この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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今回も全然話が進んでいません。
次からはところどころ端折っていきたいと思います。

しかし、今回はご容赦ください。


行動開始

 

 夢を見ていた。

 

 自分であって自分でない存在が、数多の化け物を紙屑のように蹴散らし、慕われている光景を観た。

 その自分はとても生き生きとしていて、仲間と一緒に馬鹿をやり、喧嘩をふっかけられ、それに怒りをあらわにしながらも笑いあっていた。

 その光景を見たとき、自分の中に現れた感情は羨ましいという感情だった。理由は定かではないが、どこか距離をとって接してきた人しか今まで近くにいなかったからである。ああやって、お互い遠慮することなく好き勝手言い合える相手がいるというのはまさに自分の理想だったからだ。

 しかし、それを見てばかりもいられない。あそこにいる奴とここで羨ましがっている俺とではまさしく住む世界が違うからだ。どんなに望んでも、彼と同じものが手に入ることはない。ならばせめて、あの彼のように、信頼できる相手を探してみようと……そう、思った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 先程のもはや異世界からの電波と言っても過言ではない光景を見た後、ぼんやりとだが、自分の意識が浮上してきた。だが、からだを動かすことはできない。どうやらからだの方はまだ動けるような状態になっていないらしい。正直、意識が肉体から切り離されているような状態なので把握が難しくて正確にはわからないが。

 だんだんと、意識と身体がリンクしてきた頃、ふと頬のあたりに湿った感覚が走った。生暖かく、なんとも気持ち悪く感じてしまう。

 

「――――ぱい、起き――――い」

 

 聴覚も復活してきたのか、何やら聞こえてくるがそれだけで内容はさっぱりとわからない。

 

「―――――むぅ、起き―――――ね。正式―――敬称――――――べきで――――か」

 

段々と言葉が聞き取れるようになっていった。どうやら俺の他にも誰かいるらしい。

 

「―――――マスター。マスター、起きてください。起きないと、殺しますよ」

 

 殺す―――――その言葉を聞いた瞬間、意識と身体が完全に覚醒する。それと同時に俺を殺すといった人物の腕を掴んで地面に倒す。その反動からその人物に乗ることでからだを押さえつけると、下手に動くことができないように顔の横に拳を叩きつけて脅しをかける。

 ここまで僅か5秒以下、無駄に武術を身につけ(中途半端)身体を鍛えてきた経験から培った技術である。え?普通の人間では無理だって?HAHAHA!教えてくれた人達がおかしいやつらばっかりだったのさ。なんだっけ?外部から特別講師を雇ったとか言って来た目が死んだ神父と褐色白髪の青年が特にな。

 

「お前は誰だ」

 

 師曰く、情報とはとても重要である。吐かせることが可能な状況なら積極的に狙うべきだと言っていた。というわけで尋問開始である。

 

「えっ?へ?せ、先輩……?」

 

 キリキリ吐いてもらおうかーと、なるべくキリリっとした表情で声をかけてみると、何らや聞き覚えのある声が俺の下から聞こえてきた。少しばかり嫌な予感を感じつつ、下に視線を向けてみると、俺が押さえつけているのは何やら黒い鎧のような、インナーのような摩訶不思議な衣装に着替えを果たした摩訶不思議少女マシュであった。

 

 ……マズイ。今の状態は果てしなくマズイ。はたから見れば、いたいけな少女を地面に押さえつけて上に乗っている男となる。……コレは間違いなく強姦魔だ。通報待ったなし。現状証拠だけで有罪確定レベルの絵面である。

 そのことに気がついた俺は、拳を食い込んだ地面から抜いてすぐさま跳躍、マシュより5メートル離れたところまで跳び上がると、そのまま空中で宙返りを決める。そして、地面につくタイミングで膝を折りたたみ、腕を前に出すとそのまま土下座した。この極限まで無駄を削ぎ落とした土下座は先程話題に上がった師匠の1人である褐色白髪の青年に教わった奥義である。彼もこれで数多のピンチをくぐり抜けてきたらしい。師匠、今こそあなたに教わった奥義、使わせていただきます!

 

「通報だけは勘弁してください」

 

「………えっ?」

 

―――お互いに冷静になるまで約10分程かかったのは、仕方がないことだと思う。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「――――――事情はわかりました。此方にも非はある事を認め、今回は不問とします。次はありませんよ、先輩?」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 感謝……ッ!圧倒的、感謝…ッ!!

不意打ちで強姦擬きをしてしまった俺を許すとか天使だ(確信)

 

「……さて、状況を整理しよう。ひとまず、マシュのコスプレの件について話し合おうか。お腹出してて寒くない?」

 

「切り替え早いですね、マスター。しかし、今いろいろなことがあり過ぎてあまり状況が整理できていないんです。それに加えて、周囲をご覧ください」

 

 マシュの言葉に従って周囲を見渡してみれば、バーチャルの中であった骸骨と同じような奴らが俺たちの周りを囲っていた。

 

「Gi――――GAaaaaaaaaaaa――――!!!」

 

「言語による意思疎通は不可能、敵性生物と判断します。マスター、指示を。わたしと先輩の2人でこの状況、切り抜けます!」

 

「了解。マシュは目の前三体の骸骨の攻撃をそのシールドで受け流して体勢を崩しつつ、反撃を。背後の奴らは俺が相手にするから」

 

「えっ?先輩大丈夫ですか?」

 

「平気平気。gain_str(32)、gain_con(32)」

 

 魔術を俺とマシュにかけて、肉体面の性能を底上げする。俺が魔術を使ったことに驚いたのか、彼女は目を丸くして問うてきた。

 

「先輩……一般枠だったのに魔術使えるんですか?」

 

「一般人だったよ。ここに来るまでは。来る途中で覚えたから」

 

「………先輩が一般枠なんて、どう考えてもおかしいですよ」

 

 ブツブツ言いつつ、目の前から襲いかかってくる骸骨の攻撃を受け止めるマシュ。そんな彼女の姿を見届けた後、俺も背後の骸骨たちに向き直る。カタカタと身体中の骨を鳴らしながらかかってくる骸骨達……マーボー神父の攻撃に比べたら止まって見える。俺は、今の今まで、ずっと背負っていた荷物から刀を一本取り出す。

 どう考えても入るような大きさではないのだが、きっと魔術的なものがかかっているカバンなのだろうと1人納得する。鞘のついた状態の刀で骸骨の攻撃を受け止めると、強化された身体能力をもってして、肋骨の部分に蹴りを入れてその体をバラバラにしながら後方に吹っ飛ばす。前衛が居なくなると同時にその背後に構えていた槍を持った骸骨と弓を持った骸骨が襲い来る。骨の足でありながらしっかりと踏み込まれた一撃が俺の顔面を突き刺そうと、風を切りながら迫る。その攻撃を首をずらすことで回避した後、槍をつかんで自分の方に一気に引き寄せ、弓を持っている骸骨が放った矢の盾にした。骨だからガードしにくかったけど。

槍を持つ骸骨を盾のように構えながら、弓を持つ骸骨に向かって走り抜ける。骸骨なので、完全に信頼できないところはたまに傷だけど丸腰よりはよっぽどマシだった。弓を使えないくらいの距離まで詰め込むと、シールドに使っていた骸骨を振り回して鈍器とし、弓を持っている骸骨に思いっきり殴りつけた。頭から割れた骸骨はそこで動きを停止させる。念のため体も砕いておき、戦闘は終了した。

後ろを振り返ってみるとそこには既に戦闘を終えていたマシュが自身の瞳を擦りながら何度も俺の姿を見てきていた。

 

「どうした?」

 

「……やっぱり、先輩が一般枠っていうのはおかしいですよ……」

 

「そう?」

 

 これでも一族……というか親族の間ではかなり避けられてたんだけどね。多分落ちこぼれすぎて。マーボー師匠も俺に才能はないと言っていたし、褐色白髪の師匠もそういった感じの雰囲気を出していたし。

 

「しかし、どちらかと言えばそれは俺のセリフなんだよなぁ……マシュってあんなに強かったのか?」

 

 パッと見だけど、戦いに向いているような筋肉の付き方じゃなかったんだけど。

 

「そんなこと、傍から見てわかるものなのでしょうか……当たってますけど、それがまた怖いです……」

 

「フォーウ!?」

 

「居たのか、フォウ」

 

「フォ!?」

 

 どうして気づかなかったの!?と言いたげな声を上げるフォウ。そういえば体が完全に覚醒する直前に何か生暖かいものがほほに当たった気がする。あれはフォウの奴だったのか。

 自分の存在を全く認識されていなかったために、抗議をするフォウに頭を下げながら現在の状況を整理する。そもそも、俺たちはカルデアの管制室に閉じ込められていたはずだ。にも関わらず、こうして業火に包まれた町に放り出されているということカルデアスが言っていたレイシフトという奴なのだろう。

 …そう考えると、あまりよろしくないな。一応俺とマシュ両者とも戦えるけど、もし俺たちよりも強い奴が現れた場合どうすることもできない。荷物はそのまま持ってきているから装備は充実してるけど。

 

「この状況どうみる?」

 

「レイシフトによって飛ばされた先、2004年1月31日の冬木という場所でしょう。しかし、この時期、この場所でこのような災害があったことは確認されていません」

 

「歴史にはなかった事象……つまり、これが未来消失の原因であると」

 

「そう考えるのが妥当かと」

 

 つまり俺たちは予期せず人類の命運を担ってしまったわけか。心が重たいわぁ。

 

『––––あぁ、やっと繋がった!こちらカルデアの管制室、聞こえるかい!?』

 

 何処からともなくロマンの声が聞こえてくる。コレは通信機?それとも魔術的なものか?

 どう考えてもカルデアと違う……どころか年月すら違う場所に言葉を飛ばすことができるなんで本当にすごいな。カルデア。

 

「こちらレイシフトAチーム、マシュ・キリエライトです。特異点Fに無事レイシフト、完了しました。同行者は仁慈一名。心身ともに異常はありません。ありませんが………常軌を逸脱していました……」

 

 最後の一言は別に要らないんじゃないかな?というかいらないよね。絶対。まぁ、魔術なんて常識外の技術を使って、さらに過去まで来てしまった身としては否定なんてできるわけないんだけど。

 

『――――やっぱり、仁慈君も行っちゃったか……。いや、でも無事でよかったよ。普通、コフィンにも入っていない状態でのレイシフトはかなり危険だからね。心配だったんだ』

 

「おぉう、マジか」

 

 予想はできてたけどね。こうしてはっきり言われるとやっぱりちょっとビビるよね。

 

『まぁ、それはいいとして……マシュ、その恰好はなんだ!?けしからん!お兄さんそんな子に育てた覚えはありませんよ!?』

 

「あなたはいったい誰なんですか……。これは、変身したんです」

 

『………マシュ、魔法少女を夢見るには少しばかり遅すぎると僕は思うんだ』

 

「――――Dr.ロマン。シャラップ。今度余計な事言ったらその軽すぎる口を縫い付けますよ」

 

『怖ッ!?冗談にしてもたちが悪すぎる!』

 

 絶対冗談じゃない。

 だって目がマジだもの。あの冷めた感情をともしたアメジストの瞳が自分は本気だということを全力で訴えているもの。……安らかに眠れ、わが友ロマン。

 

「……私の状態をチェックしてみてください。それだけで何が起こったのかはわかるはずです」

 

『うん?………なるほど、英霊との融合……カルデア六つ目の実験か……。つまり、今のマシュはデミ・サーヴァントということか』

 

「理解が早くて助かります」

 

 デミ・サーヴァント……彼らの話を聞く限り、普通の人とサーヴァントを融合させた存在をいうのだろう。

 しかし、普通の人間の体に過去偉業を成し遂げた人間の枠に収まらないキチガイたちを合体させたら、壊れたりするんじゃなかろうか。人間の体の方が。

 

『では、マシュ。君の中に英霊の意思はあるのかな?』

 

「いえ。彼は私に戦闘能力を託して消えていきました。最後まで真名を告げることなく。だから、正直に答えると、私は自分がどの英霊なのか、この盾は何なのかがさっぱりわからない状態にあります」

 

『……そうか。でも、それは悪いことじゃない。融合した英霊が必ずしも協力的とは限らないからね。仁慈君、そのことに関してはラッキーとしてとらえてくれていいよ。君にはこれからこの特異点Fのことについて調べていかなければならない。無事なマスターは現状君だけなためこれは決定事項だ。一人、それも初めてとなればいろいろ勝手がわからないだろうが心配しなくていい。できる限りのことはこちらで教えるし、何より君にはマシュという人類最強の武器があるからね』

 

 英霊となったマシュは確かにこちら側の切り札となり得るだろう。たとえ、正体がわからずとも彼女が力を受け継いだのは間違いなく過去に偉業を成し遂げた英霊、普通の奴らに後れを取るはずがないのだから。

 

「最強というのはいささか誇張がすぎます」

 

『いいんだよ。そう形容するにふさわしい存在だということが伝わればね。唯、注意してほしいのは英霊になったマシュは大体の敵には負けないだろうけど、魔力の供給源であるマスターを狙われ、やられたとなると彼らも必然的に消えることになる』

 

「つまり、俺はいつも以上に自身に気を使えということですね」

 

『そういうこと。君さえしっかりとしていればマシュは負けることはないはずだよ。きっとね。……本当はもっと詳しくこのあたりのことについて話しておきたいけど、そろそろ通信が切れそうだから、必要最低限のことを手短に伝えるよ。ここから先、2キロ行ったところに強い霊脈ポイントがある。今はそこに向かってくれ、そうすればこの通信も安定するはずだ。じゃ、頼んd―――――』

 

 言葉の途中でロマンの声は聞こえなくなった。どうやら安定しなかったカルデアの電波が切れてしまったようだ。反応が完全に消失して使えなくなってしまったことを確認した俺は、マシュの方向に視線を向ける。

 

「……ひとまず、ロマンが言ってた霊脈に向かおうか」

 

「おぉ、先輩頼もしいですね。この状況でここまで落ち着いているとは……」

 

「はっはっは。あの師匠たちを相手にしていればこうなるのさHAHAHAHA!」

 

「先輩、目が笑ってません……!」

 

「フ、フォーウ……!」

 

 なぜか引きつった笑みを浮かべているマシュを視界に収めつつ、彼女たちを伴って俺たちは霊脈が強い位置に向かって移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――小話・そのかばんの中は?

 

 

「ところで先輩。その四次元ポケット張りに何でも入るかばんの中には何が入っているんですか?」

 

「刀、槍、弓&矢、鎖鎌。ほかには小太刀とハルバードくらいかな」

 

「………それ、全部使えるんですか?」

 

「一応ね。まぁ、素人に毛が生えたくらいだけど」

 

「(絶対嘘です……)」

 

 ここまで、仁慈がデミ・サーヴァントの自分を差し置いて、様々な武器で敵に対して無双する彼の姿を思い出し、マシュは白い眼差しを彼に向けた。

 

 

 

 

 




人物及びアイテム紹介。


八極拳を教えてくれたマーボー師匠。

言わずと知れた某神父。
体を鍛えることを主な目的としていた五歳のころ、八極拳を教えに訪れた。本人曰く、それをすれば遠い未来に愉悦が生まれるから来てやったとのこと。
仁慈が自分に才能がないと思い込む元凶。
ちなみに彼が言った才能とは自身と同じ存在となり得るかという才能である。武術の方は全く持って関係ない。唯、それが彼に歪んで伝わってしまったためにこうなった。



土下座を教えてくれた褐色白髪の青年

もはや正体がもろばれである。
十歳を迎える手前で彼に弓と簡単な接近戦を教えた。彼の弓を見て、とても年齢が二ケタに達していない子供が放つようなものではなかったため、唖然としている表情を仁慈のネガティブレンズで見られたため、弓も同様に才能がないと思い込ませてしまった。
ちなみに土下座は本人の体験談らしい。
いったい、何バル・ファンタズムなんだ……。


仁慈が使う魔術

唯のコードキャスト。
サルでもわかる現代魔術において、記されている魔術である。その使い勝手たるや、月の勝者も愛用するくらい。著者はロード・エルメロイⅡ世。


四次元ポケット張りのかばん&その中身。

仁慈が今まで収めてきた武器の数々が入っている。
刀が二振り、槍が六本、弓が一つと矢が無数。鎖鎌が一つと小太刀が四つハルバートが一本である。
かばんはかなり昔から家にあったものらしい。おそらく、祖先が名のある魔術師もしくは魔法使いにもらったのではと一族内では推測されている。


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