敗したら最後、カルデアに戻る事もできずに消滅ENDを迎えるとはダ・ヴィンチちゃんの談。
そこまでのリスクを背負ってまで第三特異点に行く気になれない俺たちは、しばらくの間それぞれが好き勝手にカルデアで過ごしていた。
当然今日も今日とてそういう感じで過ぎていくのだろうと、朝食の食器を洗いながら考える。しばらくして、全ての食器を洗い終え、台所を後にすると後ろからマシュが小走りで近づいてきた。可愛い(確信)。
「先輩先輩。とても丁寧で奥ゆかしい封筒が届いてますよ。あて先は先輩です」
「………なに?」
マシュの口からこぼれた言葉に思わず首を傾げる。
俺に封筒が届いた?それは一体どういうことなのだろうか。こうしてカルデアで生活していると忘れてしまいそうになるが外の世界はとっくのとうに滅ぼされていて、人類も俺たちを残して他にはいない。
ここで一緒に生活をしている以上は、こういった感じで封筒を遠回しに渡す必要もないのだ。にも、拘わらず俺に封筒が届いた。しかも差出人は不明……。正直に言おう。超怪しい。危険物……とまでは言わないけれど、それに似た匂いを感じる。
マシュの言った通り、無駄に丁寧な封筒を観察してみると、そこには「ハロウィンパーティーにご招待!」と書かれていた。どうやら、これはハロウィンパーティーの招待状らしい。これを見てますますわからなくなった。本当にどっからやって来たんだろうか。この招待状は。
「ハロウィンパーティーですって。どうしますか?先輩」
怪しげに招待状を睨んでいる俺の下からひょっこりと覗き込んでくるマシュが問う。自然的に上目遣いを行っている天使系後輩デミ・サーヴァントに戦慄しつつも俺は管制室に向かうことにした。
こういったものの犯人は大体ロマンかダ・ヴィンチちゃんって相場が決まっているからな。とりあえずロマンの方から潰していこう。
「にしても、ハロウィンなー」
「急に遠い目をしてどうしたんですか?」
「ほら、ハロウィンって元々ケルトが行っていた行事でしょ?」
「はい。年末を祝う日でしたよね」
「そう。だからね、ハロウィンにいい思い出はないんだ」
「……?」
何が何だかわからないという顔をするマシュ。まぁ、普通に何の事情も知らない人からすればケルトの祝い事だから何だって話になるよね。だが、残念ながら俺にとってはそれが何よりも重要なのである。
今でこそ正体が分かった槍師匠がハロウィンの日にマントを携えたかぼちゃを大量に召喚して俺に刈らせてきたのだから。しかも一体一体が無駄に強い。油断したら普通に死ねる。そんな感じだった。
あの人、一週間しか戦い方を教えていない俺にそこまでしたんだよ……。おかげでハロウィンはあまり得意ではない。
地味に自分のトラウマ(?)を想起しながら管制室に行くと、そこには今日も必死こいて特異点を観測しているスタッフとロマン、所長が居た。スタッフへの挨拶もそこそこに、ロマンと所長の下へと向かう。
封筒とその簡単な内容、そして俺宛というところを話すとロマンは物凄く軽い調子で答えた。
「いいね!なんかこういかにもイベント!って感じで楽しそうだよね!うちではこういうのやったことなくてさー」
「何を当たり前なことを言っているのかしら。ここは人類の未来を見通し、見守る機関で学校じゃないのよ?」
「そりゃそうですけど」
「それに、祭りなんて何がそんなに面白いのかしら?あれって要はぼったくりと詐欺が横行している汚い大人共の狩場でしょ?」
「考え方が卑屈……というより色々偏ってる……」
「先輩。きっと所長はそういうところに行ったことがないのでしょう。もちろん私もありませんけど」
「あー……所長はボッチだったから。一人でお祭りはきついよねー」
「ロマニ・アーキマン。誰がボッチですって?もう一回言ってみなさい?」
相変わらずこの二人は勝手に喧嘩擬きに発展していくな。
いつものなら放っておくのだが、今回はそう行かない。
「喧嘩は後でやってください。俺が聞きたいのはこれがどこから来たかってことです。今の話を聞いて二人じゃないことはわかりましたけど」
「多分、ダ・ヴィンチちゃんも違うと思うよ。あの手のタイプはこんな回りくどいことはしないで直接呼び出すか、乗り込むかするはずだから」
納得。そしてその光景がありありと想像できるわ。
所長もボッチでそもそも行事ごとにいい思い出も持っていないので無視。Xはパーティーを開くくらいなら飯を食うので除外。その他の人もいまいち理由に欠ける。
「とりあえず、中身を確認してみたらどうだい?」
「そうですね。そうしましょう」
「爆発しないわよね?剃刀入ってないわよねっ?『誰がてめぇなんて誘うかバーカ』とか書いた紙が入っていたりしないわよね?」
「最後のは実体験っぽいなぁ……」
所長の闇を感じつつ中身を開く。
『前略、仁慈様。素敵なハロウィンパーティーのお知らせです。
このたび、我が監獄城チェイテがリニューアル!
クラシック&ドラゴニックな装いで食べちゃうぞー☆
エレガントに、そしてワンダリングに。貴方を一夜の夢にご招待します。
パーティー会場では世界各国から集められた素晴らしい南瓜料理と可憐なアイドルが歌う素晴らしいセレナーデと美麗な令嬢が歌うセレナーデ、そして至高のディーバのセレナーデが貴方をお待ちしております。
ああ、誰もが心浮き立つ素敵な舞踏会がアナタのハートをバイティング&テイスティング。
まさに身も心もデラックス!
悪夢のような非日常な気分に浸りませんか?
合言葉は『スイート・ブラッド・メルヘン・トーチャー』。
早めの参加をお待ちしております。 』
「これは ひどい!」
「あの丁寧な封筒から出てきたとは思えないくらい酷い内容だ……」
「どうして歌の部分を三回も強調したのでしょうか?物凄く不安なんですけど……」
「悪夢のような非日常って……やっぱり祭りは狩場だったのね……」
若干一名ほど誤解が加速した気がしなくもないが、全員がその手紙の内容に疲弊していた。なんだこの内容は。見るだけで精神を汚染してくる手紙とか強力にして無慈悲過ぎるでしょう?
というか、この文面から見てわかる残念臭と必要以上に歌に執着する人物を知っている気がする。確か彼女の名は、エリザb―――――
「やめるんだ仁慈君。それ以上はいけない!名前を認識してしまったら、それはもう確実にかかわることになるんだぞ!」
「……危ないところだったぜ」
ロマンの冷静な判断によって俺の首の皮は一枚繋がった。
しかし、
「あの、先輩。結局この招待には応じるのでしょうか?」
「ん?どうしてそんなことを?」
どうやらまだ綱渡りは続いているらしい。
名前を口にしなかったと安心したのもつかの間、今度はマシュが遠慮がちに口を開いた。
「あ、あの……。私のわがままなんですけど、こういった催しものは……その、行ったことがなくてですね……。興味があるのです。なので、先輩と一緒に行ってみたいなーなんて………」
「…………」
なんという……なんという凄まじい破壊力……!
先程も見せたあざとさを感じさせない上目遣いと、若干恥ずかしそうにしているしぐさと表情がこれ以上ないくらい俺の心を乱している……!
つい反射的にオーケーを出したくなってしまったぜ。
「さぁ、どうする仁慈君。正直今のマシュは殺人級の強さを誇っているよ?」
「フッ、決まっているじゃないですか。………マシュがそう言うなら行こうか」
「本当ですか……!ありがとうございます!」
眩しいばかりの笑顔を振りまくマシュ。ふっふっふ、その顔を見ることができただけでもトラウマと不吉な予感を振り払ってまで行くと決意した甲斐があったというものよ。
「仁慈君……よし、僕も君の覚悟に応じよう!実はその手紙をたどって名前を言ってはいけない気がする彼女がいる場所は掴んでいるんだ」
「なんでこういう時だけ仕事早いんだ……」
無駄な有能さを見せつけたロマンに呆れつつ、今もテンションが上がっているマシュに俺はこういった。
「じゃあ、一緒にお祭りへ行こうか」
「はい!ぜひ、御指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
こうして俺たちはエリz………名前を言ってはいけない気がする彼女の下へと向かうことになったのである。
「(チラッチラ」
「……」
「(チラッチラッ……チラッ」
「所長も行きます?」
「……!?ふ、フン。私がそんな……ま、祭りになんて行くわけないでしょう!」
「そうですか。じゃあ、マシュ行こうか」
「で、でも!どうしても来てほしいと言うのであれば、仕方なくついて行ってあげるわ!」
「…………なら、どうしても行きたいので一緒に行きましょうか」
「しょ、しょうがないわね!(パァ……!」
「(仁慈君。よくやった。見事なまでの、大人の対応だ)」
改めて、俺とマシュそして所長を加えた三人でパーティーに行くことになったのである。
……大丈夫だろうか。
大人になった仁慈君。
ちなみに三人では終わらない模様。